Q.巻き込まれた俺は最強主人公ですか? A.はい、そうです
本来とある物語のプロローグだったもの。使う必要がなくなったので短編として投稿です。
今日はポッキーの日!本当は11時11分に投稿したかった……
異世界・・・
トリップ・・・①短い旅行。遊覧。②幻覚剤使用による
勇者・・・勇気のある人。勇士。
主人公・・・①主人の愛称。②小説・脚本などの中心人物。ヒーロー・ヒロイン。
(広辞苑)
ふと目についた広辞苑を開いてみて、"異世界"、"トリップ"、"勇者"、"主人公"の項目を調べてみた。…残念ながら"異世界"は第四版には登録されていないようだが。
俺の名前は阿久根 総真。私立高校に通う普通の高校二年生だ。
さて、何故異世界and moreを調べたのか。それは三年前に俺が異世界にトリップしたからだ――勇者に巻き込まれた憐れな従者、もしくは主人公に振り回された哀れな脇役として。
☆ ☆ ☆
あれは俺が中学二年生だった時。いつもの通り俺が帰り道を歩いていた時。
「おーい、総真ー!!」
後ろから走って俺を追いかけてくるのがいわゆる"主人公"、越智 勇武。剣道部部長で全国大会出場、見事優勝した経歴を持つ。成績優秀、スポーツ万能、才色兼備を兼ね備えている。非を打つとすれば、天然鈍感な朴念人なのにお人好しだ、ということだ。自分の容姿や才能を自覚せず、危機的状況にある女の子たちを救い、無自覚にハーレムを作り出す勇武ほど、男の敵はいないだろう。にもかかわらず、勇武は俺を優先する。約束した覚えはないというのに、いつも俺についてくるので、周りの女の子たち――もう雌豚共でいいか――からはいつも睨まれる。俺が何をしたというんだ。俺に嫉妬の目線を送るくらいならずっと勇武に抱きついとけよ。そしたら双方にとってプラスじゃないか。
「ちょっと!勇武くんが声をかけてるんだから止まりなさいよ!!」
このキーキー喧しいのがハーレム要員の一人、上峰 美紀。上峰食品代表取締役の娘だ。上峰食品といえば、まあある程度は有名だろう。俺も何度か食べていたが、彼女がその娘だと知ってからは一切食べないことにした。
彼女がハーレム要員になったのは簡単だ。誘拐されそうになった所を勇武が助けたから。……タイミング良すぎじゃね?と思った俺は正しいはずだ。
「オイオイ。それ位にしといてやれよ」
コイツは神宮寺 涼。スポーツ用品店JINGUJIは聞いたことがあると思う。彼は社長の息子だ。
去年までは何かと勇武に突っかかってきたのに、今年から仲良くよく一緒にいる。親友(もちろん勇武でも上峰でも神宮寺でも無いぞ?コイツらは顔見知りになりつつある他人だ。俺は絶対に認めない)に聞いた所、二人で決闘したらしい――上峰を賭けて。
普通人間を賭けて決闘するだろうか……ああ、こいつらは普通じゃなかったな。どっかで見たような展開の気もするし。まあ違う点は主人公が非の打ち所がない(いや女子が思っているだけだ。男子のほとんどがあいつに欠点しか見出だせていない。嫉妬は抜きにして)完璧人間だし、黄色の虹もいない点だろうか
決闘したのは剣道だったらしい。神宮寺は全国大会準優勝だったらしく、その雪辱戦も兼ねているんだと……どうでもいいけど。
「け、喧嘩は…よくない、です…」
コイツも同じくハーレム要員の一人、福地 明日香。勇武の家の隣に住んでいる、所謂幼馴染みである。小さい頃から二人一緒にいるので、周り(特に俺)に対する風当たりはそこまで酷くはない。勇武への気持ちを自覚していないため、見ててイライラするタイプだが。
他にも生徒会長の年上美人やツンデレ不良少女なんかも救っているが、今日は用事があるようだ。良かった、良かった。多いときなんか俺抜きで十人越えるからな。それでも勇武は俺を優先する。何でだよ。確かに個人の自由よ?十人十色よ?でも俺なんかより十人と居ろよ。
こんな少人数は久しぶりだ……が、欲を言えば一人で帰りたい。何故徒歩三分の距離をわざわざ遠回りして帰らにゃならん。
いま思えば、この時俺は気付くべきだったんだ。
――勇武が主人公体質人間だ、ということに。
学校から出てしばらくすると、不意に勇武が立ち止まった。
「なあ、今何か聞こえなかったか?」
「え?そうかしら?」
「いや、何も聞こえなかったぞ?」
「う、ん…」
俺は無視。コイツは電波を受信しても不思議じゃな――――え゛?
主人公が電波を受信した?
ふと嫌な予感がして足元を見ると、白く光る陣らしきもの――てぇ!!
俺はすぐさま方向転換し、勇武たちから走って離れた。勇武たちも気付いたようで、すぐに走り出した――俺の方に向かって。
さて、ここで全員の部活動紹介をしよう
俺→放送部(ちなみに部長)
勇武→剣道部(ちなみに部長)
上峰→弓道部(ちなみに部長)
神宮寺→サッカー部(ちなみに部長)
福地→サッカー部マネージャー
神宮寺は勇武に負けてからサッカーに勤しんでいるようだ。
閑話休題
付け加えるなら、俺たちの学校はマネージャーにも体力が必要なくらい部活動に力を入れており、俺はインドア派だ。いくら勇武に振り回されているとは言っても、文化部は基本運動部には勝てない……まあ、喧嘩だけは(不本意だが)上達したため、近所でも負けなしだ。喧嘩だけは。
つまり何が言いたいかというと――すぐに追い付かれて捕獲された。
「ちょっと!何一人で勝手に逃げてんのよ!!」
「そうだ、そうだ!!」
いやお前らも逃げればいいじゃん。というかその掴んでいる手を離せ、今すぐに!
そして光る陣が俺たちの足元まで追いかけてきて、一際大きな光をあげ――俺の意識は途切れた。
☆ ☆ ☆
目を覚ますと、石造りの神殿らしき場所に居た。起き上がって周りを見ると、勇武たちはまだ倒れており、少し離れたところにはド派手なドレスを着た女の子と、騎士らしき人たちが立っている――どうしよう。この先の展開が容易に想像できる。
「ん……う、うう…え!?ここは!!?」
あ、勇武が目を覚ました。余りの大声に他の三人まで起きた。
「初めまして。勇者様」
今の俺の感想を言おう。コレだ 1 2 3
『異世界トリップ&勇者召喚キタ――――\(°∀°)/――――』
……ゴホン、取り乱した。顔文字まで使ってしまった。
そんな俺の心情など露知らず。勇者たち(笑)はパニクってる。俺?絶対巻き込まれただけだし。まあ、言葉が通じるのはありがたいな。どーせ魔神or魔王を倒せとか世界を救えとかそんなんだろう。さて、今回は……
「実は……」
☆ ☆ ☆
要約すると、魔神が生み出した魔王が、魔物を使って街や村を襲わせているようだ。魔神と魔王を倒しつつ、世界を救う、というシナリオらしい。大変だな、主人公も。俺は知らん――とはいえほぼ確実に討伐には連れて行かれるだろうが。
「だが俺たちにそんなことは……」
「大丈夫です!勇者様たちなら魔王は倒せるはずです!!」
妙に強気なのは何故だろうか。そして強気なのに"はず"だとすごく心配になる。
結論から言うと、全員魔法が使えるということが分かった。火・水・風・土の普通属性と炎・氷・雷などの派生属性、光・闇の特殊属性に時・空間・創造の古代属性、さらには禁忌魔法や精霊魔法があるらしい。
勇武は普通属性及び派生属性が全属性、さらに光・時属性に適性があるらしい。加えて魔力は無限。さすが天然チートだな。
上峰は氷と光、神宮寺は雷と光、福地は風と光だ。それぞれ魔力も申し分なく、普通の人なら平均100前後なのに、全員100万超え。わーすごーい。
ちなみに俺は測定を辞退。なんとなく嫌な予感がしたからだ。周りからは非難されたが。
次に武器選び。勇武は勇者らしく、封印された剣。抜くとまばゆい光を放ったことから、聖剣であることが分かった。うん。すごい、すごい。上峰は弓矢、神宮寺はソード、福地は杖にしたようだ。俺は鋼糸……と、黙って指輪を拝借した。何か心惹かれたのだ。
――そして今考えると、【巻き込まれ主人公】というジャンルもある、ということにその時の俺は気付いていなかった。
その夜。
[…]
[……よ]
[起きよ!!]
「んぎゃっ!?」
すっごい変な声が出た。…つーか誰だよ起こしたの。
ふと見ると、真っ黒な狼が俺の上にいた。両目は金で、すごくカッコイイ。
[『んぎゃっ!?』か、ふん。変な声を出しおって]
何か台詞も声も真似された。狐じゃないよな?狼だよな?
「え……と、誰?」
[『え……と、誰?』か、ふん。何を言うかと思えば。"何"ではなく"誰"か。我は貴様が宝物庫から勝手に持ち出した指輪に封印されていたのだ]
うーわー。一人称"我"とか封印とか超厨二臭い。しかもなんで俺がよりにもよってそんなの選んだんだ。あの時の俺マジ恨む。……というか今コイツさりげなく俺を罵倒したよな?
[我は黒芒狼。魔神様により生み出された魔物の王だ]
「魔王が魔物の王だろ?」
[『魔王が魔物の王だろ?』か、ふん。笑止笑止。"魔"を司る神が魔神様であり、"魔"を司る王が魔王である。魔物は創造神殿が生み出した世界のバランスを整える存在に過ぎぬ。そしてそれらの王が我。そういうことだ]
なるほど。じゃあ――
「なんで魔物が村を襲っているんだ?」
[『なんで魔物が村を襲っているんだ?』か、ふん。簡単なことよ。人間が我を封じたからだ。王を封じられて怒らぬ民がおるものか。……それを抜きにしても人間が悪いがな]
「なぜだ?」
[『なぜだ?』か、ふん。もともとこの世界の創造神殿は他でもない、魔神様だ]
「えっ!?」
驚きの事実。魔神が創造神なのか。
[『えっ!?』か、ふん。どこに驚く要素がある。言っておくがこの世界に神は魔神様だけだ。他の神など存在せん]
「マジで!?」
[『マジで!?』か、ふん。魔神様が他の神をお創りにならなかったからな。封印されていても世界の情勢など手に取るように分かる。我が生まれる前も生まれた後も神など生まれておらん]
うーわー。んじゃ光の神の加護とかないじゃん……あれ。ということは光属性は存在しないってことか?
そのことを尋ねると、
[そもそも"適性属性"など存在せんよ。人間も魔物も、全ての生物が全属性を持っているのだから]
と返ってきた。じゃあ王様や騎士たちも全属性持ちってことか。あれ?だったらなんで俺たち喚ばれたんだ?
[人間による先入観だな。適性属性があるという認識は裏を返せば適性属性しか使えない、という認識になる。それゆえ人間には適性属性しか使えないという思い込みからそれを調べ、その属性だけを伸ばすのだ]
ふむふむ。よく創作小説とかの適性属性は理論上にのみ存在するってことか。
[数百年前までは人間と魔物は共存していた。それぞれの領地や領土が別れてはいたが、助け合っていた。しかし人間は魔物より強欲だ。魔物の土地や領土を奪い始めた。始めは我々も渋々受け入れていたが、我が封印されたことでその不満が爆発したのだ]
……ってことはあの王女様(笑)が言っていたことは嘘ってことか。
「俺でも魔法は使えるのか?」
[『俺でも魔法は使えるのか?』か、ふん。貴様は我の封印を一時的とはいえ解いたのだ。使えぬわけがない]
「俺そんなことした覚えはないんだが」
[『俺そんなことした覚えはないんだが』か、ふん。宝物庫自体に封印の魔術が施されていた。出されれば封印は解ける。無論、一時的だがな]
指輪に封印してさらに宝物庫に封印、という二段構えだったわけか。だから一時的なんだな。
「完全に解くにはどうすれば良いんだ?」
[『完全に解くにはどうすれば良いんだ?』か、ふん。簡単だ。貴様が我に魔力を渡せば良い]
そこまで言われて俺は思い出した。俺、魔力測定半ば強引に辞退したんだった。
「俺魔力あるのか?」
[『俺魔力あるのか?』か、ふん。無かったら我の封印されている指輪にさえ気付かんよ。気付く条件は二つ。一つは我と波長が合うこと、もう一つは我と同じかそれ以上の魔力保持者であること。その両方を満たしているのが貴様、というわけだ。……ちなみに我の魔力はおよそ無限だ]
さらっと爆弾発言かまされた。……え゛?ってことは俺の魔力も勇武と同じ無限ってことか!?
「…俺の魔力は?」
[『俺の意識はは?』か、ふん。確か魔神様が言っていたな。こういう時は『53万です』というべきか?まあ正確に言うなら『私の魔力は勇者53万人分です』というべきか]
ノッてくれたことには喜ぶけど内容には全く喜べない。勇者53万人分ってことはやっぱり俺の魔力無限じゃないか。
[……確かに勇者の魔力は無限と測定されたが正確には違う。人間にとっての魔力無限は我々魔族にとっての百にも満たん]
うおぅ。残念だな、勇武。骨は拾ってやる。
「じゃあ俺もザコなのか?」
[『じゃあ俺もザコなのか?』か、ふん。曲がりなりにも我を起こしたのだ。誤解しないように言っておくが、この場合の"勇者"とは、"魔王に立ち向かうほどの力の持ち主"という意味だ。決してあの勇者のことではない。すなわち、貴様の魔力もほぼ無限ということだ]
巻き込まれ=最強ですね。分かります(いや分かりたくないけど)。そんなチートいらないんだけどなあ……
「それで俺はどうすれば良いんだ?どうすれば地球に還れる?」
[『どうすれば地球に還れる?』か、ふん。そもそも召喚陣が造られたのは最近も最近、ほんの三年前だ。それから幾度となく失敗し、今日――正確には昨日か――完成、成功した。つまり貴様らが召喚された陣こそがこの世界初の召喚陣なのだ。召還陣が造られているわけがなかろう]
「死刑宣告された!?」
何それ!俺たちが初の召喚者ってことか!?ってことは還れる確率は…ゼロ…
「還れないってことか……」
ヤベェ。目から大量の汗が。
[『還れないってことか……』か、ふん。誰も――否、何もそんなことは言っておらん。魔神様は創造神殿だ。陣など無くとも世界を行き来できる]
「…ってことは魔神に会えば還れるのか!?」
[『…ってことは魔神に会えば還れるのか!?』か、ふん。何ともまあおめでたい頭をしているな。還れるとは思うが還してくれるかは知らん。我はそこまで面倒はみきれんからな]
ニッコリ、と効果音が付きそうな位素晴らしい微笑みと共に言われました。下げて上げて突き落とす……絶対貴方Sですね。
「でもどうしようか。一応俺も勇者の従者扱いされてるんだよな……」
[『一応俺も勇者の従者扱いされてるんだよな……』か、ふん。安心せい。貴様が我をあの宝物庫から出した時点で貴様は我の仮の主だ。それなりの実力では困る。ああ、大丈夫だ。万が一魔神様が還してくれずとも大丈夫なように、一人で生きていけるようにはしてやろうぞ]
……ニヒルな笑みと共に仰りやがりました。
辞退したい、と思った俺の思考は正常なはずだ。
☆ ☆ ☆
それから三ヶ月。日中は勇武たちとは離れて、夜はラック――黒芒狼のこと。名前を付けろと言われたので、黒→ブラック→ラック←運 となった。……決して腹黒だからじゃないよ?ち、違うからな!?――の造った亜空間で修行した。時間の流れが違う、という某the room of spirit and time みたいな場所らしく、食う、寝る、修行の無限ループ。まあそのお陰で勇武たちとは比べ者にならない位レベルが上がったけど。修行には世界情勢の勉強も含まれるので、頭と体を満たしまくったことになる。
日中用に指輪からピアスに加工されたラックと共に、今日俺たちは出立する。なんともまあ豪華なお見送りパレードがあったが勿論俺は参加していない。幻覚で誤魔化した。すでに勇武は王女はもちろんのこと、剣の指導とやらをしてくれた強気ツンデレ隊長、メイドなんかもタラシこんでいるので、はっきり言って俺は睨まれていただけだろう。
属性は全員に全属性があると言っていたが、人間たちはわずか十%ほどしか使えていないそうだ。俺は百%引き出せるようにしこたましごかれたお陰か、上級魔法はおろか神級魔法も無詠唱で発動出来る。……誤魔化すためにいつもは詠唱しているが。
空間魔法は特に便利だった。亜空間が造れたり空間を歪めたり軋ませたりするだけで敵は倒せる。その気になれば地震など地殻も操れるだろう。前言撤回だな。チート万歳。異世界人のせいかやることなすこと完璧に覚えられる。…え?勇者?確かに時属性は使えるし使ってるけど自分の周りの時を遅らせる位しか出来ていない。俺は……うん。ラックがね。ほとんど毎日修行しかしてなかったら……ねえ。嫌でも操れる。亜空間で修行する時は、自分の成長を遅らせるために常時時属性をかけなければ老化が早まるだけだし。
とにかくようやく魔神に会いに行ける。
さあ行こう!俺たちの旅はまだまだ始まったばかりだ!!
……いや、うん。割とマジで。