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 特警隊第八小隊は、小隊長と隊員一名を失い、休業状態にあった。

 そうは言っても、魔導兵器に魔力を充填できるのは、第八小隊の面々しかいない。

 そういう訳で、私達は警邏の任務を免除してもらう代わりに、庁舎裏の倉庫にカンヅメ状態となっていた。

「魔法騎士団と合同の大捕り物となれば、銃弾なんぞいくらあっても足らんだろうからな。皆、キリキリ働けぇ!」

 サムじいは何故か、異様に張り切っている。

「……うーん」

 早々に魔導剣の魔力充填を終えたヒーリィが、そのうちの一振りを手に取り、鞘から抜いて刀身をしげしげと眺めている。

「どうしたの?」

 空の銃弾が山積みになったテーブルの前から立ち上がり、彼の背後から覗き込むと、ヒーリィは振り返りもせずに刀身の角度を変えて眺め続けている。

「いえ。ちょっとキズになっているようなので」

「見せて。……あ、ほんとだ」

 光沢のある刀身は一目見たくらいでは分かりにくいが、角度を変えるとほんの少し刃こぼれしているように見える。

「これ、私がガーランド師団長と打ち合った剣なんですよね」

「ええっ、お前、あの師団長とやりあったの? 何で?」

 ぎょっとしたように他の小隊員が振り向く。

「さあ。成り行きで、なんとなく」

「……っつーか、よく無事だったよな」

 その嘆息に、私は大いに賛同した。

 子どもの頃、王都の魔導学校で学んでいた頃から、アレックス・ガーラントの人並みはずれた強さは評判だった。その斬撃を受け止め同等に渡り合うなんて、この男も普通じゃない、と改めてヒーリィを見つめる。

「いや、危なかったんですよ。あの人の斬撃はすごかった。受け止めているだけで、剣を折られるんじゃないかと思ったんです。でも、それは思い過ごしじゃなかったんですね。やっぱり、私の剣は折られかけていた」

「そりゃ、仕方ないじゃろ。お前さんは、核に蓄えられた魔力だけで戦っとったんじゃ。けど、向こうさんは直接自分の魔力を剣に注入しながら戦っとった。その差だけでもえらい違いじゃよ」

 サムじいが、魔導工具を扱う手を止めて顔を上げた。

「直接注入……?」

「えっ、ヒーリィ。知らないの?」

 私は思わず声を上げ、テーブルの上に置かれた剣のうちの一つを手にした。

「魔導具は、魔力を充填しておくことで、魔力のない者にも使える便利な道具だけど、能力者にとっては自分の魔力を増幅させて具現化できる道具でもある。だから、魔法騎士団の剣は、核だけじゃなく、剣の柄にも魔石が付いているの。それを握り締めながら戦うことで、必要なときにその都度自分の魔力を注入して、強烈な魔力を放出しながら戦うことができるのよ」

 私の説明を聞いたヒーリィは一瞬呆然とし、それから急にハッと息を吐くようにして笑い出した。

「……何だ。そんな裏技使ってたんですね」

「いやいや。っていうか、あんたがそれを知らなかったことがびっくりだわ」

「私は、魔導学校の教育なんて受けていないですからね。知識は魔力のない人達と同レベルですよ」

 やや固い口調で返されて、私はハッとなった。

 そう、私と同じウィル自治区出身の能力者だけれど、彼はマジカラント王国が定めた能力者養成制度から逸れた異端児なのだ。

「ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど」

「別に、気にしてなんかいませんよ。これまで、そんなこと知らなくても困ったことなんてありませんでしたし。それに、私が知らないことは、メウルが教えてくれればいいんです」

 椅子に座ったままの彼に微笑まれて、なんだかいたたまれない気持ちになった。

 背の高い彼を、こんなふうに見下ろすなんてあまりないことだ。そのうえ、子どもが親を頼りにするようなことを言われると、母性本能をくすぐられるというか、なんだか動悸も呼吸も早くなってくる。

 ちょっとうろたえて挙動不審になりながら、私はサムじいを振り返った。

「そういえば、ここにある魔導剣って、全部魔力のない人にも使える通常型よね。そりゃあ、ほとんどが不満分子からぶんどってきたものなんだから仕方ないんだけど」

「まあな。うちも戦闘要員は主に第一小隊か第二小隊なんじゃから、柄に魔法石なんかついておっても邪魔でしかないわな」

「それはそうなんだけど、うちにもヒーリィくらい剣が使える能力者がいるとなると、魔法騎士団仕様の剣が一振りくらいあってもいいのかなーと思って」

 あのガーラント師団長の攻撃を防ぎながら、なおかつ冷静に対処していたヒーリィは只者ではないと思う。……いや、実際彼の遍歴をみれば只者ではないんだけど。

 私の言葉に、ヒーリィも身を乗り出した。

「サムさん。この剣を改造して、魔法騎士団仕様にできませんか?」

「おいおい。無茶言わんでくれ。壊れたもんの修理ならともかく、改造なんて高度な技術は持っとらんぞ」

 ええーっ、という不満の声は、私とヒーリィだけではなく、事の成り行きを見守っている他の小隊員からも漏れた。

 その声に触発されたのか、サムじいは普段の緩慢な動きからは想像もできないくらいの俊敏さで立ち上がった。

「ええい、お前ら。わしを誰だと思っとる! これを見ろ!」

 修理不能品や鉄屑等を積み上げた壁際の山の中から、サムじいは布に包まれた長いものを取り出すと、テーブルの上にダン!と置いた。

 ヒーリィがその布を取ると、中から現れたのは、大振りの魔導剣だった。柄の部分には、上質な証である紫色の魔法石が光っている。

「……これは?」

「戦利品の中に紛れこんであったのを、手入れしておいたんじゃ。後方支援担当の第八小隊で、まさかこれが必要になるとは思わんかったが」

 物凄く満足げなサムじいなど全く目に入らないといった様子で、ヒーリィは剣を手に取ると、ゆっくりと鞘を払った。

「ああ、言っとくが、まだ核には魔力は充填されておらんからな」

 サムじいにそう言われ、核を取り出そうとするヒーリィの手に、私は自分の手を重ねて止めた。

「そのまま、柄を握ってみて」

 不審げに首を傾げながら、ヒーリィは柄の中央付近に付いた魔法石を掌に握り込むように剣を手にした。

 と、刀身が眩いばかりの光を放ち、周囲の空気が帯電して火花が散った。

「これは、すごい!」

「ちょ、ちょっと、危ないから加減しなさいよ!」

 思わず身を屈めながら、私は何かに魅入られたように目を輝かせるヒーリィの上着の裾を引っ張った。

「これなら、魔法騎士団相手にでも、互角に戦えますね!」

「あの、もしもし? 戦う相手間違えてるけど。大丈夫? ヒーリィ」

「勿論、分かってますよ」

 本当かいな、と突っ込みたくなるほど、今の彼は何だか危なっかしい。

 そう言えば、初めて会った頃のヒーリィは、今以上に不安定で好戦的な奴だった。しかも、退廃的で自己陶酔型で……。今の彼もちょっと変わった奴だけれど、それでもあの頃と比べたら物凄くいい方向に変わったと思う。

「皆で協力して、小隊長とナサエラの仇を討ちましょうね」

 呟くように言った彼の言葉に、小隊員の何人かが目元を拭った。

 そんな感動的なことを言えるようになったのね。

 私は別の意味で、目頭が熱くなるのを感じていた。

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