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この世界の魔法



 この世界における魔法発動手順は三段階あり、発動方法は二つ存在している


 発動手順は、魔法を発生させたい箇所へ魔力を集め、その魔法でどのように世界を変えるかを明確にイメージし、世界に伝えるための詠唱を行う。

 

発動方法は詠唱を行うか否かの二つに分かれ、近代魔法学では魔力効率を重視し、無詠唱による魔法行使が推奨されている。

 しかし詠唱には、世界へイメージが伝わりやすくなることで想像通りに近い魔法が発動しやすいこと、魔法出力が上昇するという明確な利点がある。


魔法出力を取るか、魔力効率と高速発動を取るか、この議論はいまだ結論が出ていないことで有名だが――、



「…最初は僕が一人でやる。文句はないな?」



 一歩前に出た一斗がこちらに振り返りもせず宣言した。

 他の5名から制止の声は上がらず、全員が緊張した面持ちで見つめている。



「――」



 長く、そして静かに息を吐いた。



「――きた…っ!」



 張り詰めた空気を壊したのは紗希の一言だった。

 新入生全員が一斉に視線を正面へ送り、目を凝らす。


 一拍遅れ、新の隣に聳える大木が悲鳴をあげながら倒れ、それは姿を現した。


 獣のような四足歩行、しかし共通点はそれぐらいで、体躯の色、輪郭の不安定さ、声、速度、全てが頭の中の獣とは一致しない。


 紫と黒を乱雑に混ぜたような色で、瞳だけは血で塗られたように赤く光る。視線は人間と同じか少し上ぐらいのはずなのに遥か大きな存在に見えるのは、その体の輪郭がゆらゆらと揺れているせいだ。



「っ――!」



 耳の奥を直接叩かれたような叫び声が響き反射的に耳を塞ぐ。

 

こちらを認識した魔物が、獣とは思えない速度で迫ってくる。無意識のうちに、一歩、足を下げ――、



「――〈穿ち疾れ、雷爪〉」



 一斗が呟くと同時、空気が軋む音が聞こえた。


 短く告げたイメージの言語化に、世界が反応する。


 具現化される喜び、この世界に顕現出来る祝福に世界が応え、一斗に伝える。


 一斗の両手に集中した魔力が青白い雷光となり実体化、意思を持ったように指先へと延びていく。

 迸る雷光が形作るのは獣の爪。指先から細く伸びる雷が湾曲し、鋭利な爪を生成する。


 世界の奇跡が縫い留められていき、脚にも稲妻が纏わせると一斗は魔物を見据えて、



「しっ――!」



 一斗が息を吐いた刹那、その姿がブレる。

空気に電気が伝わり弾けるような音が鳴った。

 

 魔物が一斗の姿を追うため、赤い目をぐるりと動かす。

 一息で魔物の背後へ回り込む一斗。しかし、魔物は何事もないことのようにその位置を捉えていて――その体躯からは想像出来ないような速さで身体を回した。


 回すと同時、巨大体躯から発生するエネルギーをそのままに、一斗の雷爪に負けない爪を持つ前脚を横薙ぎに振るう。


 速さと重さの両方を合わせ持つ魔物の攻撃が、一斗の身体を真っ二つに――、



「……!」



 ――ならず。

一斗が身体を捻ることで魔物の攻撃を回避。


躱したことで出来た魔物の隙を見逃すはずもなく、腕を振るった。



「――!」


 

 魔物と同様横薙ぎに疾る稲妻――だがその結果は違う。

魔物の身体は切り裂かれ、言葉にならない叫びを挙げた。

世界に身体を保てなくなった魔物が、霧となって消えていく。



「…はっ」



 雷爪が霧散し、空気に残った熱だけがゆっくりと冷えていく。

一斗は戦闘の痕跡を振り払うように歩み寄り、総一郎の前で足を止めた。

 嘲るように息を吐き、次どうぞ、とでも言いたげに大げさに一礼し、何事もなかったように列の後ろへ下がる。



「…格好つけやがって」



 そんな一斗の態度に小さく呟く。

 舌打ちをしそうになって、寸前で飲み込んだ。


あんな腹立つ顔を見てムカつかないやつはいない。普通にうざい。というか初対面の時からなんなん?

一頻り心の中で文句を言うが、たった数秒で魔物を屠った一斗の戦闘に驚いてもいた。


 迷いのない踏み込みと、過不足のない魔法操作。

魔法を用いた戦闘での基礎を見せられたような戦闘に、もし自分だったらと考え――、



「次、来るよ!」



 紗希の声で顔を上げる。


 再び聞こえた耳の奥を直接叩くような叫び声。

反射的に距離と数を測る。――近い。しかも、二つ。


 前方、左右同時に姿を現した二体の魔物。

一斗が倒した魔物とほぼ同じ大きさの魔物と、一回り大きい魔物がほぼ同時に迫ってきている。


一瞬動揺するが、すぐさま意識を切り替えて左前方の魔物に向かって駆けだした。

どちらの魔物を倒すかという迷いは一切なく、



「――」


「――」



 駆け出した直後、紗希と目を合わせる。

 それだけでこちらの意図をある程度汲み取ってくれた世話焼きの幼馴染に感謝しつつ、脚に風を纏わせ急接近。



「私と柳で左の魔物を倒すから、あとの4人は右をお願い!」



 後ろで指示を出す紗希の声には反応せず、すぐ目の前まで迫る魔物に意識を集中する。


 魔物の不気味な姿に微かに震える自分の心。ビビってんじゃねぇと喝を入れ、風を操り魔物の頭上へ急上昇すれば、魔物は足を止め後ろへ跳躍する。

 知能を感じさせるその動きを見て、総一郎は即座に次へと動き出す。



「――!」



 空中で右手を横に出し、魔力を介して熱を収束させる。

 炎は燃え広がらず、逃げ場を失ったまま、一本の答えを選ぶ。


一斗とは違い無詠唱で為された魔法の“顕現”は、揺らめく炎を刀身として宿し、確かな重さを持って総一郎に答えた。



「ふっ――」



 短く吐いた息を置き去りに、再度魔物と距離を詰める。


 赤い目が真っ直ぐに総一郎を捉え、その前脚を大きく掲げた。

 一斗に対して行ったその攻撃を総一郎は躱そうとせず、見えていないかのように迫り続ける。


 邪魔されない魔物の前脚が、自由に振るわれて――、



「〈封じて凍れ、氷鎖〉」



 凛とした声を媒介に、世界が一瞬、理を変える。

 掲げられて前脚に氷の鎖が絡みつく。鎖は地へと延び、魔物の脚と世界を縫い止めた。

 魔物は突然動かなくなった自分の身体に驚いたのか、氷の鎖を引き千切ろうと大きな体躯を使って力任せに暴れている。



「っ、あぁぁぁぁ――!」



 炎刀を握る手に力を籠める。

 ゆらゆらと揺れる魔物の首。何で構成されているのか分からないその身体に上から真っ直ぐ振り下ろす。


 柔らかさとも硬さとも違う、本能から拒む感触。

生き物を斬っているはずなのに、どこか概念に触れたような感覚が背筋を走る。


勢いをそのままに両断しようとさらに魔力を込め、



「かっ…てぇな!!!」



 思わず吐き捨てるように叫ぶが、刀身は魔物の首の半分くらいで止まったまま

 構造なのか、意思なのか――理由は分からない。ただ、確かに拒絶された。


両断出来なかった総一郎の頭の中で一斗がバカにしたように笑い、その苛立ちを力に変えるがそれでも刀身は動かない。



「く、そっ!」



 このまま力勝負をしても無駄だと考えた総一郎が一瞬力を緩めると、



「――そのまま!」



 聞こえた叫び声に疑問を持たず、緩めた力を再度込めなおす。



「〈衝き上げろ、岩槍〉」



 再び世界が命令を受け取る。

魔物を見下ろしながら刀を振るった総一郎。その魔物の先――地面が揺れる。


土と石が命令に応え、地の奥から押し出されるように形を成す。

世界そのものが武器を差し出したかのように、一本の岩槍が衝き上がる。


「っ――!」



 紗希の意図を理解し、魔物に刺さったままの刀身に力を込める。

 今度は斬るためではなく――魔物の身体を動かすために。


 前脚は凍らされ今もなお暴れる魔物に対して、下にではなく横に力を加えた。

 下から飛んでくる岩槍がちょうど通過する、その地点へ無理やり誘導するために。



「――!」



 魔物が岩槍に気付いた時にはもう遅く、赤く光った目が総一郎の目と交差する。

 人間と違い熱を持たないその目にはっきりと自分の姿が見えたような気がして――。


 炎と岩に挟み込まれ、魔物は存在を維持できず、霧となって消えていった。




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