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第5話 歴史

 村長のエリックに学校のことを話すと、少年のように飛び跳ねて喜んでくれた。村に学校を設立することは長年の夢だったらしい。村長の協力もあり、村役場の一角で簡易的な学校を開くことになった。


 ソフィアが授業を行っている間、アルデンはエリックの奥さんに見てもらうことになった。初めは不安だったが、彼女のアルデンを撫でる丁寧で細やかな指の動きを見て、安心して預けられることを確信した。


 学校を開いてしばらくの間、ほとんど受講者はいなかった。ハロルドとエリックの他には冷やかしの子供が数人いる程度だ。しかし、少しずつ評判が広まっていき、受講者は数を増やしていった。村人からの冷たい視線は尊敬と親愛の眼差しへと変化した。


 授業の内容は、文字の読み書きや簡単な算術など、ソフィアでも知っている初等教育レベルのものだ。そして、中でも力を入れたのが世界史だ。もちろん、ソフィアもさほど詳しい訳ではなかったが魔族を取り巻く世界情勢の知識は必須であると感じていた。


 この村の住人にとって世界とは、村の中と、時折やってくる行商人や荷馬車だけで完結していた。しかし、世界には数十の国があり、そして一つの国の中には村や街が数百もある。この村はそんな数多あまた存在する共同体の一つに過ぎない。


 かつて、世界中の国々は自らの利益のために絶えず戦争を繰り返していた。しかし、ある時、魔族という人間とは根本的に概念の異なる種族が誕生した。彼らはその圧倒的な戦闘力をもとに日に日に勢力を増していった。危機感を抱いた国々は戦争をやめた。魔族との対峙という利害で一致したためだ。


 日々、戦火におびえていた国境付近の集落はようやく訪れた平和に安堵した。代わりに、神出鬼没の魔族への恐怖は各国全土へと広がっていった。


 ソフィアはこの話を聞いた時、きっと平和の総量は上限が決まっているのだろうと思った。あちらを立てればこちらが立たず。恐れるべきは隣国か魔族か。当時はまさか自分の故郷に魔族が出現するなんて夢にも思っていなかった。


「ですから、この村もいつ魔族が現れてもおかしくないんです」


 ソフィアは故郷での体験談も交えながら熱弁した。参加者は皆、神妙な面持ちでそれを聞いていた。大切な村が魔族に蹂躙される様子を想像したのかもしれない。しばらくの間、口を開くものは現れなかった。

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