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第一章 インフラ・バックエンド・フロントエンドの地脈術者 6 地脈ネットの観測者 3

 会堂に女王ツィラが衛兵たちを引き連れて戻った時、直哉たちはすでに立ち去った後だった。

「探せ、まだ遠くに行ってはいまい」

 女王ツィラの命令とともに、大部隊が会堂や女王の居城の中と周囲全てに、展開した。彼らは幾重にも居城を囲い、誰も脱出はおろか呼吸することも阻止しかねないほどに濃く展開されていた。その中を、直哉は梓晴を担いだまま、息をひそめて逃げ道を探していた。

「梓晴、ここから司祭神官たちの道を通って逃げようと思う」

「でも、それで見つからないかしら?」

「兵士たちは、まだ会堂内の混乱の詳細を知らないはずだ......司祭や神官たちが逃げることを妨げないと思うよ」

 直哉はそのまま司祭用の通路に飛び込んだ。


「直哉、降ろしてくれないかしら? でも、絶対振り向かないでよ……あんたがせっかく渡してくれたシーツだけど、こんな短くては隠せないのよ.......」

「仕方がないよ、単なる枕カバーなんだから」

「なんで、そんなものを使うのよ?」

「それしかなかったし......それだったら、下着より大きいから十分かな、と思ったんだけど」

「そんなわけないでしょ! こんなの巻き付けられないし、走れないわよ」

「大丈夫だよ! 隠せないなら、僕が手で隠しながら走ってあげるよ....走れないなら、僕がそこを手で隠しながら担いであげるよ」

「手で隠す? 私の大事な所を手で押さえながら、私を担ぐの?」

「梓晴、そう、担ぐんだよ......そうすれば、あんたを、あんたの大事な所を見ることもないだろ……第一、そんな恰好のあんたを、ここに残すわけにはいかないよ」

「直哉、あんたはここから走って逃げなさいよ……私は後から付いて行くから」

「そんな恰好で、後ろを付いてくるのか?」

「違うわ! こんな布切れで大事な所を抑えながら、走れるわけないでしょ?」

「じゃあ、どうするの? まさか裸のまま......」

 直哉は思わず、梓晴をみた。梓晴は、ちょうどその時、布切れを捨てて生まれたままの姿で立ち上がったところだった。

「馬鹿! ふりむくな!」

「また裸になったのか?」

 直哉は急いで顔をそむけたが、梓晴は顔を真っ赤にして再び両手で鼠径部から下を隠した。

「み、見たわね!」

「ごめん、ごめん」

 直哉はそう言いつつ走り出した。梓晴は逃げ出した彼を追いかけた。

「もう! 殺してやるぅ!!」


 司祭用通路は、無警戒のままだった。直哉と梓晴はひとまず居城の最外郭に出ることが出来た。このまま、今までの格好で走ることも可能ではあったが、それでは大した速度で走ることはできそうになかった。すでに彼らの脱出を察知した女王の部隊が、急速に際外郭の外へ続々と展開し始めていた。


「ここから、もう一度、あんたを肩に担ぎ上げて走ろうと思う」

「ええ? そんなあ、私はまだ何も身に着けてないのよ!」

「だから、あんたを担ぎ上げるのさ」

 直哉はそういうと、悲鳴をあげて抵抗する梓晴をそのまま左肩に担ぎ上げると、木刀(シェイベッド)を振りかざしながら猛スピードで走り始めた。


 女王の部隊は、すでに包囲殲滅の陣形を整え、前方に展開した魔族たちが満ちの攻撃を仕掛け始めた。指揮は女王ツィラ自らがとっていた。

「陛下、御報告申し上げます…逃げているのは司祭です…司祭神官専用口から、司祭が生贄を伴って逃げ出した模様です」

「逃げているのは女司祭だと言うのか? いや、そいつは女司祭なんかではない…高橋直哉だ......それなら、ここで直哉を仕留めてやる......奴に火炎魔法を放て」


 直哉は、およそ考えられる速度で逃げ続けていた。その彼の目の前に見たことの無い現象が生じ始めた。それは、火炎魔法使いによる猛烈な火力ともいうべき魔法攻撃だった。

「前方は火の海か? なんだこれは?」

「火の魔法というやつね」

「えっ、そんなあ」

 彼は不平を言いながらも、木刀を前方及び周囲に降り下ろしては雷撃を続けざまに加えた。その連続した雷撃は、まるで瀑布のように前方の火炎を吹き飛ばした。


「ツィラ陛下、火炎攻撃突破されました!」

「なにい! そうか、やはりな......それならば、次だ」

 女王ツィラは、立ち上がると次々に命令を下し始めた。それは、大量の魔素を背景にした魔法の波状攻撃だった。

「水冷蓮華を繰り出せ」

「次、虫蠱毒魔法!」

「次、剣! 剣を撃ち出せ そのまま連撃!」

「次、弾丸連撃」

 直哉も、その都度、木刀を振って雷撃を走らせ、無数の光る電撃が次々に魔法術を粉砕した。こうしてすべての魔法術が粉砕されたとき、女王ツィラは苦悶の表情を表わした。それは、もう一段上の大規模魔法術を発動する覚悟と石を秘めため表情だった。

「こうなれば流星瀑布! 高橋直哉を絶対に逃すか! 熔岩流星の雨を降らせてやる」


 直哉は、荒れ果てた魔素の沼原を走り続けていた。その彼らを追うようにはるか上空から多数の隕石が降り注ぎ始めた。

「直哉、後ろの空に光の筋が! 違う! 火炎が後ろから追ってくるわよ!」」

「火炎が追ってくる? うへえ」

「火を纏って落ちてくる!」

「梓晴、あれは熱せられて溶岩と化した岩石だよ......隕石かもしれない……いずれにしても土を使った魔法だろうね」

「あれは隕石なの? どうするの? 此方に向かってくるわよ」

「こうするのさ」

 直哉は立ち止ると、梓晴を道端に座らせ、木刀をまるで鋤鍬を振るようにして、先端を地面に触れさせた。すると、大地を無数の光る大蛇がはい回るように電撃が走った。それをきっかけにして、大量の岩石が隕石の降る上空へと舞いあがり、全ての落下岩石を抑え込んでしまった。

「さあ、逃げるよ!」

 だが、逃げる暇はなかった。彼は周囲の力場の変動を感じたからだった。


「おい、石化の魔法使いを!」

 そう女王ツィラが呼ばわった。次に登場したのは、ただ一人の魔族だった。彼は何かの構えをとると、一瞬にして石化の魔法を発した。それは、周囲の味方の魔族たちが石化することをわかっていながらも、彼らもろとも直哉と梓晴とを石化しようとする極大級魔法だった。


「奴め、仲間の友軍を犠牲にするつもりか? でも、封じ込める」

 直哉はその石化の魔法が放たれたとき、その力場を感じ取って石化術を発した魔族めがけて木刀を向けた。すると、はるかに規模の大きい力場のずれが生じて、石化術が全て粉砕されてしまった。


「な、なんだ!?」

 女王ツィラは呆気にとられた。目の前に展開されたはずの巨大な魔法自体が粉砕されたのを、目の当たりにしたからだった。

「化け物め!」

 魔族は、普段、古語に分類される単語「化け物」を使って呼ばわることは、なかった。なぜなら、彼等よりも強い魔法使いはいないはずだったから。しかし、彼等から見て、はるかに規模の大きい魔法粉砕の様子を目の当たりにして、直哉を化け物呼ばわりせざるを得なかった。


 他方、直哉は、あらゆる魔法が発せられるのに、周囲の魔素が減少しないことを不思議に思った。

「この現象は......おそらく、地脈の大幹線に接続した魔素供給口がこの辺りにあるはずだ」

 直哉は、梓晴を道端においたままであることを忘れて、地脈探しを始めてしまった。それは、走り回り、土に木刀を当て、または目をつぶって周囲を観察する、そんな行為を何度も、いろいろ敵書で繰り返した。この様子を、女王ツィラは見逃さなかった。

「直哉は地脈を探している......太い幹線が走っていることに気づいたに違いない!」

「ツィラよ、何を手間取っているのか?」

「その声は、第一王妃アダか?」

「ツィラ、ぶざまだぞ」

「まだ私は負けていない」

「もう地脈の大幹線が襲われそうだと言うのに、何を今更! もう良い! 妖獣原を形成する......召喚 妖獣!」


この時、直哉は先ほどの大規模な魔法とは異なり、強大だが特定の配列となった魔力展開を感じた。

「何かが来る」

 直哉達は、遮る物のない荒野を突き進んでいた。その直哉達の行く手の地平に一筋の灯火の列が出現した。それらは、直哉達が今まで見たことのない地平いっぱいの、それも魔素を大量に纏った獣達、言わば妖獣達の海原だった。


「奴ら、僕たちを包囲しようとしている…それなら、突破口を開けてやる」

 直哉は立ち止まって梓晴を脇に置いた。

「梓晴、今のうちに僕の上着とシーツでなんとか身体を覆って置いて! 反対側に逃げないといけないかもしれない」

 直哉はそう言うと、木刀を正面に構え、渾身の力を込めて光瀑を放った。だがその強大な一撃をもってしても、一部を削れたものの、膨大な軍勢は退散しなかった。

「やはりね、だからここであそこの地脈を破壊して逃げるよ」

 直哉は右手を見つめて距離を測ると、そこからコヒーレントな電撃を発した。すると、地脈のあった辺りが地響きとともに地割れを起こし、途端にあたりの魔素が急激に減少し始めた。

「やった! これでなんとか逃げられるかな」


「地脈が破壊されました!」

「妖獣原、消失します」

ツィラの側近達がそう報告してきた。 女王アダは怒鳴り声をあげた。

「なんだと!」

「アダ、あんたの召喚術も、間に合わなかったわね」

 ツィラがそう言いつつ超望遠監視術式映像を眺めていると、そこには走って逃げていく直哉と梓晴の姿が映し出されていた。

「梓晴、あの女はやはり詐欺師だった!」

 ツィラがそう言うと、アダが皮肉を言った。

「違うね、あんた達が梓晴を騙したのだろう? 彼女にしてみれば、逃げるしかなかったのさ…もっと上手くやれば、詐欺師の彼女をとことん利用できたはずだわね」

 ツィラはアダを睨みつけ、アダもまた、ツィラを嘲笑した。彼女達は、またしても肝心の地脈を守りきれなかった。


 こののち、直哉は、各地の地脈を次々に破壊しつくしていった。こうして、

地表のおもなところでは、地脈が残っているところはほとんどなくなってしまった。魔王ラーメックはこの事態に驚き、魔族たちを支える魔素の新たな供給手段を急ぎ開発する必要に迫られた。彼は、王国の総力を挙げて魔法を含む魔道の教育研究機関を急遽作り上げるべく、動き出すのだった。

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