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第三章 千年王国建国の幻 3 再びの勇者たち

「地下ダンジョンが出現したというのか?」


 このころ、反抗勢力は共和国を建設しつつあった。

 反抗勢力は、直哉たち天女蜂部隊の活躍居拠って魔族帝国軍を粉砕後、カラコラム山系の谷あい深くまで駆逐したはずだった。反抗勢力の本拠地ニューヨークにあった中央人工知能は、共和国樹立を宣言しするとともに、地球上の各地へ『回復』と称しつつ、反抗人類すなわち共和国人類たちの入植地を増やしてきた。また入植地の統治人工知能との高密度通信網を設けつつ、ニューヨークの中央人工知能が統治人工知能を介して、全入植地を支配管理する体制を作り上げていった。

 一年、二年、一年と半年の間、彼らはカラコラム山系に攻め入った天女蜂部隊が帰還して来なかったこともあり、警戒を怠ることはなかった。彼らは改めて中央軍とともに地上巡航哨戒部隊からなる共和国軍を再構成していた。


 そんな矢先に、共和国建設の中心を担っていた中央人工知能は、呻きのような信号を吐いた。

「地下ダンジョンは、過去の魔族帝国では、出撃基地だったのだぞ! それが出現したというのか?」

 彼らは、さきほど地球上の各地に派遣されていた地上巡航哨戒部隊のいくつかから、各地の入植地の近くに地下迷宮が発見したとのの報告をうけたのだった。それらの報告は、共和国の中央人工知能とその組織、また地球各地の指導的地位にある統治人工知能たちにとって、先史人類が味わった悪夢をふたたび思い出させる事態だった。これらの事態は、共和国を担う人工知能たちによる統治のゆるみを示していた。


「ダンジョンであるというのは確かなのか?」

「地下の迷宮であることは確かだ」

「地下迷宮であるとすると、ダンジョンである可能性が高い」

「ダンジョンであるとするならば、それらは、千年ほど昔の黎明期の魔族帝国の、いわば地下に設けられた出撃基地であり、先史人類の捕獲施設だったところだ」

「そのダンジョンを調査しろ」


 調査を支援するために、地上巡航哨戒部隊に人工知能搭載のアンドロイドたちの部隊が増派された。彼らがダンジョン内部を調査し始めたが、そこは、何かの地下廃墟のように見えたものの、それ以上の何物も発見することが出来なかった。それでも、各入植地の人工知能たちや街の住人である人類たちは、いくつかの注目すべき事実から、それらのダンジョンから何らかの怪物が迷い出ていると、早々と警戒し始めたのだった。


 まず注目されたことといえば、後に各入植地でほぼ同時に見られたのだろうと判断された現象だったのだが、暗闇にまぎれてあるいは明るい日中に目撃された人間に似て人間ではない怪物たちの姿だった。ただ、それらは足跡のような痕跡はなかったため、まるで浮かんで移動していたかのような、もしうは実体化していない単なる光学的な現象のように思われた。

 そして、次には、ある痕跡が注目された。それはにおい、足跡、そして何かの喰い残しであった。入植地の人工知能たちは、アンドロイドたちと人間たちに喰い残しと周辺の痕跡を集めさせた。様座な角度からの分析と検討を加えた結果、それ等の残滓は半分消化された肉片だった。それも、もとは若く柔らかい人体組織を構成していたはずのたんぱく質や脂肪だった。


「人類が襲われている」

「人が死んでいる…」

「怪物に襲われたのだろうか?」

「臭いは、過去に記録されたことがある……」

「これらは......魔族とされた奴らの匂いだ」

「まさか……」

「この傷は、魔族じゃないのか?」

「ま、魔族だと? 魔族は滅んだはずじゃあなかったのか?」

「ニューヨークの本部へ報告したほうが良い」

「誰も魔族を見ていないぞ! それを報告するのか?」

「だが、過去の文献の記述によれば、傷は確かに魔族に襲われたものに思われる」

「待ってください......それだけでは不確かすぎます」


 これらの事件は、既に入植地の内外に酒呑童子若しくは羅刹などが出没していることを推測させた。次いで報告されたことは、入植地の外と内側とで発見された体液のない遺体たちだった。それ等が物語ることは、吸血鬼、サキュバス、インキュバスたちの徘徊だった。

 これらのような奇怪な事件を端緒として、各地の入植地では多くの魔族たちが目撃され始めた。それらは、主に、酒呑童子、羅刹などだった。また、吸血鬼やサキュバス、インキュバスから逃げ出すことが出来た人間たちもいた。さらに、石化術などの魔術を使う魔族までが人間を襲うようになると、頻繁に魔術によって変わり果てた姿になった人間のむくろも発見されるまでになった。


「『過去の伝説によれば、二人の『勇者』が現れて義を表わし、魔族と戦ってくれると言うが……」

 ある入植地の人類が、そんな古代の伝説を引っ張り出した。それは、黙示録の『証人』の記述に沿ったものだったが、藁をもつかむ思いの人間たちには他に頼るものはなかった。

「ほかの伝説によれば、そういう存在を『証人』というらしい……それも、二人いるということらしい」

「その『証人』たちは、『勇者』に違いない!」

「どこに現われるんだ?」

 いつしかそんな希望が、共和国の各入植地の統治人工知能や周囲、そしてニューヨークの中央人工知能たちにまで伝わった。

「『勇者』だと?」

「過去の魔族たちと戦った経験があって、魔族と戦いつつ大地を巡り歩く者たち、それが勇者だ......彼らは、魔族と互角に戦えるに違いない!」

「そうだ」

「まて!」

「いや、敵対するかもしれんぞ」

「どこにいる? 探せ!」

「待て、敵かもしれないぞ」

 今や人工知能の中は乱れを拡大しつつあり、正常な議論と正常な思考は失われつつあった。

___________________


 そんなある日、『自由の地』を訪ねてきた流浪の集団があった。とても奇妙な集団で、アリサという娘に率いられた若い娘たちの大集団、そして、周囲を哨戒しつつ随行する虹洋と悠然という男女だった。


  一年、二年、一年と半年の間、共和国の入植地拡大が急速に進んだ。その間に、共和国の人類たちはヨルダン川西岸にある谷あいの広い荒地に達した。その谷あいの奥深くに、野良人類たちが棲む小さな農村居住地があった。そこは、魔族から若しくは反抗勢力から逃れた野良人類たちが、静かに暮らしていた『自由の地』と呼ばれる居住地だった。

 『自由の地』という名前に魅かれて、地上の共和国各地からその谷に多くの反抗人類たちが集まり始めた。共和国の中央人工知能やその側近たちも『自由の地』という名に魅かれたのか、さらに多くの反抗人類たちを呼び寄せ、谷あいの中央に広大な街を開発した。その結果、谷あいの荒地にひっそりとたたずんでいた野良人類たちの居住地は奥深くに忘れ去られ、『自由の地』という名前はいつしか反抗人類たちの集まる大生活圏の名前になった。すると、さらに多くの反抗人類たちが『自由の地』という名前に魅入られてあつまり、大都市が形成されたのだった。


「ここなのか? 『自由の地』というのは?」

 虹洋は、先頭のロバに乗りながら、峠からヨルダン川の西岸に広がる街の威容を見下ろしていた。彼女の見下ろす先には谷あいの街に入るゲートがあり、彼女は娘たちの集団をその街へと先導する途中だった。悠然は彼女に並走したり、後ろの集団の周囲を走り回りながら、彼女の先導を助けていた。

「峠は不毛の岩地だったけど、街の近くになると麦畑が広がっているね」

「町はもうすぐね……そして、麦の実りはもうすぐ……春ね」


 峠を降り切ったところには農村だった廃墟があった。さらに街へ進んでいくと、道の左右には大きな農園がいくつも設けられていた。農園の門の前を通り過ぎながら、悠然は、人間の姿が一切ないことに違和感を覚えた。

「なんか、変じゃないか?」

「悠然、何かしら?」

 虹洋は悠然の疑問に相槌を打った。悠然は周りを見渡しながら、分析をつづけた。

「人間が見当たらない...…そして、働いているのは......驚いたな、全部機械だぞ」

「人間みたいなのがいる……確か、アンドロイドとか言ったわよね」

「これなら、若い娘ばかりの集団が襲われる心配もないね」

「彼は『自由の地』で落ち合おうと言っていたのだし...これだけ大きな街であれば、こんな大人数の娘たちも、暮らしていけるだろうし......」

「そうだね……みんな、アリサが、そして私たちが、直哉から預かった大切な娘たちだものね」

「ねえ、このまま街の中へ入っていくの?」

 この時二人のやり取りを聞いていたアリサが、疑問を呈した。それに比べて、悠然の返事は軽すぎた。

「ああ、そのつもりだけど......」

「ここの人間たちを、私たちはまだ会っていない……たしかに、この街にどんな男たちがいるか、分からないわね」

 虹洋は、アリサの不安そうな顔色から、彼女の疑問を代弁した。すると、悠然もそれに応えた。

「そうだな……僕たちは、直哉が反抗勢力の中に入り込んだ、という情報を得たから、私たちはここまで来たわけだ……だが、あの街が本当の『自由の地』なのだろうか」

「そうね....…まず、十分に調べてからでも遅くないわね」


 彼らは、農園のさらに外側にあった廃墟の中に戻って、そこに本拠を設けた。そこですっかり準備を終えてから、虹洋と悠然は『自由の地』のゲートから街へと入って行くことにした。

___________________


 夕刻、虹洋と悠然は闇にまみれて街に入り込んだ。街中には、農園の中と同様に一切の人影がなかった。その代りに、暗闇にまぎれて人間に似て人間ではない影、におい、足跡、そして何かの喰い残しが、彼らの行く手に広がっていた。

 虹洋がその断片を拾い上げて眺めたのだが、そこで感じられた臭気は、何かの肉片からの臭いばかりではなく、獣臭のようなものが含まれていた。悠然はその状況に危険を感じて、虹洋を心配し、この日は本拠へ帰った。

 彼らは早速アリサを含めて検討を重ねた。

「あのいやな臭い……確かに獣臭だったわね」

「肉片の臭いも感じられた」

「足跡は獣ではなく、二足歩行……それも直立二足歩行だったわ」

「では、その肉片は何だったんだの?」

「肉片には指輪が残っていた……」

「まさか……」

「人類?」

「それは、獣臭けものしゅうの源が魔族だということになる…」

「『自由の地』に魔族が入り込んでいるのか?」

「しかも、『自由の地』の人類を襲っている!」

「僕がもう一度街に行って来る......街に潜んで、しばらく調査をしてみるよ」

「危険だわ」

「悠然が街へ行くことには、反対だわ!」

「誰かが、現場をみなければ、決定的なことが言えないんだぞ!」

「わかったわ……悠然が行くことは認めるわ……でも、危険は犯さないで……」

「わかっているさ……連れ合いのあんたを置いて、捕まったり殺されたりすることはないさ」

「それなら、危険を冒さないで……まずは、街の人たちと接触して情報を集める方がいいのでは?」

「そうだね」

 次の日、悠然は明るいうちに一人で街の中へと入って行った。街の人々と接触するためだった。


「担当官様、ここは『自由の地』ですか?」

「確かに、ここは『自由の地』と呼ばれている……お前は何の目的で来たのか? 交易か? 入植か? 旅行者か?」

「僕は旅行の途中でこの街へ来たのです」

 昼間の間にゲートに入ったこともあって、門番らしい警備兵は入管事務所へ案内してくれた。事務所では簡単な手続きによって、街中へ入る臨時ビザが与えられた。

 街角には人々があふれていた。悠然はその中の一人に簡単に接触することが出来た。

「あのう、僕はこの自由の地に立ち寄ったんですが……」

「ほほう、あんたは旅行者なのか?」

「実は、地球上の各入植地で、魔族の出現のうわさを聞きつつ、ここまでやってきたのです」

「この『自由の地』でも、魔族が出没しているんだよ」

「そうですか...」

「あまり驚かないようだな……まるで、既にこの地に入って魔族を見たことがあるように聞こえるが……」

「僕たちは、各地で魔族を見てきました……この地で魔族のうわさを聞いても驚きません……ただ、『自由の地』にまで出没していることについては、祝福されているはずのこの地までが、という疑問はありますね」

「そうだな、残念ながら、この『自由の地』の町中でも、魔族の痕跡......匂いと足跡、多くの犠牲者の遺体群……ばかりでなく、犠牲者まで出ている状況だ」

「そうですか、いやなものですね……」

「見たことがあるのか?」

「ええ、担当官様……僕は、魔族の痕跡を各地で見てきました……僕にとって特に記憶に強く残っているのは、喰い残された肉片とその肉片に残された指輪……おそらくは犠牲者が指輪をつけていたために、その腕だけ嫌って捨てられたもの……」

「そうだったのか」

 話した相手は、たまたまだろうか、統治人工知能の警備隊を司るアンドロイドだった。

「旅行者よ、その貴重な経験をもう少し聞かせてくれないか?」

 彼はそう言ってから、街の中心にあるシティホールへと案内された。そこは、統治人工知能が二重三重の防御の中に鎮座するところであり、悠然は統治人工知能との会見ホールへと案内された。


「あんたは、地を巡ってきた旅行者だということだが……」

 統治人工知能は、多くの聞きたいことを有していることなど、おくびにも出さなかった。それでも、挨拶を省略して早速質問をしてきていることから、何かを急いで求めていることが感じられた。悠然は、そんな点に気づきつつ注意深く言葉を選んで回答した。

「ええ、そうです……僕は、『自由の地』を探してここまでやってきたのです」

「ここは、たしかにその『自由の地』だ……だが、魔族の出現に手を焼いている……ところで、旅行の途上で魔族の痕跡を見て来たということだが、魔族を見たことはあるのか? 魔族の痕跡を見たということだが、魔族の痕跡だと、なぜわかったのですか」

「直立歩行の足跡と獣臭、そして指輪のついたままちぎられた腕…これらから僕たちは、魔族だとわかったのです」

「魔族を見たことはあるのか?」

「ええ、僕は魔族と一戦交えた経験がありますから」

「魔族と戦ったことがあるのか?」

「ええ……僕は魔族を避けつつきましたが、魔族と撃退しなければならないときは本格的に戦いました」

「あんたたちは魔族と戦ったことがあるという......そして、この地に現われた……そうか、それなら間違いない……。あんたは中央人工知能が指摘したように、あの伝説にあった『勇者』たちに違いない」

「僕が勇者だって?」

「そうだ、中央の彼が指摘した黙示録という古代書物によれば、二人の『証人』とも呼ばれる人物が現れて義を行うことになっているのだ」

「まってください! 僕は二人ではないですよ……それに、義を行う立派な人物でもないし、そんなものに選ばれた記憶もありません」

「そうなのか?」

 この時、統治人工知能は、何かの報告を受けたのか、一時言葉が止まった。そして、次の言葉は悠然を驚かせた。

「あんたが北方向のあんたの行動の痕跡を調査したのだが……あんたはあの廃墟の中に連れ合いがいるらしいな……ということは、あんた達が二人の『証人』、つまり『勇者』に違いない!」

「待ってください! 僕にはたしかに連れ合いがいる……だから二人には違いないが…義を行う人間ではない......たぶん『勇者』とか言われる存在じゃあない!」

「義とは大いなる存在の意思を行うことだ……我々の古い記憶によれば、それはほかの存在のために生きることだとされていたが、今は必ずしも、いや違う意味になっている……戦って魔族を撃滅することに違いない」

「魔族を撃滅することですか......」

「そうだ……実は先ほどまでに集まった情報、特にあんた達は魔族帝国のゴグの谷において、女王アダが執行させた儀式から家畜人類を解放させた活躍も、把握している」

 悠然は否定を重ねたが、会見相手の統治人工知能は、もう必要な情報を集め切っていいるようだった。

「あんたが引き連れている群れは、今まであんた達が解放して来た若い娘たち、そして大勢の彼女たちを守るためにあんたともう一人の女用心棒が居たわけだ……大勢の若い娘たちの安全を図らなければならないんだろう?」

 会見相手の統治人工知能は、悠然にある意味で心理的な圧力を掛けた......つまり、彼と彼の周囲はすでに監視されている人質同然なのだと……他方、彼の頭の中には、あまり巻き込まれたくないという心理があった。また、証人と言われるのであれば、証人にあたる人物として、彼の頭の中には直哉が浮かんだ。 


(どうやら、この街のために、『勇者』として何らかの働かなければならないのかな……だが、勇者とされるなら、学園都市ウニベルシタスの家畜人類解放に限らず、多くの魔族帝国における破壊工作で活躍した高橋直哉じゃないのか......僕たちの待つ彼なら、つまり直哉は今まで活躍して来た筈だ......だが、彼は行方不明だ……いずれ、彼も僕たちに合流するはずだ……ということは、彼が勇者だとしても、今僕たちを代表しているのは僕だ……それなら、ここで僕が『勇者』の一人と言っても、差し支えないかな)


「街の皆さんがおっしゃられることはわかりました……もちろん僕たちが勇者などという大それた人物ではないかもしれない....たしかに、魔族と戦ったことのあるのは、僕たちだけなのでしょう......ただ、僕には、ほかの連れ合いもいることもあり、慎重でいたいのです……少しだけ時間をください」

 こうして、悠然は町はずれの本拠地に戻った。連れ合いの虹洋やアリサと今後のことを話し合う必要があった。

___________________


「街の指導者たちによると、僕たちは『勇者』らしい……啓典にある二人の証人らしい」

 虹洋は、それを聞いて戸惑った。

「あんたと私で二人の証人ということなの?」

「可能性としてだ....…」

 悠然の説明で虹洋は仕方ないという顔をした。ただ、今はまだ攻勢に出る時ではないとも思われた。

「まずは、魔族の所在を確認したい」

「なんとしても魔族を相手にする気なのね?」

「何かあっても、絶対手出ししないで帰って来られるの?」

 虹洋とアリサは心配だった。それでも悠然は、『勇者』として最低限、監視活動は始めるつもりだった。

「ああ、そのつもりだ……僕たちには、弱点があるからね……ここまで一緒に来た多くの娘たちだ……だから、事は慎重に運び、戦いは極力避けるよ」

 こうして、まずは夜の都市部偵察のために、悠然一人が闇にまぎれて街の中に潜むことになった。

___________________


 その夜、悠然が忍び込んだところは、街の中央部だった。

 星明りだけの暗闇の中に足音が響き、その後に揺るがすような音がした。悠然は、しばらく観察を続けると、その足音は四つ脚ではなく、直立二足歩行の獣臭をまき散らす影が浮かんだ。間違いなく酒呑童子か羅刹の類だった。それ等の怪物は建物の出入り口や窓の中を覗きまわっていた。その目線の動かし方は、悠然が見る限りでも、獲物である人間を探し求めている様子だった。


 それ等怪物の様子を観察した後、悠然は戦いを避けて本拠地へ素直に戻った。出迎えた虹洋とアリサは、悠然の様子から、彼が髪を逆立てるほどの怒りを秘めながらも、なんとか本拠地に戻ってきたことを悟った。


「ひどい、あまりにひどい状況だった……魔族たちだ……街中が奴らの獣臭と血なまぐささで充満していた......それらの匂いの下を探したんだ……そこには、結婚指輪をして互いに取り合った男女の腕……残された頭部、骨の欠片…すべてがこの町に住む人々の、それも若い男女のものだった」

 彼はあまりの怒りに、唇を震わせていた。彼の口にした報告の余りの酷さに、虹洋とアリサは言葉を失い、かろうじて彼にそっと呼びかけつつ彼の肩を抱きしめることしかできなかった。

「あ、あの、悠然…」

「もし、直哉だったら…」

 悠然はその時直哉の今までの講堂の仕方を思い出しつつ、彼の名前を呼んだ。その思いは、虹洋もアリサも同じだった。

「そうね、彼だったら……帰って来られるほど、冷静でいないわよね」

「そうだ、僕も本当はそうしたかった」

「それなら、今夜は私もへまいりましょう」


 夜になって、虹洋と悠然は、夜の闇にまぎれながら町の一角にたどり着いた。そして、ちょうどそこは、いままでかれらが見てきた状況よりも幾段階も悪化した状況になっていた。

 そこで彼ら二人が見たのは、今までの怪物ではなく怪物の中の怪物と言ってよい姿の怨躯、すなわち魔族のうちでも死を経ての変化へんげを遂げた怪物、怨躯が人々を襲っていたところだった。そのほかにも、別種の魔族たちは吸血鬼、サキュバス、インキュバスが襲来していた。

 奏している地に彼らが気付いたのは、魔族たちが恐怖か何かに拠って動けなくなった街の人々を生きたまま捕獲しさらい、その近くに口を開いた地下ダンジョンへと引きずっていくところだった。

「彼らは食い散らかさずに、今は多くの人々を捕獲して運び去ろうとしているね」

「つまり、ここにいる彼らは満腹になった……だから、ダンジョンに待っている仲間たちのために、もしくは今後の何かのために、若い男女を連れ去っているということだろうか....」

「ということは、遠い過去にもあったように、ダンジョンで若い人間たちを拷問にかけて生命エネルギーを吸い取り、魔素とするのだろう」

「僕たちで、なんとか連れ去られた男女を解放しよう」


 二人は怨躯を追いかけ、地下ダンジョンへと突入し、そこにいた魔族たちに奇襲を加え、一挙に殺戮した。ちょうど、その時は拷問をはじめようとしていた時らしく、大勢の若い男女が拷問室近くの地下牢に閉じ込められていた。

「ここは......?」

「この先に、拷問具があったよ」

「やはり......」

「さあ、ここから皆を救い出して脱出しよう」

 こうして、彼らは多くの街の人々を解放した。彼らが地下から戻った時、地上では多くのアンドロイドたちや人間たちが集まっており、悠然と虹洋とを褒めたたえた。


「あなた方二人はやはり勇者だったのだな」

「よかった……ここに来てくれて!」

 中央人工知能やアンドロイドたちから伝えられたことは、確かに勇者として褒めたたえるものだった。それ等の言葉は、二人にとって決定的な勝利のように感じられた。


 こうして二人がアリサの待つ廃墟に戻った時、アリサとアリサの管理していた娘たちがおらず、もぬけの殻だった。そこにはアリサもアリサの管理していた少女たちもおらず、もぬけの殻だった。

 残されていたのは、襲撃の跡と、魔族たち特有の獣臭と足跡だった。

「そうか、僕たちは勇者じゃなかった…愚者だった……奴らは初めからこうしようと考えていたに違いない……見事に裏をかかれた!」

「あんたに裏があったのかしら……私の彼氏には裏表がなかったはずだけど……」

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