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第四章 千年王国建国の幻 1  罠

「敵軍が全面的に潰走!」

「えっ?」

「直哉!、それは早すぎる…罠じゃないのか?」

「いや、今がチャンスだ.…僕は突撃する!」

「直哉! このまま突っ込むなんて無謀だわ」

 狂戦蜂たちは、今までにない速度で逃げ去ろうとしていた。直哉は潜在意識を覚醒させながらも興奮したまま、目の前の一団に追いつこうと必死に食らいついていた。すでに直哉の天女蜂部隊は、潰走する敵に追いつくたびに狂戦蜂の部隊ごと撃滅していた。その後を、後れを取ったフィジア、ケミア、トリミアの三部隊、オーガナーアーティマー、マキナーの三部隊が追いすがるように、追撃掃討戦に加わろうとしていた。

「追撃が速すぎる!」

「直哉! 追いつけないわよ!」

「今しかないんだ! 敵軍がカラコラムに逃げ込む前に叩くんだ!」

 直哉がそう言いつつ、敗走する敵軍の殿しんがりを次々に潰しながら、まるで直哉自身が追い立てられているように魔族帝国軍の狂戦蜂たちを追い詰め続けた。

 遥か前方のカラコルム山系の谷あいには、吹き降ろされてくる雲間の間に、狂戦蜂の操縦者たちらしい魔族たちや怪異と化した怨躯たちまでが、既に陣地や前進基地をすべて放棄して逃げ出す姿が見え隠れした。直哉たちは、その姿を光学望遠鏡で確認するとその姿にさらに追い立てようと、カラコラム山系を目指して足を速めた。


 カラコルム山系の谷あいは奥へ行くほど谷川が深く切り込み、また川沿いの小道が高く奥へと続いた。そして、直哉たちは前方に敵軍陣地を見つけた。

「直哉! この陣形は、まるで僕たちを袋の鼠にしようとしているみたいだ…後続は続いているのか?」

「直哉! 俺たちは二十数部隊だけ......後続部隊が後をついてこない......」

「天女蜂部隊の一部だけ? 私たちだけで突入したのかしら?」

「直哉、これはどういうこと?」

 直哉は黙りこくっていたまま、直哉の天女蜂部隊とそれに続いたフィジア、ケミア、トリミアの三部隊、オーガナーアーティマー、マキナーの三部隊は、無傷のままで魔族帝国軍が最奥に構えた怨躯たちの陣営へ殺到した。そこには、直哉たちの突入を予測していたかのように、幾重にも構えられた防御陣形が確認された。


「後ろから、私たちの後に続いている集団を確認…」

「後続を確認したぞ! あっ......いや、後続じゃない! 敵の狂戦蜂が急速に追いついてきている!」

「え、ここに来たのは僕たちだけなのか?」

「私たち、挟撃されたね......」

 罠だった。

「みんな、全機密集して紡錘陣形を!」

 直哉たちばかりでなく、天女蜂の二十数部隊全部がこの後の困難な戦いを覚悟した。

___________________


 直哉たちが目指した先には、怨躯たちから構成された防御陣形が幾重にも地上に待ち構えていた。その防御陣形のすべての群には、様々な形態の怨躯、怪物たち、強大な怪物、異形となった怪物、さらには怨躯が発展した鬼神たちの大群が蠢いていた。その怨躯たちの背後には、前線司令部基地が設けられていた。そこには、魔王一族の一人で鬼神となり果てたフラッド皇子と、鬼神レベルとなったフラッド側近の酒呑邪鬼部隊のカイル・ゲーニッツ指令、人喰い鬼部隊のベラル・ニコフ指令、羅刹鬼部隊のルニカ・ナーザフ指令、合計4人が控えていた。


「フラッド殿下、反抗勢力先鋒部隊の突入を確認しました」

「おお、これで反抗勢力の先鋒は、袋の鼠だ」

「しかし、彼らは孤立したこともかまわず、そのまま突っ込んできています」

「殿下! どうやら彼らは、先の戦いでわが軍のほとんどを壊滅させた強襲先鋒部隊の主力です」

「そうか、ならば、彼らを此処でなんとか壊滅させれば、彼らの謎の力が分かるだろう......そして、わが軍はもう一度攻勢に出られるぞ!」

 フラッドたちは即席で戦況を分析し、防御陣形から直ちに狂戦蜂群を飛翔させた。

「殿下、我ら酒呑邪鬼部隊は、もうすぐ衝撃鶴翼隊形の展開を終えます」

「殿下、俺たち羅刹鬼はこれから出撃する....陸上打撃戦闘群は作戦宙域の下方、敵機が追い込まれる予想地点には、すぐ展開できる」

「人食い鬼部隊は、掃討戦に備えていつでも出撃可能です」

 。上空の狂戦蜂たちが直哉たちの一団の上空を封じ込めるように展開すると、酒呑邪鬼部隊・人喰い鬼部隊・羅刹鬼部隊の各部隊が、防御陣形の両翼から狂戦蜂たちによる作戦空域の下方にめがけて、順次出撃していった。彼らは、フラッド皇子たち前線司令部の背後に隠れて控えていた魔王一族から、無限に近い魔素をうけとっていることもあって、戦意もエネルギーも十分だった


 まもなく、酒呑邪鬼たちの一団は、彼らの上空に展開した狂戦蜂たちに膨大な魔力を打ち込み、その大群に勢いと質量を極端に増加させたまま、直哉たちの天女蜂群にぶつけた。

「直哉、上空に敵機の大集団が集結中!」

「集結すると、その後はまとまって襲ってくるのかしら?」

「いや、散開している......このまま、全部が一度に何らかの動きを示すだろう」

「全機が上空から突撃してきた!」

「全部隊集結しろ! 防御用鏡面を内側にして......」

「直哉、間に合わないぞ!」

「く、くそ! 全部隊、散開して迎撃しろ!」

 直哉は、潜在意識を覚醒したままであった。その直哉と仲間たちは短く情勢分析をし、すぐに迎撃態勢を取った。だが、上空から圧倒的な物量の狂戦蜂たちが加える攻撃にに耐えきれず、徐々に地上に着地せざるを得なかった。


「フラッド殿下、敵天女蜂部隊の全機を地上に追い込みました!」

「よし、羅刹鬼たちに攻撃させろ!」

  地上付近で逃げ惑う天女蜂部隊に、身体を魔力で強化巨大化した羅刹鬼たちの一団が襲いかかった。


「直哉! 地上付近は危ない」

「地上から巨人たちが襲ってきたぞ」

「全機、地上から離れろ! 距離を取れ!」

「間に合わない! 距離をとって巨人に反撃! 十数機で攻撃を加えろ!」

 天女蜂たちは、指令通りすべての部隊で、十数機単位でまとまって群れを成して飛び上がった。十数機ごとの天女蜂たちは、集団で一体の羅刹鬼に襲い掛かったが、ほとんどが羅刹鬼の振り回す剣や槍によって次々に叩き落された。その打撃により、多くの天女蜂たちとその指令機たちが地上に激突した。墜落した天女蜂たちやその指令機には、羅刹鬼たちが殺到し、次々に力づくで指令機を壊して中から操縦士の少年少女たちを引きずり出した。さらに、そこに人食い鬼たちがたかり、少年少女たちを獲物としてとらえ、彼らの陣地へと引きずって行った。彼らは、獲物を持ち帰って自分の巣でゆっくり喰い荒らすのが習性だった。


 まだ直哉たち7人の制御する天女蜂たちは、奮戦していた。しかし、彼らが上空から目にしたのは、友軍の少年少女たちが狩られていく姿だった。

「直哉! 奴らが僕たちの仲間を引きずっていくぞ!」

「あ、途中で食らいやがった!」

「まるで、獲物を持ち帰る蟻だぞ!」

「これでは、もう助けられない......」

「それどころか、俺たちも危ないぞ!」

「巨体の奴ら、剣と槍を持ち出したわ」

「俺たちも、襲うつもりらしい」

 最後まで奮戦していたフィジア、ケミア、トリミア、オーガナーアーティマー、マキナー、直哉の天女蜂部隊も、乗った指令機までもが地上に激突した。そこにも、酒呑邪鬼の操作する狂戦蜂たちが襲いかかった。


「く、くそ!」

「みんな、外には出るな!」

 直哉たちは指令機の中に閉じこもろうとした。そこに羅刹鬼たちが襲いかかり、剣で力任せに直哉たちの乗った指令機を叩き壊した。最初にフィジア、ケミア、トリミアの少女たちが引きずり出され、オーガナーアーティマー、マキナー、直哉たちも、力づくで引きずり出されてしまった。7人は気を失ったまま指令機の残骸の傍らに放り投げられたところに、人食い鬼たちが近づいた。


「待ちなさい、彼らは私の獲物だ」

 人食い鬼たちを制したのは、三人の鬼神だった。それは、怨躯から鬼神になり果てた魔王一族の皇女グレカ・フォン・メックとその側近の吸血邪鬼ミランダ・ムベカ、吸精邪鬼のナーマニカ・ツルコワ二人だった。

「畏れながら、グレカ皇女殿下とお見受けいたします」

「彼らは、前線総司令のフラッド皇子殿下によって許された我々人食い鬼の獲物です」

 人食い鬼たちは、丁寧な態度を取りながらも、堂々と反論した。すると、グレカ皇女の前に、吸血邪鬼のミランダ・ムベカ、吸精邪鬼のナーマニカ・ツルコワの二人が立って、人食い鬼たちを遮った。

「グレカ皇女殿下は、私の獲物と言っているのですよ!」

「ムベカ殿、おっしゃることは受け入れられません......あくまでも我々のものです」

 人食い鬼たちは食い下がった。ミランダとナーマニカは怒りを表わして口の中の牙を見せ、凄みを見せた。

「下がりなさい! 人食い鬼ども!」

 これには、さすがの人食い鬼たちも後ずさりした。ミランダたちはさらに畳みかけた。

「あんたたち単なる人食い鬼たちが、私たちに対抗できるのかしら?」

「吸精邪鬼に精気を吸われたら、あんた達は頭の中が快楽に満たされて、元気がなくなるでしょ?」

「吸血邪鬼に血を吸われたら、あんたたち死んじゃうわよ」


 グレカ皇女たちは、人食い鬼たちから直哉たち七人の少年少女たちを奪って戦場を離脱し、魔王一族が控えている前線司令部基地へと帰投した。誰も彼女たちを遮る者はいなかった。

 

「おお、人食い鬼たちが最後に捕らえたのは、ナオではないか?」

 魔族帝国側司令部では、フラッドたちに驚愕が走った。

「フラッド殿下、確かに、あれはあれはナオです」

 不時着後に叩き壊した機体から羅刹鬼たちが引きずり出したのは、彼らが顔をよく知っている直哉だった。

「ナオ、あいつは再び俺に敵対したのか!」

 にやりと笑ったフラッド殿下だったが、次の報告に彼の顔は怒りに歪んだ。

「フラッド殿下、ナオたち7人が出撃中のグレカ皇女殿下たちに横取りされました!」

「なんだと?」

 フラッド皇子たちが騒いだときには、すでに直哉たちはグレカ皇女たち三人に抱えられて持ち去られた後だった。

 

「フラッド殿下、捕らえた人類の少年少女たち7人が前線司令部に連れてこられました」

「なにい?」

 フラッド皇子は驚愕しつつも気を取り直して立ち上がった。側近のベラル・二コフが続報を伝えた。

「殿下、ただし、7人はグレカ皇女の庇護下にあるそうです」

「なんだと! いや、良い……尋問はできるはずだ」

 フラッド皇子は、不機嫌そうな表情をしながらも、席を立ってグレカ皇女の屯所へ向かった。


「グレカ! 邪魔するぞ!」

「これはこれは! 兄君あにぎみ、よくお越しくださいましたね」

「お前、勝手なことをしてくれたな!」

「そうかしら? 確かに兄上はこの戦闘の司令官でしたわね」

「そうだ、俺には敵軍のすべてを自由にできたはずだ」

「そうね、でも私は、魔王陛下から独立に遊撃支援行動をする権限を有しているのですよ......兄上の不完全さをカバーするために、ね……つまり、私たちが情報収集の一環としてとらえた捕虜たちは、私の庇護下にあるのですよ」

 確かに、グレカ皇女たちは、フラッド皇子が軽視しがちな情勢分析を精確に行うために情報収集をする任務に就いていたのだった。それを持ち出されては、さすがの戦闘総司令のフラッド皇子も従うしかなかった。

「わかったよ......だがね、情報収集なら、この俺にも尋問の機会があっていいということだよな......そうだ、グレカ、この尋問はあんたの情報分析の一助になるだろ?」

「わかったわ......尋問だけなら許しましょう」


 様々な面倒な手続きを経て、フラッド皇子はグレカ皇女の屯所で直哉たちを尋問した。

「ナオ、あんたは元々(もともと)我々の側から反抗勢力に潜入したはずだが、今度はこうして反抗勢力側について、我々の前に現われたわけだ......裏切り者か、スパイだったのか、日和見の卑怯者か、ということか?」

「僕は......僕は人類を助けに動いているんだ……」

「助けに? ナオ、お前が?」

「そうだ......」

「それが、われらの側に攻め込んできたのかね?」

「そうさ、あんたたちの近くには、魔素を得るために必ず家畜人類が飼われている......この戦いに際しても、あんたたちの前進基地の背後で、家畜人類たちが必ず犠牲になっているはずだ......だから、反抗勢力の先兵になってでも救い出しに来たのさ」

「へえ、たかが家畜人類をすくうためにか? 家畜人類たちは愚か者たちだぞ......彼らは愚かゆえに根拠も無くすぐに雷同する……すぐに勝手な方向に雷同するから、我々が群れ全体を扇動して導かなければならない......だから、我々が彼らを家畜人類として保護し管理しているのだ」

「馬鹿なことを! 人類をそうやって扇動するなんて......」

「ほお、だがな、なお、お前も反抗勢力の少年少女たちを見て分かったはずだ....…反抗勢力の人工知能たちは、影響を受けやすい若い人類だけを魅了して、推しなどという心理に至らしめ、使い回して消費しているではないか!」

「そう、確かに彼らも若い人類を使いまわしている......だが、お前たち魔王一族と鬼魔族たちは、元々が人間であった者たちを魔族にしてしまい、意図的に人類をことごとく悪の道へ雷同させ、支配し生命に至るまでしゃぶりつくしてきた……それに対して、反抗勢力の人工知能は、あんたたちのように人類を犠牲としてしゃぶりつくすことが、ない……それは、人工知能がもともと人類たちの罪深い歴史を学んだうえで、繁栄を願って創造された技術だからだ......だから、僕は少しはマシな反抗勢力に味方しているのさ」

「俺たち魔族に導かれるに過ぎない下等族が勝手なことを言っている......現に、あんたは都合のいいように裏切りを重ねて来たではないか......裏切り者め」

「裏切りを重ねている? それはフラッド殿下、あんたたちの傲慢な立場からくる見方だね……僕は啓典の父が救うべきとされた存在だけを救う正義をもとめて動いているだけさ......初めから魔族の味方でも、反抗勢力の味方でもないさ」

「ナオよ、お前のそれは現実を直視しようとしない見方だな......お前は魔族の味方でも反抗勢力の味方でもないが、それでも人類を助けると言っているがな......このままでは、お前の崇める『啓典の主』などという愚かな存在にはどうしようもない結末を招くぜ......つまり、いずれ我々に導かれ雷同する家畜人類は、反抗勢力の人類とは相容れぬ......愚かな人類たちは、放っておくと互いに敵意を殺し合うに違いないのさ......それは我らの神ルシファー様によって預言されているぜ」

「なるほど......そうかもしれん......ただし、『預言』とは『啓典の神』のみがその権威によって我らに示唆してくださること......必ず良き結果になることを、後になって悟らせてくださるのさ......それまでは、僕は求め続けて目の前の敵を排除するだけだ」

 捕まって不自由な立場の直哉は自説を曲げず、フラッド皇子もまたおのれの正義を信じていた。互いに相いれないことを、彼らは初めから悟っていたのかもしれない。


 フラッド皇子は怒りに震えて、直哉を撃ち殺そうとした。だが、そこにグレカ皇女が割って入った。

「兄上、ここは私の領域ですよ......勝手なことは私が許しません」

「グレカ、お前はどこまで行っても愚かな女だな」

「ええ、私は自分で見たことしか信じません......私は、兄上やほかの王族や魔族たちのように、人間たちを雷同させ、自らも雷同して勝手な思い込みで動く、なんてことはしませんよ」

「そうか、お前もそんなことを言っているのか......それなら教えてやる......このナオは、男だ」

「知っていますよ、そんなこと......私はいつまでもそんなことにこだわっていません......ただ、私の裸を見られたことだけは、この姿になった今でも怒っていますけど......」

「何、お前の肌をこいつに見られたのか?」

「そう、でもそれはもうずいぶん昔のことよ」

 フラッドはさらに何かを言いたそうだったが、グレカはフラッドを無視して出て行ってしまった。フラッド皇子は仕方なく、グレカの屯所を出ていくしかなかった。

___________________


 次の日のことだった。

「兄上、それは......」

「グレカ、これをみろ! これでそいつらは俺たちのものだぜ」

 フラッド皇子はラーメック魔王陛下の署名入り命令書をひけらかしながら、グレカの屯所を訪れた。

「しかし、兄上.......ラーメックのおじいさまがそんな命令を出すはずが......」

「ほお、グレカ......なぜおじい様、いや魔王陛下のお考えが分かるのかね?」

「魔王陛下は、直哉などというちっぽけな、いや一番愚かな人間の男一人を、注目することなんかあり得ない筈ですよ」

「確かにその通りだ....そうだ、おそらく奴の偉そうな態度をぶっ飛ばし、従順にさせるべきだと、魔王陛下もお分かりになったに違いないさ」

「兄上、しかし、その命令書は、彼の尋問許可書ですよ......陛下が下等人類の中でも一番愚かな男にすぎない者の、態度などという些末なことを、尋問の対象にするはずはないわ」

「いいや、俺様にことごとく対抗し、俺様を散々コケにしてくれたことが、悪行であることを、尋問で、いや拷問で知らしめてやるんだ」

「陛下は、おそらく別の意図で尋問しようとしているのではないですか?」

「ナオの今までの講堂目的を明らかにしろ、とか言っていたが、あんな愚か者にそんな高度な思考があるはずないさ......そんなことはどうでもいい、俺を散々コケにしてくれたことを後悔させてやるんだ!」

「兄上のそれは、復讐ではないのですか?」

「ほお、そう見えてもかまわんさ......もう尋問許可書は手にしているんだぞ! 俺のやることにいちいち文句をつけるな!」

 フラッド皇子はそう言って、サッサと直哉たち七人を、グレカの屯所である情報分析部署に併設された尋問室に連れ込んでしまった。

___________________


「ナオ、お前、俺たちを散々コケにしてくれたな」

「そんなつもりはないね……あんたと見解が相違しているだけだ」

「俺の考えを偉そうに否定しやがって......そうやって、俺を馬鹿にしているんだ......コケにしやがって!」

 直哉は、尋問官のフラッド皇子が情報を聞き出そうとしているわけではないことを悟った。それは、これから行われることが、単に耐えればいいと言う尋問のようなものではなく、拷問であることを予測させた。しかも、仲間の少年少女たちまで連れて来られたということは、仲間たちへの拷問もなされるかもしれないことを予想させた。


「ナオ、お前はここで、俺から尋問を受けることになっているんだ」

「フラッド皇子殿下......あんたが僕に尋問? へえ、あんたがどんな情報を僕から得られる、というのかな?」

「へえ、お察しの通り、俺は尋問する気なんかないさ......そう、お前に復讐するためさ」

「復讐? そんな覚えはないんだけど」

「覚えていないのか? 魔道高等学院(エヴューパウニベル)での入試、競技祭、タクラマカンでの模擬戦闘…お前はいつもエラそうな態度を取り、俺たちを邪魔して来た......俺たちに挑戦したかったんだろ? だからここでお前の我慢を見てやるよ......挑戦したかったんだろ? よかったな」

「僕は、そんなことなんて....…」

「なんだ? じゃあ、お前は俺たちに何をしたかったんだ?」

「え、僕は正しいことを求めただけで......」

「正しいこと? へえ、俺が王族であることを知っていたうえで、俺に間違っている、とでも指摘したかったのか? へえ、傲慢な奴だ......罰を与えなければならないな」

「僕が正しくないと言いたいのか....」

「お前がどうだったかなんて関係ないし、お前がどう考えようかも、どうでもいいことさ......要はここでお前を苦しめて思い知らせるんだよ」

 こういうとフラッド皇子は、側近のカイル・ゲーニッツ、ベラル・ニコフ、ルニカ・ナーザフたちに、直哉を様々な拷問に掛けさせた。


「うぉー」

 尋問室に直哉の唸り声のようなくぐもった苦悶の声が響いた。それに、周囲で彼を悲痛な表情で見守るフィジア ケミア トリミアの三人の少女たち、そしてオーガナー、アーティマー、マキナーの三人の少年たち6人の悲鳴が重なった。

「やめてくれ!」

「かわいそう」

「ひどい!」

 だが、そんな人間たちの声に、フラッド皇子は一切動揺するどころか、冷酷なほほえみをたたえながら、直哉に加える拷問をさらにエスカレートさせていった。

「ナオ、どうだ、思い知ったか?」

「グ、グ、グフ……僕は平気…だ...」

 苦悶の声を上げながらも、直哉はフラッド皇子を睨みつけ、決して負けを認めなかった。フラッド皇子は冷酷な顔つきから、怒りに我を忘れて真っ赤となった顔つきに変わって、声を震わせた。

「そ、そうか、それならお前の仲間たちをお前の代わりとしよう......せいぜいお前の代わりに苦しむ仲間たちの姿を味わえ」


 直哉は拷問を外され、そのかわりフィジア ケミア トリミアの三人の少女たち、そしてオーガナー、アーティマー、マキナーの三人の少年たち6人の仲間たちに、今まで直哉が掛けられていた拷問が掛けられた。しかも、彼らに掛けられたその度合いは、直哉の3倍、ほとんど死んでしまいかねないほどの負荷が掛けられた。

「う、ぐ、ぐ」

「うう、やめてくれ」

「いやあ」

「死んじゃう!」

 

「こんなことは、やめるんだ! フラッド皇子」

「ほお、なんだその言葉は.......不敬だぞ」

「なんだと......いや、そうか、言い直す......どうか、僕の仲間たちへそんな仕打ちをしないでくれえ!」

「なんだ、そんな頼み方しかできないのか? やはり、お前は愚かだな」

「愚かか......そうか....どうか...彼らを助けてやってくれ」

「ほう、ずいぶん丁寧になったな」

「どうか、助けてやってくれ」

「わかった、だが止めるつもりはないさ」

 フラッドは、直哉をあざ笑いながら、さらに拷問を強めようとした。直哉は激しい怒りを覚えて仲間たちに害を加え続けたフラッドに、攻撃を加えようとした。だが……

「今は耐えるしかない......攻撃すれば、全てが終わる......少年たちが受ける恥も、少女たちが受ける凌辱も......すべてが無駄になる......今は目にしても耐えるしかないのか......」

 この思いは、直哉が自覚したものだが、直哉が自ら発想したものではなく、明らかに外部から伝わった意識だった。これによって、直哉は耐えた。そうでなければ、直哉はグレカの屯所をフラッドばかりでなく、グレカまでも含めてすべて破壊してしまいかねず、六人を静かに脱出させようとする直哉の計画を自ら台なしにしかねなかった。

 結局直哉は、フラッドたちのなぶり殺しに必死に耐えながらも、気絶してしまった。


「グレカ皇女殿下! 尋問室で悲鳴が聞こえています」

「まさか、あの中で尋問ではなく拷問を加えているのか」

「いいえ、中を見ることもできないため、分かりません」

 尋問室の異変に気づいたグレカ達が駆けつけた時には、拷問で生き絶え絶えになったフィジア ケミア トリミアの三人の少女たち、そしてオーガナー、アーティマー、マキナーの三人の少年たち6人が残されているだけで、直哉はフラッドたちによってどこかへ連れ出された後だった。

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