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第三章 魔族帝国と未知の人類たち 4 死闘

 直哉たちは訓練を始める初日に、実技に向けた机上学習を義務付けられた。これは、教官アンドロイドによる戦略や戦術、今までの戦況や戦闘の分析など多岐にわたる知識を得させるためのものだった。この指導に当たった教官アンドロイドは、授業の終わりに深刻な声で直哉たちに改めて現状を指摘した。

「さて、今までの戦況の分析は十分に分かったはずだ……繰り返すが、現実に怨躯おんくを相手にして我々はかなわなかった......怨躯おんくは最終的に撤退していったが、彼らによって天女蜂フェアリービーばかりでなく近くで操縦していたアンドロイド兵たちまでが攻撃され、喪失してしまった…」


「なぜそんなことに…そ、それでどうなったのですか?」

 フィジアが思わず声をあげた。アンドロイドが淡々とその声に応じた。もし、彼が感情を持っていたなら、悲痛な調子だっただろう。

「前進基地に逃げ込んだアンドロイドたちだけがなんとか助かったのだ......」

「それでは、天女蜂フェアリービー部隊はほとんどが全滅したのですか?」

 ケミアとトリミアが悲鳴をあげた。教官アンドロイドはその反応を抑えるように声を強めた。

「そうだ……ほとんどが操作者のアンドロイドもろとも全滅した……だが、お前たちが戦っていた辺りでだけは、天女蜂による飽和攻撃が怨躯を圧倒したらしいという報告が入って来ている……あくまでも、これは憶測の域を出ていないんだが……」

「おお! そうだったのか!」

 少年オーガナー、アーティマー、マキナーが声を上げた。彼らは、意識的に肥えを上げて彼等自身を鼓舞したのだった。アンドロイドもそれを悟ったのか、彼等の目を見つめて人工知能たちが少しばかり期待していた推定を口にした。

「お前たちは、その光景を見たのだろう? だから元気なのだろう?」

「僕たちですか?……いや、僕たちは見ていません…」

「私たちも見ていません…」

 六人は急に声の調子を落とし、首を横に振った。アンドロイドはその返事を聞き、戸惑った。

「そうなのか?」


「あ、あの僕が…」

 なぜかここで直哉が声を上げた。アンドロイドは、彼の声を聞いて先ほどの六人の後ろにいた直哉を一瞥したが、手を振ってサッサと講話を終えてしまった。その姿は、まるで彼を無視するような様子だった。このとき、実は、教官アンドロイドの人工知能が他のアンドロイドたちと情報交換を始めており、このタイミングでこのアンドロイドの人工知能が、直哉について愚か者であるというデータを受け取ったためだった。


  この直後、アンドロイドたちを動かす人工知能たちの間では、驚くほど高速で濃密な分析と検討が開始された。

「最も近くにいた7人のうち、少女フィジア、ケミアとトリミア少年オーガナー、アーティマー、マキナーたちは、やはり一切を見ていなかったらしい」

「直哉はどうだったのか?」

「彼は、検討する必要はないね」

「先ほど彼は、何か言いたそうだったが……」

「彼はよく知られているように愚か者で信用出来ない」

「そうか…」

「それなら、遠くから観察された状況を参考にするしかない」

「そうだ…その報告によると、彼ら7人の居た辺りの天女蜂が飛び交う中で幾度も巨大な電撃が炸裂した様子だったいうことだった」

「それは天女蜂たちが電撃斉射を繰り返した際の光景だろう」

「たしかに…それ以外の可能性は想定できない」

「だが、他の戦線では、天女蜂がことごとく壊滅している」

「おそらく、あの天女蜂たちだけが斉射をしたからであろう」


 あの場所で、怨躯たちが蒸発するのを間近で見たのは、怨躯たちを巨大で強烈な電撃で蒸発させた直哉自身だけだった。直哉たち以外のいた位置、つまり遠くから見れば、後から殺到してきた天女蜂が怨躯たちを電撃斉射連撃の大規模な飽和攻撃によって効果的に撃破したように見えたのだろう。

 いままで、反抗勢力側が用いて来た作戦は、おのずから様々な試行錯誤を含んでいた。十分な情報がない段階で立案されてきた作戦は、せいぜい最初だけ整列して発砲するだけで、あとは好き勝手に発砲しまくるという単純すぎるものさえあった。魔族軍と交戦した時に反抗人類側が虎の子の天女蜂を大量に喪失したのは、それが理由だった。それにようやく気付いた教官アンドロイドの人工知能たちは、やっと見つけた有効らしい攻撃法つまり斉射連撃法について、他方面から検討を加えた。


「天女蜂には、いくつもの攻撃防御手段がある......」

「今まで我々が知っているものは電撃だけだが……」

「確かに、電撃が最大の攻撃手段だろう……そのほかに物理衝撃、浸蝕反応液投射、物体弾砲撃、電撃反射などいくつもの攻撃防御手段が可能だ」

「だが、それらのどれもが試されては捨てられたではないか!」

「そうだ、試行錯誤の中で、あまりに天女蜂が失われたのだぞ!」

「そうだ、天女蜂と人工知能搭載のアンドロイドたちの尊い犠牲の上に得られたのだ.......これは、様々な攻撃法の試行錯誤と犠牲の上に得られた得られた結論なのだ」

「……」

「それが、横列展開した天女蜂全機による電撃斉射の繰り返しだ」

「が、有効な攻撃法であるということか…」

「そうだ、これが我々の新しい攻撃法、電撃斉射連撃だ!」

 結局、このようにして反抗勢力のアンドロイド指揮官たちは、遠隔操縦の天女蜂による横列展開電撃斉射連撃による飽和攻撃で敵を撃滅させられると、誤って判断した。その結果、彼等は引き続き航空戦力、つまり指令機により操縦される天女蜂の群れ部隊を主力として、様々な斉射攻撃法を活用することになった。


「ただ、ここで問題がある」

「そうだ、分かっている」

「どういうことだ……ああ、そうだな」

「操作者である戦闘経験の蓄積された人工知能搭載アンドロイドが、圧倒的に不足している.......」

 ここで改めて指摘された問題は深刻だった。天女蜂を操作できる人工知能搭載アンドロイドは、ほとんど喪失していた。


「何か、代わりになる手法はないのか?」

「人工知能を搭載しないアンドロイドを遠隔操作で……」

「それでは作戦の突然の変更があった際に、臨機応変に対処できないぞ」

「そうか......」

「それならば、次善の策だが、人類を活用するか?」

「我々の心酔者たちか?」

「だが、活用するためには教育が必要だろう…」

「教育の効果は、受ける個体それぞれによって大きく異なるぞ」

「それならば、一番反応の良い者たちを選ぶか?」

「だが、それでは教育と活動の前提となる経験が欠如している可能性が大きいぞ」

「それでは、今までの戦闘で我々の指導に従ってきた少年少女たちを活用するか?」

「そうだな、人類の中で彼らだけが最高に戦闘能力を備えていると言えるだろうし......」

「そうだな、今まで劣っていた少年少女たちは、戦死して淘汰されている.......練度の高い少年少女たちを活用できるということだな!」

 実際には、彼らは反抗勢力は生き残った少年少女たちを、仕方なく天女蜂の操作者として活用するしかなかった。


「だが、人工知能搭載のアンドロイドに比べて、人間たちは学習能力、記憶能力が劣っているぞ」

「そうだな、いかに若く能力の高い少年少女たちと言えども、そう言える」

「それはそうなんだが……特に問題はあの直哉だ」

「そうだ……これは謎なんだが……なぜか、あの愚か者の直哉が生き残っているのだ」

「そうはいっても、今は……余裕のない今は、彼も活用するしかないか......」

「いずれにしても、直哉にもわかるような斉射攻撃法を、彼らに教え込まなければならない」

 司令官にあたる中央の人工知能や、橋頭保で生き残った人工知能たちは、こうして苦渋とため息のこもったような結論を出したのだった。


 人工知能が操作する天女蜂部隊の攻撃法であれば、どんな形態の斉射行動も可能だった。しかし、人間たちが操作できる攻撃法としては、三列横隊からなる斉射の繰り返しが一番合理的で記憶しやすかった。 これらの事情から、天女蜂操作者となった少年少女たちには、三列横隊からなる電撃斉射連撃法を教えることとなった。

___________________


 さて、訓練が橋頭保近くの海岸で開始された。少年少女たちは順調に天女蜂の操作者に育っていった。ただ、物覚えの良くない直哉だけは、相変わらず教官の人工知能たちをてこずらせており、彼だけ特別な訓練を受け続けていた。


「いいか、直哉…ここで教え込んだ斉射連撃を使え! このタイミングだ!  使いこなせ!」

「はい?」

「ここで使うんだ!」

「え?、何をすればいいんですか?」

「散々教えたはずなんだがなあ……今回は、先ほど教え込んだ電撃斉射攻撃だ!」

「へ? 電撃斉射? どうやって?」

「先ほど繰り返し教え込んだはずなのに、電撃斉射の手順を覚えていないのか? それとも『電撃斉射』という言葉を覚えていないのか?」

「電撃斉射ですか? こうですか?」

「ちっ、ちがう! あんたが今やったことは、ハロゲン電解質溶液投射を利用した放電だぞ! 溶液がすぐに蒸散してしまう環境では、役に立たないぞ!」

「え、だって一度に広く投げかけるんでしょ?」

「ちっ、ちがーう! 投射だ! 天女蜂の全機がそれぞれ、指令機に同期して一度で電撃を投射するんだ! それが斉射だ!」

「は、はい!」

「我々の今までの観察と検討によれば、電撃斉射攻撃は彼等を圧倒するはずだ」

 こうして、とにもかくにも直哉たちは、他の少年少女たちと一緒に、天女蜂を活用した不確かな攻撃法の習得を繰り返すこととなった。


 訓練が佳境に入ったころ、直哉たちはアンドロイドによる最終的な訓練を受けるため、今日も橋頭堡近くの海岸に来ていた。この日、少年少女たちが習得する予定の天女蜂の操作は、人工知能たちが少年少女たちのために新たに完成させた攻撃法、つまり三列横隊から斉射を繰り返し浴びせる飽和攻撃だった......これは、無敵の攻撃法に思われた……

___________________


 さて、天女蜂の大部隊は、先鋒を担う7部隊が揃ったことをもって、魔族からの攻撃を待たずに攻勢に出た。先ず、反抗勢力は、天女蜂部隊を中心にして橋頭堡から、進撃を開始させた。


「フィジア、ケミア、トリミアの三部隊は中央右翼、オーガナーアーティマー、マキナーの三部隊は中央左翼、それぞれ展開……それぞれ中央の直哉を助けつつ、直哉の部隊を突っ込ませる......いいか、直哉の部隊が壊滅したら、その犠牲を活かして中央突破を図れ......もし、直哉の部隊が中央突破できた場合には、彼の部隊を盾にして突っ込み、分断された敵軍を掃討せよ……中央突破が無理だと見えた場合、すぐに両翼へ展開して敵を包囲攻撃せよ」

「お待ちください……それでは直哉の部隊が全滅してもよいということでしょうか?」

 フィジアたち、オーガナーたちはアンドロイドの上官に質問した。すると、驚いたことにアンドロイドの上官は、直哉の部隊をはじめから捨て駒に考えていた。

「そうだ、直哉は役に立たない奴だ……幸い、お前たち7人は天女蜂の制御を覚えた....そして直哉も天女蜂の操作法を覚えた....それなら、普段は役に立たぬ直哉も、敵中央突破で役に立てばよい……うまく役に立つかどうかはどうでもいい」

「そ、そんな!」

「私たちも使い捨てなのですね!」

 フィジア達、オーガナーたちが衝撃を受けるのは当然のことだった。しかし、アンドロイドの上官は冷徹な言葉を投げて返した。

「お前たちは、自由の戦いのために非常に有望な戦士たちだから、決して使い捨てではない……だが、直哉は役に立たないと判断された故、彼がこの戦いで失われたとしてもかまわないと判断されたのだ」


 ただ、当の直哉はそんな会話が行われている横を、淡々と天女蜂群指令機へと向かい、乗り込んだ。

___________________


 さて、天女蜂全部隊に出撃命令が下され、全部隊は飛び立って敵との前面に出て展開を始めた。それを眺めていたのは、魔族帝国軍 前衛部隊司令官カイル・ゲーニッツ、そしてその上官である魔王一族の一人、フラッド皇子殿下だった。


「ようやく出てきやがったぜ......敵の天女蜂部隊だ」

 魔族帝国軍 前衛部隊司令カイル・ゲーニッツが醜い顔をさらにゆがめながら嘲笑した。彼は元々酒呑童子族だったのだが、一度死んで怨躯として復活してからは、その巨大な体とその表面のハニカム表皮が醜いトカゲのうろこのようにごつく変化し、彼は元々の魔族とは似ても似つかない異形となっていた。

「奴ら、やっと本格的に攻勢に出て来たぜ....少年少女たちが操縦するようだ......鴨が葱を背負って来たぜ」

 前衛指令カイルが報告の通信を伝えると、その受け取り手が命令を伝えてきた。

「そうか、では、狂戦蜂(マドホーネット)を出撃させろ」

「御意、フラッド皇子殿下!」

「そちらの出撃に合わせて、此方からもすぐ追いつくように後続の狂戦蜂(マドホーネット)の大群を送る....お前の前衛部隊に続いて、何度も波状攻撃を喰らわせて、若い人間たちを獲得出来るだろうよ」

 この命令のあと、時をおいて、魔族帝国側の空には狂戦蜂マドホーネットが無数に出現した。さらに、後続の狂戦蜂部隊も続いて攻撃に移れるように進出した。


 魔族帝国は、先の戦いで怨躯おんくを多く喪失したとはいえ、本拠地近くのシムシャールからスバルナレカの山間部や谷あいなどを通じて、インド亜大陸のどの地域にも一気に怨躯と狂戦蜂を展開する実力を、まだ十分に維持していたのだった。


「狂戦蜂を鶴翼陣形へ展開せよ」

 カイル・ゲーニッツ司令の指示の下、魔族帝国軍前衛部隊の狂戦蜂が前衛左翼右翼上方の4群に展開した。後続部隊もまた、前衛の後ろ側に十層、いやそれ以上に幾重にも展開した。

 こうして、再び両軍の無人機集団が対峙して双方が突撃を始めると、各所で空中戦が始まろうとしていた。


「天女蜂部隊、三列横隊形! 第一列、斉射準備いそげ!」

「後衛第二列、第三列、背後に整列、急げ!」

 反抗勢力側のJん英では、橋頭保の司令から展開しつつある天女蜂の各部隊操縦機に対して、指示が飛んだ。少女フィジア、ケミア、トリミア、少年オーガナー、アーティマー、マキナーや、多くの少年少女たちが、その指示に従って天女蜂たちを斉射隊形へ編隊を動かし始めた。

 やっとのことで、天女蜂の第一列が隊形を整えつつあったが、それが完了しないうちに電撃の斉射が始まった。続いて隊列が十分に整っていないまま、第二列の斉射、第三列の斉射が続いた。これらの斉射が繰り返されると、その斉射は帝国側前衛の狂戦蜂群に飽和攻撃となって降りかかり、前衛狂戦蜂群はたちまち壊滅した。


「敵、狂戦蜂(マドホーネット)前衛部隊壊滅!」

「その後方から、敵の後続部隊が急速接近中!」

天女蜂フェアリービー部隊へ! 後続の狂戦蜂マドホーネットがまだまだ来るぞ!」

「先鋒の天女蜂(フェアリービー)、三列横隊形を回復せよ! 後衛部隊も隊形回復を急げ!」

「第一列、再びの斉射を準備! 後衛第二列、第三列、再びの斉射を準備しろ、急げ、間に合わないぞ!」

 反抗勢力側の天女蜂側は、明らかに、最初の斉射連撃から第二番目の斉射連撃に移行するのに手間取った。それを帝国側は見逃さなかった。帝国側ではカイル・ゲーニッツの指令が飛んだ。


「反抗勢力側の天女蜂が、戦列の回復に手間取っている......いまだ! 逆襲だ! 突撃せよ!」

 後続の帝国側の狂戦蜂(マドホーネット群が大挙して逆襲に出た。後続の狂戦蜂たちは、斉射がなされていない空間を見出しながら斉射をかいくぐり、反抗勢力側の天女蜂たちに襲い掛かった。それと同時に、戦場は敵味方が入り乱れる乱戦となった。


「天女蜂部隊、右翼が薄い! 右翼へ助力を!」

「助力は無理だ! 左翼のこちら側も崩壊寸前だ!」

「橋頭保の司令部へ! 敵の狂戦蜂はわが方の5倍! 増援を求める」

「増援はない! 現有勢力で対抗し続けろ」

「そ、そんなあ!」

 こんなやり取りの間にも狂戦蜂が天女蜂部隊の陣形を崩しながら突破し始めた。魔族帝国側は、魔力を濃密に用いて、大量の狂戦蜂を百足の脚のごとくに複雑かつ統合的に飛行させた。魔族帝国側は新たな戦法を編み出していたのだった。これによって、魔族帝国が反抗勢力の軍を圧倒し始めていた。


共振構造(キャビティ!」

 突然の直哉の声が響いた。天女蜂先鋒の中で響いた直哉の声とともに、直哉機の周囲全ての狂戦蜂たちが突然熱せられて全て墜落した。それは、狂戦蜂たちだけを叩き落とす強力な単一波長の電磁波攻撃だった。

___________________


 直哉は出撃命令が出された直後、やはりというべきだろうか、パニックに陥って彼の担当した天女蜂部隊を出撃させることが出来なかった。他の少年少女たちの操作する天女蜂部隊が次々に出撃していく中でも、直哉はひたすら操作を繰り返したが、パニックに陥って手順を何度も間違えた上げTく、結局暖機運転していたはずの直哉の天女蜂部隊は、いつの間にか地上に置き去りにされていた。

 ほとんどの天女蜂部隊が敵の狂戦蜂部隊と会敵して戦闘が開始されたころ、直哉はやっとのことで天女蜂部隊を空中に浮かべることが出来た。彼がのろのろと戦闘空域に到達したころには、多くの天女蜂部隊が次々に壊滅しているところだった。直哉の目に入ったのは、地上に散らばった人間たちの躯だった。

 天女蜂部隊は、指令機もろとも撃墜されており、地上には、反抗人類側戦闘員の少年少女たちが無惨に放り出されていった。そればかりでなく、家畜人類の少年少女たちとみられる躯までが散らばっていた。彼らは、地上から狂戦蜂を魔法操作する魔族たちが、戦いの際に生命エネルギーを吸い尽くした若い家畜人類たちの抜け殻だった。

 

 若い人類たちの躯は、怨念だけでなく生命力さえ魔素として吸い取られ抜け殻になっていた。吸い取られる時に邪魔だった衣服は全てむしり取られたうえ、その後は放置されて、やがて死に至った者たちだった。特に、無言となった少女たちの余りに酷く露わな状態に、直哉は絶望的な怒りを覚えた。その怒りは、悲痛な大声、激情とともに潜在意識の覚醒を呼び起こした。

「むー、うぉーわー! わが魂よ! 悲しむ者とともに悲しむ者となれ! ゆ、許さぬぞ!」

 その途端、彼は天女蜂(フェアリービー)の新しい制御方法、今までとは異なった方法をその場で思いつき、実行した。


「天女蜂達の体表面の防御用鏡面…そうだ、頃合いをみて全ての天女蜂達を、この距離を保ちながら対向させる......全機! 共振構造キャビティの密集紡錘隊形へ移行……」

 彼は、今まで散開していた天女蜂全機を集結させて、密着した紡錘陣形をとらせた。それに気づいた敵の狂戦蜂たちが警戒して幾重にも防御陣形を整えてると、直哉の天女蜂部隊は紡錘陣形のままで逃げ回り、敵狂戦蜂からの戦列隊形からの攻撃をかいくぐって前進した。


 天女蜂部隊はあるところまで前進したところで、徐々に今までにない陣形を取った。それは、防御用鏡面を外側ではなく、内側に向けて互いに対向させた隊形だった。

「よし、共振構造(キャビティ成立! ドゥームサーベル!」

 直哉が鏡面がその隊形を確認して声を上げた。それは、狂戦蜂の大きさに合致した波長の電磁波だけを強制的に振動させる共振構造(キャビティ)だった。その共振構造(キャビティ)からコヒーレントな電磁波が太いサーベルのように突き出された。すると、その範囲と周囲に含まれた狂戦蜂の大群が、一瞬にして焼け焦げ墜落した。その後も、いくつも電磁サーベルが何度も突き出され、一撃ごとに次々に大量の狂戦蜂(マドホーネット)が地上に墜落した………巨大な雷撃サーベルを生じさせる電撃増幅法が完成された瞬間だった。


 直哉の周囲にいた狂戦蜂たちの群れは、ドゥームサーベルが振るわれるたびに一挙に地上へ黒焦げになって墜落していった。すると、サーベルに呼応するように、後方両翼から友軍が生き残りの狂戦蜂たちを掃討し始めた。それは、アンドロイドたちの指令を無視した、少年少女たちの勝手な突撃だった。


「敵、狂戦蜂大編隊の中央を突破する! みんな、僕の後に続いて!」

 直哉は紡錘陣形のままで電撃サーベルを発現させつつ、最奥の敵狂戦蜂の大軍めがけて中央突破を始めた。その後を、後方からやってきた少年少女たちの天女蜂の一団が続いた。

 他方、魔族帝国軍の狂戦蜂たちは、急速に体系を変えつつ、幾重にも衝撃球隊形を整えた。彼らは態勢の整った前列から、直哉めがけて集中攻撃を加えた。直哉の天女蜂たちは小さな紡錘陣形を維持しつつ、砲撃をかいくぐって敵陣の中へ入り込んだ。次の瞬間、狂戦蜂たちの群れは、またもドゥームサーベルによって一挙に地上へ黒焦げになって墜落した。


 幾重にも構えられていた狂戦蜂たちの衝撃球隊形は次々に崩壊し、その後を勝手に進軍して来た少年少女たちの天女蜂の大群が殺到して、残った狂戦蜂たちを掃討した。こうして、直哉の狂戦蜂部隊を先頭に、反抗勢力の天女蜂部隊は狂戦蜂を次々に撃滅しつつ、猛烈な速度で突き進んだ。

 ただ、直哉の操作による天女蜂の新たな戦いの様子は、背後の反抗勢力の橋頭保からは、直哉の後に続く天女蜂と左右の狂戦蜂との戦闘に阻まれて、観察することはできなかった。

___________________


「グ、ググ、フウ......な、なにが起きたんだ?」

 カイルは、声を出すのがやっとだった。後方の神殿都市に設けられた本拠地では、フラッド皇子が目の前の画面で雲霞のように空を覆っていた狂戦蜂が、一挙に叩き落された様子を見て驚愕した。彼は、しばらくたってから、報告を求めるのがやっとだった。

「カイル、何が起きたのか? 報告せよ!」

「ぜ、全軍壊滅です......我らの狂戦蜂部隊は一挙に失われました」

「どうして? 何が起きたのだ?」

「今はわかりません......ただ、光る大きなサーベルが急に上空に現われ、一気に周囲を黒焦げにしたように見えました......それが何度もくりだされて......」

 カイルは混乱するばかりで、その報告は断片的で要領を得なかった。

「わかった、今は現有戦力を結集し、速やかに撤退し防衛態勢を立て直すことが先決だ....…ただ、わすれるなよ! 奴らが我々の後を追ってくるかどうかを、確認することが大切だ」

 こうして魔族たちはカラコラム山脈の中へと、撤収していくのだった。それは、まるで掃討作戦をしてください、と言わんばかりの姿だった。

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