第三章 魔族帝国と未知の人類たち 3 怨躯(魔族の成れの果て 百万鬼神軍団)の出現
「スバルナレカ兵站基地より、緊急連絡」
「巨大な魔族たちが襲来」
「シムシャールにまで進出していた遠征軍は、天女蜂とともに全滅した模様」
「魔族軍は、新種の兵器と思われる」
「新種の兵器が何かは不明......現在調査中」
「魔族軍は、わが軍の兵站基地を占領」
「魔族軍は、兵站基地からさらに南下、わが方のインド亜大陸全体に拡大して攻撃を展開中」
守勢に回っていたはずの魔族帝国が、起死回生の策を発揮したのだろうか。反抗人類側では、その実体が分からないままだったが、すでに魔族帝国は反抗人類側のインド亜大陸支配領域全体を瞬く間に占領したという。これらの一報はすぐに反抗人類側のニューヨーク本部にまで届き、大騒ぎになった。
「我々のシムシャール遠征軍には、天女蜂が与えられていたはずだ……その装備は活用できなかったのか?」
「天女蜂は、一列横隊陣形の敵無人機群、波状に殺到する狂戦蜂の斉射の繰り返しにより、一挙に全滅させられた模様です」
「我々の戦術が効かなかったのか」
「そうかもしれませんが、確かめるすべはありません……彼らは、この新兵器のほかに謎の兵器も活用したということです」
これらを含む様々な情報から、ニューヨークの反抗人類の本拠では、いままで前線に出ていなかった上位の魔族たちが、何らかの新規の術あるいは新兵器を利用して前線に出てきたことを推定した。魔族帝国の軍幹部のみならず魔王ラーメックとその7人の王族「女王アダ」「女王ツィラ」その子供たちである「王ジャバル」「双子の王トバルとカイン」「女王ナーマー」「女王 呪張」が、全員戦いの第一線に出てきたことさえ、推定した。反抗人類側の今までの掃討戦によって多くの魔族達は駆逐されたはずだと考えられたことも、その根拠の一つだった。
実際のところ、魔族帝国では、単に狂戦蜂を新制御法によって新兵器として再登場させただけではなかった。魔族の多くが既に倒されていたのだが、魔族帝国はこの犠牲者たちを怨躯として復活させるバイオ技術をも完成させていた。
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その後、スバルナレカ兵站基地から撤退した反抗人類側の敗残軍がニューヨークの本拠地最高基地に帰還した。彼らの司令塔だったアンドロイドの人工知能は、中枢人工知能の主催した全軍集会において、退却に至った経緯を報告した。人工知能は感情的な言葉を使うことはなかったが、その報告の内容は絶望的だった。
「我々は、逃げ出す暇はほとんどなかった……奇襲を受けたわけではなかった……我々は、敵の接近を確かに検知していた……だが、要撃のために飛び立った天女蜂全機は、波状的に襲い来た敵の狂戦蜂の組織的な斉射の繰り返しによって、一挙に壊滅した.......同時に陸上の防衛陣地は、今まで見たことのない巨大な怪物たちに一挙に蹂躙され、壊滅した……我々は、中枢の人工知能と記憶機器を脱出させるのが、せいぜいだった」
一兵卒として大会に参加していた直哉は、会場の隅から、思わず叫んだ。
「少年少女たちは? 帝国から解放したはずの人類の少年少女たちはどうしたのですか? わが軍の少年兵、少女兵たちはどうなったのですか?」
こんな突然で不従順な問いかけは、少年少女たちが為すはずがなかった。それは直哉にもわかっていた。それでも彼は問わずにはいられなかった。
返答は、やはり絶望的だった。
「我々は魔族帝国からの人類解放を目標としていた……それゆえ我々は魔族帝国から『家畜人類』と言われ、搾取されていた人類を解放し、保護していた……だが、帝国軍は真っ先に家畜人類を連れ去った……そればかりではない……我々の勇敢な戦士たちが殺され、または連れ去られた……」
その時の監視カメラの断片的な動画が表示された。そこには、魔族側の人間たちによって、少年兵たちがことごとく殺され、戦意を喪失した少女兵たちが捕らえられ、悲鳴を上げながら衣服を取り去られて連行されていく姿が映っていた。
「こ、これはなんだ! 家畜人類はおろか、戦意喪失した少女兵士たちまでが、全て連れ去られたということか?」
直哉は、映像に移っていた半裸の少女たちの悲鳴に潜在意識を覚醒させつつ激高し、大声を上げた。その感情と怒号は、周囲にも理解された様子だった、いや、彼等も怒りに狂っていた。ただ、直哉は潜在意識の片隅で、この報告会自体が、少年少女たちの激昂を誘うためのものだったのかもしれないと考えたのだが、それも彼の感情の高ぶりによってどこかへ消えさってしまった。
「我々は、インド亜大陸を取り戻し、ふたたび帝国中枢攻略を再開させなければならない! 我々は魔族帝国を滅ぼさなければ、真の自由は確立できない!」
中央人工知能を代弁する総司令のアンドロイドが大声を上げた。すると、周囲のアンドロイドや人間たちも声を上げた。
「そうだ、自由のために! 我らの主のために戦おう」
こんな多くの声に呼応するように、ほどなく反抗人類側では、インド亜大陸を取り戻すために回復遠征軍を編成することになった。直哉は、すぐに遠征軍の一員に志願した。彼は彼自身の潜在意識の覚醒さえ敢えて無視するほどに、怒りを煮えたぎらせつづけた。
「あの映像にあった少女たちを、家畜人類たちを、僕は絶対に見捨てない!」
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反抗人類本拠参謀本部は、回復遠征軍を二軍に分け、インド亜大陸の西方ペルシア方面軍、そして、ニューヨークからの太平洋方面軍の二正面からインド亜大陸に上陸して攻め込んでいく作戦をたてた。各軍は、天女蜂と呼ばれる大量の空戦部隊を要する空母部隊による支援を背景に、主力を拝命して意気軒高な少年兵少女兵たちの先鋒隊を乗せた上陸強襲艦部隊と、アンドロイドたちの乗り込む戦闘艦部隊とから構成された。参謀たちによれば、この二正面にわたる規模で一気に攻めこむことで、迅速にインド亜大陸を回復できる見立てだった。
直哉の乗った上陸強襲艦には、いくつもの先鋒隊が乗り合わせていた。直哉は、フィジア ケミア トリミアの三人の少女たち、そしてオーガナー、アーティマー、マキナーの三人の少年たちとともに、同じ先鋒隊を構成していた。彼らは、反抗人類側が智子を捕らえた際に軍功を上げた少年少女たちだった。
「君たち、確かシムシャールの谷で、重要人物を捕らえた部隊の一員じゃなかったか?」
「そうだよ....たぶん、そのご褒美で、俺たちは栄えある先鋒を任されたんだ!」
「ええ、ご褒美ね……私たちは私たちに自由を与えてくださった主のために戦うのよ……私たちはきっと上官の指令に従い、勇敢に先鋒を務めるわ……それが私たちの主のために戦うことになるのよ」
先鋒といえば聞こえはいいが、直哉にしてみれば、本当の主力は後方に控えて天女蜂とそれらを駆るアンドロイド達だった。つまり、先方の少年少女は実際には魔族達が食いつくはずの若い人間達、つまり餌だった。そこに直哉も加わっていた。
「俺たち先鋒のはるか後ろに天女蜂部隊がいるのか? 俺たちは何だ? 天女蜂と俺たちは同時に突入する主力じゃなかったのか? 違う……本当はあいつらが主力なのか! つまり僕たちは誘い込むための餌じゃないか!」
素直な少年少女たちは、ひたすら先鋒をどのように務めるかだけに目が行っていた。直哉だけは、この少年少女たちばかりでなく、ほかの少年少女たちの扱いの実態に怒りを感じざるを得なかった。
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奇襲上陸作戦が始まった。まずは、直哉と少年少女達の兵士たちが強襲艦から突撃していった。
「たとえ餌であっても私たちは平気です……私たちの推し、上官のために戦い抜くのです!」
彼らはそう言って率先して前に走り出た。別の言い方をすれば、彼らは使い捨て、消耗品であることさえ覚悟していた。直哉は、彼らの言葉を聞いて衝撃を受けた。直哉は彼等のために何かをしてやれないものかと考えつつ、彼らとともに突撃する覚悟をした。
先頭を走っていくフィジア ケミア トリミアの三人の少女たち、そしてオーガナー、アーティマー、マキナーの三人の少年たちに、空から狂戦蜂が急速に接近してきた。
「このままでは、皆は撃ち殺される!」
直哉は躊躇なくマウスピースとなっていた『呪縛司の地図』からの雷撃によって、前方の空のすべての敵機を一挙に撃墜した。
その後、地上の直哉たち7人と残存敵機との間で、激烈な撃ちあいが始まった。そこへ、後続の突撃隊が直哉たちのたどった経路と同じ経路を通って追ってきた。だが、それは激烈な戦線中では命とりだった。瞬く間に彼らは被弾して倒れた。
「後続部隊へ! 別の経路を使え!」
「僕たちの後を追うな! 撃たれるぞ!」
直哉の掛け声が聞こえていないのか、直哉たちの後を追うように次々に他の少年少女からなる多くの突撃隊が殺到し、見る見るうちに若い犠牲者たちの血潮が海の波に広がった。そんな中でも、少年少女たちは勇猛果敢に犠牲をいとわずに打って出てくるように見えた。少年少女たちは、明らかに上官である人工知能搭載アンドロイドの上官によってなんらかの惑わしを受け、強大な敵を容易い敵と誤解させられているに違いなかった。
「こんな戦い方があるかよ!」
直哉はそう叫んだ。
この時になって、やっと反抗勢力側の主力である天女蜂の大群が散開しつつ魔族側に攻め込んだ。少し経つと、天女蜂と魔族側の狂戦蜂との間で、全ての空を満たす密度で激戦が展開された。戦列を組み斉射する狂戦蜂に対して、散開して敵の目を振り回す戦術が有効らしく、両者は一進一退を繰り返し続けた。
「統合制御された散開戦術でも、圧倒するのは無理か……」
そんな戦闘の空を眺める直哉とフィジア ケミア トリミアの三人の少女たち、そしてオーガナー、アーティマー、マキナーの三人の少年たちの前に、怪物たちが立ちはだかった。そいつらは、単なる魔物などが纏うオーラではなく、怨念そのものを纏って蠢く大型の酒呑童子、羅刹という怪物と言ってもよかった。敗走した友軍が報告していた新型兵器と新技術は、どうやらこれらの怪物たちだった。それ等は、かつて直哉が学園の中で見た鬼、つまり指先に鋭い爪の生えた怨躯だった。
「我々は、百万の鬼神、怨躯だぞ! 降参しろ! 若い兵士たち! お前達を連れていく!」
魔族の女特有の太いがやや高い声が響いた。直哉は思わず上を見上げて声をあげた。
「しまった!」
「その声は、ナオ? あ、あんたはナオじゃないか!」
恐ろしい女の声が、少年少女をかばうように立ち上がった直哉に頭の上から響いた。それは素振りから見て、怨躯となったグレカ皇女のように見えた。彼女の背後には、吸血鬼族のミランダ・ムベカ、サキュバス族のナーマニカ・ツルコワらしい怪物がいた。
「そうだ、僕だ……あんたは誰なんだ」
「なぜ、そこにいる? ナオはやはり反抗勢力側の人間だったのか?」
「あんたはグレカ殿下か? 僕は、反抗勢力に捕虜となったんです」
直哉は、相手がまだグレカである確信が持てなかった。ただ、ズタズタの戦闘服から垣間見えた裸体の断片的な特徴が、つまり彼女の臍と腰のあたりの特徴が怨躯となっても維持されていたことで、図らずも確信を持てたのだった。この時、同時に直哉は潜在意識の覚醒を覚えた。
そんな直哉の反応を見て、グレカは直哉に感じていた恩義を思い出しながら、直哉を見つめた。
「反抗勢力め、捕虜を戦わせているのか!」
「いや、僕は囚われたのを奇貨にして群の中に潜り込んだんです.......今は僕とともに戦友たちが戦いに駆り出されているんです」
「なぜ、ナオも一緒に戦っているのか?」
「彼ら若い人類が反抗勢力の中で利用され尽くされていたんでね......つまり、僕と共にいるこの少年少女たちも、反抗勢力に利用されているんです」
「なんだ、たかが人類、しかも反抗勢力側の人類ごときに、ナオは心を砕いているのか?」
この言葉は直哉を驚かせた。だが直哉は訴え続けた。
「そうです、僕は帝国側でも反抗勢力側でも、人類に対する扱いの醜悪さを見てきました……僕はいままでもこのようなことが我慢ならなかったんです」
「お前は、わが兄フラッドに初めから初めから反抗的だったから、魔族帝国に帰順しない者かもしれないとは思っていた…お前には恩があるから、私にとっては悩みどころだ……ところで、その戦闘服は先鋒隊なのか? そうか......だが、なぜ少女達とは異なる戦闘服を身に着けているのか? お前は少年兵……なのか? お前の体形も少年……ナオ、お前、男……だったのか?」
「は…い……」
「私はお前と時を同じくした女同士だったはずだ......その女をお前は騙したのか? そんな女を前にして、堂々と立てるというのか?」
「あ、いや、恐れ多くて、立たせたことなどありません……」
直哉は、怨躯になる前のグレカの裸体を思い出し、顔を赤面させた。
「なぜ、私を見つめて顔を赤くした? 何を思い出したのか? そうか……なるほど......お前にはいろいろと聞きたい事があるから、お前達を捕らえさせてもらう」
こうグレカが言った時、友軍の天女蜂がグレカ達を急襲した。直哉達はその隙にすかさずそこを離脱し、岩陰に身を潜めた。その直後、友軍の天女蜂はグレカたちの打撃によって、全てが次々に墜落した。
グレカは、それを確認すると直哉に大声で呼びかけた。どうやら、彼女は一連の戦闘のどさくさで、岩陰に隠れた直哉達を見失った様子だった。
「ナオ、お前はお前の後ろの人類、どうやら家畜人類ではなさそうだが、そいつらをかばい立てするのか?」
「こいつらは、僕がかわいそうだと思った奴らです!」
直哉はグレカにそう答えると、彼女は何やら納得したように返事をした。
「そうか、お前のものなのだな......それなら見逃してやる」
グレカは大声で唸りながらも、直哉の返事を待たずに他の怨躯たちと共にそこを飛び立ってしまった。
「彼らは、僕のものではなく……」
直哉はいなくなった相手に発した言葉を、途中で止めた。
直哉は、とりあえず怯え切って座りこんでいる6人、少女フィジア ケミア トリミア……少年オーガナー、アーティマー、マキナーを塹壕に引き入れて、彼らの安全を確保した。
ところが、直哉達を再び見つけた別の魔族達が近づいてきた。
「お前たち、しぶとく生き残っているな」
その声は、直哉にとって決して忘れないフラッド皇子の口調だった。反射的に直哉は潜在意識が強く反応することを覚え、大声を発した。
「怨躯! 百万鬼神どもめ! 僕たちを狙って出て来たのか?」
「ほお……おーい、カイル、ベラル、ルニカ、ここに来てみろ!」
この呼びかけの声は、信じられないことだが、呼びかけの内容から見ても、明らかに魔王一族の皇子フラッドに違いなかった。また、呼びかけられたのは、酒呑童子族だったカイル・ゲーニッツ、人喰い族だったベラル・ニコフ、羅刹族だったルニカ・ナーザフに違いなかった。フラッドはさらに嘲るようにつづけた。
「ここに俺たちに応える奴らがいるぞ! 珍しい奴らだな! それにこいつらは子供の兵士たちだぜ……格好の獲物、俺たちに命を差し出しに来てくれたらしい……早速いただくとしようぜ」
フラッドは、鋭い爪を生じた手を塹壕の中に入れこみ、座り込んでいた少年少女たちをわしづかみにした。その途端、直哉は反射的にフラッドの手をめがけて木刀を突き上げた。
「彼らを放せ!」
「ほう、俺に棒きれを突き出した勇敢な人間がいるぞ! まずはこいつを血祭りにあげてやる!」
フラッドがこういったと同時に、直哉はつきたてた木刀からフラッドめがけて小さな電撃を発した。フラッドは思わずわしづかみにしていた手を引っ込めた。
「お前、俺に何をした!?」
「僕の大切な仲間を守っただけさ!」
「オウ、その声は聞き覚えがあるぞ! おまえ、ナオか? ナオ、此処で会えるとは思わなかったぞ! お前はなぜ敵の先鋒にいるのか? そうか、ここでこいつに会うとは……この裏切り者め! 幸い、此処は戦場だ……合法的に殺してやれそうだな!」
フラッドはそういうと、体の変質にともなって黄色く血走った眼で、直哉を睨みつけた。直哉は、相手が誰だかまだ確信を持てなかったこともあって、確認するために静かに問いかけた。
「あんたは誰だ? さっき、カイル・ゲーニッツ、ベラル・ニコフ、ルニカ・ナーザフと名前を呼んでいたな……フラッド皇子殿下なのか?」
直哉は、理屈では目の前の巨大な怪物がフラッドであると確信していたが、気持ちの上では巨大な怪物がフラッドであると信じられなかった。
「そうだ、ナオ! 俺たちは一度は死んだ身だ……しかし、こうやってよみがえったのさ! 怨躯としてよみがえって強大な力を手に入れたのだ……以前のように、簡単にはやられないぞ!」
「へえ、化け物になって強くなったのか?」
直哉の言葉は強烈な皮肉だった。フラッドはその言葉につられて激怒しかけた。その時、目の前に立つ直哉を問いただすべきことを思い出した。
「ナオ、お前は反抗勢力にさらわれた家畜どもを取り戻しに出かけたはずだが?」
「ああ、そうだったな」
「『そうだったな』だと?」
「そうさ……反抗勢力は、お前達のように人類を酷い食い物にしてはいない……一応自由さえ与えていた……その自由には問題がありそうだが……」
「ほお、ナオ、お前、裏切ったのだな!」
「いいや、そのつもりはないね……もともとあんた達は人類を扇動することで雷同させ、従わせ、食い物にした……そんな実態を調べるのに、魔族帝国に入り込んでいただけさ」
「わが国へ入り込んでいた?」
「そうさ」
「お前は反抗勢力側のスパイだったのか」
「いいや、違うね」
「では、お前は誰なんだ?」
「説明するつもりはないよ」
「しかし、ナオ、お前は人類には違いない、ということだな」
「さあて、ね」
「ところで、その戦闘服は先鋒隊なのか? それも、少年兵? 少女達とは異なる服なのか? 体形も少年……ナオ、お前、男だったのか?」
「あ、ああ……」
「そうか、ナオ、お前は男だったのか......ということは、お前は、グレカの奴隷だったのだな?」
「何をもって、そんなことを!」
「ナオ、お前はその若い肌からすると、グレカに乱れ牡丹、石清水などなどをしてもらったのだろう?」
「ぼ、僕はそんなこと!」
「ナオ、それにしても、普通ならとうに我々の餌食になっていようものを」
「そう、あんた達への怒りを思い出したからさ」
「そうか、初めて会ったときから、グレカ達と行動を共にしていたときも、ずっと実は俺たちの敵だったわけだ……まさか、地脈を破壊し尽くしたのは、お前なのか? あの時から反抗勢力が急激に勢力を伸ばした……お前はやはり反抗勢力の工作員だったか!」
「いいや、そんなことはない」
「じゃあ、ナオ、お前は誰なんだ、何を目的に?……この戦争を引き起こしたのは、お前なのか?」
「そんなつもりはなかったさ……僕が気が付いた時には、お前達の他にも悪が存在したということだ」
「ほお、それで今度はそのもう一つの悪、反抗勢力側にいるわけだ! スパイだったか、裏切り者だったかは、どうでもいい……お前は敵だ!」
「ああ、そうかい?」
直哉はそう返事をすると、フラッド達を一気に蒸発させた。その電撃は、今までになく巨大で強烈だった。直哉が今までになく巨大で強烈な電撃を放ったのは、相手がフラッド皇子つまり魔王一族の一人であったことによって、覚醒していた潜在意識が怒りを覚えたためだったろうか。
その後、直哉は同じ先鋒隊の少年少女達を塹壕の片隅に隠すと、彼だけが塹壕の前に立った。そこに、怨躯たちが何列にもなって押し寄せてきた。
第一列の怨躯たちは、直哉が再び放った木刀の巨大でで強烈な電撃で、多数が消し飛んだ。その後も、怨躯たちが押し寄せて来ては、直哉の電撃によって蒸発した。その間、直哉の仲間たちは、塹壕の片隅に隠れてやり過ごすしかなかった。
その後、反抗人類側の上陸部隊は、殺到して来た魔族帝国側の怨躯たちによって多くの犠牲を払いつつも、何とか頑強な橋頭堡、前進基地を建設した。その後、橋頭保の周辺から戦闘音が収まり、天女蜂が橋頭保の上空周辺を直掩するほどになり、橋頭堡はやっと前進基地として確立した。そこには少年少女達を追い立てていた上官アンドロイドや天女蜂操縦アンドロイドが多数逃げ込んでいた。
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直哉と6人たちは、前進基地へなんとか帰投することが出来た。アンドロイド指揮官たちの一人は、6人、少女フィジア ケミア トリミア……少年オーガナー、アーティマー、マキナーを見出すと、彼らに話しかけた。
「お前たち、良く生きて戻った! 勇敢な先鋒を務めて帰って来られたのは、お前たちやほかの少数の少年少女たちだけのようだ」
その言葉は、ほとんどの先鋒隊が全滅したことを意味した、アンドロイド指揮官の誉め言葉に、直哉は怒りを感じた。それは潜在意識を再び活性化させた。その横で、フィジアが指揮官に無邪気に応えていた。
「はい、私たちは先鋒隊の一番隊として、一番初めに突撃したことがよかったようです......勇気が私たちを助けました……いつでも勇気は大切だと学びました」
「そうか、その通りだ……あんたをはじめ、みんな勇敢な少女たちだ……名前を聞こう」
「フィジアです」
「ケミアです」
「トリミアです」
「そうかそうか、次に少年たちよ...…名前を聞こう」
「オーガナーです」
「アーティマーです」
「マキナーです」
「直哉です」
直哉は苦り切った表情で返事をした。それを見とがめたのか、先ほどのアンドロイド指揮官だった。
「直哉といったな……お前は一人だけなぜそんなつまらなそうな顔をしているかね」
「僕は……他の6人たちの勇気に救われたからです」
直哉は、潜在意識が働き、しばらく考えてから答えを言った。もちろん、不利にならないように考えた言葉だった。
「そうか、それでは生き残った有能な戦士たちには、その経験を活かすように、新たな任務を与えよう……何が良いかね?」
こういうと、アンドロイドたちは、急に動きを止めた。どうやら、アンドロイドの人工知能は、他の人工知能との間で高速でやり取りを行っているようだった。
やがて、ふたたびアンドロイドは動き出し、手ぶりを示しながら示唆した。
「そうだね……多くの天女蜂とその操縦者たちが多く失われた……あんた達は、敵の狂戦蜂との戦闘も経験しているようだ……あんた達は、天女蜂の扱いをしてもらおうか」
「天女蜂か......わかりました」
「よろしい、お願いするぞ」
アンドロイドは、もう一度少年少女たちに声をかけた。これで、7人はそれぞれが天女蜂を扱う人を任された。これらの処置は、生き延びた彼らをもう一度アンドロイドの上官に心酔させるためだった。驚いたことに6人はすぐに共感を示し、再び戦うと言い始めた。
今までのままでは、限られたアンドロイドたちだけが背後の橋頭保という安全な所から天女蜂を操縦するだけだった。これからは、戦闘を経験し生き残った人間である直哉たち少年少女にも、天女蜂を扱わせる訓練をすることになった。




