第二章 学園都市(ウニベルシタス)の魔道高等学院(エヴューパウニベル) 4 心臓を求めてさまよう怨躯(おんく)
「このタクラマカン砂漠で、組対抗の模擬戦闘をおこなうのか」
夜になって、ようやく百足舟はタクラマカンータリム盆地に着いた。すでに盆地にはひんやりとした空気が下りていた。零度に近い闇の中を、すべての学院生たちが疲れ切った足を引きずりながら百足舟を降りていった。
彼等にはそれぞれ戦闘への秘めた思いを胸に抱いていた。ただ、彼らのこの思いは彼等に共通でも、彼らの背後にある戦闘への意欲は様々だった。
「やっと組対抗の戦闘ができるぜ!」
フラッド皇子は口こそ動かしてはいなかった。だが、彼の目を見ていれば、彼がそう言いながらグレカ皇女たちや梓晴そして直哉の一団を睨みつけているのは、明らかだった。その目は憎しみというには足らず、ほぼ殺意と復讐の念を込めたものだった。彼はもはや皇子と言うよりは、魔王そのものに似た何かを内に秘めるほどに成長したと言えた。
フラッド皇子に睨まれていたグレカ皇女たちは、そんな念をはっきりと彼の視線に感じていた。
「あれは殺意に近い嫉妬ね……魔王一族の一員のはずなのに……彼自身の命取りになるわよ……まあ、いいわ、滅びるなら滅びる者が悪いのよ」
グレカ皇女は、付き添っているミランダやナーマニカにそう耳打ちした。そう言われてミランダとナーマニカは、この後に予想される皇子と皇女の激突のゆくえに背筋を凍らした。
他方、同じようにフラッド皇子に睨まれていた梓晴は、別の意味で独り言を言っていた。
「自信を見せびらかせながらの憎しみかしら……それを私たちにぶつけるって......憎い敵相手にわざとあざけっているように感じられる……ナオ、あんたは彼のそんな態度について、『虚勢を張っている』とか言っていたわよね……」
直哉はその言葉を聞いて、何か「大事なこと」を忘れているような気がした。ただし、愚かな状態に戻っていた彼は、フラッド皇子の虚勢を突けば彼の知識をすべて奪えるチャンスとなることが「大事なこと」だと、この段階で意識しているはずもなかった。当然ながら、周辺の魔族たち、フラッド皇子やグレカ皇女たち、さらには魔王一族や魔族たちが崇拝する大魔ルシファーさえ、直哉がフラッド皇子の記憶から魔王ラーメックに到達する可能性、さらには大魔ルシファーに至る情報を得てしまう可能性を、予測できるはずもなかった。
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「さて、これから組対抗試合を始める」
教官がそう宣言し、レベルの低い順から模擬試合が始まった 競技は勝ち抜き戦ではなく、あくまでも単純に実戦に近い戦闘を経験するだけの試合形式であった。順序も習熟度に応じて組み合わせが定められた。
最初の組同士の戦いは、単純な筋力増強術同士の力任せの戦いだった。両組とも同数のメンバーが激突した。彼らは初歩段階らしく、剣や槍を使った戦い方を繰り広げた。魔力が高くなるほど、剣や槍を使う原始的な戦い方をすることはなかった。直哉は、木剣にも見えない木の杖を上下に振り続けているとしか見えないのだが、そんな彼の順番が後ろの方であることなど、考えにくいことだった。
次の組同士の戦いは、魔力によって火炎、礫、水流を放つ相手に、他方が槍や剣で挑む戦いだった。当然、飛び道具の前に、剣や槍で戦う側がかなうはずもなかった。直哉は自らが武器とする木剣を見ながら、追い詰められていく側がやみくもに振るう剣や槍の虚しい動きを痛々しく感じた。
直哉は、それ以降の試合を見ようとはしなかった。彼は歓声が上がる広大な競技エリアから走り去り、離れた場所で無言のまま木剣を上下に振る動作を始めた。
「僕が知っているのは、剣を鍬に替えて上下に振り上げ振り下ろすことだけ……それが啓典の教えだ……愚かな僕はそれしか知らない……それが僕にふさわしいこと......」
彼は、自分を納得させるように何度も何度も独り言を繰り返していた。
しばらくたってから、梓晴が声をかけてきた。
「ナオ! わたしたちの番は最後になったよ!」
「え? 最後に? なぜ?」
直哉にとって、それは信じられないことだった。木剣を使うにすぎない直哉と梓晴の組であれば、早い順に来ることを覚悟していた。梓晴は直哉の意外そうな顔を見ながら、グレカ皇女の名前を口にした。
「グレカ皇女殿下が私たちに声をかけてくれたのよ」
「え、なんで?」
「多分、入学試験での態度や、あんたが何度かフラッド皇子殿下に食って掛かったことを覚えていらっしゃったのよ」
「そう、グレカ皇女殿下かあ……」
直哉はそう言いながら、グレカ皇女たちの歓声が聞こえる方を向いた。
「僕が何の役に立つか、分からないけど......」
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直哉と梓晴は、吸血鬼族のミランダ・ムベカ、サキュバス族のナーマニカ・ツルコワ、魔王一族の皇女グレカ・フォン・メックの三人に加わり、5人の組を構成した。これに対して、酒呑童子族のカイル・ゲーニッツ、人喰い族のベラル・ニコフ、羅刹族のルニカ・ナーザフ、そして彼らを締める魔王一族の皇子でありグレカの兄フラッド・フォン・メックの4人が、対戦相手となった。
直哉はそれを梓晴から聞いたこともあってか、なぜか心が穏やかではなかった。落ち着きを取り戻そうと、ふたたび離れたところで木剣を振り上げ降ろす鍛錬を始めた。
しばらくたった時、彼の横をフラッド皇子たちが通りかかった。彼らは相手チームになったグレカ皇女たちや梓晴たちについて、いろいろと話しながら歩いていたところだった。
フラッドの仲間カイルは、とっておきの情報だと言わんばかりの表情で、フラッドに話しかけた。
「フラッド殿下、グレカ皇女殿下は三人では足りないとみて、梓晴とナオを呼び込んだらしいですぜ」
「なんだと?」
フラッドは一応予想していたこととはいえ、妹のグレカが本気でフラッドに対抗してきた並々ならぬ執念を感じ取り、身構えた。その様子に気づいたカイルは言葉を継いだ。
「でも、梓晴はともかく、ナオという女、魔力を持たぬということですから、戦力になりませんぜ」
「いや、あのナオという女は、極超周波数の魔力を有しているかもしれん、と教官たちの一部でささやかれていますよ」
ルニカは、少しばかり警戒を示した。だが、フラッドはその指摘を一蹴した。
「まさか、そんな奴がこんな一年生の中にいるはずないではないか!」
フラッドたちがそう分析をし合いながら直哉の目の前を通った時、直哉に気づいたフラッドはぎょっとした表情を浮かべた。直哉も、フラッドの表情に気づいたのだが、彼自身はひたすら木剣を振り上げ降ろしを繰り返し続け、心の中で自らの何の意思をも目立たせまい、という決意を繰り返していた。
さて、直哉と梓晴の番が来た。彼女たちは、百足舟に同組のミランダ、ナーマニカ、皇女グレカ・フォン・メックの三人とともに乗り込んだ。その百足舟は、模擬戦闘が行われる広大な砂漠をしばらく走ると、はるか離れた行程上に別の百足舟が走っている姿が見えてきた。
二隻の百足舟は距離を置いて止まり、直哉はグレカ皇女たちと共に砂漠に降りた。離れたところでは同時にフラッド皇子たちが降り立っている姿を確認することが出来た。
「では、かねて打ち合わせたとおり、ナオと梓晴は前衛となって敵方へ突撃して頂戴……私が援護する形で極大魔法を直ぐに展開します、....その直後、両翼はミランダとナーマニカ、あんた達が展開して、敵の側面を突いて!」
グレカ皇女の号令とともに、直哉は木刀を前に構えながら、真っ直ぐに走った。すぐ後ろには、梓晴の足音が聞こえた。
直哉が砂丘を越えると、下から酒呑童子族のカイルと人喰い族のベラル、羅刹族のルニカが飛び上がり、直哉の後ろを走ってきた梓晴に襲い掛かった。次の瞬間、直哉は梓晴を助けようと振り返ったが、すでにその時には、梓晴の纏っていたオーラとグレカ皇女の巨大なオーラの重なりが、三人の男をなぎ倒したところだった。
「あんたは、彼等にとって当たりたくない相手だったのね……だから、私があんたの後を追って行けば、彼らはあんたに注意しつつ、私に攻撃を仕掛けてくる、グレカ皇女はそう読んでいたのね……だから、一挙に三人を撃破できたわけ! さあ、残りはフラッド皇子殿下だけよ」
梓晴はそういうと、今度は彼女を抜いて、グレカ皇女がフラッドめがけて走り出した。梓晴はその後を追い、両翼からもナーマニカとミランダがフラッドめがけて走り寄る姿が見えた。
「もう、これで決着がつくね」
梓晴がそう口にした時だった。今度はフラッドが極大魔法を展開し、そのオーラに見えた壁が一挙にグレカたち四人の娘の意識を奪った。同時に、グレカたちは地面に倒れこみ、それ以降一切の身じろぎもしなかった。
直哉は、倒れた4人の娘達を見て呆気に取られて立ち尽くしたところに、フラッドがゆっくり近づいてきた。
「ナオ、残ったのはお前だけだぜ」
「まだ終わっていない!」
直哉は、木刀を低く降ろし、腰を低く構えた。フラッドはその構えにたじろいだ。
「ナオ、お前、たった一人で突っ込んでくるつもりか?」
「僕は......」
直哉が口ごもりながらフラッドを見据えた時、二人の目の前に数体の巨大な呪縛司の姿が現れた。
「か、怪物……」
フラッドは表情を凍りつかせ、一言口走った。それに呼応するように、呪縛司達は直哉とフラッドの脳裏に重苦しい黒い4種の疑似声音を響かせた。
「悪を公然と為す者たちよ」
「公然と正義を否定する者たちよ」
「自分の行動だけを是とする者たちよ」
「この世の真理しんりを拒むもの達よ」
「真理しんりに敵対するもの達よ」
「呪われよ」
「呪われよ」
「大地の呪いにお前は今、引き込まれよ」
これらの声とともに、大地が揺れ動いて地割れを起こし始めた。呪縛司達は、フラッド皇子を引き倒して大地の呪いに縛り付け、まさに今、大地に引き込んで滅ぼそうとしていた。
この時、直哉は呪縛司達に叫んだ。
「皆さん、お待ちください! 今は、ま、まだその時ではありません…」
「ではどうすればよいか?」
「今は彼の知識をえなければならないのです……」
「よろしい、それならば、フラッド皇子をはじめ、お前に関わった魔族たちの心を奪うこととしよう......さすれば、直哉よ、われらの欲する情報を得ることが出来るであろう」
呪縛司達の声とともに、直哉の心の中にフラッドやグレカたちの握っていた膨大な情報が流れ込んできた。あまりの情報量に、愚かなままの直哉はその膨大な知識を単に記憶に刻み込むのが精いっぱいで、とても分析検討のために考えることなど出来そうもなかった。
「これらは何ですか?」
直哉はあまりの情報量に、思わず呪縛司達に声を上げた。呪縛司達は予想もしない問いかけに戸惑いながらも、一つだけ指摘をした。
「直哉よ、これらの情報がお前にとって、大切なものではないのか? 賢いはずのお前の今の問いかけに、我々が応えられることはないぞ」
呪縛司達は、そう言って消えてしまった。その後には、放心状態で無意味に歩き回るフラッドの姿と、口をあいたまま空中を見つめている直哉とが残されていた。また、少し離れたところには、フラッドと同様に放心状態で無意味に歩き回る彼の仲間達や娘達がいた。
「梓晴、おい、戻って来いよ......呪縛司達はやりすぎだよ」
直哉のかすれた声が虚しく響いた。
この模擬戦闘は、最終的に引き分けと判断された。教師たちは、フラッド皇子たちが放心状態となっていることを知り、教師達が予測した展開とは異なる戦闘の結着に戸惑いつつ、そう判断せざるを得なかった。教師たちは、直哉とフラッドが最後の対戦をしたフィールドに急いで展開し、倒れこんで眠っている直哉と、呆けて歩き回っている8人の男女たち、つまり皇子フラッドと取り巻きのカイルとベラルとルニカ、皇女グレカと取り巻きのミランダとツルコワ、そして梓晴を見つけたのだった。
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タクラマカンの宿舎では、その夜、八人の男女の生徒達が真夜中に襲われるという事件が発生した。
奇怪なことに、彼らは血と心臓を失って変わり果てた骸で発見された。数少ない目撃者によれば、見たことのない怪物が、夜な夜な呆けたようにさまよい、8人の犠牲者たちを探し回っているということだった。
「さあ、朝の食事だ! おなかが減ったよ」
朝になって、直哉は梓晴を意識的に食堂に誘いだした。彼は、組対抗戦が終わってから彼女がずっと上の空で会話の返事を返すことに、何かの異変を感じていた。今回、食堂でも梓晴は直哉の問いかけに気のない返事を返すだけだった。
「うん、そうだね……」
梓晴は、その後もはっきりしない返答をつづけた。さすがの直哉も梓晴の顔を覗き込むほどだったのだが、梓晴はいつになく視線が泳いだままだった。
食堂に着くと、食堂にいた魔族たちは8人の男女の犠牲者の話でもちきりだった。直哉は、食堂で学院生たちの騒ぎを聞きながら考え込んだ。
「梓晴、8人も犠牲になっているって、どういうことなんだろうな?」
「フーン」
情報に聡い詐欺師の梓晴であれば、恐ろしい事件の顛末を騒ぎからすぐに理解したはずなのだが、薄い反応しか示さなかった。直哉は、噂や情報に喰いつくはずの梓晴の意外な反応に驚いた。
「なあ、梓晴、あんた、今日はおかしいぜ」
「少し、疲れたかな」
梓晴のそんな返事を聞いて、直哉は深く考えもせずに納得してしまった。
次の日、ふたたび、別の八人の男女の生徒達が真夜中に襲われるという事件が発生した。やはり奇怪なことに、彼らは血と心臓を失って変わり果てた骸で発見された。その後も、毎晩、八人の犠牲者が続いた。数少ない目撃者によれば、指先に鋭い爪の生えた8体の鬼、怨躯が、毎晩呆けたようにさまよい、8人の犠牲者たちを探し回っているということだった。
教師たちは、すでに毎晩巡回し始めていた。だが、その巡回の裏をかくように、犠牲者は毎晩続いた。
直哉はそんな騒動をよそに、毎晩深い眠りを繰り返していた。潜在意識下に受け入れた膨大な情報が彼の潜在意識を活性化させ、潜在意識による情報整理が彼の寝ている間に行われているせいでもあった。しかし、そんな眠りがひと段落就いたとき、彼はふと彼の居室の前を自室から出て行く梓晴の足音に気づいた。
「梓晴、何処へ行くの?」
だが、梓晴は彼の問いかけに虚ろな顔を向けたものの、一切応えもせずにそのまま宿舎から出て行ってしまった。活性化した潜在意識のままに、直哉は何かを予感したのか、彼女の後を追うことにした。
そのまま梓晴は木々の影に隠れた暗闇へ入り込んだ。その先に居たのは、ある魔族たちの集団だった。その集団は、皇子フラッドと取り巻きのカイルとベラルとルニカ、皇女グレカと取り巻きのミランダとツルコワたちだった。梓晴を含めた8人は互いを確かめ合うと、ある宿舎を目指してゆっくり歩き始めた。
直哉は、彼ら8人の手先を見て驚いた。いつの間にか彼らの指先には、鋭い爪が形成されていた。彼らは、もともと魔族であるがゆえに人類に比べて姿が恐ろしいのだが、彼らの手足の指先がナイフの先のように変形した姿は、魔族がさらに恐ろしい存在、いわば鬼のような姿に変化したように見えた。
彼ら8人は、そのままある宿舎の中に入り込んだ。すぐに、争う音が短く聞こえたので、直哉はその音のする一室に入り込んだ。そこでは、グレカが就寝している女子学生の新鮮な血を吸い始めたところだった。
直哉は反射的に木刀の柄でグレカのみぞおちを打って気絶させた。このとき、隣室では短い断末魔の悲鳴が上がった。直哉がそこへ達した時には、フラッドが血だらけの女子生徒を左手に抱え、右手には抜き取られて血潮を噴きつつ脈打つ心臓が握られていた。
「お前、見たな!」
「フラッド皇子! あんた、なにしているんだ!」
直哉はそういうと木刀でフラッドの額を打ち、卒倒させた。直哉はそのまま外へ出ると、猛然と梓晴を探し始めた。
「梓晴、やめろ、やめるんだ!」
直哉が梓晴を見出した部屋で、星明りに浮かんだ彼女はちょうどその部屋に寝ていた女子学生をはだけさせているところだった。彼女は直哉を一瞥した。それでも彼女はそのまま犠牲者の豊かな胸に、胸に長い爪を心臓めがけて突き立てようとした。
「梓晴、そんなことはやめるんだ!」
直哉が問いかけた途端、梓晴は動きを止めて直哉を睨みつけた。彼女は犠牲者になりかけた女子生徒を寝床に捨てると、直哉めがけてゆっくりと近づいてきた。
「あ、あんた、ちょうどいい、私のものになりなさいよ」
「ど、どういう意味だ!」
「あんたの血と、あんたの心臓をもらい受けるのさ」
梓晴はそういうと、直哉めがけてとびかかった。
直哉の潜在意識は尋常でない梓晴の様子を一瞥すると、彼女の正常な意識が失われていることを、瞬時に理解した。彼は、同時に木刀で梓晴のみぞおちを打ち、気絶させた。
「残りの5人も同じことをしているにちがいない」
直哉は残りの5人を求めて宿舎中を駆け回り、次々に気絶させたのだった。
この時になって、ようやく巡回の教師たちが事件現場となった宿舎に駆けつけた。
「こ、これは!?」
「この宿舎には、8人の襲撃者が襲来したのです…僕は、犠牲者を出すまいと努力したのですが、なんとか全員を気絶させることしかできませんでした」
犠牲者もしくは犠牲者になりかけた学院生たちの部屋には、その学院生の他に、倒された襲撃者たちの身体が横たわっていた。直哉にとって不思議なことだったのだが、このあと、教師たちは、犠牲となった学院生達の体を凍結カプセルに収納すると、確保した襲撃者たちとともに何処かへ連れて行ってしまった。
「体を氷づけにして、どうするのだろうか……」
直哉は、この時になっても、フラッド皇子から得た膨大な情報のせいで、ずっと潜在意識を覚醒させ続けていた。その潜在意識は、この凍結処理が先日フラッドたちから獲得した情報にあった「身体保存技術」であると、結論を得ていた。
それは、ある歴史の一場面にも一致していた。フラッドたちの記憶には、かつて千年前に魔族たちに抵抗し続けた先史人類たちの主だった人物たちが、魔族たちによって一網打尽にされ、そのまま凍結されたという逸話が存在していたのだった。
直哉の覚醒した意識は、この時フラッドの情報の片隅にフラッドの祖父すなわち現在の魔王のぼんやりとした映像や情報があることにも気づいた。映像や情報のぼやけ具合からは、フラッドにとって祖父は直接会うことのできない存在であることも読み取れた。おそらく魔王一族は親子や兄弟姉妹の中にヒエラルキー上の厳しい差異をつけており、傍系の孫が祖父にあってその姿を記憶に刻むような機会は許されていないのだろうと思われた。
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一連の騒動が治まってから、学院生たちは教師たちに守られながら、雅安に戻った。
直哉は、梓晴やグレカ皇女たちが拘束されてから、半年の間、孤独を周囲に訴え続けた。彼は孤独をいやしている風を装い、ひとりでひたすら様々な講義を受講しまくった。彼は、この時期に魔族の様々な学問、つまり家畜人類を偶像と雷同によって支配し利用する学術、互いの相手の弱点や間違いを責め叩き合う牽制と戦いの学術、果ては司祭学や崇拝者への奉献論まで、多くの学問の単位を取得し、ついには司祭の資格を取得するまでになっていた。
また、直哉は、孤独を癒すように雅安の様々な場所を歩き回った。実際には、彼は様々な場所を調査していたのだが、それを止めろと言う者は誰もいなかった。




