曖昧な夢
monogatary.comでお題「夢の続きがみたくて」で投稿したものです。空白と改行を除き、1000字以内にしています。
午前九時すぎ。カーテンからは明るい光が漏れている。
ふと、自分の頰に触れると、少し湿っていた。
なにか、夢を見ていたらしい。切なくて、嬉しくて、懐かしい夢。そんなような夢だった……気がする。
だが、思い出せない。どうしても思い出せない。それなのに、なぜかもう一度見たい、続きが見たいと思っている。
今日一日は、その夢のことで頭がいっぱいだった。
最近は特に集中して受けている授業も、あまり頭に入ってこなかった。
小学校から仲の良い友達にも話してみた。
「あー、たまにあるよね。感情だけ残って内容が曖昧な夢って。てか、久しぶりだね。葵が話しかけてくるの」
言われて気付いた。そういえば、最近は勉強ばっかりしていて、和奏ともクラスが離れてるから全然話してなかった。
「あ、そうだね。なんかごめんね」
「気にしなくていいよ。まあ、少し寂しかったけど。でも、葵にとっては重要だもんね」
その言葉を理解するのに数秒かかった。
「え!? ち、違うって! そうじゃないって!」
「冗談だよ、そんな慌てなくてもね」
まんまと嵌められたらしい。自分だけ意識しているような気がして恥ずかしくなる。
改めて、こうやってくだらないことを話すの久しぶりだな、と思った。
「昨日の夢か。確かに気になるよね」
「海斗もそう思うんだ」
「僕だって一応人間だからね」
彼も、小学校からの友達である。頭が良い人も、一応人間味があるんだなと思った。
「それよりも、最近ずっと勉強ばかりしているそうだけど、なにかあったの?」
「いっ、いや別に。ちょっと成績がやばいかなと思って……」
彼と話していると、なにもかも見透かされているような気がする。
「それは大事だと思うけど、無理はし過ぎないようにね」
その時、ふと夢の内容が鮮明に蘇った。そうだ、そうだった。勉強よりも、頭が良いことよりも大切なもの。
「なにか思い出したみたいだね」
「……うん」
正夢。それは、夢で見た内容が現実になること。根拠はないと言われているけれど、そんなことはどうでも良い。
ただ、夢の続きがこれからずっと見られる気がして、少し嬉しくなった。
「ありがとう」
自然と口からこぼれていた。そんな言葉に、海斗は少し驚いていた。
「お礼を言われるようなことはしてないけど、まあ、どういたしまして」