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お前とくっつく奴はわたしが作る!!

作者: 三雲零霞

この作品は2025年2月に投稿された文芸部部誌に掲載したものです。




「……さん? ペナさーん? 起きてくださーい」

「んん……あとちょっと……もうすぐじんかくぷろぐらむができるから……」

「何言ってんですか。こんなソファで寝てたら風邪引きますよ」


 優しく揺り起こされ、ようやく自分が夢の中にいたことに気づく。

 瞼に力を入れてこじ開けると、書きかけのプログラムがシャットアウトされ、代わりに整った顔が視界いっぱいに現れる。


「……ぅわっ⁉ ちょ、近い近い!」


 わたしは慌てて飛び起き、一刻も早くその美しすぎる顔から離れようともがいた結果、ソファから転落した。


「いって……」

「大丈夫ですか? 全く……ほら、起こすのでつかまってください」


 再び近づいてくるイケメン。

 このままでは眩しすぎて目が潰れてしまう……っ、とわたしは手で目を覆って後ずさる。


「いやっ! 大丈夫だから! ご心配なく!」


 この男は自分の顔が破壊的に良いという自覚がないのだろうか。こちらの心臓が持たない。


 彼はミイルという。この研究所に二人いる()()()人間のうちの一人である。

 ちなみにもう一人はこのわたし、ペナ。この研究所の所長。

 ミイルはわたしの助手をしてくれている。助手といっても、彼には研究の手伝いというよりわたしの日常生活的な部分を担ってもらっている。なぜならわたしは家事の類が全くもって苦手だからだ。彼がいなかったら、わたしは今頃ご飯も食べずに研究に没頭しすぎてゾンビのようになっていたに違いない。いや、既に死んでいる可能性も……。

 今だって、三徹で新しい人造人間ちゃんの人格プログラムを書き終えてそのままソファで気絶するように眠ってしまったのだった。


「徹夜は大目に見ますけど、寝るならちゃんとベッドで寝てください。歩けますか?」

「歩けるわ! わたしはババアか」

「赤ちゃんでは?」

「赤ちゃんじゃないわ‼」


 過保護親ムーブをかますミイルを置いてわたしは研究所二階の自室に戻る。


「おやすみなさい、ペナさん」

「……おやすみ」


 むっとしつつも肩越しに振り返ると、ミイルは階段の下からいつものポーカーフェイスでこちらを見つめていた。


    ○


「それでですね〜、私が人造人間だって知ったらその客、途端に態度悪くなったんですよ〜! 私たちのこと何だと思ってんですかね〜‼」

「そりゃあ嫌な客だな。このわたしが人間に限りなく近い感情までプログラムしてんのに」

「そうですよ〜! ペナママにも失礼ですよね〜⁉」


 モニター越しに酔っ払ったようにキレ散らかしているのは、昔わたしが開発した人造人間の一人だ。

 彼女は特にわたしに懐いていて、わたしを「ペナママ」と呼び慕ってくれている。

 ちなみに彼女はお酒を飲んでいるわけではなく、酔っ払い風に愚痴を吐くために喋り方のモードを切り替えているだけである。この機能もわたしが開発した。


「あっ、そういえば、ペナママはミイルさんとどうなんですか〜?」

「え⁉ べ、別に何もないよ……」


 自分の顔が意思とは別に熱を持つのを隠すように、わたしは手元にある酒、ではなくエナジードリンクをちびちびと飲む。飲みすぎるとミイルに叱られるが、まあまだ二缶目なので大丈夫だろう……。


「そっかぁ~……ペナママとミイルさん、本当に仲良しだから絶対そのうち付き合うと思ってたんですけどね~」

「あっそ……仲良しなのは同じ空間に生身の人間が二人しかいないんだから当たり前だと思うけど」

「でもミイルさんってハイスぺイケメンじゃないですか~」

「ん?? 待って待って、ミイルがイケメンなのはわかるとして、あいつがハイスぺ? あんな不愛想過保護親ムーブ男のどこが」

「そこですよ~! ミイルさんって料理も掃除も洗濯も嫌な顔一つせずにやってくれるじゃないですか。それに仕事の覚えも早いんでしょ? 将来有望! 絶対モテますって~!」


 モニターの向こうの人造人間ちゃんは、顔の皮膚に組み込まれた機構によって赤く染められた頬に乙女のように手を添えた。


「もしかしたらもう彼女とかできちゃってたりして!」


 ──ミイルに、彼女……?


 ミイルがわたしの知らない女の子と腕を組んで歩いている様子が思い浮かんだ。いつも鉄壁の無表情を貫いている美しい顔をほころばせている彼。

 違う、と思った。ミイルがどこの馬の骨ともわからない女と付き合うなんて、納得できない。


 その時、わたしの脳内を一つの名案が駆け巡った。


「そうだ……そうだよ、そうすればいいんだ! ごめん、通話切るね!」

「え、ペナママ、急にどうしたんですか? ちょっと──」


 通話を切るボタンを押し、わたしは代わりに人造人間のプログラムを立ち上げた。


 私の知らない女とくっつくのが嫌なら、わたしが何もかもを知っていてミイルにいちばん相応しいと思う女の子を作っちゃえばいいんだ……!


 それから、わたしは新しい人造人間の開発に没頭した。

 普段なら昼夜を問わず作業を続けることが多いのに、今回はまともな生活リズムを保つように心がけた。今ばかりはミイルに小言を言われたくなかった。というよりは、ミイルと極力接触したくなかったのかもしれない。


 認めたくはないが、わたしはたぶんミイルのことが好きだ。恋愛とかそういう意味で。

 でもわたしなんかじゃ、ミイルには釣り合わない。この間人造人間ちゃんが言っていたように、ミイルは確かにハイスぺイケメンだ。それに比べて、わたしは家事もできないどころか自分の健康にさえ気を付けられない。髪はボサボサ、化粧っ気なし、服も三日くらい同じものを着ていたりする。わたしにあるのは人造人間を作る技術だけ。ミイルみたいな格好いい人がこんなのと付き合っていいわけがない。

 だがしかし、ミイルがわたしの知らないところで知らない女とくっつくのは絶対に許せない。だからせめて、わたしが自分で納得のいく女を作って彼とくっつければいいんだ。彼が他所で恋人を作ってくる前に。


 作業に没頭している間は、そういうことから目を逸らしていられた。


    ○


「ペナさん、一体どういうつもりですか」


 ミイルは、自分の前に整列した三人の人造人間を一瞥した後、わたしに向かってそう問うた。


「ミイルには、この中から誰か一人を選んで付き合ってもらいます」

「はぁ……」


 ミイルは引いている。ドン引いている。いつもは下手をすると人造人間よりもよほど感情の表れない彼が、整った眉をひそめている。


「確認なんですけど、『付き合う』っていうのは男女交際のことを言っていますか」

「うん、もちろん」

「嫌です」


 かつてないほどきっぱりと断られてしまった。


「な、なんで!」

「おかしいでしょう、交際相手を他人が勝手に選んで押し付けるなんて。旧文明じゃあるまいし。しかも人造人間って、いくら彼らにも恋愛感情が理解できるとはいえあくまでプログラムですし。……というかペナさん、そんなに僕のことが好きじゃないんですか?」

「ちが……っ、だって好きだから、」


 あ、と口元を押さえた時には遅かった。


「好きなら、なんでこんなこと考えたんですか」

「それは……ほ、ほら、その、面白いかなって……?」

「……」


 ミイルの目が「絶対に違いますよね」と言っている。


「その……ミイルが、わたしの知らない女の子と付き合ったりしたら、嫌だから……でもわたしじゃ釣り合わないし……だから、代わりにわたしがミイルに相応しい女の子を作ればいいじゃんって思って」

「ペナさんが僕に釣り合わないなんて、誰が決めたんですか」

「だって、ミイルはかっこいいし、仕事も家事もできるし……それに比べてわたしはずっと世話焼かれっぱなしだし、見た目も性格もこんなんで全然女の子っぽくないし。ミイルはもっと可愛くてしっかりした女の子とくっついたほうが解釈一致なの」

「じゃあ僕の気持ちは無視するんですか。僕は、ペナさんがどれだけ女子力低くて自堕落な機械マニアでも気にしないのに」


 ミイルの綺麗な顔が、ずいと近づいてくる。


「ペナさん。僕、ペナさんのことが好きです」

「……へ?」

「ペナさんの、人造人間のことになると我を忘れて没頭しちゃうところも、僕がいないと生活できないところも、強がりなくせに自己肯定感低いところも、恋愛に鈍感なところも、全部好きです」

「ちょ、ちょっと、」

「だから、僕と付き合ってくd──」

「ちょっと待ったあー‼」


 わたしはどんどん接近してくるミイルの肩を押し戻した。顔が火照っているのが自分でもわかるし、動悸があり得ないくらい速い。このままでは命の危険が……っ!


「わわわわたし、に、逃げるっ‼」

「え、ちょ、ペナさん」


 わたしは意味不明なことを口走り、階段を駆け上がって二階の自室に逃げ込んだ。


「……そういうところですよ、ペナさん」


 階段の下でミイルが密かに頬を緩めていたことを、この時の私は知る由もなかったのであった……。




高校のオタク友達と夢女子や夢創作について談義を交わしていた時に、夢創作を始める動機の一つとして「お前とくっつく奴は俺が作る!!」っていうのがあるよなあ、という話になり、そこから生まれた物語です。「解釈一致」とか「そういうとこやぞお前……」とか、オタクたちがTwitterで言ってそうな言葉が入っていたりします。大学では腐女子とか夢女子といった女オタクにあまり出会えてないので寂しいですね~。

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