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第二部 私の推しが恋人になってから プロローグ 多忙のためデートはないけど甘い朝

正式に琉偉のマネージャーとなってからだろう。琉偉は少しずつ私に甘えることが増えてきているように思う。今日も…


「小菅さん、琉偉が呼んでる。行ってやってくれ」


「はい? またですか」


「あぁ、今日は私服で来いってインタビューで言われてるだろ? 決めるのが面倒なんだろ」


私は呆れ交じりに頷いて迎えの車を降りて琉偉のマンションまで行く。琉偉は高級マンションに住んでいるかと思いきや、ワンルームではないもののごく平凡な域を出ないマンションだ。


その5階にある琉偉の部屋のインターホンを押すと、まだパジャマ姿の琉偉が困り顔で出迎えてくれた。寝ぐせは直してあるのが救いだけれど、パジャマはやっぱりくたびれたTシャツとスウェットだ。


「やあ、おはよう」


「…朝寝坊した上に私まで呼び出すって… 少し甘えすぎだってば」


「いいじゃない。少しでも二人の時間を持ちたいんだって」


そんなことを言いながら当たり前の顔で抱き寄せてくる。マンションの前に麻木さんが待っているのにキスまでしてくるし。…これが嫌ではないから困っちゃう。


「お仕事しに来たんだけれど…?」


キスはまだ少し照れてしまう。それをごまかすように見上げて言うと、琉偉はやっぱり気の抜けた顔でクローゼットのある部屋まで案内してくれた。


「朝ごはんは食べたの?」


「そっちこそ。昨日は朝飯抜きだったくせに」


「それはお互い様だってば。お昼ご飯は一緒に何か食べましょ。ね?」


そんなことを話しながらクローゼットを開けてみる。琉偉は私の腰に腕を回して額にキスをしてくれる。


「こうしてると夫婦みたいで嬉しいなあ」


そう言うと、ぐっと深く抱き寄せてもう一度キスを交わす。角度を変えて幾度もしてきて… 実はキスさえしたことないって言ったら、驚くのかな。


「っぅ… 琉偉ってば… 麻木さんが…」


「まだ時間あるから大丈夫。もう少しだけ」


そう言うと、唇を舌先で舐めて私の口の中に慣れた仕草で入ってきて愛撫してくる。驚いて硬直した私を抱き締めて、舌先を吸う。同時に私の下腹あたりに琉偉の下半身が押し付けられた。


……恋人になるってこういうことだものね。だけれど、私……


「ふっ… 少しでもスキンシップの時間は取らないとね。デートもできてないし」


悪戯っぽく笑って言うと、琉偉は慣れた様子で服を取り出す。まさか、こんなセクシーな時間を持つためだけに私を呼び出したなんて…?


そう考えたけれど、間違いだったことを思い知らされる。パジャマと全く変わらないジャージを取り出したんだもの。


「琉偉ったら! 今日はインタビューが朝からあるって言われたでしょ?」


「あぁ、そうでした。じゃ、これはご褒美」


そう言いながらもう一度ディープキスを仕掛ける。力の差で逆らう余地がある無し以前に初心者とマスターレベルの経験値の違いのせいで、どうしようもない。…過去に、私以外の女性とこういうことをしたんだと思うと、どうしようもなく嫉妬しちゃう。


「さ、俺をどう飾ってくれる? 五月」


「うん。すぐに選ぶから」


キスもその先も全く経験してこなかったなんて言えなくて。私は琉偉に促されるまま、スタイリストさんのアドバイスをもとに私服を選ぶ。琉偉が選ぶと貧相なジャージやスウェットになっちゃうから。


そんな姿で雑誌の表紙を飾らせるわけにもいかない。琉偉の足の長さを生かすためにスラックスとシャツはこれにして…


「デニムにするかと思った」


私の肩に腕を回しつつ言うと、優しく髪を梳いてキスを落とす。


「それじゃ昨日の衣装を重なっちゃうし。今日はスラックスでいいかと思って」


「俺は着れたらなんでもいいんだけどな。それじゃいけないのが芸能人の大変なところだよね。五月がいてくれてよかったよ」


「それはなにより。はい。衣装はこれでいいはずだよ。あと10分くらいしかないから急いでね」


そう言いながら先にマンションを出ようとすると、力強く引きとめられる。


「あと10分ならここにいて。ね?」


「…うん。わかった」


甘えてくるような人だと思わなかったけれど、これも彼なりの愛情の示し方なんだと思えてきて。私は笑みを漏らしながらロングベッドに座って琉偉がテキパキ着替えるのを見ていた。


もともと、舞台俳優だからだろう。琉偉の着替えは異常に速い。いつも念入りに服選んで着替えてメイクしてってしている私がバカみたいだ。その為に琉偉より1時間以上早く起きているのにな。


「ねぇ、今押し倒したら怒る?」


「私より麻木さんに怒られるから」


「俺は着替えたし、あと5分あるよ」


押し倒される意味が分からないわけじゃないけど、流石に麻木さんが心配になっちゃって。


「あと5分じゃ何もできないってば」


「大人のちゅうくらいはできるかな」


そう言って遠慮なく押し倒して覆いかぶさりながらキス。琉偉はキスが好きなのかと思いながら受け止めて、ためらいがちにそっと首に腕を絡めた。


「このまま抱きたいけど、残念だな」


琉偉はきっちり5分間大人のキスを堪能したかと思うと、私をそっと起こしてくれた。


「後でメイク直した方がいいよ」


耳元で悪戯っぽく告げて。その言葉で我に返って、この雰囲気と気分のままで麻木さんに会うんだと気づき、恥ずかしくて顔が熱くなった。だけれど、マイペースな琉偉は私をエスコートして玄関から出ていく。


「これくらいは許してくれるよ。俺を飾ってくれてるんだしさ」


「そうかもしれないけれど… 私はもう仕事中なわけだし」


「いいのいいの。俺のメンタルバランスを整えるためだって」


そう言いながらエレベーターホールまで歩いて、エレベーターに乗るなり抱き締めてキス。…好きだなあ。悪い気はしないけれど。


正直、告白された日からまともにデートもしていない。それを気にしてくれているのかもしれない。外では恋人らしく振舞うこともできない。売れっ子俳優の辛いところだけれど、私はそれも仕方ないかと思ってあきらめている。


こうして推しから恋人になった琉偉のマネージャーとしてでも傍にいられるんだものね。琉偉の為に何ができるのか考えて、努力できるんだから。


「遅いぞ!! 自分で選べるようになれ!!」


「時間には間に合ったじゃん。麻木さん」


案の定、怒り心頭になっている麻木さんに、私を背に隠しながら慣れた口調で言い返す。


私は先に車へ乗りこみ、急いでメイク直しだ。すっぴんでも困るわけじゃないけれど、キレイにしていないといけないから。琉偉に迷惑かけるかもしれないし。


麻木さんは私がルージュを塗りなおしていることの意味を理解しているんだろうに。渋い顔をしたけど何も言わなかった。


「お前のせいで時間が無くなった。このまま行くぞ」


「了解です。今日も稼ぎますよ」


「当たり前だ! その為のお前なんだから」


麻木さんも半分は安心しているのかな。琉偉はタバコをやめてくれたわけだし。私の隣に乗りこんできた琉偉の横顔は既に俳優のものになっていて。少しだけ寂しくなるけど、いつまでものんびりおっとりしていられないものね。


「インタビューの相手からの質問は届いてます。先に読みますか?」


「うん。先に読んで考えておきたいな。ありがとう」


タブレットを差し出す私に恋人同士のスキンシップを求めるでもない。そのあたりはきちんと割り切っているんだろう。私もだけれど。

こうやって公私混同しないで、でも、一緒に過ごしていけたら幸せだなあ。


私はのんびりとそんなことを考えていた。これからもこの日常が続くと信じていた。当たり前に。

お待たせしました( ^^) _旦~~ 第二部でございます。

タバコをやめた琉偉くんですが、代わりにキスが増えました。

そのことに気づかない五月ちゃん。二人とももどかしくてかわいいですね。

お付き合いくだされば幸い。感想くださればもっと幸いです。

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