表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

五話 つかの間の日常を味わって

一宮さんに髪を切ってもらった日から私の日々は少しだけ変わった。行く先々の男性スタッフから声をかけられたり、モデルと勘違いされたりすることが増えて、その度に一宮さんや麻木さんに助けてもらうことになってしまって…


髪型をおしゃれにしてもらったのに、顔だけすっぴんのままというのも変な気がして。私なりにメイクをするようになったせいなのかな…?



そんなことを考えながら電車で久しぶりに会社へ向かう。そろそろ契約期間の終わりも見えてきたから、新しく配属先を聞くためと仕事の報告をするためだ。


それを聞いた一宮さんが幾つかアドバイスをしてくれた。基本的にパンツスーツしか着ない私がより華やかに見えるような服装を写真付きで説明してくれて。


「背の高い人ってのは得でさ。こういうマーメイドラインのロングスカートがしっくりくるんだよ。これに適当にブラウスを合わせれば、男の目が変わると思うよ。たまには男の目を集めるってのも気分いいんじゃない?」


そんなことを悪戯っぽく笑いながら言っていたっけ。写真の中のモデルさんは確かに華やかで美人だったけど、私に当てはまるとは思えない。だけれど、三か月くらい芸能人の傍で働いていたことを自慢するくらいはいいよね。


そう思ってできるだけ忠実に守ってみることにした。だから、普段よりは幾らか華やかに見えるはず… 里奈や深雪みたいな分かりやすく可愛い顔立ちじゃないのが残念だけど、一宮さんはきっと褒めてくれるはずだよね。


「…一宮さん、かあ」


そっと呟く。いつの間にか私は背が高いことをコンプレックスにしてるとか、それが原因でいつも猫背になってるとか。化粧は好きだけど、卑屈になってしなくなってたとか。


女の子らしくキレイでいるなんてことを忘れていたのに、一宮さんと一緒に過ごしていた三か月くらいの時間で色々なことを思い出していた。挙句、恋しいと思うなんて。…あの人の恋人になるなんて無理なのに、どこかで願ってる。


釣り合う私でいられたら、何か違ったのか? なんて…… 同じ芸能人だったら、とか。とめどなく色々なハッピーエンドにつながる道を。


ぼんやりと一宮さんのことを思い出しながら電車を降りると、会社までの道を歩く。足元は一宮さんにアドバイスされた通りのロングスカートだから、少し歩きにくい。階段を降りる時も裾をつまんだりしないといけない。


「ちょ、君どこの所属? どこかのモデルさんじゃないよね!?」


若い男の人の声に気づいて我に返ると、知らない人が私を見上げていた。その見上げる視線はまるっきり珍獣を見ているようで、いやでも気づかされる。一宮さんと出会うまでの日常がどうだったのか? ということ。


一宮さんはいつも私をまっすぐ見下ろしてくる。当たり前だ。190センチもあるんだから。だから、私も自然と背筋を伸ばして見上げることになる。…その距離が心地よかった。


「先を急いでいますので失礼します」


きっぱりと言い切って足早に去っていく。聞えよがしに珍獣扱いしている男たちの声が聞こえて、久しぶりに惨めな気持ちになる。


「めっちゃ美人だけど、背が高すぎてなあ~!」


「きっと広報課に行くんだろ。モデルかなにかだよ。あきらめろって。俺たちの手の届く女じゃないから。総務の深雪ちゃん、可愛かったよな!」


「そうそう! 背が低くて細くてさ。守ってやりたくなるってか。なのにさっぱりした性格でいいよな!」


男達が勝手なことを話し出すのを聞きながら、一宮さんの元に戻りたいと自然と思っていた。…たった三か月くらいなのに、いつの間にか彼に甘えることを覚えてしまっている私に驚く。


けど、好きなんだよ。やっぱり。理想通りじゃなくても好きなんだ。私服はヨレヨレのジャージやスウェットにボロボロのスニーカーばかり。物持ちが異常に良くて、20歳くらいからほとんど服を買ってないとも聞いている。


オシャレにしてあげるのは好きだけど、自分のオシャレには興味がないんだと。外食が多いけど料理も好きで、休日は家にこもって自炊したり、筋トレしたりしている家庭的でストイックな人。


ストレスを水蒸気タバコで紛らわさないといけないくらいなのに、太りやすい体質だからって食事制限を頑なに守っている人。…スポットライトの似合う人、煌びやかなブランド物をサラッと着こなして優雅に笑える人。


好きなんだ。芸能人としても男の人としても。一宮琉偉さんのもっといろんな姿を見ていたいと思うくらいに。…でも、終わりにしないといけない。契約期間が終わってしまうもの。あんな華やかな人の恋人が、私でいいかどうかなんて……



「ちょっといいかい?」


上司の元へ向かおうとしていた私を老婆が呼び止める。割ぽう着に地味な着物姿の老婆だったっけ。善良な魔女だって言ってた。


「ちょっと面倒なことになりそうなんて借りてるよ」


そう言いながらエレベーターホールの隅へ案内する姿は里奈そのもので、気持ち悪い感じもする。


「そろそろ魔法の効果が切れそうなんでね。それを知らせに来たのさ。成功しても失敗しても元の人生には戻れない。それを伝え忘れていたしね」


「ど、どういうことですか? 元通りにならないって…」


「言葉通りだよ。あたしの魔法で運命を変えた。一度変えちまった運命は二度と戻らないもんさ。失敗してあんたの願いが叶わなければ、男はあっさりあんた以外の女を恋人に選んで、あんたのことなんざ忘れちまう。二度と会うこともない」


老婆の言葉で自分が魔法に助けを借りていたことを思い出す。あの魔法の薬の効果だったのかもしれない。一宮さんが私にやさしくしてくれるのも、なにもかも。成功したら魔法は永遠になるのかもしれない。


けど、失敗したら待っているのは元通りの日常じゃない。


もっと惨めな毎日が待ってる。当たり前だ。私は一宮さんの傍にいることで甘えることや恋しいと思うことを知ってしまったんだもの。それに加えて魔法なんておかしなものに頼ったんだもの。もっと恐ろしい代償が待っているかもしれない。


だけど、私は……


「一宮さんの人生を歪めるようなことはしたくない。あんな素敵な人の傍にいるのが私なんて… そんなの幸せになれるわけない。だから、このままでいいです」


迷わず言い切った。悲しいけれど、これが最上の結果のような気がした。老婆は険しい顔で見上げていたかと思うと、


「それで後悔しないのならいいけどね。月が替わるまでに口付けを交わさなければ、魔法の効果は消えちまうだろう。それだけは覚えておいで」


里奈の姿のままでどこかへ去っていく。私はその姿を見送って、何もかもをお腹の中に飲み込み、仕事に向かった。一宮琉偉さんへの気持ちもなにもかもを思い出にして生きていこう。それでいい。これが一宮さんのためだよね。


あと少しで終わります( ^^) _旦~~

そのあとはどうするか悩んでいます。

五月と琉偉のそのあとをもう少し掘り下げてみたい気もします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ