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二話 推しと出会う朝

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一宮琉偉 190センチ。30歳

舞台をメインに活躍している若手俳優。物腰は柔らかで優しく、紳士的と評判。ファンへの扱いも丁寧で人気高い。素顔は素朴でいささかのんびりしている。

服装などにこだわりがなく、私服はすべて大学に通っていた頃からの物ばかり。



麻木恵一 170センチ 45歳

一宮琉偉のマネージャーで、新人の頃からの付き合い。彼が素人同然だった頃からの付き合いなので名前で呼び捨てにすることが多い。一宮も彼のことは特別視し、信頼している。本人はタバコを吸うが、一宮にはイメージがあるのでやめてほしい。


笠井誠 28歳 若く見えるが30近い。一宮琉偉が所属する芸能事務所の広報を担当している。


なんだか落ち着かない休日が明けた月曜日の朝、私は上司から送られてきた地図を頼りに芸能事務所へ向かった。駅から近くなので分かりやすくてありがたい。


そんなことを思いつつ、普段出勤するより緊張した気分で芸能事務所のある大きなオフィスビルの中に入る。


「あなたが小菅五月さんですか? 私は広報の笠井といいます」


私に声をかけてきたのは生真面目そうな若い男性。黒髪を七三分けにしてスーツを着ている。背丈は私と同じくらいか、幾らか低いだろうか。


「はい… 初めまして、小菅五月です」


なんとかそう返したけれど、出向とはいえ芸能事務所で働くのは人生初のことで、異常に緊張してしまう。


「プロフィールで拝見してはいましたが、本当に背が高いんですね。驚きました」


親しく話してくれるけれど、頷くばかりでまともに返事ができない。


「さあ、こちらへどうぞ。小菅さんにはマネージャーの手伝いをしていただけるとのこと、ありがたく思います」


事務員と聞いていたのに、話と違うなあ。そう思ったけれど黙っておく。仕事を選ぶ権利なんて下っ端の私にあるわけないものね。むしろ、こんな機会でもなければ味わえないことばかりだろうし、幸運だと思うことにしよう。


思っていたより小さな社内を案内してもらうと、奥の応接室に通された。仕事の説明でもしてくれるのかと思いながら促されるままソファに座ると、


「ここでお待ちください。お茶をお持ちしますので」


部屋から出ていこうとした笠井さんが戸惑った様子でドアの外に立っている人を押しとめる。


「お待ちください! あなたともお会いいただきますが、今すぐではないと言ったはずですよ」


「いいじゃん、別に。そんなに大差はないって」


そう言いながら待ちきれない様子で強引に応接室へ入ってきたのは、ドアより背が高い男の人だ。ダメージジーンズに黒いTシャツでシルバーのネックレスとカフスで着飾っている。


派手ではないけれど、華やかな空気をまとった人だ。


「初めまして。今日から俺のマネージャーになってくれる人ですよね?」


向かいに笑う様は明るく快活だけれど、どこか品が漂って優しそうに見える。


「一宮さん! 小菅さんが驚いていますから…!」


隣に立った笠井さんが慌ててフォローしてくれたけれど、お礼を言うこともできないくらい混乱していた。…それも仕方ないだろう。私はあんまり感情を表に出すのが得意じゃない。


その上、急にずっと憧れていた人が目の前に現れたんだから当たり前だ。


「そんな緊張しないで。気張らずに行きましょうよ」


そんなことを言いながら水蒸気タバコを取り出して咥えた。そんな様まで似合うなあとぼんやり考えてしまう。完全に現実逃避だ。


「琉偉! あっちで待ってろって言っただろ! タバコもイメージ壊れるからやめろって言ったはずだぞ」


ダークカラーのスーツに派手な柄シャツを着たヤクザかホストっぽい服装の、40台を超えて見える男の人が応接室に入ってきながら言う。遠慮なく琉偉と呼び捨てにできるんだから、きっと一宮さんのマネージャーって人なんだよね。


「あぁ、これは失礼。俺はこの琉偉のマネージャーをしている麻木恵一という。小菅五月さんだったね。主にスケジュール調整や細かな雑務を片付けてもらいたい」


「はい。よろしくお願いします」


お互いに名刺を交換して、頭を下げあう。社会人として当たり前の礼儀だけれど、少し気に入らなさそうな顔で見上げていたかと思うと、


「俺に会うの初めてなのに落ち着いてるけど、嬉しくないの?」


少し悪戯っぽく笑いながら問いかけてくる。そんなことはないんだけれど… でも、それを素直に言ったところで通じないだろうし、相手は芸能人とはいえ私は仕事をしに来ているんだし。


「驚いてもいられません。ここには仕事をしに来たんですし。あんまり騒ぐのも失礼に当たりますから」


と本当はまっすぐに見上げたいのを堪えて、うつむき加減で答える。すると、あごにそっと指先が触れて、


「社会人としては百点満点の答えなんだけれど、俺個人としては気に入らないなあ。もっと俺を見てよ」


少し強引に上向かせながら言う。まるで命令しているようで、だけど、お願いしているようにも聞こえるから不思議だ。普通の女の子なら、それだけで悲鳴を上げてはしゃぐところなんだろうけれど、そんな可愛らしさのない自分が恨めしい。


「琉偉! そこまでにしておけ。小菅さんは仕事をしに来てるんだぞ。お前のファンじゃない」


「はいはい。じゃあ、仕事の話しましょうか」


麻木さんのお叱りの言葉で私の顎を開放して、そのまま隣に座ってしまう。


「すみません。あんまり驚かないでください。普段はここまで自分勝手にすることはないんですが… 自分と背丈が近い女性が来るというのが嬉しかったようで」


「それだけで誰がはしゃぐかって! それだけじゃないけど、教えてあげません」


思わずじっと見つめてしまっている私にウィンクをして。懲りずに水蒸気タバコを吸い始めた。けれど、そこから先はさすがに俳優さんで。私が口をはさむ余地もないくらい真剣な顔で麻木さんの話を聞いていた。


たった三か月でも、こんな魅力的な人の傍で働けるなんて…… こんな幸運は二度とないかもしれない。そんなことを私は考えていた。だから、気づくのが遅れたのかもしれない。


胸の奥底が淡く甘酸っぱく痛んでいることに。私はどこか自分だけの世界にこもりがちだったから余計に。一宮さんの目がどこか熱っぽく見えることに。


二話でようやく登場しました( ^^) _旦~~

割と物腰穏やかなのんびりイケメン、琉偉くんです。

彼のキャラもこれから掘り下げていきたいですね。

お付き合いくだされば幸いです。

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