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第二部 一話 マネージャーとしてのスキルアップと恋愛関係

その話がもたらされたのは琉偉がインタビューを受けている間のことだった。インタビューを受けているのはホテルの一室で、こんな仕事でもなかったら二人でのんびりしてみたいなあと思うくらい清楚で可愛い内装だ。


そこで何枚かの画像を撮った後、インタビューを受けることになっていて。その間、私はぼんやりと彼の仕事ぶりを眺めていた。その時に呼び出されて、


「琉偉の仕事も安定してきているし、あなたにはスキルアップも兼ねて売り出し中のタレントを担当してもらう。期間は一か月だ」


ホテル内は全室禁煙なので、口寂しそうな麻木さんは複雑な面持ちで言う。それから持ち歩いているカバンから書類の束を入れたクリアファイルを取り出し、私に向かって差し出す。


「売り出し中のタレント… ですか?」


受け取りつつ、改めて自分の立場を理解してしまう。琉偉の意思で二人目のマネージャーということをしているけれど、いつまでもそんな雑用係でいられるわけもないんだよね。


いつかは琉偉から独立して麻木さんみたいにタレントを担当したりするのかな…? 考えたことなかったけれど。


「難しく考えなくていい。琉偉にしているようなマネージメントの手伝いだから。プロフィールはできるだけ暗記しておいてほしい」


言われて初めて書類に目を落とす。その書類に添付されていたのはやや釣り目がちの中性的なイケメンだ。名前は昴流和希と書かれている。釣り目がちで気が強そうだけど、大丈夫かな。


「昴流さんとお呼びすればいいのかな」


プロフィールを眺めながら呟く。麻木さんは複雑な顔で頷くばかりだ。途端に後ろから長い腕が伸びてきて、プロフィールを取り上げられた。


「昴流のマネージメントの話してたんですか? 反対しましたよね。麻木さん」


インタビューが終わったんだろう。まだ衣装姿の琉偉が私の肩に手を置きながら言う。その横顔はやや険しい。


「俺の意思じゃない。俺も反対したが、さらに上の人間の命令だ。あきらめろとしか言えないな」


「ったく!」


琉偉の方が怒り心頭で、奥歯をかみしめて舌打ちしそうな勢いだ。深くため息をついて落ち着かせると、少し考えて懐からアトマイザーを取り出して、


「これ、毎日使って。昴流なら分かるはずだから。これが意味すること」


私の手に握らせながら言った。カバンさえ持ち歩かない琉偉が毎日持ち歩いているほどお気に入りの香水だ。俳優仲間と称している人たちは私のまとっている香りに気づいてくれるばかりか、琉偉のお手付きじゃ仕方ないってあきらめていく。


何て名前なのかは教えてくれないけれど。それから鍵の束を取り出して、


「これも持ってて。いつ帰ってきてもいいから。残念ながらベッドは一つしかないけど」


途端に意味を理解して顔が赤らむ。それはそうだろう。いつまでもキスどまりでいられるわけがない。


「琉偉…!」


「これくらいしてもいいでしょ? 俺の反対を押し切るんだから」


「ったく… しょうがないな。公私混同はするなよ。それと10分だけ時間をやる。その顔をどうにかしろ。イメージが崩れる」


そう言って琉偉と私のいる廊下から室内へ入っていきながら言った。


「麻木さんと二人でそんな話をしてたなんて… 知らなかった」


「昨日今日の話じゃないよ。五月は有能すぎたんだろうね。上司からいずれは本格的にタレントの世話をしてもらおうって指示が降りてきたんだ。先月のうちにね」


そう言いながら廊下の隅にエスコートされて、ソファに並んで座る。先月というと、まだ琉偉の世話をするだけで手いっぱいだった頃だ。まだ魔法の薬を飲んだ月で。そんな早くから話があったなんて…


「でも、一か月だし… これだけ束縛しておいて、まだ足りないの?」


「足りないね。最近の五月を見てると、俺と出会った頃の地味さが嘘みたいだよ。この香水でどこまで牽制できたものか分からないな」


「そんなこと… 私が認められたのだって、あなたのことで一生懸命だっただけだし」


うっかり本音を漏らすと、琉偉の目が丸く見開かれてぐっと抱き寄せられた。


「束縛しておきたいと思うよ。守り切れるようにね」


「あなたにならいいよ。私はいつもあなたのことを思ってるから」


人気の少ないとはいえ誰が来るか分からない廊下だ。けれど、私は重なってくる唇を拒まなかった。


「一か月を無事に乗り越えたら、一緒に暮らそうか」


私はためらわずに頷いた。一通りの家事の分担とか色々と面倒ごとはあるかもしれないけれど、琉偉のことを好きな気持ちはだれにも負けない。だからこそ、もっと近くに行きたいと思った。


「このまま付き合ってると抱くよ。いいの?」


「私こそ… 重いよ。私でいいの? …その初めてなんだけど」


意味を理解できなくて戸惑ったのは琉偉の方だ。それはそうだろう。だけど、いつか言わないといけないことだ。私は26歳だけど、まだ男性経験がないってことを。


「あー、もう! 怒り狂ってキレそうだったのが吹き飛んだな。嬉しいなあ」


「26歳にもなって… その、重いとか気持ち悪いとか思わない?」


「思うわけない! それにさ。俺でいいって思ってくれたんだものね。OK。その時は気合入れてデートしよう!」


少年のように喜ぶ彼を見上げて、私は初めて自分が未経験でよかったと思った。


学生時代はずっと女子高だったし、その後も女子大だった。就職して合コンなんかに誘われても里奈や深雪の引き立て役に使われるばかりで出会いなんかなかった。


その結果の副産物なんだけれど… こんなに喜んでくれると思わなかったなあ。琉偉がなにを思っているのか分からないや。


「マジで嬉しいよ! よし、この勢いで仕事片付けてくるから」


「うん。行ってらっしゃい」


顔中にキスを落として言う琉偉の背に腕を回して言うと、琉偉はまた俳優の顔に戻ってしまった。そして、振り返らずに行ってしまう。入れ替わりに麻木さんが私の所に戻ってきて、


「異常に機嫌がよくなったな。深くは聞かないが助かった。普段はああなると時間がかかって仕方なかったんだ。タバコも増えてな」


とため息交じりに言って、お礼を言ってくれたけど詳しく説明できるわけもなくて。私は琉偉が置いていったプロフィールの暗記に集中することにした。


お待たせしました( ^^) _旦~~

第一話です。次回で新キャラ登場する予定。

お得意の三角関係(-ω-;)なのかな?まあ、二人のラブラブ度を楽しんでくだされば幸い。

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