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プロローグ コンプレックスまみれの私と善良な魔女

キャスト

小菅五月:背が高いことがコンプレックス。175センチ。26歳。鍛えればモデル体型だが、鍛えていないのでガリガリ。貧相な暮らしをしている派遣社員。背が高すぎることに加えて、あまり明るいタイプでないのでモテない。なので26歳にして処女。彼氏もできた例がない。メイクも興味がないので顔立ちはそこそこ整っているが、いかされたことがない。


合コン女 大木 里奈 155センチ 24歳

典型的なあざとい系女。自分の魅力を分かっているので可愛く小柄に見せるため、ガリガリで背ばかり高い五月をよく合コンに付き合わせる。が女友達も少ないため、五月はいてくれないと困る。


五月の同僚 滝口 深雪 153センチ 25歳

小柄で可愛い印象だが、中身はさっぱり系で男女ともに人気がある。五月のことも同僚の一人という印象しか持っていない。時々、五月を憐れんで合コンに参加したりするが、異性との付き合いには興味がない。

里奈とは同じ小柄で可愛いモテ系というキャラ被りしているのと小柄で可愛い=あざといと思われるのが嫌で苦手。どっちかというと五月の方が好き。


私は人の集まる席が嫌いだ。タダでご飯が食べられると言われても断るべきだった。…誘ってくれた相手を思えば。


「身長? 身長は155センチで~、姉妹の中では割と大きい方かなあ」


そんなことを言う女はニットワンピースを着こなして、分かりやすくかわいらしくしている。ピンク系のワンピースに白いストールと黒いロングブーツ。明るい茶色に染めた髪もゆるふわパーマだ。…どれも私の似合わない物ばかりでうらやましくないと言えば、嘘になる。


「俺と20センチも違うじゃん! ちっちゃくて可愛いね。お姫様抱っこできるかも」


女の隣を確保した男が肩に腕を回しながら言う。そのあとで何かささやいている。男達はホストのように彼女を囲んでいて、向かいのテーブルには私と人数合わせに誘われた子がもう一人いるだけ。


私は惨めさをビールと一緒に飲み込んだ。


「五月ってば、もっと食べた方がいいよ~。ほら、サラダ取ってあげるし」


目聡くビールばかり飲んでいる私にシーザーサラダを取り分けてくれるけど、彼女が意識しているのは男の方であって私じゃない。…私は体のいい踏み台だ。自分をより可愛く見せるための踏み台。


「家庭的なんだね。自炊するタイプ?」


「そんなにやらないけど、得意なのはオムライスとかハンバーグかなあ」


「いいね~! 家庭的な子好きだよ。里奈ちゃんの料理食べてみたいな」


なれなれしく呼びながら里奈のために唐揚げを取ってくれている。里奈を囲んでみっしり埋まっている向かい側の席と、私しかいなくて広々としたこちら側の温度差が違いすぎて風邪をひきそうだ。



里奈は男たちに囲まれてご満悦で。まるでお姫様か女王様のようだ。実際、そんな気分に浸りたいから男四人に女三人なんてアンバランスな合コンを開いたのだろう。…なんで同じ女に生まれたのに、こんなに何もかも違うんだろう。


「そろそろ帰るね。電車なくなるし」


これ以上ここにいたくなくて。適当なことを言って抜け出す。里奈と話ができなくてあぶれていた男の一人が近づこうとしていたけれど、私が立ち上がるととたんに腰が引けていく。それはそうだろう。私は175センチと女性にしては高い方だ。


「お、送っていこうか?」


「いいえ、大丈夫です。駅まで近くなので」


圧倒されながらも勇気を出して声をかけてくる男を遠慮なく見下ろし、断る。男は四人の中で最も小柄だったことを思い出す。たぶん170センチもないだろう。


私が去っていくと同時に笑い声が広がるのが、余計に惨めさを募らせる。


「ぎゃはははは! 見下されてんの!! だっせえヤツ」


「だから、やめとけって。いくら里奈ちゃんと話できなかったからって、あんな残り物にまで優しくすることないって!」


「黙って俺たちにパシらされてりゃいいんだよ。ビールのお替りよろしく~」


そんな話し声が聞こえてきて、さすがに文句でも言いたくなったけれど、惨めになるだけなのでやめておく。


「五月! 待って、私も帰る」


「あ… 深雪。駅まで一緒に行こうか」


一緒に連れ立って帰ることになった深雪は里奈と一緒で小柄で可愛いけれど、それを自慢にするでもなく自然体で振舞っていて羨ましい。


「里奈の誘いなんて断ればいいのに… 毎回だよね? 合コンの引き立て役」


「合コン代をおごるからって言われたらね。断る理由もないし」


「そこまでしてモテたいかっての!」


と、私の代わりに本音を言ってくれた深雪の言葉に思わず笑いを漏らす。


「なんでも我慢するの、よくないよ」


そう言うと深雪は里奈みたいになられても困るけど~とこぼす。里奈みたいに男を何人も独り占めする私… 想像できないなあ。


「五月は五月で良いところあるんだから、もっと自信持ちなよ」


地味にしている私を見上げて言う深雪でさえ、私を無意識に格下だと思っているから言えるんだ。女の世界にはこういうマウント合戦が日常茶飯事。…背ばかり高くて、流行りの小柄なゆるふわ系になれない私。


そんな私を憐れんで優しくしてくれるけど、同じくらいの身長に可愛い顔立ちのゆるふわ女だったら、態度は違っただろう。


「じゃ、私はこっちだからまた来週ね!」


駅前で深雪と別れて、帰り道を急ぐ。電車の大きな窓に映る自分を見て、忘れかけていた惨めさを思い出す。黒いパンツスーツに白いブラウスとローヒール。髪は伸ばしっぱなしでいつも同じ黒いゴムでまとめているだけ。


化粧もまともにしていない。…里奈も悪趣味だ。ここまで分かりやすい女を引き立て役に選ばなくてもいいだろうに。


コネ入社したせいでまともに仕事のできない里奈は、会社の中でも自由自在に男を使って仕事を押し付けたり、手伝わせたり。


そんな風なので会社でも女性社員からは嫌われ放題。女子の派閥からはのけ者にされている。…それでも里奈は幸せなんだろう。親は親会社の重役で、給料は全部お小遣いにしていいと言われているお嬢様だから。


男さえいれば、女友達なんていらないと言い切ってしまえる里奈。…そんな彼女が唯一困るのは合コンの席で人数合わせでも出席してくれる女子がいないこと。


で、私の出番というわけだ。


ぼんやりとそこまで考えてみて、涙が滲んだ。好きでこんなに背が高いわけじゃない。カルシウムを取らなくても肉魚を食べなくても身長は止まってくれなかった。代わりに胸が育たなかっただけ。


「そこのお嬢さん、いい素材をしているねえ」


不意におばあちゃんのしわがれた声が聞こえてきて、いつの間にか家近くの商店街を歩いていることに気づく。


「え…?」


あたりを見回してみても異常なまでに人がいなくて、街灯だけが通りを照らしている。まだやっているはずのカフェさえ閉まっているのが異常だ。


「そうそう、そこのお嬢さんだよ。あたしの実験台になってくれないかい?」


近づいてくる足音が聞こえて、振り返った先にはどこにでもいそうな割ぽう着に灰色の着物姿のおばあちゃんが歩いてくる所だった。


「あなたは… どちらさまですか?」


「どこの誰でもいいさね。例えるなら、あたしは善良な魔女さ」


「魔女…?」


酔っぱらった頭ではシンデレラに出てくる魔女しか思い浮かばなくて。おばあちゃんが懐から小さな小瓶を取り出す。小さなハーバリウムみたいに、中身がキラキラ光っている。


「あんたにとって幸運と出るのかどうか? ちょっと実験台を探していたんだよ。この世の不幸をありったけ背負ったような若い女ってのが具合よかったのさ」


「どういうことですか?」


「言葉通りさ。これは実験台だからね。特別に無料でいいよ」


そう言いながら私に差し出す。ほとんど条件反射で受け取ったけれど、虹色にきらめいていて飲み込む気になれない。


「さあ、願いを言ってごらん。一心に願いながら飲み込むんだよ」


「私の願い… ずっと好きな人がいます。叶うわけないけれど、理想だった人がいます。その人にならありのままを見てもらえる気がして… 幸せになれる気がしたんです」


言われるまま吐き出してしまう本音。


「どこの誰だい?」


「名前は一宮琉偉と言います。身長が190センチもあるのに、すごいイケメンで優しくて、私の理想の人だと思いました」


「じゃあ、そいつを思い浮かべながら飲み干すんだよ」


頷いてコルクの栓を抜く。フワリと漂ってきたのはひどく甘い香り… 私はその香りに導かれるようにして一気に飲み干した。


喉が痛いほど熱いのに、冷たくも甘くも感じる不思議なものが私のお腹に落ちていくのを感じながら祈る。


一宮琉偉と恋愛してみたい。里奈のような遊びを兼ねた恋愛もどきじゃない。もっと真剣な恋がしてみたい!!と…


「薬の効果はいつまでも効くものじゃない。短くて一か月、長くても三か月程度ってところさね」


「それでもいいです。きっと一生の思い出にできるはずだから」


消えていく老婆に笑いながら返す。悔いはなかった。どうせモテない人生を生きるしかないのだから、一生に一度くらい夢を見たって許されるはず。


むしろ幸運な方だ。そう思いながら私は意識を失った。

今日から始めました( ^^) _旦~~

あまりシリアスにならず、ゆるく進む予定。

中編連載の予定で、今のところは全年齢向けのみ。

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