第七十二話 『悪魔喰らい』~Go crazy! Thy name is Akuma.
鷹城佐重樹、出陣。 ですが短めです。
今、彼 ――逆木 連理の前にはヤクトルビルディングの筆頭株主であり理事のひとりでもある鷹城 佐重樹が、まるで死者の様に立ち塞がっていた。
落ち込み窪んだ目は、何処か不気味な輝きを見せ、かさつき年寄り染みて見える肌は以前会った時より十年以上の時を経てしまったかの様。
着ている高級スーツはよれよれで、革靴もすっかりその輝きを失ってしまっている。
だが一方で、その見掛けからは考えられない程の生命力が彼から漲っているのが判る。 今の連理にはそれがはっきりと理解、判断することが出来た。
これは『悪魔喰らい』によるものだ。 その溢れんばかりの生命力は連理と同じ様に他者から奪ったモノなのだ。
だが、今は……。
「何でアンタが使いっ走りをしてるんだよ?」
彼はヤクトルビルディングの理事だ。 複数人いる役職とは言え命令する立場の人間である。 こんな場所で『中ボス』をする様な者ではない。
「………………使いっぱ……?
…………キミは……何処かで会った、かナ……?」
それは酷くしゃがれた声だった。 何日も水を飲んでいない様な、木乃伊が話している様な、そんな声。
――これが、あの鷹城佐重樹なのだろうか?
外見の面影こそあるが別人だと思った方がしっくりくる、そんな姿だ。 単純に外見だけで言えばリストラされたサラリーマンの方がまだマシな姿をしているだろう。
「半年以上前に、一度だけな」
それでも理由も理屈も察しが付いた。 付いたからこそ訊かずにはいれなかった。
「あれから一体、どれだけの魔物を喰った? 一体、何人のファンタズマを喰ったんだ、アンタは!?」
鷹城佐重樹は『悪魔喰らい』だ。
その事実に気づいた連理は、だからこそ問いただした。 訊いたところで意味のない犠牲者の数を。
「……さあ?」
彼は嘯く様にそう言うが、判っていないのは恐らく本当だ。 忘れる程の数、とも取れるが本当に解っていないのだろう。
――『悪魔喰らい』の素養がないまま魔物を取り込んだ者は、例外なく心を汚染される。
強い意志で、揺るぎない心で抑えていても、それはやがて限界を超えてしまう、そんな渡りきれるはずのない綱渡り。
「十か二十か、ソれとも百か……」
だからこそ彼 ――鷹城佐重樹の自意識は崩れつつある。 波に浚われる砂城の様に、少しずつ少しずつ削られ浚われ、やがて丸ごと失われるのだ。
その結果が恐らく今の状況に繋がっているのだろう。
自意識の失われつつある『悪魔喰らい』は、その事実を知る者からすると、体のいい駒なのだから。
「ちっ」
連理はその答えに舌打ちする。 恐らく正確性は低い回答。 だがそれくらいは喰っていてもおかしくない男。
「…………アンタの攫ったヤツは、奥か?」
「……攫った……?」
本気で解っていない様子なのが腹立たしい。
鷹城佐重樹にとって『アクマ』は攫うと表現する存在ではない。 捕まえる、捕獲する、狩る。 そう表現する相手。
「奥に、いるんだろう!?」
彼という男を理解する。 理解するからこそ腹立たしく、その苛立ちを隠せない。
「……ああ、あの狐か。
確かにいるヨ、少年」
そう言って、鷹城はゆっくりと立ち上がった。
『あの時』の様に、連理を少年と呼び、狂気の双眸を爛々と輝かせて。
「先に行きたくバ……私を倒し、進み給エ……少年」
「大企業の社長ともあろうお方が、こんな場所で部屋の守護者かよ」
構えられる《黄昏》を見て、鷹城佐重樹は不気味な笑みを浮かべた。
「ルームガーダーとは言い得て妙とイウものダね」
先程までの何処かぼんやりした様子は何処へ行ったのか、狂気の瞳に狂喜を浮かべ、嗤う。 狂った様に、狂笑する。
その狂笑と反応するかの様に、部屋の空気が、音を立てて凍てついてゆく。
連理は《黄昏》を軽く振るった。
それは鷹城佐重樹の広がる魔力を喰らい、凍てついた空気は陽に当たった細氷の如く消え去ってしまう。
「私に勝てないでアろウ事を理解出来ていないのカナ?」
その様子を意にも介さぬ様に、彼はかつてと同じ様な台詞を口にする。
連理はその台詞こそが『意にも介さぬもの』だと、そのまま前へ進んだ。 一歩、二歩と足を進め、その狂気の瞳を睨み付ける。
「あの時、オレ達は手も足も出なかった」
初めて彼と会った時、連理とササはふたり掛かりであったにも関わらず蹴散らされた。 刃も炎も鷹城佐重樹に届くものではなかった。
今は違う。
意外と上背のある彼を睨みながら、連理は鷹城のすぐ目の前まで来ていた。 手の届く距離。 膝蹴りだって当てられる近距離。
「それでも今のアンタは怖くない。
いや、アンタ風に言うなら『オレに勝てないのを理解出来ていないのか?』」
激昂したのか、話す連理の隙を突いたのか、鷹城は氷を纏わせた拳を振るうがそれは連理の掌で受け止められた。
「アンタに何があったかは知らない」
その拳を握る。 冷たい、身を切る様な冷気だったが、連理のちからに纏った氷は砕け散り、何処か異質な、そんな素肌に触れた。
「アンタは『そんな』になってまでアクマを、シャドウを殺したかったんだろうが」
鷹城は右手を掴まれたまま左手で、足で鋭い攻撃を仕掛けてくるが、連理は《黄昏》の柄頭で、足でその攻撃を捌き、反対に彼の腹へ回し蹴りを喰らわせた。
「グッ……!?」
「今のアンタは怖くない」
繰り返す、先程の言葉。
「今のアンタじゃ今のオレには届かない」
問答をしている暇は、ない。 そう思うのに彼はこのスレイヤーに言うべき言葉があった。 言わなくてはいけない言葉があった。
「今のアンタは……アクマだ」
「アンタが憎んでいるはずの、ただのアクマなんだよ」
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