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第七十一話 ひとつの決着 ~Barring its fangs at your throat.

 ようやくこのシーンが書けたよ……。 当初の予定では連理の前で、だったんだけど。



 男は、見た目は中高生にしか見えない『少女』の言動に、視線にたじろいだ。 気圧され、(おのの)き、二歩三歩と後ろへ後退する。


 だがそれも当然だろう。

 彼が居た場所は、所詮虚勢だけで飾り立てられた一時の玉座に過ぎない。

 金と名誉で引き寄せられる程度の人員を、思い込みで立てた策をもって死地へ送る事となった愚王。

 どうやったのか、ミサイルを入手・発射した手際は見事だったと言えるかも知れないが……。


 そんな虚構の王に


「……くす」


 鏡子は微笑みを見せた。


 ひび割れた顔で、それでも憐れみを込めて微笑んで見せた。

 その笑みを男 ――乃高忠範はどう思ったのだろう?

 一瞬で激昂し、後退る足を止めた彼は大きく口を開き、


 そこへ――



 黒い獣が飛びかかった。



「がっ!?」


 それは2m近い体長の狸。


 あちこちの毛皮が失われ、全身傷だらけ。 動けているのが不思議なくらいの化け狸 ――刑部(おさかべ) 重護(じゅうご)が隙だらけの姿勢で動きを止めた乃高の首に背後から噛み付いたのだ。


(この臭い! この臭いだ!)


 ――メキッ メキッ……


 その口内は牙も欠けている。 ひび割れた牙、半ば溶けた牙。

 だが、ちからの限り噛み締める。


(ふたりの仇だ! 死ね! 死ね! 死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ね!! 死ね!!! 死ね!!! 死ね!!! 死ね!!!)


 ――パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!



「か……っ!? あ……っ!?」


 乃高の身につけていた呪符が弾ける。 次々弾けて消えていく。 緊急時用の防御符が重護の攻撃に耐えられずに連鎖的に消えていったのだ。


(拙い! このままでは――!)


 彼は素早く呪符を取り出すと、背後の獣の額にそれを貼ろうとして『手元に呪符がない』事に気づいた。


 ――パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!


 驚いている間にも防御符はなくなっていく。 次々次々なくなっていく。


 呪符を出す。


 なくなる。


 呪符を出す。


 なくなる。


 それらの驚愕と恐怖に乃高忠範という男から虚飾が剥がれていく。


「や、止めろぉっ! 止めろ止めろ止めろぉっ!!」


 攻撃の為の呪符も防御の為の呪符も、一枚ずつ失われていく。

 それまでの尊大な態度も鷹揚な姿も、ベールを剥がす様に失われていく。


「やめてくれぇ! まだ……まだ……死にたく、ない……!」


 今まで散々にアクマを、ファンタズマを、人を苦しめ殺し棄ててきた男。 その最期の言葉は命乞い。


 ――パンッ!


 最後の一枚の防御符が弾けた。


「ざまあ」


 その時男の目に映ったのは小さな少女の姿をしたアクマ。 彼はそれが妖精ピクシーだと認識出来たのだろうか?



 ――ゴリッ! メキッ!



 その瞬間、乃高忠範の首は完全にへし折られていた。


 ほぼ同時に獣 ――刑部重護も力尽き、ふたりは折り重なる様に倒れる。


「……おじさん。 けーくんの仇は取れたよ……」


 現れたピクシーは獣の傍に降り立つと、囁く様に言った。

 乃高は生理反応が残っているのかまだピクピクと動いているが、衰弱しきった重護はそんな動きすら見せずに、ただ死んでいた。


「アタシもお兄ちゃんも……随分遠回りしちゃったけど、お手伝い、できたかなぁ」


 ふらっと倒れ込むピクシーの小さな身体には小さな、それでもその身体にはとても合わないサイズの宝石が埋まっていた。

 それはテルムを封印する宝石 ――シグヌムだ。


 少女の身体がぶれる様にふたつに分かれる。 ひとつはそのまま、ピクシーの少女リスタに、もうひとつは大きな透き通った猫に。

 その身体からは、ポロッとシグヌムが落ちた。


 猫 ――たまは生前の記憶をなぞるかの様に、普通の猫の様にぐっと身体を伸ばした後歩き出し、鏡子の元へ。


「久しゅう、雲外鏡よ」


「ええ、そうですわね。 二、三十年振り……かしら?」


 鏡子はとっくに命をなくした、かつての知り合いに微笑みを見せる。

 哀しみは見せない。 憐れみは感じさせない。


 彼女は猫又。

 猫は主人の無念を晴らすモノだ。 その為に生命を投げ捨てる程情熱を持つモノだ。 同情も憐憫も彼女の矜持を傷つけるだけに過ぎない。

 その為に随分と無茶をしたのだろう、この猫又は。

 既に肉体を失った彼女は、もう消えるしかないのだ。


「随分と、無茶をなさった様ですわね」


「無理も無茶もやってみなければ判らぬものよ」


 彼女の主人である高円寺希もその兄である望も、暗示や拷問に加え、薬や夢と言った普通ではない技術まで使われた、全く加減のない『洗脳』の前にその心は崩壊寸前だった。

 ある日を境にその相手(おんな)は来なくなったものの、ただそれで回復するはずもなく、既にふたりはただ食って寝るだけの廃人の様になっていたのだ。


 だから、たまはその『無茶』を決行した。


 希の使い魔(ファミリア)で唯一無事だったリスタを素体に、霊体の自分(たま)が希の呼び水となりその心を半同化、心の死にかけていた望のシグヌムを無理矢理抜き出しそれを通じて望本人の心の欠片も半同化させる、という荒技である。


 そんな事をしても彼女らに出来る事は限界があった。

 だからこそこの場に刑部重護がいた事。

 徳倉鏡子のみならずタツミも彼女らの行動に協力的であった事は幸運であった。

 それは『予見された幸運』でありはしたが、上手くいったのは奇跡に近い。


 彼女たちが行ったのは妖精ピクシーの持つ能力『妖精の悪戯』。


 ちょっとした小物をなくして、忘れた頃に見つけられる、ただそれだけの能力(ちから)だ。 それだってテルム《静寂》があっても抵抗された可能性はそれなりに高かっただろう。

 だが乃高は鏡子に論破され内心動揺していた事、続き重護の継続した攻撃により更に強く動揺を受けた事がその成功率にブーストを掛けた。

 結果、乃高は取り出した呪符を次々と『紛失』し、何もすることが出来ないまま、重護に噛み殺されたのだ。



「雲外鏡よ……」


 たまは置物の様に『お座り』をしたまま、鏡子を見上げる。 二股の尾が、ちからなく揺れた。


「主人らを、頼む……。 わっしでは如何にも止められんかったが、身体はまだ生きておるはずじゃ……」


 たまは疲れ切った声で大妖怪に願う。



 あの時から今日までは酷いモノだった。


 嵯峨野坊とたまが『タタリ』刑部重護の探索に出た時、高円寺兄妹も情報収集へ出かけた。

 当時別行動だったふたりは兄妹がどうしていたかは知らない。 ただ探索中に急に焦燥に駆られたたまが彷徨い歩いた先には、嵯峨野坊と戦う人間の男と倒れた兄妹がいた。


 加勢に入らんとしたたまであったが、その前に天狗は敗北。 たまもそのまま殺されたのだ。

 幸いと言うべきか、たまは死んでもたまとして在ったがそれで何が出来るモノでもない。

 リスタと何とか合流し、隠れ里で主たる者を見つけた時には、すでにその心は壊れつつあったのだ。

 その時、彼女はタタリとなった。

 鍋島の化け猫騒動の様に、主人の怨みを晴らさんと。


「……承りましたわ」


 本来ならタタリは遺恨を断とうが恨みを晴らそうがタタリのまま。 そんな不可逆な存在なのだ。

 だが、今のたまは霊体だ。 膨れ上がった魔力妖力を使い切った霊体なのだ。

 ならば後は消えるのみ、である。

 だからこそ鏡子は自身の身を顧みず、霧散しそうなふたつの心を自らの鏡界(うち)に仕舞い込む。 今にも消えてしまいそうな淡い光をそっと優しく包み込む。


 その光景を見ていたたまは倒れ込みながらも微笑んだ。


「……感謝する……『鏡子』」


「さようなら。 また会いましょう、たまさん」


 すっと、蝋燭の炎の様に消えるたまを見送ると、鏡子はカノンに重護の遺体を持たせると、彼女と共に五歩身を退いた。

 すると数秒と待つ事なく現れたのは、十数枚の呪符だ。 何処からともなく現れ、木の葉の様に乃高忠範の身体に舞い落ちた。

 たまがいなくなり『妖精の悪戯』が維持出来なくなったのだろう。 彼の使おうとした呪符は残さず彼の元へ戻り、


 ――そのまま爆発した。


「がはっ……!?」


 『まだ』生きていた乃高は突然の衝撃に思わず声を上げていた。


 ――蘇生符。


 ただ一枚だけ作ることに成功した、彼の切り札。 死んだ後に効果を発揮する彼の最高傑作。

 まさかそれが効果を発揮した直後に『攻撃』を受けるとは思っていなかったのだろう、彼は驚愕した。 痛みよりも、今だけは驚きが勝った。


「がっ!? ……なっ!?」


 連鎖的に起こる爆発と炎の乱舞。


 一個一個の範囲はそう広くはない。 だがうつぶせ状態で、背中から押し付けられる様な形で爆発されては逃げようがない。


「……ば、かっ……!? な! がっ! そんな!? 馬鹿な!?」


 鏡子はカノンとその死に様を見ながら、小首を傾げていた。


「この様な時は『ざまあ』と言うのが作法ですの?」


 先程の様子を思い返し、そう呟いた。



 たまが高円寺兄妹とも同化を選んだのは理由があります。

 まずリスタだけには任せられない事。 彼女は主人への忠誠心こそありますが、ピクシーという生来の性格と方向音痴という特徴を持つ迷子予備軍ですから。

 そうなるとたまがリスタの肉体を使いたいのですが使うに当たって(たまが案内する、という方法は取りません。直情傾向のタタリなので)その仲立ちが必要になった事。 ここで希の同化が決定します。

 でもリスタの性能ではどんな作戦でも成功率が著しく下がってしまう事。 そこで使いたいのが望のテルム《静寂》です。

 周囲にいる持ち主以外の全ての能力を下げるテルム。

 本来持ち主の死でしか離れないテルムですが、精神的に瀕死であったが故に抜き出すことに成功してしまったものの、それだけでテルムを使う事は出来ません。

 そこで望の心も同化させることで辛うじて一時の宿主となることに成功した、という事になります。


 スレイヤーの攻撃がタツミに通じたのも、それが原因のひとつであったりします。 自分を中心に発動するので最初の内はタツミだけが効果範囲でした(^_^;)

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― 新着の感想 ―
猫又は怖い感じの猫かな? もし、可愛い猫ちゃんだったなら心が痛い……。 (´;ω;`) 蘇生する呪符はロマサガのリヴァイヴァみたいな感じ? (´・ω・`) あれって凄く便利で重宝しますよね〜。 …
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