第六十九話 待ち望む再会の時、不本意な再会の時 ~The Killer of Unwanted Encounters.
状況経過の回なので盛り上がりに欠けます。はい。
神霊とは言葉通り神の御霊、神の霊だ。
神霊 八岐大蛇。
かつて素戔嗚に倒されたとされる蛇神。
だがタツミは生まれ出でた時より神霊であった。 素戔嗚に倒されたとする状態で生まれた蛇神であり、神霊でもあった。
ありもしない復讐心に駆られ、暴れ回る破壊神。
それが当時の破壊神でありタタリ 八岐大蛇であった。
暴風の化身であり、津波の現し身であり、地震の根源であり、竜巻の主、毒あるものの王でもあり、雷を呼ぶ統率者、火山の象徴でもあり、なにより洪水を司る者である。
自然災害を具現化し、かつ人間に敵対した彼は酷く恐れられていた。
そんな彼は後の陰陽師と呼ばれる者達の先触れや多くの武士、まだそれ程多くない妖怪達の協力の下、既に付喪神と化していた『鏡』に封印されたのだ。
彼は鏡を通して幾年幾十年幾百年と、陽の光を浴び、月の明かりを受け、タタリとしては浄化された。 本来であればそのまま『鏡』に食われるはずであった彼は、後に徳倉 鏡子と名乗る様になる雲外鏡に仕えることで『タツミ』としての生を得たのだ。
そんな彼に対し、只人が対抗することは難しい。
鎌首を持ち上げる高さは優に50mを超える。 神話において、八つの谷に股かけた、と謂われたのは伊達ではないのだ。
持ち上げられた鎌首は八つであり死角というモノがあるのかすら判らない。 またそれぞれが自然界の一部の蛇のような熱感知視覚を持っているなら隠れることも無意味。
そんな大蛇に人がどう立ち向かうというのか。
もう一発でもミサイルがあれば何とかなるかも知れないが、そんなモノがまた撃たれようものならタツミは周囲の被害を顧みず迎撃する方法を選ぶだろう。
主を『半壊』させた攻撃に、最早遠慮などする事はない。
それで被害が広がろうと彼の主の温情も知らずに愚を犯すような者達なら、最早知った事ではないのだ。
知り合った者達なら多少は救出の手を差し伸べても良いが、そうでない者達を『主の意向である』からと助けの手を伸ばす程、彼は偽善者ではない。
破壊の神たる本質はそのままなのだから。
彼は八本の首を周囲へ向け、剣呑な雰囲気で出てきた若者達を睥睨する。
その神の風格で。
◇ ◇ ◇
彼は荒く息を吐きながら、それでも下がっていく体温をどうにも出来ずに、ただ周囲を注視していた。
ここにいることで自らの目的を達することが出来ると、ただその言葉を信じ、そこへ潜んでいた。
治らない傷がひたすら痛みを訴えてくる。
全身を苛む疲労は最早限界に近い。
「……はぁ……はぁ…………」
周囲に人が集まっている。
自然荒くなる息を精神力だけで抑えつける。
――ヤツは何処だ――?
まだ近くにはいない。
近くには感じられない。
だから彼は待つ。
ただ待ち続ける。
鬼姫の言葉を胸に、ヤツの来訪を待つ。
そのチャンスを待つ。
残り僅かな命を削り。
最後の一噛みに全てを懸ける為に。
◇ ◇ ◇
――まるでゲームだ。
『敵』の配置を見て、彼がそう思ってしまうのも無理はなかった。
群がる雑魚。
要所の広い部屋で中ボス。
そしてまた群がる雑魚。
一度に来ないのか、と敵のことながらも疑問に思う。
こうなった理屈は解るのだが。
最初が元々警備に置かれていた人員。
あの名も知らぬ中年はそもそも「足止め」と言っていた。
つまり今彼が薙ぎ倒しているのは、準備を終えて出てきた人員なのだ。
だがその中に、これと言った強者はいない。
連理は圧倒的な暴力を振るい、少し冷静になった心の内で考える。
そもそも今回の『死者達の氾濫』への対応、スレイヤーもある程度は了承していたはずなのだ。
彼等が一枚岩でないことは既知の情報である。
つまり、このササの誘拐に関する人員はスレイヤーの一部なのだろう。
そこに鷹城佐重樹などと言う大物がいる理由も、何故ササが狙われたのかと言う理由もまだ判らないが、恐らく動員されている人間そのものが多くはないのだ。
そうだ。
彼を相手取るような強者はいない。
掛居 東誠や真藤 紅のような強者はいない。
普段から弱者だけを相手にしているような、チンピラ崩ればかりだ。 今のところ、あの中年だけが強者。
その思考に納得しながら連理は進む。
扉を開け、時には破壊し前進する。
若干下っていく様な通路は地下へ向かっているのだろうか?
いくつもある扉を開け、中を確認しながら、進む。
もう真面な人員もいないのか、人に会うこともなくなり、低い機械音だけが耳障りに残るようになる。
『祟り鬼』に破壊されたこの施設にそんな機械音がするのは、破壊しきれなかったのか、それから復帰させたのか……。
一見その内実を判断出来る要素はない。
だが、周囲の空気は何処か怨嗟の臭いを漂わせていた。
怨みの声。
復讐の願い。
憎悪の念。
嘆きの想い。
それは実験の末に殺された魔物達の未練なのか、それとも激情に駆られたスレイヤー達の怒りなのか。 どちらにしても一から作り直した場所に残るような空気ではなかった。
醸されたその空気は物理的に臭うモノではないとは言え、正しく腐臭と言えるだろう。
それを感じ取った連理は顔を顰めつつも《黄昏》を振るった。
漂う念の一部が喰われ、一瞬だけ空気が清浄化される。
『今』の《黄昏》ではそこまで大規模な浄化は出来ないのだと、そう理解した連理はそのまま足を進める。
そんな事にまで理解が及ぶようになった自分を、不思議に思いながらも納得して、進む。
少女を、ササを探して。
やがて辿り着いたのは最奥ではないかと思われる大扉だ。 非常に判りやすいそれはどうやら鍵が掛かっている様だが、ただの扉などで最早彼を止めることは出来ない。
――ゴッ!!
体重を乗せた蹴りが蝶番を外した。 まだ壊れはしないが、ゆるゆるになった扉は酷く頼りない姿を晒す。
――ガッ!!
もう一撃食らわせると扉はあっさりと倒れ伏した。
そこにあるのは広めの ――体育館のような空間だ。 と言ってもそれがただの運動施設でないことは明白だった。
金属質の壁。
無数の金属の扉。
そんな壁面に埋まる計器らしき物や無数のカメラ。
これは ――実験施設だ。 そう確信する。
そして、連理の入ったその正面、向こう側の扉の前に設置された一脚の椅子。
そこにはよれたスーツを着たひとりの男。 扉を破壊し入ってきた連理へ、呆けた視線を向けている。
ああ、なるほどと連理は納得する。 椎木さやかがピンと来なかったのも解る、そんな風貌の変化だ。
まるでリストラに遭ったサラリーマンの様な、薄汚れた高級スーツ。
表情は無表情に近いのに、目だけが爛々と輝いている不気味。
かつて会った時の自信満々の微笑みは何処へやら。 幽鬼の様にじっと連理を見つめている。
仲間内からはラスボスと呼ばれた圧倒的強者。
ヤクトルビルディング筆頭理事 鷹城 佐重樹。
八岐大蛇のサイズは20㎞とも19mとも言われますが、前者は流石に大きすぎるし、逆に後者では迫力がないので適度(?)なサイズに抑えました。
それと連理はこの場でレベルアップをしている訳ではなく、以前から堪っていたボーナスポイントを能力値やスキルに割り振りしながら進んでいるような状態です。
小説的に納得しがたいと思った場合は、危機的状況において能力が開花していると思っていて下さい。




