閑話 殺愛
ちょっと待ったあぁぁぁぁ!! もう少し悩ませてくれ、という事で閑話挿入。
「連理ぃ」
ササが連理を呼んだのは春めいた気温で心地良い日の事だった。
「どうかしたか?」
「ちょいちょい、こっちに来るんじゃ」
彼女が悩むでもなくゲーム中に彼を呼ぶのは実は珍しい。
今でこそ何でもやる彼女だが、ゲームというモノに嵌まりだした頃のササは、その特徴的な指の動きを駆使する事が出来なかった為、殆どRPGが専門だった。
そしてアクション性のないRPGというものはひとり用のゲームが普通である。
連理の弟のように、見て楽しめる人間ならいいが、そうでなければRPGの、特にレベル上げなんてモノを見ているのは眠くなるだけだろう。
そんな流れもあってか、アクションゲームをするようになってからも、悩みか愚痴でもなければ彼女の横にいるという事は余りなかった連理である。
それ以外の時間帯では割とベタベタくっついていたりもするが。
「ほれほれ」
彼女の示すのは自身の横の座布団。 その前には2P用のコントローラーだ。
「……オレにもやれと?」
「協力ぷれいとかいう奴じゃな。 出来るんじゃろ?」
画面に出ているタイトルは『バルーンファイト』。
風船をつけたキャラを操り、空を飛び回って敵の風船を割っていくアクションゲームである。
自キャラには大きな風船がふたつ付いており、AボタンまたはBボタンで手を羽ばたき空を飛ぶ。
倒すべき敵キャラには風船がひとつ。
これは高所からの体当たりで割れる。 風船を割られた敵はパラシュートを使い落下するので、そこへ更に追撃を仕掛け水中へ叩き落とすのである。
逆に敵からの攻撃は真横でもこちらが負ける時がある。
何故か敵は蚊のような口をしており、恐らくそれが風船に刺さるのだろう。 敵より高い位置から攻撃することが重要だ。
また水面に近い位置を飛ぶとデカい魚に食べられてしまうこともあるので注意が必要だ。 パクッと食われる。
敵のパラュートが落下しても食われる。 その際に得点はない。
ちなみのこの頃のゲームはエンディングがない、延々と繰り返されるモノが多い。
マリオブラザーズは通常ステージとボーナスステージが只管繰り返され、ドンキーコングでは助けても助けても恋人が攫われる。
パックマンやマッピーはただただ速度が速くなり、スペースインベーダーは多少速度は上がるモノの同じ事の繰り返しだ。
「協力プレイ、ね」
連理はそう呟きながらチラリと彼女を見た。
特にその言葉に裏はないようだが、油断は出来ない。
これは『そういう』ゲームなのだ。
そして、案の定だった。
いや、案の定とは言えないか。
協力プレイが続いたのも途中まで。
敵を躱しフワフワと近づいてきた彼女と、慣性で止まれない彼のキャラがぶつかり、ササキャラははね飛ばされ落下。 水中へ没することはなかったもののパクンと魚に食べられてしまったのだ。
よくある事故である。
よくある事故なのだ。
「おぬし……」
「いや、待て。 ワザとじゃない。 不幸な事故というヤツだ」
「ほう……事故とな?」
そう。
このゲーム、協力プレイは出来るが、1Pと2Pでもお互いの風船を割れるし、風船同士がぶつかると反発力も大きいので、狭い通路のあるようなステージではどうしても衝突リスクがあるのだ。
困ったことに慣性も働く為、協力プレイを意識していても結構衝突する。
敵を倒す時、敵から逃げる時、魚を回避する時など、集中すればする程、近視眼的になり、味方への注意力は落ちるのだ。
「あっ……」
「事故じゃよ、事故♪」
やられたらやり返す、それも世の常というモノだ。
――FIGHT!!
ゴングと共にそんなアナウンスが聞こえた気がした。
これからふたりに始まるのは泥沼の『殺し合い』である。
敵を倒す振りして相手を蹴り、上手く風船を割らずに敵を相手側に吹っ飛ばし、時には低空飛行でおびき出した相手を魚に食わせる。
当然の事ながら最近プレイするようなモノではないものの、連理の方に一日の長がある。
不利なのはササ。
それを悟った彼女は物理的な手段に出る事を決意した。
両手は使っている。
流石にスカートで足を使うのははしたない。
だが彼女には尻尾があるのだ。
幸い連理は室内では靴下を脱ぐタイプの為現在裸足である。
――つまり、
「うひゃっ!?」
「何じゃい、珍妙な声をあげおって」
素っ頓狂な声を出した連理へ、ツッコむササの声色にあるのは「してやったり」。
尻尾の先で足の裏をくすぐられ、大きな隙を見せた連理の2Pキャラをダイレクトアタックしたササ。
連理のキャラは見事にお魚の口へダイブすることとなった。
「……ササ……」
「なんじゃ?」
ふふん、と鼻を鳴らししそうな彼女の見つめながら、連理はコントローラーを手放すと、グワシッと彼女の尻尾を掴んだ。
「んにゃっ!?」
「どうした? 素っ頓狂な声を出して?」
「……ん……んあっ………あん………、おぬ、し……それは、はんそ……く、じゃ……」
別段何処ぞの星の人のように尻尾を握られて云々という弱点はないのだが、逃げられないように捕縛されたそこをくすぐられたり撫でられたりするのは、足の裏をくすぐられるより辛いようだ。
息も絶え絶えの状態で顔を赤くする彼女を見て、流石に自分が『何』をしていたか実感したのだろう。
パッと手を離して、身体ごと顔を背けた。
ササから見えないその顔は、彼女と同じ様に赤く染まっている。
結局コントローラーを手放したふたりはすぐにGAMEOVERになり、画面が切り替わっても暫くそんな感じだった。
「…………これでも手を出さんとか……鉄の意志というより、腑抜けではないのか、此奴……?
やはりわらわから行かんと如何か……?」
この頃のゲームはその繰り返しが楽しかったと思えた……のかなあ?
マリオは60ステージ、マッピーやバルーンファイトは50ステージくらいまで遊んでいましたが、そこまでくると飽きてきて集中力が途切れるんですよね。
そういう無限ステージ以外で、ある意味ファミコン史上最大のステージ数を誇るのは『頭脳戦艦ガル』でしょう。
そのステージ数は30!
えっ? と思うでしょうが、これ必要アイテム(パーツという)が100あり、それを入手する為にその30ステージをひたすら繰り返すというゲームなのだ!
セーブなし、コンティニューなしのシューティングゲームで単純計算100ステージ以上をクリアしなくてはいけないとか、アホか――っ!?
その100個のアイテムを入手してようやくボスステージに突入出来るという鬼仕様。
裏技に無敵コマンドがなければクリア出来ないよ、こんなの。




