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第六十八話 神霊、姿を顕す ~The upheaval begins.

 物語は佳境へ。

 ……………多分。



 皆は戦っていた。


 上坂(こうさか) 朱音(あかね)の戦闘能力、それ自体は決して高くはない。


 しかし十三本一組のテルム《(デフェクトゥス)》とファミリアとして多くの手と目を持てる彼女は、それ程強くない相手との集団戦なら高い殲滅能力を持つ。


 反面、膝丸(ひざまる) 健斗(けんと)は今回の様な対集団において、そのちからを半分も発揮出来ないタイプだ。


 それでも戦うのは本人の性格もあるが、何より人手が足りないからだ。

 荒事を苦手とする如月(きさらぎ) 白亜(はくあ)、争いを避けていたシルヴァーナ・ローニー、自身の能力を把握し切れていない犬養(いぬかい) (つかさ)までもが参戦している。


 そんな中で榊家の両親は藤ノ宮市に派遣中だ。

 ここ花宮市と違い、孝正会もスレイヤーも支部を置いていない為、本社からの者達もいるが、戦闘能力と継戦能力に優れた二人にも足を伸ばす様に頼んだものだ。

 ちなみに未だ幼児化している(さかき) (かおり)は留守番、(しおり)はそのお守りで、念のため犬養家で桜塚守(さくらづかもり) 千夜(ちや)と一緒にいる。

 なにせここには彼女を溺愛する塚本(つかもと) (つむぎ)がいるのだ。 守りは正に鉄壁である。


 孝正会所属のフレデリック・フォートは鈴宮市で戦っていた。

 彼はその拳を振るうストレングスでありメディウムだ。 使役する者達は戦闘系がメイン。 一騎当千、とは言わないがこの程度の『死者』に後れを取る様な男ではない。


 スレイヤー渡来(わたらい) (あや)は結局犬養 宰と一緒の道を歩むことにしたようだった。 最近はスレイヤー支部には身体調整でしか行っていない。 そんな彼女は宰の背を守るように戦う。


 同じくスレイヤー来嶌(くるしま) 慈尊(じそん)はあれから戦うこと自体から身を退いていたが、それでも今、そのちからを振るっていた。


 彼ら以外の日崑孝正会もスレイヤーも、例え手を取り合うことはなくとも無言で同じ目標を見据える中、




 ――Jアラートが不気味に鳴り響いていた。



◇ ◇ ◇



 徳倉(とくら) 鏡子(きようこ)は空を飛ぶ。

 音速を超えるスピードで花宮市に襲い掛かる弾道ミサイルの元へ。


 彼女は妖怪・雲外鏡。

 永きを『神』として在り、崇められた神鏡だ。

 生命を得て、心を得て、永きに亘りちからを得た『神の器』である。


 鏡は映すモノ。

 現実を写しとり、過去を写し取り、魂を映すとも言われた。

 占術では遠く未来を写し見て、己の影を見据え、死すら預言した。

 祭具として使われてきた鏡は神に通じ、彼方と此方を分ける異界の入り口でもあった。

 故に彼女は自身(かがみ)の中に『異界』を持つ。



 弾道ミサイルが地上に達する前に、ビルよりも高い位置で鏡子はそれと対峙し、妖怪としての姿を顕現した。

 そこに在るのは、雲を取り巻くそれ程大きくもない銅鏡だ。 何の変哲も無い古代の鏡に見えるが、その形状は真円であり、鏡でありながら自ら異質な輝きを放っている。


 彼女がその姿を顕した瞬間、弾道ミサイルと銅鏡は衝突したかに見えた。

 が、巨大なミサイルは焼けたフライパンに落としたバターのようにその姿を消してしまった。 まるでそこにその巨体が入るだけのポケットがあったかのように。


 その直後に鏡は鏡子の姿を現したが、彼女はそのままゆっくりと墜落した。


 舞い落ちる一葉の様に。



◇ ◇ ◇



「随分と来るのが早いじゃないか、少年?」


 広い部屋の中、足を進める連理の前に現われたのはひとりの中年。 鷹城佐重樹より幾分年上に見える様な男だった。

 彼は一本の長剣を手に苦笑しながら連理の前に立ち塞がる。


「全く……全然準備が整わないうちに来ちまうんだもんな……。 お陰でひとりで足止めだよ」


 戯けた様に語るが、そこに油断はないように見える。 視線は切らず、動きは止めず、ゆらゆら、ゆらゆらと留まらない。

 そのくせ連理の進行を的確に止める位置取り。


「……退()けよ」


 構えられる《黄昏(クレプスクルム)》。

 先程の雑魚とは違う相手だ。 鎧袖一触とはいかない、明らかな強者。


退()くのはそっちだよ、少年。

 俺はさ、なるべく人間を殺したくはないのさ。 ましてや弟子達と同じ様な年頃の子どもじゃあな」


 不思議と気弱な微笑みを向ける男。 恐らくは本心だろう。

 だが受け入れられる提案ではない。

 到底、受け入れられない。


「巫山戯るな。 人を攫っておいてその言いぐさか」


「ヒト、じゃあない、だろ? ファンタズマ……魔物だ。

 だからさ、諦めて帰ってくれるとありがたいんだ」


「『だから』? 魔物だから? ファンタズマだから? だから諦めろ?

 くだらない事ぬかすな」


 連理の口から冷淡な音が漏れる。


 冷気すら漂わせる声色と燃え盛るような憤怒が、まるでタタリの様に不気味なオーラを醸し出す。

 重くなる空気に男の顔色が変わった。


「――言い方が悪かったのは謝る! だがこの先に進んでも良い事はないぞ!

 ヤツに利用されるか、喰われるだけだ!」


 その謝罪も多分、本心。


 ――いつの間にこんな事が解るようになったんだろうな?


 そんな思考が頭の片隅に生まれた。

 だが、だからといってすべき事に変わりはない。


 百の、千の謝罪なんて要らないのだ。 取り返すものは彼女だけ。


「解るだろう? オレは急ぐんだ」


 肉体性能に任せた刹那の踏み込み。 そこからの一閃。


 狙うのは ――首。

 しかし男の長剣はその剣撃を巧みに逃がす。 もっとも今の連理はそこからでも反応出来るのだ。 打ち上げられそうになった《黄昏》を瞬時に切り返し、打ち下ろしながら『ぶれて』現われた前後の刃を打ち放つ。

 都合三つの刃に襲われながらも男は《黄昏》を打ち払い、ぶれた二つを躱してみせた。

 連理はそれを確認せずにとっくに連続攻撃の態勢だ。 躱す先を予測して一閃、また一閃と攻撃を積み重ねる。

 時折現われる『ぶれた』刃は酷く躱しにくいはずなのに男は殆ど攻撃を受けずにいた。 当たっても掠り傷が精々だ。

 この戦いにくさは掛居東誠と同じ、正規の訓練を受けた特有のものだ。 こちらのちからを流し、自身のちからへ乗せる。


 それに気づいた連理は一度後退する。


「……お? 諦めてくれたかい?」


 軽く言う男へ更なる敵意の視線を向け、一度深呼吸した連理はギアを一段階上げた


 と言っても今まで手加減していた訳ではない。 これからは無意識に抑えていた消耗を、全く厭わないレベルで戦うと言う事だ。

 高速の踏み込みと後退、左右への動きは残像が残るようなものになり、剣閃は『伸びる』上に『ぶれ』も増える。


 そんな殆ど別人の速さと勢いに、男は初めて焦りを見せた。


 数合刃を打ち合わせたものの、直ぐに後退する。


「――ちょ!? ちょっと待った!!」


「待たねえ」


「降参! 降参するから!!」


 自らのテルムを引っ込め、降参する意思表示として諸手挙げ。

 そうは言ってもハンターならテルムの出し入れは自由自在。 意思の表現としては的確でも無抵抗の徴にはならない。


「……巫山戯てるのか? ここまで邪魔して、降参だ?

 それで、そのまま先へ進んだら後ろから挟み撃ちか?」


 刃を向けたまま前進する連理に男は苦笑するしかない。


「信用ないねえ」


「信用する理由がどこにある?」


 とは言え流石に連理も、刃を交えている最中なら兎も角、『停戦』状態の相手を一方的に斬りつけるのには躊躇いがある。

 いくら胡散臭い相手でも、だ。


「ま、それもそうだ」


 そう言って男は連理を大きく迂回し、彼の入ってきた方向 ――入り口の方へ走った。


「わざわざ追い掛けたりしないでくれよ?」


「……ちっ!」


 追いかけっこになったら、本当に時間の無駄だ。 八つ当たり気味に剣閃を『飛ばす』連理だが、それは男のテルムに止められた。



「それでもさ、さっきの忠告は本気なんだ。 進まない方がいい。

 言っても無駄なんだろうけどさ」



◇ ◇ ◇



「姫様!!」


 カノンが悲痛な声を上げ、落下する鏡子を拾い上げた。

 彼女の姿は普段現す時とは違う四本腕の鬼女のモノになっている。 浅黒い肌の鬼女だ。



 鬼女ターラカ。


 タ-ラカとはインド神話において複数出てくる固有名詞である。

 ある神話ではアスラのひとりであり、ある神話ではヤクシニーのひとりであり、古い神話ではブリハスパティ神の妻の別名であるともいう。


 しかし、カノンは鬼女ターラカという種族のひとりとして生まれた。 その意識を得た。 それは、それらの『ターラカ』の混ざり合った存在と言ってもいいだろう。


 彼女はクロより年嵩な程度の若い個体で、だからこそ鏡子の眷族の中では格段に弱い。

 元から怪異として強力な存在であったクロより、永きを生きたソラやクウより。

 だが一方でそのポテンシャルはタツミに匹敵する。



 そのカノンに抱きかかえられた鏡子は、全身に(ひび)の入った様な姿になっていた。


 鏡面という自身の『中』にミサイルを仕舞い込み、そのまま爆発させた鏡子へのダメージは計り知れない。

 広大な鏡面世界を内に持つ彼女でも、そこはあくまで閉じた世界に過ぎない。 閉じた空間で爆発が起これば、爆風や衝撃波の反射と、その反射波と元の衝撃波が衝突するコトによって起こる増幅、閉鎖空間における衝撃の集中化などにより、本来よりも凄まじい威力を発するのは彼女の『中』でも同じだ。


 お陰でその世界の『壁』である彼女は通常の爆撃よりもずっと大きなダメージを受け、鏡面へ封印されていた魔物達は殆ど全てが消失した。


「姫様! 姫様!!」


 カノンの悲痛な声に、鏡子は瞼に隠されていた玻璃の瞳を見せる。


「……その様な声を出さずとも聞こえていますわ」


 傍らにはいつの間に降りてきたのかタツミの姿もある。

 そんな三人を囲うように現われたのは多くの剣や槍を持つ人間 ――確認するまでもなくスレイヤー。


「この事態の中、詰まらぬ事をするものダナ! 殺戮者共ヨ!」


 声を荒げるのはタツミ。

 その巨体を不気味に脈動させている。 それは決して怒りに身を震わせているだけではない。


「雲外鏡ヨ。 こちらは攻撃を受ケタ。

 これでもう、善イナ?」


 タツミはその貌を半ば蛇のようにし、鏡子に問うた。


「……後はタツミさんに任せると、言いましたわ」


「承知」


 ――ボコン


 その言葉の終わらぬうちに、巨体が膨らむ。


 ――ボコ……ボコン


 湧き出るマグマの気泡が弾けるように、それらが溢れ出すかのように、音を立てて膨らむ様子は異常。


 ――ボコボコ……ズルッ……ズ……


 その肉塊はビル程にも大きくなり、腕を伸ばすように突き出る上方へ肉が八本、下方へ八本。

 その上方八本の肉はそれぞれが裂け、牙を生やし舌を生やし目を見開くと蛇の首へと変わっていった。


 そこに顕れたのは怪物でありながら神格を持った魔物。


 かつて滅ぼされたはずの八本の首を持つ蛇神。



 神霊 八岐大蛇(ヤマタノオロチ)――




 と言う訳でカノンとタツミが正体を露わに。

 神格持ち候補と神格持ちですね。

 タツミは『破壊神』という神格を持っていて、それが前回のセリフに繋がっています。


 ちなみに考正会本部は誰も残っていなかったので壊滅しています。 被害は社屋だけですが。

 高円寺 希自身は壊れた社屋を脱出した時点で暗示 ――というか言われた命令が終了したため、そのまま倒れました。


 そうそう。

 連理の前に立ち塞がったのはBlue,Blue,Rainy Daysに出て来た川中島というオッサンです。

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― 新着の感想 ―
朱音……そういやそんな娘も居たなぁ……。ササの方がインパクト強くて空気化している気がする。 (・–・;)ゞ 鏡子の戦いはド派手ですね〜。 ミサイルとかめちゃ映えるじゃないですか! (´⊙ω⊙`)! …
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