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第六十七話 巫山戯るなよ ~Falling from my hands.

クライマックス手前の、何処か落ち着かないような曲が流れてく感じ?



 (れんり)が違和感を覚えたのは、退魔師の青年らを見送り、暫くしてからだった。


 少女の言った通り、死者達の出現数が減り、やる事も減り、余裕の出てきた人々が動画や情報をネット上に晒し始めた頃である。


 それは何処か、強い緊張を覚えた時の様な、妙に腹の重くなる様な奇妙な感覚だった。

 今まで彼の感じた事のない、不快感。 一番近いのはやはり緊張か。

 胃が重くなる、心臓が鷲掴みにされる。 そんな表現の合う、しかしそれではまだ足りないレベルの異質な不快感。


「……………………ササ?」


 何故か口に出た、仙狐(しょうじょ)の名前。


 その瞬間に渦巻く感情の名は不安。


 直ぐさま彼女に電話をするも、1コールした直後に『電波の届かない場所に~』というメッセージが流れ出す。



 連理は駆けだした。


 ササの担当区域となった場所はそう遠く離れていない。 学校スタート学校ゴールの三町内である。 狭い訳ではないが広大という範囲でもない区画だ。

 だが、どう走っても彼女の姿を見つけられない連理が発見したのは、アレクで受け取った飾り気のないスマートフォン、それが破壊された跡だった。


 周囲には人はおらず、明らかな戦闘痕だろう、焦げたブロック塀やひび割れたアスファルト、刺さる氷の槍が見える。

 死者との戦いではこうはならないであろう、過剰攻撃。

 今のこの状況で襲いかかってきたのだろうか? 相手は……スレイヤー、か?


「――くそっ! 巫山戯やがって!!」


 焦げたコンクリートブロックを怒りに任せて叩き壊し、ほんの少し気を晴らしたところで周囲に視線を向ける。

 戦闘で出来た破壊の跡。 偶に零れる血は彼女のものか襲撃者のものか。


 幸いな事に死体らしいものはない。

 彼女の様な存在はもし死んだら死体が残るはずだ。 そんな思考にすら歯がギリリッと軋みを上げる。 拳が固く握りしめられる。


「くそっ!!」


 地団駄を踏む様にアスファルトを踏みつける。 歪む地面を見つめ深呼吸。


(落ち着け……落ち着け……)


 自己暗示の様にその言葉を繰り返す。 ここで狂った様に暴れても何にもならないのだ。

 逃げているのか、何処にいるのか、そもそもどうなっているのかすら、全く不明。 その解析もしないうちに何もかもを壊してどうすると、荒い息をひたすらに抑える。


「……あなた、あの小さな女の子の知り合い?」


 少し離れた場所からそう声を掛けてきたのは若い、とは言っても連理とそれ程年も離れていなさそうな女性だ。 大学生か社会人か、それは解らないが多分年上だろう。


「何か知ってるのか!?」


 連理の手加減なしの急接近で彼女は大きく仰け反る。


「!?

 ……え、ええ。 長い金髪の華奢な子よね?

 彼女の魔法?っぽいので助けられたのよ、あたし」



 死者に襲われた彼女 ――椎木(しいのき)さやかを助けたのはササで間違いない様だった。


 だがそんなササは、三十路手前くらいの青年ともおじさんとも取れそうな男と戦いになり、そのまま攫われたという。


「――巫山戯るなよ! くそっ!」


 感情のまま繰り出される拳が再びブロック塀を打ち砕く。 元々あった戦闘痕とも相まって、この周囲だけは戦争でもあったかのような有様である。


「ちょっと!? 器物破損!!」


 さやかから場違いな忠告(ツッコミ)が入り、冷静さを取り戻した連理は気づいた。


「攫われた? あいつが?」


 今のササは単純な肉体能力だけで言ってもかなり高い。 連理の《悪魔喰い》とササの吸精の好循環のせいなのだが、いざ加減を間違えただけで掴んだ相手の骨を軋ませる程度には力強い。

 そんな彼女を捕縛出来るなど並みの人間ではない。


「そうなの。 殴り合いと魔法?のぶつけ合いって感じだったけど、おじさんの方がずっと強かったみたい。

 ……あれ? そう言えばどっかで見たような顔だったかも?」


 そう言われると連理にもピンとくる人物がひとり浮かぶ。

 メディアに頻繁に露出し、一般人にも顔が知られており、かつて仲間内から『ラスボス』扱いされた、圧倒的戦闘力の持ち主。


「……ヤクトルビルディングの社長、鷹城(たかしろ) 佐重樹(さえき)、か」


「あ、あ~、そうだったかも。 なんか写真とかと違って随分くたびれた感じだったけど」


 そう言いながら彼女はまるでボブルヘッド人形のように首を上下させる。

 その後、ササは男に抱えられいなくなったという。


「……ごめんね? あれはあたしにどうにか出来る感じじゃなかったのよ」


「……いや、ヘタに手を出したら一緒に攫われてたかも知れない。 教えてもらって助かった」


 体中から湧き出る怒りを何とか抑え、連理は淡々と言葉を返す。


 彼女の指し示した、鷹城佐重樹の去った方向にも心当たりがあった。

 『大切なモノを無くした時は研究所跡に行きなさい』と、そう電話越しに口にした、顔も知らない鬼姫。 彼女には近いうちに菓子折でも持っていく必要があるだろう。


 だが、それは全てが終わってからの話だ。

 踵を返そうとして、ふと気になった連理は椎木さやかを見た。

 多分、ワイズマンでもファンタズマでもない一般人の女性。


「そう言えば、なんでオレがササ ――攫われたアイツの関係者だと思ったんだ?」


「その壊されたスマホ、大事そうに持ってたからそうかなって」


 昔から勘がいい方なんだ、と彼女は続けるとそっと微笑みを見せた。


「早く行きなさい、王子さま。 お姫さまがあなたを待っているわ」


「王子なんてガラじゃねーわ」


 答える、というより自嘲するように呟き連理は駆けだした。


 一方で連理のちからやササの魔術、鷹城佐重樹の暴力を目の前にしたにも関わらず、彼女は何処かおっとりとした感じのまま、極普通に彼を見送る。


「……十分に『王子さま』してると思うわよ?」


 言って、彼女も踵を返す。


「あ~あ、彼氏ほし~」



◇ ◇ ◇



 研究所跡 ――いや、元研究所跡というべきそれは郊外にあった。 更地にされたはずの場所に、以前よりも小さな、しかし丈夫そうな建物。

 普段ならタクシーなりバスなりで簡単に行ける場所だが、現在は『死者の氾濫』の為、公共交通機関等は止まっていた為、徒歩、と言うか走っての到着である。


 本来なら規制線が貼られ、立ち入りにも制限が掛けられるであろう、実験施設の周りには分かりやすく人員が配置されており、如何にも「何かしてますよ」と訴えている。


 ここでその人員が何らかの警備員的な服装をしていれば流石の連理も躊躇っただろうが、彼等はどう見てもチンピラやそれ系の姿をした『スレイヤー』だった。

 警棒なら兎も角、槍や剣を持った警備員など中世か異世界にしか存在しないだろう。


 だから連理は躊躇せずテルム《黄昏(クレプスクルム)》を手にする。


 ただ一本の刀を手に向かう彼に気づいた何人かが警戒態勢を取るのが見えた。


 驚く者。

 誰何する者。

 脅しを掛ける者。

 即座に敵対する者。

 統一されてないバラバラの『群れ』が、死者のように立ち塞がろうとする。


「――邪魔を……するんじゃねえぇぇぇぇぇ!!」


 吼えた連理に、彼等は一瞬その身を竦ませた。



◇ ◇ ◇



「……随分と思い切った、考え無しな手段に出たものですわ」


 斜路支店の上空に浮かびながら、徳倉鏡子は呆れるように呟いた。

 遙か『上』から降ってくるモノに、Jアラートは鳴りっぱなしだ。

 ご丁寧に迎撃システムにも手を加えているのか、そちらが動く気配も無い。

 ――ミサイル。

 所謂弾道ミサイルと呼ばれるそれは、大気圏の内外を、弧を描いて飛ぶ対地ミサイルである。

 主に高価で迎撃が難しく、一方命中精度は低いとされているが、その進路は見事にこちらを向いていた。


 今迎撃してしまうのが恐らく自分達にとっては安全なのだろう。

 弾頭に積んでいるのがもし核で、それが上空で爆発したとしても、彼女やその眷属達にとっては影響など無いに等しい。

 だがそれは彼女だからこそのモノ。 そうでない者達にとって核の影響は深刻だ。


(……わたくしがそうするというのも織り込み済み、なのでしょうね……)


 手段はある。

 それで彼女が耐えきれるかどうかは、恐らく五分。


「わしが飲み込むという手もある」


 横で言うのはタツミ。

 その巨漢はいつもよりも何処か異形の様相でそこにいる。


「弾頭が何かまでは判りませんけど、タツミさんでは恐らく耐えきれないでしょう。

 わたくしが行きますわ。

 その後は貴方に任せます。 事が終わるまでカノンさんはわたくしの護衛を」


 本来、鏡子は護衛を必要としない。


 荒れ木三度Loss最強の大妖怪。 神の器たる『神格持ち(ディエティ)』。

 それが高々『天へ至る者(ハイランダー)』へ護衛を頼むというのはある種の異常事態だ。 逆の言い方をするならそれだけの弱体化が見込まれるという事でもある。


「……姫様……」


 今ここにいる鏡子の眷族はふたりだけだ。

 後の者達は街中に、他の市に散っている。 今すぐここへ戻ってくると言うのは不可能だ。


「全く、忌々しい。 剣呑な気配を纏った者共がコソコソしておるというのに」


 鏡子は『専守防衛』主義だ。 多少苛つくもののタツミはそれを守り、相手の出方を待つ。


「わたくしの遣り方に倣う必要はありませんのよ?」


 微笑む鏡子は『蛇』の様相を見せつつあるタツミへそう告げる。

 専守防衛でなくても良いと、攻め入っても構わないと暗に告げている。


「舐めるな。 神格を持つ者が眷族(かぞく)の遣り方にも従えんなど恥以外の何者でもないわ。

 貴様は好きなように遣るが良い。 わしらは其れに何処までも従うのみよ」


「……有り難う御座います、タツミさん」


「……だが、死ぬでないぞ? 貴様が死ぬなら、わしは本来の性分のままで在らんとするぞ」


 それは小さな脅し。


 鏡子が死ねば、自身はかつての破壊を繰り返すとそう告白する。 だから死ぬなと、強く願う。


 鏡子はやはり微笑みを浮かべたまま、無言でその高度を上げた。




 意味なく『椎木』姓キャラの登場! 解らない人は「大好きを入れたカレー」を読もう。 まあ前述した通り、解っても意味はないが。

 多分、姉妹か従姉妹。


 最初は連理と鏡子の二面構成にするつもりはなかったんですが、連理終了→鏡子開始にしてしまうと、時間軸がどうであれ鏡子のシーンがクライマックス! に見えてしまうなあ、と思いこの様な形に……。

 逆にしても「あれ? 主人公が何処に行った?」になるしねえ……。

 だがこの構成は……忙しない。

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