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第六十五話 変革する世界 ~黄泉比良坂~

 あ……、しまった。 こいつ同名キャラになってら。 だがそのまま突っ走る!



 逆木連理の前に現われた青年は、自身を父の弟弟子と名乗り握手を求める様に手を出していた。


 そう言われてもそもそも父は何の弟子をしていたのだろうか? それすら解らないし、聞いたことがない。


 それにシャーマン?

 以前、アレクで聞いたのは「『神降ろし』という技法で契約した魔物を自身に憑依させる事が出来る」ヘレティック……だったはず。


「あ~、もしかしてその辺の事情はあまり聞いていない、かな?」


 寂しげに佇む右手を引っ込め、葦原響を名乗る青年は自らの頬を掻いた。 そこにある表情は苦笑。


「ええと……はい」


 とは言ってもこの青年、連理の目から見て、そう悪い人間でも珍妙な人間にも見えない。 まあ連理の勘などそう当たるものでもないのだが。


「でもよくオレがそうだって解った……解りましたね?」


「別に畏まる必要はないよ。

 弟弟子って言ったところで直接の面識もないくらいなんだ。 師匠はウチの祖父だったしね。

 ちなみに君がそうだと思ったのは、きはたさんの先見のお陰だ」


「弟子って、何の弟子なんですか?」


 まだ下手に話す連理にまた苦笑しつつ、響は応える。


「生きる為の弟子、かな? 当時の賢治さんは見鬼の能力に目覚めたばかりだったそうだからね」


 見鬼は言葉通り『鬼』を見る能力だ。

 とは言ってもこの『鬼』の示す範囲は広い。 今で言う魔物全般を指す言葉。

 連理の父・逆木賢治がワイズマンである事を決定したちから。


「……ヒビキ」


 傍らの少女が話に割り込んでくるが、それは忠告だ。 『校舎側』からやって来る死者が見える。

 その数は多い。


「……この辺りは朝のうちに片付けたはずなんですけど……」


 早朝に、である。

 人目に付かないうちにササとふたりで倒したのだ。


「……それは仕方がない……。 この辺りは黄泉比良坂(よもつひらさか)が近くなってしまったから……」


 少女がそう教えてくれるが、連理は今ひとつ解らない。

 授業で習うことのない、一応は専門用語であろうから、知らない人間はまあ知らないだろう。

 ゲームをやっているとフレーバー程度で出てくる場合やひとつのダンジョンとして登場する場合もあるのだが……。


「よもつ……えっ?」


「……黄泉比良坂。 あの世へ下る道。 この世とあの世の境目……」


 そこから出現していれば『死者』の数は殆ど無限と言えるだろう。 倒しても倒してもキリがない。


「そんなものがここにあるんですか!?」


 ここの近くにある『門』は、連理の迷い込んだものだけのはずだが、知られてないモノががあったのかと驚愕する。


「……本来は此処にはない……。 黄泉への『門』が壊され、異界と近い此処に繋がってしまった結果……」


「……つまり、新たに出来た『門』?」


「ま、そんな感じかな。

 その辺は心配しなくてもいいよ。 それを塞ぐ為に来たんだ」


 響は少し緊張した様な、先程よりほんの少し堅い口調でそう言った。

 その口調だけで、その行為の困難さが伝わる。


「……何か、手伝えることは?」


 近寄る死者を打ち砕き、連理は特に意識せずそう言っていた。


「こちら側を、街を守っていて欲しい」


 彼は考える様子もなくすぐにそう答えていた。

 最初からふたりで解決するつもりだったのだろう。 少女の方も特に異論はなさそうだった。


「――逆木 連理。 荒れ木三度Loss(アレキサンドロス)所属です」


 まだしていなかった自己紹介を、死者を倒しながらする。


「改めて、葦原家当主、葦原 響だ」


「……神巫(かんなぎ)香久夜(かぐや)……」


 三者三様に戦いながらの自己紹介。



 連理は現状、テルムを使わずに素手で豪快に。 どうせ死者を相手にフェイントなど意味はない、と兎に角間合いに入った相手をぶん殴る。


 響は小太刀で素早く的確に動く。

 鍛えられた肉体のイメージとは裏腹な、スピード重視の動きだ。

 それでも時折見せる横薙ぎは鋭く力強い。 複数の死者の間合いを見切り、小太刀という短めの刃であるにも関わらず同時に撫で斬っている。


 香久夜は華奢な外見からは考えられない程、大きく刀を振るう。

 だが、決して力任せという訳ではない。 それは重さと遠心力を利用した術理なのだ。

 動きを止めずに振るい続ける事で、腕に掛かる疲労を軽減している。



「それで……『門』の場所は解るんですか?」


 まるでゲームの様に湧き出てきた死者達を倒しながら、問う連理。

 いい加減、多くなり過ぎた敵に、《黄昏》を使い始めた彼だ。

 問われた響が少女に顔を向けると、彼女は小さく頷いた。


「多分解る……が、ちょっと増えすぎたな。 押し通ってもいいんだけど……」


 青年は呟く様にそう言うと、軽く後退した(バックステップ)


「ふたりとも、ちょっと下がってくれ」


 香久夜は何やら知った様子で素早く後退。

 それに釣られる様に連理も後ろへ下がる。 そんな連理へ、響はまるで師であるかの様に言う。


「これが、シャーマンの戦い方だよ」



「アヤ、ちからを貸せ」


『承った』


 青年の声に、何処からともなく聞こえたのは女性の声。

 響と同位置から聞こえた様な声に連理が頭を巡らせると、彼と重なる様に妙齢の女性の姿が浮かび上がっている。


 それは女性と言ってもただの人ではない。


 白い肌、金の髪、金と銀の瞳をした ――狐だ。

 彼女が響とその姿を重ね合わせると、彼の周囲が一瞬炎に包まれる。 その、炎のオーラとでも言えそうなそれは彼の持つ小太刀に収束した。


「『――祓い』」


 そのふたりの声と剣閃が重なる。

 振られた小太刀から伸びた炎の刃は燃え上がり膨れ上がり、精々1m程度の範囲内で振られたにも関わらず、一気に広がると校舎前にいた死者達を残さずに焼き尽くしていた。




「わらわは天狐、名はアヤ。

 葦原、というか此奴を護るひとりじゃ。 以後よしなに」


 幽霊の様に見える狐の少女は、何事もなかったかの様にそう言った。

 先程見た時とは違い、外見年齢はササとそう大差のない年齢に見える。 中学生か、ギリギリ高校生くらいの外見。


 だが『天狐』というのであればそんなササの『仙狐』より上の存在である。 鏡子の眷族たるセンリと同レベルの存在だ。

 なるほど、響との協力の成果であろうが、広大な敷地を一瞬で焼き払うなどササにはまだ出来ない芸当だろう。

 死者達はそれ程丈夫な体躯ではない、といってもちょっと火で炙られて倒れる程脆い訳でもない。 それなりの威力はやはり必要なのだ。

 その威力を保持したまま、直線距離で50m程も焼き払うなど、驚異的以外の何者でもない。 しかも校舎には殆ど影響がない様子である。


「あ、はい。 逆木連理、です」


 恐らくササよりも年上であろう彼女だから、敬語。


「ところで逆木君。

 ここの『門』はどの辺りにあるんだ?」


 そう尋ねるのは響だ。

 問われて連理の脳裏に思い浮かぶのは、ササと出逢った隠れ里。 鏡面の学校から続く小世界だ。


「三階の、あの角の教室ですね。 夜だけ開くタイプで、人が通れる様なサイズには滅多にならないとか」


「そうなると……あの辺りか……。

 誰も入り込んでいなければいいけど」


 歩きながらそう呟く青年へ、あっと驚きの視線を向ける連理。


 そうだ。 新たな『門』があの『門』と同じ性質とは限らないのだ。 ゴールデンウィーク中とは言え、学校へ来る予定の人間はいるはずだ。

 早朝に彼がこの辺りを解放したが故に、誰かが入り込んでいてもおかしくはないのである。

 連理のその様子を見て、年下にしか見えない少女が口を開く。


「……気にしないで、と言っても貴方みたいな人は気にするんでしょうけど、余りに気にされると此方がいたたまれないわ……」


 何処か困った様に言う香久夜は、本当に肩身が狭そうだ。


「まあ……ね。 元凶が別にいるとは言え、僕達が上手くやっていれば防げた可能性はある事象だし」


 躊躇いつつもそう言うふたりの表情は複雑だ。 この『告白』が誠実さであるのと同時に逃げである事も解っているのだろう。

 連理の失敗を意識させない為に正直に語る誠実さ。

 世界の常識を書き換えかねない、その一件を秘密にしきれない弱さと、いたたまれなさからの逃げ。 それと……。


「……それで?

 時間も押しておるのに今更責任の所在を求めておるのかえ、ぬしら?」


 そう言ってきたのは響に重なる様に姿を見せる狐。


「其れともこの土壇場で怖じけついておるのか、葦原の当主とも在ろう者が?」


 その呆れる様な表情は苦笑の様で、嘲笑の様で、何処か挑発的だ。


「わらわが慰めてやろうかの? 慈母の様に女房の様に此の胸に包み込んでやろうぞ」


「……いや、お前胸ないだろ?」


 それは物理的にいないという話ではなく、単純に見た目の話だ。 そのふくらみは流石に少年と間違えるレベルではないが、香よりもササよりもなだらかだ。


 響のそんな、割と容赦のない言葉にアヤと名乗った狐は驚愕に目を見開き、そのまま姿を消した。

 解りやすく道化を演じた彼女に、主たる青年は苦笑を禁じ得ない。


「…………その辺りの事情は後でゆっくりと聞かせて貰いますよ?」


 少し弛緩した空気に、響と同じ様に苦笑する連理はそう言って足を止めた。


 ここから先、彼等には彼等の戦いがある。


 渦巻く様に空気のうねる『そこ』にあるのが、香久夜の言う『黄泉比良坂』。 通常の『門』とは明らかに違う異界への入り口は、連理の教室だった場所の、ほぼ真下。 校舎の壁に食い込む様に存在していた。


「そうだね。

 帰ってきたら話すよ」


 人の良さそうな青年は、そう微笑むと何の躊躇いもなくそこへ踏み込んだ。 家の玄関に入る様に、何の気負いもなく。


「……ここには結界を張るから誰も出入りが出来なくなるわ……。 それでも死者は他の隙間から這い出てくると思うから、後は……頼みます……」


 白い少女も青年の後を追って、その異界へ入り込む。


 言葉通りなら坂道なのだろう『黄泉比良坂』へ。




 ならば、彼も彼のすべき事をするだけであろうと、閉じられた入り口を背にし、前へ進む。

 彼は、託されたのだから。





 彼は知らない。


 この大事に囚われたが故に、『星見の鬼姫』ですら見逃した凶兆があった事を。



 アヤはとある事情により酷く弱体化している為、外見がちんまくなってます。 憑依する時は本来の姿が一瞬見られる感じです。

 ちなみに漢字表記だと「文」。 カナ表記にしているのは「殺」や「妖」に通じるとして、その名を使っているからです。 一種の言霊ですね。


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― 新着の感想 ―
黄泉比良坂……巨蟹宮で聞いたような……。 (・–・;)ゞ 連理は素手なのか。 敵の数が多いのならエモノをぶん回した方が早そうですけど、テルムって出し続けると何かデメリットありましたっけ? (´・ω・…
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