第六十三話 変革する世界 ~星を視る者~
世界が変わる時、主人公達がそれに関与するとは限らない ――なんてやっちゃってもいいのかなあ?
しかしこれをやらないと「逆木賢治と剣術師範」が完全に無意味になってしまうし、想定していたエンディングとのズレが…………。
といってこれを入れると同シリーズ別連載をしないと話の理解が深まらない……。 だが、ワタシにそこまでやる気概があるのか……!?
ええい、漢は度胸!
榊 香を夢の中から助け出し、しばしの時が流れた。
事件の後、より一層無邪気さを増した彼女は微笑ましくはあるものの、何処か壊れてしまった様な気がしないでもなかった。
夢の中で『夢魔』を倒すのと時を置かず、その場にいた香「達」は全員スッと消えてしまっていた。
その為、香の安否確認もできず慌てて現実へ戻った一同だ。
自らの意思に反して動かされた事、その上『夢魔』の侵入そのものがそもそも強い負荷であり、それがいなくなったから本来の状態に戻っただけだと、後に大妖怪は語る。
『夢魔』に主に操られていたのは『後悔の念』。
それがこれまでの彼女を象ってきた。
本来の状態に戻ったとは言え、掛けられた負荷は計り知れず。 故に回復の眠りにつくのは道理であり、それが眠ってしまえば残るのは幼い彼女、というのも道理ではある。
あの時、香の『墜ちる風星』は連理の《黄昏》にかなり勢いを削がれた。 その上で栞の後先を考えない『盾』と、ササの全力の『炎の壁』がその場にいた「香達」を守ったが、それでも彼女の大魔術は周囲に、彼女自体に大きなダメージを与えていた。
殆どの「香」はその余波で傷を負い、何人かはその場でその姿を消してしまったのだ。
鏡子の診断では消滅した訳ではない為、そのうち回復するとの事だが、それとて何時になるかは解らない。
とは言っても、恐らくそれは救いなのかとも、連理は思う。
姉に秘めていた心情を晒してしまった事、その心身をともに傷つけてしまった事は香にとっても良い記憶ではないだろう。
した事がなくなる訳ではないし、忘れたままでいて欲しいとは思わないが、今はその事を知らずに、子どもの様にいても良いのではないかと。 子どもではいられなかった七年を取り戻す様に。
一方で、全力の全力を無理矢理絞り出した栞は、連理に譲渡された生命力の大半を使い切ったらしい。
お陰で「榊 栞」蘇生計画はほとんどやり直し状態ではある。
と言ってもシャドウを斬るだけで貯まっていく連理の生命力は、多少減ったところで直ぐに補填されるものなのだから負担は無いに等しい。
それよりはむしろ手を繋いだまま固まってしまう、小学生~中学生の様な反応をする栞本人の方が負担が大きいと言えなくもない。
とは言ってもふたりきりではなく、オルトロスのシュラ等と一緒にいる時等は気が紛れるのか、そこまで緊張はしていない様子だ。
また、「蘇生」レベルまでは必要でなくとも、血色の悪い肌を隠せる程度には、という事でロジーナや隆盛が一緒にいる時もあった。 その場合は栞の関係で、隆盛からは微妙に、本当にビミョーに敵視されている事もあり、連理の方が緊張を強いられている。
その場合、香がいたりするとその辺りの空気も和らぐのだが、まるで園児の様に「お昼寝」の時間をとる彼女は居ない時も多いのだが……。
◇ ◇ ◇
その日、見慣れぬ名前から連絡が入ったのは西の空が赤く色づく、夕焼けの見える時刻だった。
見慣れぬ、だけど印象深い女性の名前。
連絡先こそ交換したものの、こうして電話が掛かってきたのは初めてだろう。
そこまで親しい間柄とは言えない彼女。 それが寄こす連絡なんて想像も付かない。
そのせいか、何があったか心配するより、何があったか訝しむ。
と言って、出ない訳にもいかないだろう。
まさか金の無心ではないだろうし、恐らくは緊急事態の筈だ。
「……もしもし」
表示されている名は弓張月 翠。
実家の地元にある神社の巫女さんであった。
「あ~、すいません。 逆木さんの携帯でお間違いないでしょうか~?」
何となく、間違いであって欲しかったと思うのは、間違った考えだろうか?
「はい、逆木連理です。 ……弓張月さん」
「翠ちゃんって呼んでくださいって言いましたのに~」
確か了承はせずにいた……筈だ。
連理は彼女の言葉を無視する事に決め、話を進める。
「それで、何の話ですか、弓張月さん」
「ぶ~。 いいですよ、もう。
ウチの姫さまからの伝言です」
ふて腐れた様子が目に浮かぶ口調で翠は言った。
「姫……って誰です? あのドMさん?」
あの時に会ったのは、電話の相手 ――弓張月翠と、ド変態な桜の精だけだったと記憶している。
「あの時は会っていませんね~。 ウチの神社に半分住み込んでいる様なヒトです~」
住み込み? 居候? 姫なんて呼ばれるヒトが? と疑問が湧き出るものの、会った事もない相手の伝言とは一体何なのか、そっちの方が気に掛かった。
「会ったの事ない人なのに、伝言……?」
「そういう事も、あるものですよ~?」
「はあ……、 それでその内容はどういったものなんです?」
電話口で、翠は一呼吸を置いた様だった。 一時、声が途切れる。
「まず、色んな人に伝えてください。 こう言った話が通じる人なら所属とかは関係なしに。
『地獄の蓋が開き、死者が溢れ出す。 準備を』、と」
翠とは一度しか会っていないものの、その声色に巫山戯た感じはない様に思える。 それくらい、真剣だと思える口調。 彼女らしからぬ、声。
「……どういう、意味ですか?」
「言葉のままですよ?
あの世とこの世を繋ぐ『門』が開いて、そこから死者達が帰ってくるんです」
「……………………」
真面に想像出来ない様な事を言われ、思考が停止する。
「範囲は花宮市を中心に200㎞ほど」
「……何でまたここに……?」
「そちらの『門』が異界に近いが故に」
翠とは違う、別の声が割り込む。
若い女の声だが、その声色には酷い疲れが窺えた。
『門』とは学校にある『門』のことだろうか? そう思い至り口を開こうとする連理に先んじて翠が口を開く。
それにしても「近い」? 遠いからこそ鏡面であったと聞いた気がするが、何か認識が違っているのだろうか?
「事態の解決には別の者達が動くわ。 だけどそれには時間が必要になる」
「つまり、組織の垣根を越えて死者達を止めろ、と?」
先程の、翠の言葉からすると、そう言いたいであろう事は直ぐに解る。 とは言え……。
「物わかりが良くて助かるわ」
「一応、上には伝えますけど、スレイヤーがどう動くかまでは保障出来ないですよ?」
上層部の繋がりは何となく理解しているが、敵は敵。 単純に共闘は出来まい。
「それでも構わない。 だけど、彼方も一般人に被害が出るのは好まないでしょう」
スレイヤーにはたまにワザと巻き込むタイプの者もいるそうだが、そうでないタイプがいるのもまた事実だ。
もっとも、彼が知らないだけでアレクにもそう言う者がいないとも限らないのだが。
「……解りました」
取り敢えず了承する。
言うだけならタダだ。 判断はマヤや鏡子に任せてしまえばいい。
「それと、素直な子にはひとつ予言をあげる」
「はい?」
不意に妙な事を言われ、少し上ずった声が出る連理だ。
まさかの「子」呼ばわりである。 自身とそう年齢も変わらない様な声色だが、年上なのだろうか?
それに「予言」だなんて、「此方側」に来てからでも聞いた事のない、非日常な言葉に困惑は隠せない。
「大切なモノを無くした時は研究所跡に行きなさい」
その言葉に、連理は言葉を失う。
なくしてしまう可能性のある大切なモノとは何かと、そちらに意識が向く。
「今は考えなくてもいいわ。 予言なんて飽くまで『その時』の指針よ」
「そう……ですか」
「これから世界は過渡期を迎えるわ。 混乱しても困惑しても、何かがあっても自分の大切なモノを護りなさい。 年長者からの助言よ」
彼女はそう言って微笑んだ、様に思える。
勿論電話口だ。 勘違いの可能性はあるが。
「……はい。 助言、感謝します……」
そこまで話して連理は相手の名前すら知らない事に気づいた。
あの「翠」が姫と呼ぶ相手に礼を欠いてしまったのは、失敗したかと思いもするが、そもそも相手が一方的に話し出したのだからどうしようもなかったのも事実である。
「紹介が遅れましたが、オレは逆木連理と言います」
彼がそう言うと、電話の向こうで軽く咳払いするのが聞こえた。
「うむ、わらわは『きはた』じゃ。 姓はない。 以後よしなに」
彼女が何処か変わった響きの名を名乗ると、ガサゴソと物音が聞こえ、翠が言葉を続けた。
「それでは~申し訳ありませんけど、伝言ゲームを開始しちゃってくださいな」
長電話が続くと対応が遅れるからか、何か余計な事を言ってしまったのか、電話はぷっつりと切れてしまった。
「…………ゲーム感覚じゃダメじゃないのかね?」
そう呟きつつ、連理は今日のシフトを思い出す。
(徳倉さん、今日はいるんだろか?)
◇ ◇ ◇
「……という事なんですが……」
連理はまるで査問会の被告人の様に皆に囲まれているという、非常に居心地の悪い席にひとり立っていた。
正面には鏡子とその隣りにマヤ。 偶々シフトの入っていたロジーナと迎えに来た隆盛も近くに、ご飯を食べに来ていた栞と香もいる。 寿司職人見習いである健斗は休日以外ほぼシフトが入っているので当然ここにもいるし、隠れ里側から耶彦も入って来ている。
ササも今日はシフトが入っていた為この場にいるが、面白がっているのか、彼の横ではなく周囲の囲いの中にいた。
「その電話に出ていた女性は確かに『きはた』と名乗っていたんですね?」
「はい、聞き間違いではないと思いますけど」
鏡子の質問に答える連理。
《悪魔喰い》により彼は感覚も鋭くなってきていた。 視覚や聴覚も、だ。 嗅覚に関しての実感はないが、恐らくそちらも。 故に聞き間違いは殆ど有り得ない。
「……悪戯、という訳ではなさそうですわね」
形のいい頤に手をやり、鏡子は何やら考える様な仕種を見せる。
「もしや、知り合いなのか?」
そう声を掛けたのは鴉天狗の耶彦。 まだちからの癒えない彼は人間形態ではなく鴉の顔でそこにいた。
「一応、知り合いですわ。 何度か会った事がある、程度ですけれど。
弥彦さんなら聞いた事があるかと思いますわよ。 『星見の鬼姫』ですわ」
「……鬼王の娘か!?
ならば話の信憑性が増すのぉ」
得心のいった風だが、残念ながら他の者達は解っていないようだ。 年齢は高くても元々日本生まれではないマヤ、ロジーナの両名も首を傾げる。
「星見 ――予言や予知の得意な、鬼の姫ですわ。 年齢は千と……二百歳くらいだったかしら?」
驚くべき年齢ではあるが、まだ鏡子の方が年上である。
「つまり、荒唐無稽なお話のようでマジもマジだと?」
「そうですわね。 この時代に彼女の名を騙る者が居るとは思えませんし」
そもそも個人的な知り合いを通してこんな嘘を広める者がいるはずもない。
また翠の立場からすると、こちらはついでで、既に神社仏閣にはその話が広まっている可能性は高いだろう。
「まず上に話を通して、孝正会辺りにもその件が通じているかの確認ですわね。
ですが恐らく『間違いない』情報ですわ」
鏡子は一旦言葉を切り、少し悩ましげに続けた。
「それと、影響の出る範囲が広いという事は、今までの様に密かな行動を取れない可能性があります。
ですから荒れ木三度Lossとしましては、隠密を必須としませんわ」
「……いいんですか、それ?」
鏡子の決定に疑問を投げかけるのはロジーナ。 彼女はこの世に生まれ出でて三百年、常に逃げ隠れしてきた存在である。
「勿論露見した時のリスクはありますし、出来れば隠していた方が後々の為になりますけど、絶対に見つからない様に、と言っても守りたい人が危機に陥っていた場合などに困りますよね?」
言って、一同の顔を見渡す。
皆、結局ピュアの知り合いはそれなりにいるのだ。 彼/彼女らが危機に陥った時、ただの人間として対処に当たり、それで彼らを失ってしまったら、もしくは対処した本人が犠牲になったら、と悪い方の予想は幾らでも出来る。
勿論、その結果排斥される可能性や魔女狩りの様な事が起こる可能性もあるだろう。
だが、魔物という存在が、アクマ事件が『増え続けている』現状、何時までも隠し続ける事は出来ないのだ。
そして、今回、鬼姫の言葉通りになってしまえば、少なくとも『蠢く死者』という存在はある程度以上認知されるのは間違いない。
ならばここでアクマに対する『ファンタズマ』の存在を同時に認知させるしかないのだ。
ここでその存在を明らかにせず、のちに明かしたのなら、「何故あの時に何もしなかったのか?」という疑問が必ず出てしまうだろう。 もし人間の間に犠牲が出ていたのなら尚更だ。
それがワイズマンやファンタズマと呼ばれなくとも、シャドウやアクマに敵対する存在がいると言う事を知らしめなくてはいけないのだ。
「こちらでも情報は集めますわ。
ただ、何時如何なっても対応出来る様、準備をお願い致します」
大妖怪、徳倉鏡子は神妙な顔付きでそう言ったのだ。
さあ、書いてしまったぞ。 コレで後には引けなくなってしまったな。
しかし改めて調べると……ネットで出て来ねえよ、コイツ!? オリジナルではないはずのコイツ、一体ワタシは何の資料を見て設定したんだ!?
しかも、悩みに悩んだせいで話のストックが切れた!
次回、間に合うかなあ。




