第六十二話 童顔の魔女と肉体JSな吸血鬼は男子高校生(オタク)に希望を振り撒く
ちょっと今後の展開に悩むところがあるので、番外編で時間稼ぎ。
番外編其の一とかにしようと思ったけど、本編と全く関係のない「華麗なる日常」とかも番外にはしなかったから、規格の統一性を図るために連番で。
オタクというモノは色々なところに存在する。
かつてマニアと称された者達も、日本のHENTAI文化を好む者達も、多少の差異はあれど今では大体オタクというカテゴリーに入れられているし、そもそも何かに対する執着や拘り、趣味、ファン心理だって大きな違いのあるモノではなく、オタクというカテゴライズをされる場合もある。
琴倉橋高校2-Aの『水際のお馬鹿トリオ』などと不名誉な呼び名で呼ばれる三人も、周囲からそう認識される人種であると言えた。
汀 悠樹、沖 景継、大原 海神の三人は今日も今日とて、オタクである。
汀悠樹は世間一般にオタクと認識されるタイプのオタクだ。
端的に言ってしまえば年に二回程東京へ行くし、そうでない時も「何か」の通販情報のチェックは欠かさない。
仕送りとバイトなど自身の収入の大半はこれらにつぎ込んでおり、平気で十万くらいは費やしている。
外見はキノコヘア+メガネという出で立ちで、オタクと言うより変質者っぽいのだが、身長は高めで実は細マッチョという謎のキャラクターだ。
曰く「強くなければあの闘いは生き残れない」との事。
そのセリフに納得出来る者は深々と頷き、納得出来ない者は胡乱げな視線を向けるのだが。
沖景継は所謂本の虫。
悠樹と付き合う様になり、それなりに「そっち方面」にも詳しくなったが、それよりは活字の方に価値を見出す。
ただその付き合いで趣味の方向性が変わりつつあり、かつては純文学や古典などに埋め尽くされていた本棚の半分が今ではラノベに置き換わっているという。
若干のぽっちゃり体型で、髪型には無頓着。 面倒だと言う理由で五分刈りにし、それがボサボサに伸びるまで髪を切らない彼は、外見で言うなら悠樹よりも「オタク」っぽいと言える。
ちなみに成績に関しては極端で、文系は優秀、理数系は超がつく程劣等生だ。 芸術関係も弱い。
大原海神は敢えて言わなくてもどちらでもない。
ふたりとの付き合いでそのような造詣が深くなってはいるが、趣味で言うなら一般人のレベルだ。
ゲームはスマホで、本を読むなら少年漫画といった極々普通の一般人で、むしろレトロゲームなどやっている分、連理の方がオタク臭いかも知れない。
この三人は良く連んでいるのをクラスメイトに目撃される程度は一緒にいる。
バイト先も一緒なお陰で益々仲も良くなっているせいか、たまに「腐腐腐」と笑う職場のお姉様もいるとか。
その際のカプは悠樹/海神であり、外見がオタクな景継はハブられる。
悠樹は髪型こそアレだが、細マッチョで顔の造形は悪くなく、海神は言うなれば子犬系だ。
それを聞いた悠樹が恐ろしく絶望的な顔を見せたのはそう昔の事でもない。
そんな三人が商店街を歩いている時、見掛けた「知った顔」は連理を通してしか会った事のない少女だった。
「しおり、ちゃんだっけ? こんにちは」
声を掛けたのは海神。
人受けのする微笑みだが、栞はパッと側にいた人物 ――ロジーナの背に隠れてしまった。 ただ隠れながらも顔を出すと、彼等の顔を確認して警戒していた表情を緩める。
どうやら思い出したらしいが、もし思い出せなければピンチだった可能性がある。 それに気づいたのか、今さらながらに彼の頬に一筋の汗が伝い落ちた。
「あ~、確かれんくんと一緒にいた……」
「そうそう」
「三馬鹿とかなんとか……」
「それは忘れてよろしい」
三人が仲良しであるのは紛れもない事実なのだが、知識的な意味でバカなのは悠樹、自身の興味のあるモノ以外を切り捨てる、自分にバカ正直なのが景継である。
海神自身は性格面でも成績面でも普通だと自負している。 が、敢えて言うならバカに付き合うバカであった。
そのせい、なのかどうかは判らないが、女の子の好みが若干年下傾向になっていたりするが、その事に本人の自覚はない。
「連理さんの……お知り合いなんですね」
その様子を見て話しかけるのはロジーナ。
銀の髪と紅の瞳の、如何にもな外国人顔であるにも拘わらず流暢な日本語で話しかける彼女に一瞬たじろく三人だが、多少ロリ好みであったとしても同年代に見える美人さんなら大歓迎である。
「はい、友達です。
え~と、あなたはしおりちゃんの……」
お姉さん。 海神がそう続ける前にロジーナが口を開く。
「はい。 栞の母のロジーナと申します」
そう言って頭を下げる様子はすっかり日本人の所作である。 百年以上も日本にいるのは伊達ではないのだ。
「………………………………えっ?」
「HAHAHAHA?」
「mater?」
ロジーナの言葉に海神は絶句し、悠樹は聞き間違いと思い込み、景継だけが的確に聞き返した。
「はい。 mater、madre、mother。
間違いありませんよ?」
それぞれラテン語、イタリア語、英語での母だ。
景継が何故ラテン語で言ったかは謎である。 もしかするとそれはオタクの嗜みなのかも知れない。
「……お姉さん、ではなくお母さんなんですね……」
「ええ、昔から童顔で年齢よりよく下に見られてますけど、これでもさんびゃ……三十代も後半なんですよ」
危うく出かけた言葉も、外国人な外見のお陰で言い間違いで誤魔化せる。 来日した外国人が単語を言い間違えるなんてよくある事だ。 違和感なんて覚えない。
三人も軽く自己紹介をして、何となく話し込み、やがて親子が去った後、悠樹は満面の微笑みを見せ呟いた。
「……あれで、三十路……」
「本当に17だったのか、あの子……」
「世の中は不思議に満ち溢れているんだな……」
悠樹は親子の去って行った方向を見ながら拳を握りしめた。
「僕は新たな希望を見たよ……!」
「希望とは何ぞや」
「また妙な事を言い出して……」
悠樹は震えている。 全身を、その妙な髪型を震撼させている。
「合法ロリは本当にあったんだ……!!」
「そんな何処ぞの幻の島みたいな言い方をせんでも」
「また、碌でもない事を言い出しそうな予感をヒシヒシと感じるよ」
応えながら海神は自分のカバンの中を弄る。 ゴソゴソと、奥の方から何かを取り出そうとしている。
「僕は探してみせる! 合法ロリっ!!」
「おー」
「なんでやねん!!」
拍手して盛り上げる景継を尻目に、海神はカバンから取り出したハリセンでツッコミを入れた。
スパーン、と快音が鳴り響く。
「アホみたいなセリフを――」
振り下ろされたハリセンをその言葉と共に切り返す。
その様は正しく燕返し。
「天下の公道で叫ぶな、バカ者!!」
――ゲシッ
しかし切り返しの甘かった燕返しは、ハリセンとして打つ角度とは若干 ――具体的には90度程ズレて炸裂した。
通常のハリセンを打つのを縦とした場合、今の一撃は完全に横であったのだ。 つまりダメージは反り返るハリセンに分散される事がなく直撃する。
「……ぐ、ふぅ」
悠樹は一度両膝を地面につくと、そのまま崩れ落ちたのだった。
ちなみに、一瞬意識を失った彼が、自身の言ったセリフを完全に忘却するというフィクションの様な出来事があった事をここに記しておこう。
あ……、振り撒いた希望が失われてるっ!?




