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第六十一話 身も心も、いっそ砕けてしまえば良かったのに

 彼女の内の『夢の国』は、夢も希望もなくしたディストピア。




「ごめん、足引っぱってるね、あたし」


 連理に抱きかかえられたままの栞が縮こまる様に視線を下げる。

 妹の感情に晒され、でもそれが本心かどうか解らなくて、本心であっても今のモノか過去のモノかも解らず、混乱し感情的になっている栞。


 仕方ない、と言うだけなら簡単だ。

 状況的に、肉親である彼女が感情的になってしまうのは恐らくどうしようもない。


「あの雲外鏡めが尋ねた事じゃ。

 行くか行くまいかとな。 ならば今足を引っ張っていようと、来た事に意味はある筈じゃ」


 何時も、恐らく様々な事を()っている筈なのに、それを語らない大妖怪。 ならば彼女がそう問うて、全く意味がないとは思えない。


「足を引っぱったコトは否定しないんだね?」


 そう言われ苦笑いを浮かべる栞。

 慰めて貰いたかった訳でもないが、想定外の問答に、少し面食らう。


「其れを否定して如何するのじゃ? そんな事をしても意味などないわ」


「……そうだね。 でもちょっとは手加減して欲しかったよ」


 連理の腕の中から抜け出し、子どもにしか見えない少女は文句を垂れた。 何せ掛居(チンピラ)並み、とは言わないまでも、不意を突かれたが故に内臓がひっくり返る様な衝撃を受けたのだ。 咄嗟に走れない、どころか立ち上がる事すら出来なかった衝撃の強さは推して知るべしだ。


「それは仕方があるまい。 ……恋敵じゃからな」


 ササはそう言ってニヤリと嗤って見せた。 悪い表情(カオ)、に見えなくもないが心配はしているのか眉の端が下がり気味。


「……うん、そだね。 って……」


 狐に答えながら栞は遠くに見える『それ』に気づき、顔を顰めた。


「ふざけてるわ」


 怒りを隠しもせず、拳を握りしめる。 メキっと、骨の軋む音が聞こえた。


 彼女の視線の先には『榊 香』。


 幼い、幼少時と思しき香。

 小さい、スレイヤー襲撃時くらいの香。

 多少は背の伸びた、耶彦に師事していた頃の香。

 スレイヤーを狩っていた頃の香。

 そんな香達が、自身を呪う様な、自嘲と自傷の言葉を吐きながらゆっくりと近づいてきている。


 ――あたしこそが死ぬべきだったのに


 ――いっそ狂いたかった。 狂ってしまえれば、きっと、もっと楽だったのに


 ――心なんていらないのに。 ただ苦しいだけだもの


 ――思い出が、くさびのようにここへとどめている


 ――思い出があるから苦しいのに、悲しいのに



「確かに、巫山戯てやがるな」


 多分、この『香達』は本物だろう。 夢魔に操られたか唆されたか、どちらにせよ利用されている幼い少女たちだ。

 殴って目を覚まさせる事は出来るのか、等と考えもするが、それで彼女に何らかの変化があったなら、変化が起こってしまったら、と思うと短絡な行動には出にくい。

 だがそうなると出来るのは逃走だけだ。

 香達へ背を向ける、がそこに悪寒。 まだまだ距離があったが、いや距離があるからこそのヤバさ。


「――マジかっ!?」



 ――身も心も、いっそ くだけてしまえば良かったのに……



 見えたのは『黒い砲弾』。


 『黄泉御前(さかき かおり)』が編み出した広範囲殲滅魔術『墜ちる風星』。



 ――バラバラに、こなごなに



 あんなモノがぶつかってきたら、彼等三人どころか集まってきている『香達』すら巻き込みかねないだろう、そんな規模の大魔術。


「――妹の自己犠牲なんてまっぴらゴメンよ!」


 栞は即座に『香達』の方へ走り出す。

 懐にある無数のルーンストーンを砕きながら、儀式と詠唱を簡略化省略化していく。


「――願わくば、我らに祝福を、大いなる楯を与えん

ああ、ルーンよ、其のちからを我が前に示し給え」


 ロジーナの創るルーンストーンを採算度外視で消費していく。 厚く厚く、広く広く。

 そんな彼女の姿を見て、黙っていては男も女も廃るというものだ。

 連理は『風星』の目標となるべくその場で立ち止まり、ササは迷いつつも栞の手伝いをすべくそちらへ走る。


 彼女(かおり)たちの言葉は痛いし、気が滅入る。 胸に突き刺さり、自らを傷つけたくなる。


 でも、それだけなのだ。

 痛いだけなら、耐えられる。 十四の少女が耐えてきたそれを耐えられずに年上は気取れない。



 そんな準備が終わるや否や、


 ――衝撃(インパクト)


 『墜ちる風星』は連理に直撃し、


「――アルギス!!」


「――!!」


 その余波を防ぐべく、栞はルーン魔術による巨大な『盾』を、ササは爆風に立ち向かうべく指向性を持たせた炎の壁を張り、衝撃を和らげようとする。


 そんな彼等を、ミサイルも斯くやと言わんばかりの風と瘴気の爆撃があっという間に包み込んだ。



◇ ◇ ◇



「ふふふふ……あはははは、残・念、でした♪」


 物理的な距離を超えて、分体を通しその光景を見ていた今林真理亜は思わず声を上げて笑っていた。


 『黄泉御前』がこちらの暗示を振り切って、全ての自分を巻き込んで攻撃しようとしたのは予想外だったが、侵入者たる彼等はそんな彼女を見捨てられず、彼女の想いを無視した形で巻き込まれてしまった。


 呵々大笑したくなる程愛おしく、笑いすぎて涙が出てくる程愚かな彼等の血肉をこの身で感じられないのは残念だが、これでもう『黄泉御前』は殆ど抵抗力を失っただろう。

 ならば自身の分体でその肉体をある程度操作する事も出来る筈だ。 難しい操作にはなるが、外に出さえすればどうにかなる。


 ――そう思ってしまったのは明らかな油断だった。


 分体はその思考を彼女とは独立させているが、彼女が油断するタイミングは分体も油断するタイミングであると言える。 二者のモノの考え方は同じなのだから。



◇ ◇ ◇



 連理は《黄昏(クレプスクルム)》で『墜ちる風星』の最も致命的な瘴気をひたすらに喰らい尽くし、その核になっている『香』を確保、栞とササは他の『香達』を守るべく、この魔術の残った風をぎりぎり防いだのだ。


 無論、これ程の大魔術を完全に防ぎきる事など出来ず、術の中心にいた連理は元より、栞もササも『香達』も大なり小なりの怪我を負って倒れている。

 しかし、このメンバーの中で特に強い再生能力を持つ栞はその身を修復させながら、数多くいる『香達』の中で唯一傷を負っておらず、また前線に出ていない『香』を見抜いていた。


 そしてその『香』が「栞にとっての罪」を持つ事も、鑑えた。 理解した。


 この妹の姿をした相手は敵だと。


「――アンタが、敵かっ!」


 咄嗟に繰り出された血爪が、その胸元を掠める。


「お姉ちゃん、なにをするの!?」


「――その姿で! その声で! 話すなっ!」


 砂塵の未だ吹き荒れる中、攻撃を繰り返すが、栞のそれは最初の数撃以外は躱されてしまっていた。


「……あらあら、どうしてかしら? 完全にバレてますわね」


 口調が変わる。

 だが姿は香のままだ。


「ですが、実力がまだまだですわ。 その程度ではわたくしに届かない」


 香の姿で微笑む『夢魔』。

 優しい微笑みにしか見えない、しかし醜悪な笑み。 三日月の眼は微笑を象りながらも無機質にただこちらを見つめている。


「そうか?」


 不意に、腹から日本刀の刃が生えた。


◇ ◇ ◇


「ひぐっ!?」


 今林真理亜はスレイヤー支社にある自室で、奇妙な声を上げた。


 ある筈のない、腹を貫かれた痛みと衝撃に、彼女は混乱していた。


 ――彼女の分体が不意を突かれ、連理に背中から腹を刺し貫かれたのは理解している。


 だが分体などと言ったところで繋がりの強い他人の様なモノだ。

 操作し、覗き見も出来るが言ってしまえば魔法的なドローンであり、縦令壊されたところで痛くも痒くもない、ちょっとムカつく程度のモノ、のはずだった。


 実際、小さな少女 ――栞の攻撃は分体を傷つけたが、本体である今林自身はまるで痛痒を感じていない。

 なのに今、彼女は腹を貫かれた痛みを、熱さを感じている。 間違いのないその衝撃に彼女は混乱した。


(熱いっ!? 痛いっ!? 何で!? 熱い!? 何で何で何でっ!?)


 刺された場所に傷が出来ている訳ではない。


 刺された場所から血が流れている訳ではない。


 ただただ痛みと熱さがそこを苛んでいる。 それはある種の恐怖だった。


「――巫山戯る、な!」


 それを認める気はなかった。 認める訳にはいかなかった。


「お前たちは! わたしの食い物だ! 所詮それだけのモノに過ぎないんだよっ!!」


 身につけた作法も口調も、全てをかなぐり捨てて、鬼女の様相で彼女は叫んだ。 認めたくなくば、その原因を排除するのが最短の筋道。

 ならば、手段を問わぬ、趣味も遊びもない本気の彼女で相手をするまで。

 彼等に反撃すべく、分体の視点を合わせる。


「――――あっ……」


 瞬間、首筋に違和感。


 傾く視界。


 下へ下へ移動する視界。


 地面を映したままの視界。



 ――ドサッ



 施錠・防音された部屋の中、今林真理亜は華美なソファーから崩れ落ちる。

 意識は疾うに断ち切られ、心臓は鼓動こそしているものの、弱く弱く。


 誰かがいれば、彼女は助かったかも知れない。

 誰かが来たら、彼女は生き長らえたかも知れない。


 だが、彼女の私室はその噂から尋ねる者など皆無に等しく、乃高忠範ですら特段の用事がなければ来る事もない。

 ましてや彼女は彼に対し、時間の猶予すら申し出ているのだ。 来る筈がない。


 そんな今林真理亜が「発見」されるのは、その身体が醜く膨らみ、溶け、虫が湧き始めてから暫くしてからの事だった。








 連理の知る事のない、彼の二度目の殺人である。




 何故こんなにあっさり今林真理亜を亡き者にしたのか!?


 それは、ワタシがコイツを書き切れないからじゃあ! キャラ的には都築京香(知ってる?)まではいかなくても切れ者で、春日恭二(知らないかなあ?)の如くしぶとく生き残るタイプなんだけど、そうしてしまうとシナリオが追い付いていかないので…………。

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― 新着の感想 ―
作者都合でやられた今林真理亜……カワイソス……。 (´;ω;`) 分体の油断が被ったら仕方ないね。 (´ε`)
>それは、ワタシがコイツを書き切れないからじゃあ! つまりヒロインたち(ロリ)は書ききれるけどそれ以外は書き切れないと...
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