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第六十話 悔恨の黄泉御前~There is darkness there.

 とある有名歌謡曲が似合う状況になってきました。 もっとも、ワタシの脳裏に浮かんでくるのはWizardry替え歌の方なんですが。




 夢の中と――。


 そう言われて想像するのはどんな光景であろう。



 色取り取りの花が咲き乱れる、そんな草原が何処までも広がる風景だろうか?


 特になにがある訳でもないのに、光溢れる様な天上のワンシーンだろうか?


 逆にモノクロの、白と黒だけで彩られたダークメルヘン調の景色だろうか?


 それとも何もない、色もない、真っ暗な自分だけの空間だろうか?



 ――『黄泉御前』と呼ばれた、かつての復讐鬼の持つ情景は荒涼とした大地だった。


 緑はある。

 花も咲いている。

 だが切り立った大地や寒々しい湖は、標高の高い山々を思わせた。

 しかしそこに実際山脈があるわけでもなく、そのせいかそれに感じる様な雄々しさ、壮大さなどはない。 ただただ物寂しい、ひっそりとした印象だけがあった。

 人の住まないような高地の雰囲気に、薄ら寒い空気と彩りのない自然。

 それはとても中学生の少女の内面とは思えないものだ。



「……しかし、これが十代の女子(おなご)(うち)かの?」


 周囲を見渡しながらもササが口にする言葉の意味する所は、重い。

 別に、全ての思春期の少女たちが薔薇色の人生を送っている訳ではないし、そもそも榊 香(さかき かおり)というこの少女は、今までの人生の半分を復讐に費やしたのだ。

 そんな彼女の内面に花々が咲き誇っているはずもない。

 はずもないのだが、この惨状は余りにも酷いのではないだろうかと、ササは言う。


 殺風景。


 寂寞。


 荒廃。


 まるで希望の見えない荒漠とした景色だ。


「………………」


 姉たる栞は先程までの気分は何処へ行ったのやら、悲痛な表情で周囲を見ている。

 榊栞(じぶん)は殺されたが故か、復讐することも、自らがその手で命を摘み取ることも殆ど抵抗がなかった。

 父や母もそうではあったと思うが、ふたりはそれよりも栞と香がそうすることを忌避していた。


 父母が避けたかったのはこの様な『光景』だったのだろうか?


 (いもうと)はこうなるまで自身を削り、復讐の道を選んだのだろうか?


 わからない。

 一度死を、無を経験したが故か、立場の違いか、精神性の違いか。 栞は香を理解し切れていない。

 姉妹であるとは言え、片や生者、片や死者。 栞の精神性(こころ)が一般的な「ヒト」から乖離しているともいないとも言えないのだ。

 それでも解るのは、このままではいけないという事だけだ。


「……お前が気に病む事じゃない。 多分、な」


 栞の表情から何かを感じたのか、連理が何時かの様にポンと彼女の頭に手を乗せた。 ピクリと肩が動くが、あの時の様な激しい反応はない。 今さら、あんな拒絶反応を示す相手ではないのだ。


「…………何がよ?」


「今の……幼い感じの香とこの光景はミスマッチすぎだ。 まあ出逢った頃のあいつならそんな部分はあったろうけどな」


 周囲を見渡す彼の瞳には何が見えているのか、栞は解らなかった。 ただ、何となくその口調には苛立ちのようなものを感じていた。


「つまりそういう事でしょ? 幼いように見えていても内面ではこんな感じだったって」


 その答えを見出した彼女の頭をグリグリと回す連理。

 「解っていたか」と優しく撫で回す訳ではなく、ぐるんぐるんと、頭よ外れてしまえ、と言わんばかりの乱暴な取り扱いだ。


「しっかりしろよ、姉。

 その内面を呼び戻したヤツがいるって事だろ?」


 一瞬目を回しかけた栞だが、その言葉にはっとする。


「夢の世界は精神的に無防備、なんて聞くけどオレらにも適用されるんかね?」


 夢の中で理性的に動くことは難しい。 これは夢だと、自身で判断の出来る明晰夢であっても、夢自体を操れるほど理性を保っている訳ではないし、そうでない普通の夢ならひたすらに翻弄されるのが殆どだろう。 怪物から逃げ、恐怖から目を逸らし、絶望の内に目を覚ますのだ。


「そういう事か」


 連理の指摘にササは嫌悪を滲ませつつ納得の言葉を口にする。


「じゃとすれば、この辺りの花等は今の彼奴の心象なのかもしれんな」


 荒涼とした大地に咲く、小さな白い花。 儚く可憐なそれが、再び咲き始めた香の心象風景のひとつなのだとしたら、今ここに巣くう何かから守らなくてはならないモノになるだろう。

 連理はそれに何となく近づくと、少し身を屈めた。


 ――なんで、こんなことになっちゃったんだろう? あたしがわるい子だから? あたしがわるい子だから、パパもママもおねえちゃんも、こんなひどいことをされてるの?


 不意に幼い少女の声が聞こえた。

 何処からともなく聞こえた声に、連理は周囲を見渡すが見えるのは怪訝な顔を浮かべるふたりくらいだ。


「……今、何か聞こえなかったか?

 何かというか、香みたいな声が聞こえたんだが?」


「いや、何も聞いておらんぞ?」


「あたしも聞こえなかったけど……かおちゃんの声だったの?」


「多分、今より幼い声だけど、そうだと思う」


 とは言っても、ふたりが聞いていないとなると自信がなくなる。


「……もしや」


 ササは呟きながら連理の側へ来ると、先程の彼と同じ様に身を屈めた。


「……これは心象どころではない様じゃな。 この花は香そのものじゃ」


「かおちゃん……」


 側に来た栞にもその声が聞こえたのか、その表情は悲痛。



 ――いたい……いたい……何でこんなにいたいの……?


 ――もっと、もっと殺さなきゃ……。 ひとりよりふたり、ふたりより3人……


 ――まだ殺さなきゃいけないの?


 ――足りない、ぜんぜん足りない。 だってパパもママもバラバラにされたんだから!


 どうしたらいいのか解らず、別の若葉のところへ行く。 別の花、別の草木のところへも足を伸ばす。

 聞こえるのは暗い気持ちばかりだが、それは確かに香のものだった。


 ――もっとちゃんと狂えてしまえばいいのに……。 そしたらずっと楽になれる。


 ――そんな目で見ないでっ! あんたたちがっ! あんたたちが悪いんだからっ!


 ――いっそあたしも死ねばよかったのに……。 ううん、いっそあたしが死ねば、もっともっと楽に……。



「かおちゃん!!」


 突然叫んだのは栞。 いや、その叫びは当然か必然か。

 栞が自分を犠牲にしなければ、スレイヤーによる襲撃時に死んでいたのは香か、それともふたり纏めてという形になったはずだ。

 見方によって、栞はその後の苦しみを香に押しつけたとも言える。

 勿論それはただの結果論ではあるが……。


「あたしはただかおちゃんを助けたくて……!!」


「てい」


「げふっ!?」


 栞の喚声を止めたのはササのボディブロー。 容赦なく腹に突き刺さった拳に栞が「く」の字になる。


「落ち着かんか、莫迦者が」


 日常的に連理の生気や精気を得ているササは見た目よりパワフルだ。 硬いと言われる吸血鬼の外皮でも容易く衝撃を浸透させる。

 余りの衝撃に崩れ落ちる栞のすぐ側に白い花。



 ――どうしてあたしは生きてるの……?


 また激情が彼女を支配しようとするも、腹のダメージが酷くて起き上がれない栞は、いつの間にか「側に来ていた」花を見つめた。


「囲まれそうじゃぞ?」


 周囲には疎らにしかなかったか花や草木が、何故か近づいてきているのが解る。 特に蠢いている様な訳ではないのに少しずつ少しずつ。


「草花が移動するとは……夢だからか、夢魔の仕業か……」


 巣くっているであろう夢魔なら兎も角、「香」と思われるそれらを斬る訳にもいかない連理は《黄昏》を抜く事もせず、徒手空拳である。 と言ってもその拳を振るうのも躊躇うのだが。


「取り敢えず、退くぞ」


 連理は蹲る栞を抱きかかえると、ササを促しゆっくりとした動きしか見せない囲いを突破する。


「うむ」


 同意するササも素早く動き連理に追随した。


 『香』が侵入者に寄ってきているのか、夢魔に操られているのかは解らないが、囲まれて彼女の『言葉』を聞き続けるというのは現状ではリスキーな選択としか思えない。

 三人は何もない荒野的な場所へと移動するのだった。



◇ ◇ ◇



「くすくすくす……」


 薄暗い部屋の中で、能面の様な笑顔を貼り付けたままの美女が、別の微笑みを浮かべる。

 それは酷く嗜虐的で、何処か薄気味の悪い微笑みだ。 美しいと言える筈のその微笑は、恐らく見た人間を酷く不安にさせる。

 そんな得体の知れなさが見て取れた。

 彼女は楽しいのだ。

 堅固になったはずの仮面を思わず外してしまうほど。


「夢の中で、何時までも悪夢から逃げられる程、人間は強くないのよ?」


 美女はもうひとりの自分が見る光景を覗き見し、そう呟いた。


 無数のアクマを喰らった事で手に入れた、夢を見させる能力、夢を操る能力、夢に侵入する能力。 これらの能力を自身の『分体』に行使させることで、悪夢に翻弄される被術者を安全圏から高みの見物をする事が出来るのだ。

 対象を昏睡させるほどの分体は現状ひとりにしか行使出来ず、それでも夢の中からだけではちょっとした暗示程度は行えても本格的な洗脳は出来ないが。

 侵入者が来た事は予想外で、この状態で暗示を掛ける様な真似は流石の彼女でも難しいものの、やる事は変わらない。



 侵入者は排除し、『黄泉御前』というユニットを使用不可能にする。


 ゲームの様にその状況をシミュレーションしながら、彼女はただ不気味に微笑んだ。




 榊香の暴露大会。 考えてみたら女子中学生の内面を大っぴらにするとか酷い話だな。 いくら精神的に小学生でも。

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― 新着の感想 ―
暴露でも夢ですし、ギリセーフ枠? (´ε`) 夢魔の能力は無敵に思えましたけど、介入されると制限も多そうですね。 (*´ω`*) 何だか今は栞よりササの方が使えそう。 と言うか、初期の頃は弱かった…
>考えてみたら女子中学生の内面を大っぴらにするとか酷い話だな。 いや人の内面を大っぴらにする時点で酷い 男でも大人でも場合によって永遠の黒歴史になるレベルだし...
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