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第五十五話 体温 ~気づきの温度~

 タイトルはこんなのですが、エロはありません。(当たり前か) そういうシーンもありません。

 そういう事を想像した人は職員室へ行って反省しましょう。





 冬休みは終わりを告げ、雪降る中での登校が始まった。


 とは言っても連理(れんり)は寮生活。その距離は非常に短いと言えた。もし大雪になって、交通機関が麻痺しても通える距離である。

 一方で榊 栞(さかき しおり)榊 香(さかき かおり)の姉妹は同時期より「しらかばの家」での教育課程が始まった。

 こちらは連理と違い、結構な距離を歩く必要がある為、基本はバスだ。

 父である榊隆盛は普通運転免許証を所持していたが、それも生前の話。今は無免許である。

 運転出来るか出来ないかで言えば、当然できるのだが、そもそも公的に死人である彼は車を買うことが出来ないのだ。


 ちなみにこの辺りの大雪は本当に大雪である。

 関東圏で交通が止まる様な10㎝程度の「大雪」とはワケが違う、膝上から腰くらいまで平気で埋まるくらいの大雪だ。

 それでも年々降雪量は減っているらしく、連理の父・賢治の幼少時には一晩で自身の身長程も積もったらしい。


 それはさておき、三学期ともなれば期間の短い割にはイベントが目白押しで色々と気が忙しない時期でもある。

 その辺りは連理も同様だ。

 バレンタインデーにホワイトデーと言った比較的平和なイベントから、学年末考査や各種資格試験といった気を張るものもある。彼は三年生でないから大学入学共通テスト、学業奨学生入試、卒業考査などは関係無いが、そのせいで学校全体がピリピリした感じになっているのは恐らく気のせいではない。


 もっとも、今の彼にとって学校イベントはあまり重要なものではない。

 学業を修めるべく行うテストに理解は示すし、社会の縮図の様な、社会で生きるに当たっての練習の様な、そんな学校の在り方も解ってはいるが、「此方側」に生きることを半ば無意識に認識している彼にとって、学校生活はそこまで意味のあるものではなくなっていた。

 その様子を外部から見れば、随分と達観して見えるだろう。

 だが、それも仕方ないのかも知れない。

 これからの生き方を思えば、学力は平均をキープしている今、それ以上望むべくもないし、肉体面から言えば全力など出せるはずもない。彼の身体能力は既に人外の域に達しているのだから。



 だから「そんな事」より、未だ行方知れずの高円寺兄妹の方が気に掛かる。

 斜に構え、あまり会話の多くない兄も、会ったばかりでも解る、何処か苦労性の妹も。

 授業を受け、探しに行けないこの時間が酷くもどかしい。

 隠れ里にいると予想されるふたりは、つまり警察の機動力では見つけようがない事を意味する。ならば荒れ木三度Lossと日崑孝正会の人員だけで探すしかないが、それは現実味のない探索だ。

 以前より増えた支店メンバーと無数の使い魔(シャドウ)を駆使した捜索であっても、それは砂漠に落ちた針を探すが如く。事実上不可能に近い。磯城修景とシュラ(かぞく)との再会は、彼等に絆があったとはいえ正しく奇跡であったのだ。

 里の表層だけであれば、まだ何とかなるかも知れない。そこまでであれば兄妹も捜索する者達も戻ってこられる。

 だが、もし深層へ足を踏み入れていたら、簡単には戻って来られないだろう。隠れ里の深層部は地図のない迷宮の様なものだ。

 踏み込んだ瞬間、入ってきたはずの入り口すら見失う、暗闇の迷宮(ダークゾーン)


 ある意味、この捜索は彼等を諦める(みすてる)為の儀式なのだ。


 人手の多いと言われるアレクであっても、何時までも捜索(そちら)に人員は割けないのだから。



◇ ◇ ◇



「ワンコの様子ってどうなんですか? ロジーナさん」


 荒れ木三度Loss(アレキサンドロス)斜路支店、本日休憩室にいたのはロジーナだけだった。


 実はロジーナ、アレク内では引く手数多である。

 普通に主婦であるのに加え、年の功もあるし、さらには何かと器用なので裏方として大抵の物は調理が出来る。

 外見は少女寄りの美女で、若干青白い肌を化粧で変えると、それはもうかなり人目を引く。残念ながら笑顔は硬いが、口調自体は柔らかくホールスタッフとしてもそれなりに優秀だ。

 魔女(セイズ)として隠れ里での探索も熟すし、呪術医(ウィツチドクター)として魔法的効果のある薬剤を供給することも出来る。

 また錬金術師(アルケミスト)として科学的効果のある薬剤や素材を供給することが出来るという万能性だ。


 そんな彼女が今ちからを入れているのがワンコ ――シュラの治療である。

 高円寺兄妹の捜索より先に頼まれたことであるし、彼女自身数度の探索を、斜路支店全体では既に二桁に及ぶ探索をした上でもまるで成果がなく、行き詰まっているのが実情であるからだ。

 また、そちらは現状では生存が確認されたとの話もあり、死に近いシュラへ意識が向くのは仕方のない事だろう。


「そうですね。

 付けられた余計な首を切除したのはお話ししましたよね? というかもう会ってましたか?

 次は鏡子さんに確認してもらいながら内部にある『病巣』……移植された肉体をひとつずつ剥がすのを想定してます」


 そう話すものの彼女は外科医ではなく呪術医だ。本来であれば外科医術について門外漢もいいところである。

 本来であれば、だ。

 ロジーナ、実はちょっとした手術の経験があるという。その「ちょっとした」が何処で行ったどの程度のものなのか、連理には解らないが、その上で生き物の身体自体にも詳しい彼女が執刀医になっているのだ。

 真面な医療関係者が聞いたら憤慨ものであろう。

 まあ、オルトロスを診察したことのある医療関係者なんて日本中探してもひとりかふたりいればいい方だろうが。

 何にせよ、この情報だけで見るなら、盲腸の手術を経験したばかりの新人外科医に癌の病巣を取り除かせる様にしか思えないだろう。

 全国に社員のいる荒れ木三度Loss、探せばそんな「専門家」が見つかったかも知れないが、シュラの状況を鑑みればどうしても急を要する必要があった。

 その為、近場にいた回復の専門家だけを呼び、ロジーナ、鏡子、マヤの四名の手術に踏み切ったのだ。 立ち会いには修景とアシュタルがなり、ラジットはその間、隠れ里で高円寺兄妹の探索をしてくれていた。良くしてもらった礼、らしい。

 などと言ってもこの手術、一度で終わるものではなかった。

 何と言ってもシュラ自身の体力が限界に近い。

 そのくせ体内で暴れる病巣(タタリ)は早急に取り除く必要がある。

 繋がったまま腐り始めていた二本の首も放ってはおけない。

 それで鏡子に鑑て貰いつつ、まず余計な首を切除したのだ。何せ人間で言えばとっくに敗血症で死んでいたレベルであったのだから。

 シュラはこの大手術で体力が尽きそうになり、それ以上のことは出来なかったのである。


「大丈夫そう、ですか?」


「そうですね。 腐敗した首がなくなって、体内を回る毒素が随分と減ったせいか、それとも彼の心の持ちようなのか、タタリの部分の侵蝕も不思議と抑えられてます。

 勿論予断を許さない状況ではありますけど」


 そこまで言ってロジーナは一旦言葉を止めた。


「そう言えば鏡子さんが、わんちゃんに有り余っている生命力を分けて上げて下さい、と言ってましたけど?」


「オレに、ですか?」


「はい、連理くんに伝えて、と」


 それはつまり、ササの時と同じ、《悪魔喰らい》で増え続ける自身の生命力をあのオルトロスに譲渡したら良いのだろう。

 そして伝言を残したと言う事は本人(きようこ)には当面会えない予定なのだろうか?

 だが…………。


「……なるほど……。

 その他に何か言ってました?」


 シュラを助けるのは吝かではないものの、流石に犬とねちっこいキスをする気にはなれない連理だ。

 (ササ)と犬なら似た様なものかも知れないし、世の中ペットの犬とキスする飼い主も多いが、そもそもササは普段動物形態を取らないのだ。というか連理は彼女の狐である姿を見たことすらない。

 そういう事もあり、わんことのちゅ~というのは出来れば辞退したいと思う。


「えっと……、抱っこするなら30分以上とか言ってましたけど、これで解ります?」


「何となくですけど……」


 そう前置きして、連理は自身の特性を話す。

 ペラペラ吹聴する話ではないが、鏡子から話が通っていると言う事は少なくともロジーナに話す分には問題はないのだろう。


「なるほど……」


 ロジーナは口元へ手をやり、まるで「考える人」の様にピタリとその動きを止めた。視線は斜め下で固定されているが、何処かを見てる感じは全くしない。

 そのまま数秒の後、瞳を動かし連理と視線を合わせる。


「それは……相手に制限などはありますか?」


「ササしかした事はないんで解りませんけど、シュラは大丈夫なんですよね? なら特にそういうのはないんじゃないですか?」


「……わたしの手を握って、そう『意識』して貰ってもいいですか?」


 意識。

 ササの時の様な、もしくはこれからシュラにする様な「助ける」というモノではなく、自身の余剰エネルギーを分けるという、認識しにくい思考。

 連理は言われるがまま、少し躊躇いつつも彼女の手を握る。


 冷たい、無機物でも握るかの様な温度だ。実際触れるまであった照れくさかった気持ちが、沈む。

 彼女は、ロジーナは死者なのだと強く認識させられる、体温。

 以前、栞が抱きついてきた時は当然お互いに服を着ていたし、掛居東誠(チンピラ)との死闘の後であれば、連理にそれに気づく余裕はなかった。

 そもそも大量に流れ出た血のせいで彼の体温はそれなりに下がっていただろう。もし余裕があっても気づけなかった可能性はある。

 だが今は違う。

 意識せざるを得ない状況で触れた彼女の手は、強く「死者」を認識させた。

 彼女は、彼女たちは死んでいるのだと思い出させた。


「――ありがとうございます」


 どのくらいの間その手を握っていたのか。

 ロジーナはそう言葉にして手を離すと、連理の握っていた右手をじっと見つめた。


「連理くん」


 視線が合う。

 紅の瞳が彼を見つめる。


「はい?」


「わんちゃんの後でいいので、少し協力していただけませんか?」


 当初シュラは助ける予定がなかったキャラでした。 というより修景との関係が後付けで、元々名前も実験体○号でしかありませんでした。

 でもそんな後付けの設定のお陰で何やら助かる方向に話が進んでおります。

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― 新着の感想 ―
ダークゾーン⁉️ まさか向こう側はウィザードリィの世界だった⁉️ (´⊙ω⊙`)! 人妻ロジーナは人気でそう。色んな意味で。 (✿♡‿♡) 何に協力させるつもり? いかがわしいこと? (´・ω・`…
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