閑話 浪漫
攻略本なしでクリアするのは至難の業!
えっ? そんなのばかりだって? でもそうなんだから仕方がないのだ。
書こうと思っていたことを書き忘れていたので4月28日追記しました。
何時もの様な日の、何時もの様な室内でササがピコピコとゲームをしている。
彼女は先日ついに! ついにWizardryに於ける最強武器「ムラマサ」を入手したのだ! だが、そもそも転職したキャラですら三桁にも届こうとするレベルだと、とっくに、順当に、流石に、普通は入手するであろう「カシナートの剣」でも大概の敵は一撃で倒せてしまう。ササは二本しかドロップしていないが。
表示されるダメージこそ倍以上になり、達成感もあるのだが、ふと気づくのだ。
そこに何か意味があるのか、と。
そう、ムラマサだろうがカシナートだろうが一撃で倒せる敵しか出てこない上に、余剰ダメージが別の敵に当たるなんて事はないのだから戦闘ターンは同一。
一度ラスボスを倒し、その称号を得てしまった以上、同一キャラでの探索ではボスはもう出てこない。
――彼女はWizardryをそっと脇に退けたのだ。
そして彼女が新たに手にしたのは、可愛らしいイラストの描かれた一本のソフトだ。
そのタイトルは「ロマンシア」。
イラストともタイトルともかけ離れた「異質な難易度」を誇る任意スクロールアクションゲームであった。
「のう」
プレイを止め連理に話しかけるササ、という最早定番のやり取りに、彼はレポートの手を止め振り返った。
「どうした?」
以前に椅子で仰け反った際、危うく頭から落ちそうになった彼は以来、普通に振り返る。詰まらない事である。
「全然進めん」
「今、何をやってる……あれ? これ持ってきてたっけ?」
「実家で適当に見繕って持ってきたんじゃ」
彼女と一緒に帰省したのは記憶に新しい。
家族とも仲良くなった彼女と、ロリコンのレッテルを貼られた自分という同じ思い出でも待遇に差のある状況で、特に妹の視線が痛かったという何とも悲しい記憶であるが。
「あ~、そっか……」
多少呆れる様な、それでいて哀れむ様な微妙な声色に、ササの顔が微妙に歪む。
連理の仕種にイヤな予感、というか殆ど確定された「不幸」を感じずにはいられなかったのだ。
「なんじゃ、その『またそんなの選んで……、何でもう少しマシなのを持ってこないんだ』とでも言いたげな顔は?」
「………………いや……まあ、その通りだ」
殆どピンポイントで言いたいことを言われ、連理は言葉を詰まらせた。敢えて言うなら「相談しろ」を追加するくらいしか違わない、見事な先読みである。
「でじゃ、はっきり言わんか。 つまりこのゲームは何なんじゃ?」
操作的な難易度はそこまで高くはない。
だが、このゲームの真骨頂はそこにはないのだ。
「まあ、まずクリア出来ないだろうな、と」
「またそんなのか!?」
このロマンシアというゲームは敵の出現に関してはほぼ一定で、動きに関しても大きな差はない。多少難しい場面もあるが慣れてしまえば大したことはないのだ。ラスボス込みでノーダメージクリアも出来るだろう。
問題は謎解きなのだ。
とは言えノーヒント謎解きなのは、まあこの時代では珍しくない。多少のヒントがあるだけまだマシなレベルではあるだろう。事実、自力クリアしたプレイヤーが一応はいるのだ。
そこにある問題は「やり直し」が全く利かないというシステムである。
コンティニューが出来ない、という意味ではない。
一度間違えると取り返しがつかず、最初から ――リセットして再スタートするしかない、そんな場面が彼方此方にあるという、ある意味死にゲーより非道いノーミス必至のゲームなのだ。
そして何より恐ろしいのが、その「ミス」に気づけるのがゲームに詰まってからという全くの手遅れ感である。
例えば、とある場所に一見同じアイテムをくれる賢者が四人いるのだが、うち三人は偽者であり、くれるアイテムも当然偽物である。だが、これが偽物と判明するのはゲーム全体の半分も過ぎてからなのだ。
その上、「偽物だから進まない」と教えてくれる訳ではない為、その事実に気づけない可能性は非常に高い。というか気づけない。
何故なら、その時その場所でそのアイテムを使うという自覚がないからだ。そもそも牢を開けるのに巻物を使うとか、普通は思いつかない。使っても効果が無ければ偽物とは思わず、違うアイテムを使うのだと思うだろう。
そんな事実に気づけずにウロウロしてやられてしまうのがデフォなのだ。
ちなみに話しかけると、主人公フレディがいきなり天に召されてしまうというとんでもないオッサンもいる。まあ必須イベントだが、特定の条件が揃ってないとそのままゲームオーバーである。
初めて王国に入ったプレイヤーがゲームオーバーになるのは大抵このオッサンが原因だ。初めてじゃなくても条件が揃わない内にうっかり話しかけると死んでしまうので、実のところ死亡原因のトップ10に入りそうなキャラであった。
この公式名称「昇天入道」、ちまたでは昇天じじいなどと呼ばれたとんでもキャラだが、きっと国中どの人間も彼に話しかけることなどないだろう。何せ話しかけたのなら即昇天させられてしまうのだから。
カルマ値が5以上あれば天界へ上り、アイテム「精霊」を使うと地上に戻れるとは言え、普通に話しかける分にもリスクが高い。恐らく世間話も出来まい。
連理は一応エンディングを見ているもののイベントの内容や必須アイテムの入手、それらの順番を流石に覚えてはいない。
自宅の部屋には攻略本もあるが、ササが持ってきた様子は無い。攻略サイトはあるがあまり解りやすいものではない為、出来れば本が欲しいところではある。
もっとも今のササには関係がないだろう。
彼女の操るフレディ王子は未だロマンシア王国に辿り着いてもいない。
「つーか、まだ森の中をうろちょろしてんのか……」
「いや、さっきボスっぽいのにやられたのじゃ」
画面は確かに最序盤だ。といってもそれ程進まなくとも中ボスその壱には辿り着く。
「アンギラスに負けたのか…………」
一本角を生やしたちょっと大きめの敵だ。
体力こそあるが初心者にも優しい中ボスである。基本的には離れた位置から角を放物線状に撃ってくる。徐々に近づいてくる場合はその巨体を躱しきれず大きなダメージを受ける事もあるが、基本の角攻撃は躱しやすいし、このゲーム特有とも言える「剣投げ」のいい練習相手になる。
「その前の、飛んでくる奴に体力を削られての、あっという間にやられたのじゃ」
序盤、冒険の森には最初から飛んでいる敵が二種類、水面から飛び上がってくる敵が一種類いるが、果たして彼女の言うのはどれの事なのか。
それ以前に、
「つーか、剣振っていれば大抵の敵は勝手にやられてくだろ?」
「………………そりゃ振って当たれば倒せるじゃろ?」
「そうじゃなくて、アンギラスに会うまではずっと振ってるくらいでもいいぞ?」
「如何いうことじゃ?」
「たまーに真下から突っ込んでくるヤツはしゃーないけど、適当に剣を振ってるだけで勝手に当たってやられてくぞ、こいつら」
とは言ってもそうして良いのはこの冒険の森くらいである。
ロマンシア国を越え、アルゾバ国へ行くと当面は剣を振るう訳にはいかなくなるからだ。
「……わらわの苦労は一体…………」
「まだ苦労って言う程プレイしてないだろ? このゲームの苦労は国に入ってからだ」
お使いイベントで善行を稼ぐ為に数々の病人を癒し、倒してはいけない敵をすり抜けつつ必須アイテムを入手、天界へ昇り巨大な敵を躱しここでもアイテムゲットし、お姫様を助け、更に地下へ潜りと、八面六臂の活躍を見せる様でなければこの手のゲームはクリア出来ないのである。
通過必須イベントはそこそこ多く、そのくせヒントは極めて少ない為、基本的に総当たりしつつ進めなくてはいけないアクションRPG。
その上カルマの値も調節も必要であるし、アイテム数の制限もあるから取得順と使用順の確認もしないといけないのだ。
ちなみにアイテムを売ると1GPの現金になるが、カルマが1下がる。何故か下がる。まあ、アイテム名が「聖水」だったり「精霊」だったり「聖なる衣」だったり「十字架」だったりするから、売れば不信心者という事なのかも知れないが。
そんなこんなで自力でのクリアは、不可能ではないだろうが恐ろしく難しいゲームだ。
「ま、クリアする気があるなら攻略情報くらいはまとめてやるからさ、取り敢えず操作の練習でもしてれば?」
「いや、気持ちは嬉しいがわらわはやってみせるのじゃ」
何故かやる気を見せる彼女は拳を握りしめると画面へ向き直った。
「当面は何処に何があるかの確認と操作の練習じゃな」
そう呟きスタートするササの表情はやる気に満ちているが、そもそもこのゲームを自力でクリアするにはある種の閃きも必要だ。頭の上に「ピコーン!」と電灯マークのつく様な、伝統的な手法で表現されるアレである。
「……そうか。 まあ、頑張れ」
難しいだろうなあ、と思いつつ連理は彼女にそう言うと、徐ろにノートPCを起ち上げた。
起動したPCから攻略サイトを幾つか確認し、自身の記憶と精査しつつ内容を取りまとめていく。勿論出来る限りキャプチャーしたであろう画面情報も保存だ。
多分無駄にはならないであろうその作業をテキパキと熟していく。その様子は真面目に勉学に励む学生の様であった。
だが学生の本分と言える先程までまとめていたレポートはどうしたのか、どうなるのか。 それを知る者は未来の彼等しかいない。
このゲームはセリナ姫の所までは行けたもののそれ以上進めず、結局放置していたんですよね。攻略本を入手するまで埃を被ったままでした。巻物が偽物である事に気づけなかったので。
情報を取りまとめ、試行錯誤を繰り返し、諦めずにいけばクリア出来た……か、どうかは今でも、今だからこそ解りません。
そう言えば、ボーカルコレクションには入りませんでしたが、ロマンシアにも曲に合わせて作られた歌がありましたね。
日本ファルコムは当時からサントラをよく作っておりまして、これも「カセットテープ」で販売されていました。流石にもう持ってませんが。




