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第四十八話 奈落の刃と千変万化

 重護というキャラクターの持つ「タタリ」というミュータントは全能力値増加という効果があります。NPC推奨クラスの「モンスター」も全能力値にプラス補正、もしくは対応ヘレティック・クラスの最大レベル引き上げという効果が。ハイランダー「カオス」はそんな能力値が倍に。

 それ以外にもハイランダー「チャンピオン」を有する重護は同レベルのキャラクターより四から五倍、下手すると六倍以上の能力値を持っています。

 まあ、とんでもないペナルティもあるんですが。




 刑部(おさかべ) 重護(じゆうご)は気まぐれに周囲を破壊しつつも、見渡し警戒することは怠らなかった。


 バイオハザード警戒区域と思われるマーク ―― ひとつの円とみっつの円を重ね合わせた様な標識だ―― のある場所は徹底破壊し、中にいたファンタズマやアクマ達を解放する。研究所内に鳴り響くアラートが一種類増えて、より一層喧しくなった。


 ――何処まで壊せば鳴らなくなるだろう?


 そんな事も考えながら、壁を、隔壁を破壊する。

 彼の肉体はタタリとなったあの日から、日々強力に、強大なモノに変化していた。

 それはただのファンタズマでは決して辿り着けない領域だ。

 だが一方でこれ(タタリ)がそれだけの「恩恵」ではないのだと、理解出来る。

 これは呪いだ。

 自分が自分に掛けた呪い。

 自身で守るべきだった者を守れなかった、そんな自分に与えられた償いの為の呪い(ちから)。 何時か何処かで必ず破綻する、そんな膨らみ続ける風船の様な時間制限付きのちからなのだ。


(……ちっ)


 漂ってくるイヤな臭い。その臭い自体は常にこの施設内に充満している様だが、より濃いそれが、漸く鼻をついた。

 臭いに常に晒された鼻が、少し馬鹿になっている。

 これ以上鼻が利かなくなる前に対処すべきだったか、と昂ぶる気持ちを落ち着かせた彼は、その身をスーツ姿の人間から化け狸 ――直立する人間大の狸だ。とは言っても彼の場合かなり筋肉質だが―― に戻すと「ポン」と腹を叩いた。

 重護の、化け狸の能力のひとつでありながら、一際鍛え上げた妖術「千変万化」。一瞬煙に包まれた彼は刹那に巨人の姿を取ると、全力で壁を殴りつけた。

 彼のちからであれば変化しなくともこの程度の壁を破壊することは難しくはないが、風通しを良くするまで壊したいのであれば、この方が手っ取り早い。


 何せ彼の化けた巨人は普通の巨人ではない。百腕巨人(ヘカトンケイル)と呼ばれる神代の巨人である。

 本来であれば巨人よりも巨神と分類される様な種ではあるが。

 もっとも、その姿は小さめだ。通路につっかえてしまっては元も子もないので、変化した姿は色々とアレンジされているのである。

 その為サイズは巨人としては小さめで、通路を普通に移動できる様に身長は3m程に抑えてあり、腕の数も控えめだ。

 一方で青銅巨人(タロス)の様に腕やその他の要所要所は金属の様になっている。それでいてその光沢は青銅程度のモノではなく鋼かそれに類するモノに見えた。

 そんな拳が目に見える程濃い魔力を纏い振るわれるのだ。

 硬いだけの壁などに耐えられるものではない。歩きながら殴っていくだけで、破壊され、または丸ごと吹き飛んでいく。

 滞った空気などそこにはない。澄んだ冬の空気が真新しい風と共に澱んだ空気を拡散させる。

 故に理解する、イヤな空気の元。

 実験棟の澱みくぐもった様な臭いとも違う、まるで腐った様な臭気。 それが近づいているのが解った。


 「ポン」と腹を叩き、その姿を変える。

 それのサイズは2m強で先程よりは小さめだが、その皮膚は赤銅の如き赤、額には二本の角、そして背負うは雷太鼓。

 即ち ――雷神。

 彼は臭気の元となった相手 ――度重なる実験により、ファンタズマでもアクマでもタタリでも、いや、もう魔物という枠組みですらなくなった怪物(フランケンシユタイン)の姿が見えるや否や、背負う太鼓を大きく鳴らした。


 雷神、雷さまの持つ太鼓は雷太鼓、雷鼓とも呼ばれる雷そのものを現したものだ。太鼓の音は雷音自体であるとも言われ、鳴らすことで雷光を放つ。

 轟音と共に発した雷撃は、哀れな実験体達 ――ここの人間達の言う失敗作である―― を正しく電光石火の速さで駆逐していった。

 恐らく彼等は痛みどころか何が起きたかすらも気づけなかっただろう。 気づけぬ内に意識も存在も無に帰すのだ。




「――存外、タタリとは慈悲深いものなのでしょうか」


 そんな雷撃を、耐えたのか躱したのか、ひとりの少年が彼等と同じ方向から姿を現した。

 見た目だけ言うなら高校生くらいの、少し平淡な話し方をするただの少年。だが、この状況で「ただの高校生」が出てくる筈もない。


「貴様等スレイヤーに比べるなら、誰でも大概は慈悲深いだろう」


 重護は少年の言葉に、内心苛つきつつも淡々と返しつつも雷太鼓を打つ。が、放たれた雷撃は少年の前で、見えない何かに弾かれ消えた。それを二度三度と繰り返しても同じ様に弾けて消えてしまう。

 障壁かと思いもするが、どうも消される距離が一定ではない様だ。

 それに一見無手にも見えた少年の手に、短杖(ワンド)の様な何かが見える。


「――ハンターか」


 問いではなく確認。

 言いつつ腹を叩くと、煙の中から現われたのは多頭大蛇(ヒユドラ)

 壁のなくなりつつある空間を一杯に使った巨大な蛇の魔物だ。そのサイズは八岐大蛇(ヤマタノオロチ)も斯くやと言わんばかり。変化と同時に、普通よりは余程高い場所にある天井を壊してしまうと、その身を捩り建物内であるにも関わらずそこに「更地」を作った。

 その空間は高さにして三階分程で、ちょっとした体育館よりも広い。


「ご明察の通り、ここでハンターをしております」


 答える少年は崩れてくる壁も天井も、全てを砕き、切り裂き、自身へ害するものを近づけない。


「調整体十四号、シトウと呼ばれる若輩者」


 そう言って彼 ――シトウは手にした「柄」を振るう。


 彼のテルムは《奈落(プロフォンドゥム)》。


 それは不可視の、鞭の様に(しな)る無数の刃を操るテルムだ。

 最初はただ見えないだけの刃だったそれは、多くの調整を受けていく内に、切断力が増し、刃が増え、撓る刃はまるで鞭やリボンの様にまで曲がる様になり、電柱から別の電柱を切り裂ける程に射程距離は伸びた。

 見えないもののその姿は「九尾の猫」と呼ばれた拷問具に似ている。九本の鞭を束ねたシンプルな構造の鞭だが、軍採用される程に威力があったと言われる物だ。

 違うのは鞭ではなく刃である点と、射程が圧倒的に長い点だろう。


「ではさようなら」


 言葉と共に並みの刃では通らぬだろうヒュドラの無数の首が、ほぼ同時に斬られ、抉られ、切断された。


「――想定内だ」


 危険だと思ったからこそ、生命力・再生能力に長けたヒュドラに化けたのだ。ここまで大きく姿を変えると自身の負担も大きいが、それとて差し引きするのであれば十分にプラスである。

 落ちた首から、半ば切断されぶら下がった首から毒の息が吐かれた。外気に晒された今の状態でも、毒の海と紛う濃度と密度の毒が、シトウを、周囲を汚染する。

 単純に毒と言っても、それは毒であり、酸であり、疫病の元であり、鉄すら腐らせる瘴気の塊でもある。

 コンクリートも鋼壁も、溶ける様に腐る様に朽ちていく。残っていた監視カメラも、配管の奥の配線すらも。当然、生体も例外ではない。例外なのはそれを吐いた本人くらいなものだ。

 その間に重護の身体は既に再生を終え、切れかけた首は健全なものに、斬り落とされた首からはそれぞれ二本ずつ新たな首が生えている。


「……けほっ……、なる程、お強い」


 周囲を全て汚染していく様な毒を受けても、シトウはまだ生きていた。

 毒が晴れるまで自身の周りへ無数の斬撃による空気の断層を作っていたのだが、勿論そんなもので漂う毒を全て防げるはずもない。直撃は免れたものの、呼吸により体内へ入った僅かな毒が、彼の臓腑を傷つけ、冒し、腐らせている。その証拠に口から流れるのは血の様で血の色をしていない「何か」だ。


「死ね」


 ヒュドラの全ての ――増えたものも含めた全ての首から一斉に毒息が吐かれた。

 シトウを名乗るハンターを中心に、それでも何をされようと対応出来る様、周囲に、自身を包む様に毒を撒く。撒き続ける。


 それは通風口に入り込み、隔壁のほんの僅かな隙間に入り込み、溶かし、朽ちさせ更に入り込み、内部に潜む人間を冒していく。最早動くことも叶わない実験体や失敗作も、平等に冒し、殺していく。

 雪は黒く染まった直後にその姿を無くし、観葉植物も、施設内外に生えていた雑草も、土中にいる虫でさえ死んで、朽ちて、溶けていくのだ。

 逃れる術は無きに等しい。


「――貴方も」


 不意に、くぐもった様な声。

 目の前に、飛んだのか飛び降りたのか、重護の、文字通り「目の前」に姿を現したのは、皮膚が爛れ、肉が溶け、既に耳や鼻などの末端部を失い、瞳の色を疾うに無くしたシトウ。 彼はその、既に死者と言っても過言ではない様相で、《奈落(テルム)》を振るった。


 不可視の刃で硬質の ――本来のモノより遙かに硬い鱗が切り刻まれる。

 首が抉られ骨が切断される。

 牙が飛ぶ。鱗が飛ぶ。肉片が、目が頭蓋ごと斬られ宙を舞う。

 一振りで十を超える斬撃が重護を襲った。

 切り刻む、切り刻まれる竜にも等しい強靱な肉体。

 重護の目の前で一振り。

 落下し、2mも落ちてからもう一振り。重力に引かれるまま、下がって一振り、下って一振り……。

 シトウは床に落下する瞬間にももう一振りし、受け身も取らず水風船の様に弾け、血と肉の染みとなった。

 対して重護も巨大な肉体の彼方此方を刻まれ、首の大半を切断され、耐えきれずに地響きを立てて床へ倒れ込んだ。

 流石に一瞬意識を失いかけるものの持ち直した彼は、化け狸の姿に戻ると足を引きずりながらも歩き始めた。


 ――まだ仇は取っていない。



一応書いておきますが、フランケンシュタインが博士の名前である事は知っています。ただ魔物でもなくなった存在は「怪物」にしたかったし、それに振るルビに「フランケンシュタインの怪物」はちょっと微妙だな、と……。字数制限もありますしねぇ。

ちなみに今回の「毒」は大抵のキャラクターに対して有効な代物で、「毒無効」「酸無効」「疾病無効」「瘴気無効」の四つか、それに類するモノがないと完全無効化が出来ません。

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― 新着の感想 ―
九尾の猫……こわぁ。 めちゃ痛そうな武器すぎる。 (´;ω;`) 毒がエグいし、今回は特に描写がグロいぃぃいい‼️ 。:゜(;´∩`;)゜:。 食事しながら聴くには辛いエピソードでした。 (´;ω…
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