第四十六話 望むのはひとつ
初期設定から大幅に変わってしまったキャラのひとり。もっとシンプルなおバカの予定だったんだけどなあ……。
最初のシーンはあくまで「彼」自身の認識から見たモノローグになります。
短めです。
「彼」は孤独だった。
幼い頃から一般人の見えていないものを見て、感じて、会話をしていた彼は、他の人間から見ると異質で異常で、価値観のまるで違う異邦人だった。
それは親ですら例外ではない。
育児放棄などはされなかったが、乳幼児だった頃は兎も角、物心がつき自分以外に見えぬ者達の存在を明かし、示唆し、親の認識に「隣人」たる彼らの存在を書き入れてしまってからの彼には、愛情など一欠片も与えられはしなかった。
幼かった彼はだからこそ一層に、「隣人」たる存在へ傾倒したと言っていいだろう。
彼を育てたのは悪魔であり魔女であり、魔獣であった。
契約によって与えられたシャドウに、何処まで育児するという意識があったのか、契約者の望みに沿って動いただけなのか、それは誰にも解らない。だが、彼は間違いなく彼らによって育てられた。
時折姿を見せる「化け物」に恐怖した両親はただただ疎遠となった。
それは仕方がなかっただろう
親よりも人頭蛇身の「何か」に懐き、被り物のような姿でありながら明らかに生きている普通ではない者と過ごし、双頭の仔犬と遊び戯れる。
それでも、一欠片も理解出来ない息子でも、一応の生活拠点にそれまで住んでいたアパートの一室をそのまま与えられた。生活費は最低限の振り込みだけであったが、それで十分だった。
見捨てて姿を眩まさないだけ責任感はあったのであろう恐怖に負けた両親に、特に恨むような気持ちはなかったが、当時の中学校に上がったばかりだった彼は、それでも一抹の寂しさは感じていた。
だからか、異形の「隣人」は増えた。
寂しさを紛らわすためか、孤独を誤魔化すためか、それともいなくなった親への当てつけなのか。
ひとりしか住んでいないはずのアパートの部屋には、常に異形の影があった。
だが、彼はそれで十分だった。
彼は彼らといられたらそれで十分だった。
そこから「ひとり」、連れ去られるまでは……。
◇ ◇ ◇
結論から言うと少年は日崑孝正会の人間だった。
襲撃の理由は戦力増強の為。「ちからが欲しかった」と闇堕ちフラグを盛大に建立した少年は、それでも然程落ち込むでもなく、多少の不機嫌さを滲ませながらもそこに立っていた。
戦力と言っても孝正会全体のものではなく彼個人のものだ。つまり言葉通りに取るなら、彼の身勝手な単独の犯行である。
だが、メディウムはファンタズマに対して契約を結ぶことが非常に困難である。だからこそアレクと孝正会は互いの境界を越えることなく活動してきたのだ。
なら何故彼は短絡的にアレク周辺のファンタズマを襲ったというのか。
その問いに今回の調停者としてやって来た、何処か見覚えのある顔をした少女は申し訳なさそうに頭を下げた。
「それに関してはこの馬鹿の勉強不足でして……本当に申し訳ありません」
先だって高円寺 希を名乗った少女は起き上がり小法師の如くぺこぺこと頭を下げる。
彼女の横で、同行していたもうひとりの調停役フレデリック・フォートも目を伏せ禿頭を下げていた。
「……馬鹿ってなんだ痛っ!?」
文句を言おうとした犯人、磯城 修景の頭を割と容赦なく殴りつける彼女の様子は必死だ。
聞いたところによると、現状責任者が留守であった孝正会なのだが、内容が内容なので出てこられるふたりが取り急ぎ来店したのだ。
立場としては身元引受人だろう。
ちなみに彼女はまだ中学生で責任者の代行を努めるような立場ではないのだが、同行している剃髪男は申し訳なさそうにこそしているものの黙して語らず、只管彼女が話している。
「馬鹿は馬鹿でしょう! この馬鹿っ!!」
荒れ木三度Loss斜路支店所属の高円寺 望と同じ顔をした少女はもう一度拳を振り下ろすが、それはあっさりと躱された。
「よけんな!
こんな馬鹿なことをしでかして、これで馬鹿じゃなかったら何だって言うのよ! こんの大馬鹿っ!」
ぜーぜーと息を切らせた少女はゆっくりと深呼吸をすると、改めてアレクの面々に向き直った。
アレク側でここにいるのは捕縛者代表として逆木連理、責任者のマヤ守崎、護衛という訳でもないがちょっと暇人気味だった円井夕陽である。
「本当に申し訳ありませんでした! 後ほどこちらの責任者の御社から改めて謝罪をさせて頂きます、はい!」
何処ぞのサラリーマンを思わせる見事な謝罪っぷりに言葉を失う一行だ。
「……あの、希、ちゃん?」
言いづらそうに、それでもマヤは目の前の少女に声を掛ける。
「はい!」
「御社クンがいなくて名代が来るのは解るけど、なんであなたみたいな子が?」
責任者、というか「教祖」御社業残は前衛系メディウムでバトルジャンキーだ。 本山にいる事は殆どなく、そこいらの隠れ里に入り込んでは戦いを繰り広げる戦闘狂である。
その為、会の運営は弟の崋山に任せられており、この地域の組織間の折衝等も彼の役割になっていた。マヤの言う「御社クン」も弟のことになる。
「本日連絡を頂いた際、会長はおられず、偶々教祖がいらっしゃったのですが、『お前確か修景のクラスメイトだったな? よし、今日はお前が名代だ、頑張れ。 任せたぞ。 ガハハハッ』……と」
「…………冗談だよな?」
それまでほとんど口を開く必要のなかった連理だが、マヤが何も言わないでいた為取り敢えずツッコんでみる。
マヤは夕陽と顔を見合わせつつも、不思議そうに少年少女を見ていた。
「残念ながら、本当なのだ。 儂もその場にいたのだがとても引き止める事は叶わず……」
それまで自己紹介以外に口を開かなかった禿頭外国人が拳を振わせながら語る。教祖に対し、体当たりで止めようとした彼はあっという間に地べたに寝転ばされたのだ。
圧倒的敗北に喫した彼の悔しさはその拳に滲み出ている。ぷるぷる震える拳は武者震いなどではなく、筋肉の痙攣だ。ダメージがまだ残っているのである。
「彼なら……そんな感じでしょうね」
そんな会話にマヤは納得している様子だ。
「オレ、孝正会って宗教団体で魔物使いが多いって聞いてたんですけど、格闘団体の聞き間違いでしたか?」
「メディウムって相手にちからを示す必要があるから、ストレングスは結構多いのよ」
納得出来るような納得しがたいような理由だ。
僧侶やお坊さんの集団でイメージしていた孝正会が、僧兵やモンクの集団に早変わりした気がする連理である。
連理は気を取り直すと目の前にいる少女へ声を掛けた。
「…………ところで高円寺さんって、アレクにいる高円寺と……?」
「はい! 双子の妹になります」
責任の伴う話しからズレたせいか、彼女は明るくそう答える。
顔も声も似ているが、何処か斜に構えた高円寺望とはかなり印象が違って見えた。単純な造形では正に瓜二つなのだが、何せ表情が違う。見分ける事は容易だろう。
「似てるなぁ」
「よく言われます。 お兄ちゃんは女っぽい! って自分の顔なのに嫌がってるんですけど」
苦笑しながら、兄と同じ顔を持つ少女は続ける。
「そんなところが可愛いんですけどね」
そんな事を抜かす少女の顔は、今までの明るさ以外に、何処か妖艶さが入り交じっているような、そんな表情だ。
恐らく自分は理解出来ない何かだと、連理は追求を止める。そこには自身が知るべきではない深淵があると、そんな気がしたのだ。
互いに言葉を発する事がなくなり、室内が沈黙に包まれた時、不意に扉が開かれた。
「マヤさん!」
突然の闖入者は上坂朱音。
本日バイト中の彼女は普通に店に出ていたはずだ。急いできたにしても息を切らせる程の距離ではない。
なのに彼女の息は整わない。
興奮しているのか焦っているのか、どちらにしても普段の精神状態ではないのは明白だった。
「どうしたの、朱音? 来客中よ」
それが解ったのだろう。マヤの咎めるような言葉の中に、叱咤・叱責する様な感情は混じっていない。
「あ、っと」
来客がアレクの人間でないことに気づいたのか、一瞬言葉に詰まる朱音だが、「里」側にいる以上ワイズマンである事に違いはない。
「今、本社の方から緊急連絡がありました」
言われてマヤは訝かしげな表情を浮かべた。
荒れ木三度Lossは対外的に全国規模のチェーン店で、主に経営面を担っているのは本店とされているが、支店との関係はかなりゆるゆるだ。
成り立ちが営利目的という訳ではなく、そもそもがファンタズマ・ワイズマン同士の相互扶助を目的として作られた組織である。
その「目的」を旗印に全国規模に展開している為、支店長の裁量権が強くなっており、本店は滅多に口を出してこない。
それは本「社」でもあまり変わりはない。
所属する者によって支部ごとの特性がまるで違うため、例えば対組織戦やり方ひとつを取ってみても口の出しようがないのである。
こちらから要請をしたなら兎も角、そうでないのなら、立ち上がりの時に本社所属の者が来るのが精々だ。
それ故に「緊急連絡」なんて終ぞ受けた事はないのである。
「それは……孝正会に絡む事?」
客人にチラリと視線を向け、彼らがそちらの人間である事を匂わすマヤ。
「いえ、スレイヤー……ヤクトルビルディング絡みです」
朱音の言葉に、マヤの双眸が鋭くなる。
彼らとの諍いで榊家やここにいる連理、未だ療養中の黒澤耶彦など、知人友人が大怪我をしたのはそう前の事ではない。
その件だけで言えばこちらに死者はなく、向こうは二桁に及ぶ死者が出ているが、今までの被害を考えればそれで互いに損得なし、とはならないのだ。
「……内容は?」
「彼らの支社のひとつと、研究所と思しき場所が襲撃を受けました」
それを聞いて皆に緊張が走る。
日崑孝正会のふたりも例外ではない。
「襲撃者は『祟り鬼』刑部 重護」
その名はタタリと化したファンタズマの名前。
スレイヤーに強い恨みを持ち、彼らを殲滅せんと戦う、スレイヤーから見たテロリスト的存在。
「……おさか、べ?」
ざわつく周囲に埋もれ、「彼女」の囁くような声は誰にも届かなかった。
実は作者の予期していなかった方向に話の進みつつある昨今でございます。
…………ヤベえな……。
○フレデリック・フォート・・・日崑孝正会所属の魔物使い。 特に宗教的な理由はないが金髪は完全に剃り落とされている。つるんつるん。
両親は共に米国人だが、生まれも育ちも日本であり、嗜好、性格的にもほぼ日本人である。 目は青。
二十三という年齢ながら、一人称が儂、アル中、宗教家で格闘家と色々濃い人。 その上、アル中のくせに健康オタクという変な人。
物理アタッカー、つるりんさん、
◉一人称・・・儂
◉ヘレティック・・・メディウム、ストレングス
◉ミュータント・・・なし
◉クラス・・・気功拳士、
◉使役魔物・・・妖怪/魔獣 土蜘蛛、妖怪/魔獣 大蛇、怪異モスマン、怪異ガマン、幽鬼レブナント、邪鬼レッドキャップ、邪鬼オーガ、傀儡ウッドパペット、傀儡クレイゴーレム、
◉特徴・その他・・・苦痛耐性、鋼の拳、気分屋、健康オタク、アル中、酒は百薬の長、粉砕拳、ミスティック、気功、不動の壁、徹し、瞬転法、弾幕の拳、攻性防壁、震脚、
*メディウムなので使役魔物は変動することがあります。というか結構変動します。 特にレベルの低いシャドウは入れ替わりが激しいです。 ただ彼の場合傀儡の二種は修理・修復が可能なタイプです。




