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第四十二話 小さな鳥居を潜り抜け

 引き続きお泊まりの最中です。

 なあ、信じられるか? こいつら、これでまだ告白とかしてないんだぜ?




「気をつけていってらっしゃい」


 そう言って連理とササを送り出したのは、彼の母である逆木夏帆(さかき かほ)だ。少し眠たげに、それでも微笑みながらふたりを見送る。

 夜は比較的寝るのが早い母なのだが、何時もその表情は眠そうだ。それでも母は自らの仕事と称して主婦業をしっかりと熟しており、それ故に心配にもなるのだが、父賢治によると彼女は昔からこうらしい。


「はいよ、いってきま~」


「行ってきます、お義母さん」


 何やらササの台詞に不適切な漢字が充てられた気のする連理だが、そこには突っ込まない。そう、突っ込まない。




 連理の帰省から数日経ち年も明け、本日は一月一日の元日…… ではなく二日。


 ササとふたりで初詣である。


 一日は人混みが酷かろうとあえて避け、その上で一種の穴場といえる寂れた神社へ向かおうと言う話になったのが年明け前だ。

 ササからすると「神? 居らん居らん。 居ってもファンタズマじゃろ?」ではあるのだが、一応付き合ってくれるらしい。

 その彼女、連理の隣で頻りに頭を傾げていた。


「どうかしたか?」


「何となくじゃが、周りの空気に覚えがあるというか……、そうじゃな、来た事がある様な、ない様な……」


「どっちだよ」


 苦笑する。苦笑しつつも彼女を倣うように周囲を見渡す。

 人気(ひとけ)のない、それでもそこそこ整備された参道が貫く林の中。カラスがカアカア五月蠅いが、それ以外は殆ど無音。車の音は届くものの気にはならない程度の音量だ。

 雪の残る道は足場こそ悪いが滑る程ではない。

 足跡の残るそこは他にも来た人間がいる事の証左だが、その数は驚く程少ない。

 ふたり、もしくは三人と言ったところだろう。

 地元でも知る人間の少ない様な、穴場中の穴場な神社であるから、然もありなんと言える。


「ま、来た事があっても、冬と夏じゃ景色も違うだろうけど」


 この辺りは盆地気味な地形も相まって、周辺の市町村より降雪量がそれなりにある。そのせいもあり、季節 ――特に冬とそれ以外とでは見える印象がかなり変わってくる筈だ。


「それに、何となく厭な予感がするのじゃ」


「おいおい、新年早々不吉な事を……」


 話す間にも見えてきたのは小さな社だ。こぢんまりとしたそこは辛うじて社の機能は備えている様だが、全く以て人気がない。

 三が日の神社として考えるなら一種の異常と言ってもいいだろう。ふたり以外に生物はカラスくらいしか視界に入ってこない。

 そんな社を見て、ササは顔を強張らせた。

 擬音で表現するならピキィィィィーン! であろうか? 凍てつく氷像の顔だ。


「連理! 帰るぞ! さっさと!

 ()く疾く! この場を後にするのじゃ!」


 家からずっと絡ませていた腕を思いっ切り引かれ、バランスを崩しそうになった連理は不思議そうに狐の少女を見る。

 その強張った表情は寒さだけが原因ではないらしい。


「何だよ、何かあったのか?」


 特に妙な感じはしない周囲。

 子どもの頃から何度も来ているが、時が止まったかのように周辺の景色は変わっていなかった。

 この時期の冷たい空気も、その匂いも、自然の気配も、何も変わってはいない……?


「ここは良くないのじゃ! 本当に不味いのじゃ! 人混みでも構わんから別の社に……!」


 賑やかなササを尻目に、連理がふと魔物 ――ファンタズマともアクマとも区別は付けられないが―― の気配を感じ、周囲を見渡そうとした時だった。


「えぇぇ~? お参りしていかないんですか~?

 ほらほらほら、柄杓も綺麗にしておきましたよ? ほらほら」


 唐突に声を掛けてきたのは少し離れた場所 ――手水舎の傍に立つ女性だった。

 連理の感じた気配ではない、人間の女性。

 着ているのはどう見ても生地の薄そうな巫女服。バイト巫女だろうか? 見た目には如何にも寒そうだ。

 だがそんな彼女に、連理もササも声を掛けられるまでその存在に気づいていなかったという事実がある。

 訝しむ連理だが、それより早くササが反応した。


「いやいや、結構なのじゃ。 急用を思い出したでな、今日のところは帰らせて貰うのじゃ」


「いえいえ、忘れていた急用なんて忘れたままでいいんですよ。 日本人なら日本人らしく、神前で手を合わせていきましょうよ~」


「のぉのぉ、わらわ日本人違うしのぉ」


「…………知り合い、か?」


 まるで掛け合いのようなやり取りに、訝しんだ連理の視線がそのままササへ向けられる。


「いや、全然なのじゃ。

 むしろ今は知り合いに会いたくないからこそ早う帰ろうとじゃな」


「ヒドイ! 酷すぎますよ、狐さん!?」


 そこへ、またも唐突に掛かる声は、今度は林の中から発せられた。声だけ聞くなら連理とそう年の変わらないような少女の声。

 そちらを見てもそれらしい姿はない。いや、なかったが、それは宙から浮き出るようにその身を晒す。


「ちっ、見つかったのじゃ!」


 ササはその桜色の着物を着た、高校生かそれよりも若干年を重ねたような女性から距離を取るように連理を引く。

 と言ってもササの筋力と今の連理では力が違いすぎた。 先程バランスを崩し踏ん張ったままの姿勢だった連理は身動ぎもしない。


「連理! こりゃ、動かんか! 彼奴に近寄ってはならんのじゃ!」


 ササがそう言う間にも、柄杓を持った巫女と幽霊のように浮き出た女性が躙り寄ってきている。それだけ聞けばホラーのようだが、まあ悪意は感じない。

 ちなみに幽霊のように浮き出てきたにも拘わらず、彼女の足下の雪には空き後がついていたりする。


「まさか! わらわよりその女を選ぶという訳ではないじゃろうな!?」


「何でそうなる!? じゃなく! 理由(わけ)を話せ、理由を!」


 明らかにササの反応を楽しんでいる巫女と、憮然とした表情ながらも何故か頬を染める女性。そのふたりがじりじり躙り寄ってきていた。


其奴(そやつ)は!」


 連理の腕を抱え、何とか移動させようとする少女は、その、力んだ状態のまま声を上げた。



「変態なんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 その声に林の中にいたカラスたちが一斉に飛び立った。



 ――へんたいなんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………


 ――なんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………


 ――じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………


 ――ゃぁぁぁぁぁぁ…………



 響く絶叫。


 (こだま)する声。


 ササの差し示した女性は何故か頬を染め、この状況に巫女は一瞬固まった後に吹き出し大笑いをした。





「わたくし~、この神社の管理をさせて頂いております、弓張月(ゆみはりづき) (すい)と申します」


 グダグダな空気の中、真っ先に自己紹介を出来たのは柄杓を持ったままの巫女さんだった。

 長い黒髪に緋袴という典型的な巫女さんスタイルである。ちなみに胸部装甲はかなりご立派と言える。

 恐らくは連理より若干年上か?


「翠ちゃんって呼んでくださいね~」


 「ちゃん付け希望!?」と戦慄は禁じ得ないが。

 連理は目を見開き、目の前の巫女を凝視する。「マジかよ!?」と。

 そんな弓張月女史の隣には幽霊っぽく出現したくせに実体のある女性が佇んでいる。女性と言っても見ると意外と幼げな顔で、外見年齢だけで言うなら連理とそう大差は無さそうだ。遠目だと年嵩にも見えたが、今はむしろ下に見える。

 ただその瞳は潤んでおり、連理を見る目が妙に熱っぽい。

 そんな彼女は連理の手を両手で握ると、ぐいぐいと身を寄せてくる。


「わたくしは卯月(うづき) 桜花(おうか)と名乗っております桜の精です。 お名前を教えて頂いてよろしいでしょうか?」


 雪の中にありながら桜の香りを漂わせる彼女は、正しく桜の精なのだろう。ただ何処か儚げにも見える様相なのに、今の彼女は酷く興奮しているように思えた。

 だからだろう。


 連理、ドン引きである。


 先程のササの叫びと、以前彼女に聞いた話が繋がりそうになったせいでもあるが。


「は・な・れ・ん・か! こんの変態っ!」


 ズビシッ! と繋がれた手を断ち切ったのはササの手刀だ。


「あう。 狐さん、酷いです」


 批難するかのような台詞なのに、何故か頬を赤らめている。

 前、ササが言っていた「桜の精」はどんな性癖だと言っていたか。いや、思い出せずとも理解してしまった気のする連理だ。


「…………」


 理解しなかった方が幸せなのかも知れない。そんな事を思いつつ、巫女さんの方を見ながら、


「逆木連理、です」


 と、一応の自己紹介。

 この桜の精の知り合い ――だろう。この状況なら―― ならワイズマンなのは確定だ。

 スレイヤーではないようだし、知己になっておいて損はない、筈だ。 多分。


「ふふふのふ~、よろしくお願いしますね。

 逆木さんは今日はお参りだけで?」


 ファンタズマふたりの諍いをまるっと無視して、翠と名乗った巫女は連理に話しかける。それだけでもマイペースな性格だというのは理解出来た。


「まあ、人混みを避けてのお参りのつもりだったんですが……」


 避けた筈の喧噪が傍にいると、そんな揶揄するかのような台詞を言ってしまったと思い、連理は口を噤むが、彼女はにこにこしたままだ。


「桜花も普段は物静かなんですよ~。 強い人が来るとこんな風になっちゃう残念なコなんですよね~」


「……強い?」


「ええ、野性味の強い人、肉体的に強い人、生命力の強い人。 あのコ、あんなんでドMなので虐めて欲しいんですって。

 苦手な人が近くにいると出てこないんですけど~」


 そこまで言われ、かつてササの言った言葉が鮮明に蘇る。「被虐趣味の桜の精」と、そう言っていた筈だ。


「…………そう言う趣味はないんで、逃げてもいいですかね?」


 ササに視線をやりながら、桜の精から若干の距離を取る。ササとも距離が広がってしまうが、背に腹は代えられないのだ。


「手を出さなければ『はあはあ』言ってるだけですから、気にしなければいいんですよ~。 まあ、吐息が掛かるくらいで、無害ですし」


「そんな傍で『はあはあ』言われて気にしないってどんだけの猛者ですか!?」


「中々のツッコミ(ぢから)ですね、流石桜花が興奮するだけあります~」


 そんな台詞で何故か(おのの)く振りをする巫女さん。


「いや、意味が解んないです、ってかツッコミに強くても興奮って、何でもいいんじゃないですか!?」


「良く気づきましたね。 男の子なら何のかんのと理由を付けて許容範囲にしてる節はありますよ~。

 あんな感じで物理的にツッコんでくれるなら女の子でもいいみたいだけど~」


 翠の指し示す先にはビシバシと変態を「矯正」しようとするササの姿があった。変態さんの瞳が熱く潤んで見えるのがとても印象的。


「無敵かっ!?」


 思わずツッコんだ連理に、翠はとても「いい」表情でサムズアップをするのだった。



 最初は桜花だけを出すつもりだったのに、翠まで出てきてしまった。

 彼女は未発表別シリーズのキャラクターで、一応リンクさせるつもりではあったけど、まだ出てこないはずだったんですよね……。

 いやあ、よく考えてみたら寂れていても神社は神社。 三が日に巫女、というか神社の管理人が留守にしてるとか有り得ないでしょう、という訳で急遽ポップアップ。

 書いてて困ったのが、桜花。 当初の予定より変態度が急上昇してしまって……。 設定を確認したら「野性味のある男」が好みになってるし……どうしよ? 何か収拾がつかなくなってしまいそうなイヤな予感……。

 ちなみにこの変態さんは以前のジョブスで書いた様に、弱点はあるのに弱点にならないというある意味で無敵なキャラクターです。


弓張月ゆみはりづき すい・・・隣町の神社の巫女さん兼管理人。

 黒髪長髪で清楚な印象を与える正しく巫女のように見えるが、実は神社にいながら国津神を信望する破戒僧ならぬ破戒巫女。 夢は大きく伊勢神宮の乗っ取りだが、実際に何かをしているわけでもない。

 ただそこいらのバイト巫女と違い、実際の「力」を持つ。

 一見清楚系の不可思議巫女。

 ヒーラー、サポーター、ムードメイカー、


 ◉一人称・・・わたくし

 ◉ヘレティック・・・マギ、タリスマン、

 ◉ミュータント・・・なし

 ◉クラス・・・巫女、ヒーラー、破戒者、国津巫女、

 ◉特徴・その他・・・魅力的な外見/巨乳、暢気、暑さ寒さに強い、大それた望み、巫女流お掃除術、大麻(おおぬさ)、神楽鈴、破魔弓、鳴弦、破戒の言葉、破戒の誓い、符術、紙使い、神秘、予感、浄化、浄化結界、呪符作成、神符作成、祝詞、祈念、神楽、治癒、傷塞ぎ、回復の祈り、浄化の祈り、呪い返し、人を呪わば穴ふたつ、治癒力強化、彼の子何処の子、実は見ていた、紙吹雪の舞い、紙斬り、紙縒り(こより)綱、紙縒る束縛、紙縒り(べん)、守護の札、回復の札、結界の札、解毒の札、


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― 新着の感想 ―
デート風景が微笑ましいですね。 (*´ω`*) 何やら新キャラは変態さんのようで……。 (・–・;)ゞ 巫女の翠の影が変態さんのせいで薄くなっていますね〜。 今後の関わりがどうなるのか見物ですよ!…
ササはもう告白したようなものじゃない? 栞もどんどん連理(の血)が居ないと生きていけない体にされてるし...
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