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第四十一話 父

 父……。その言葉を単独で見ると、どうもシューベルトの「魔王」が脳内再生されるんだよな。そして「お父さん、お父さん」に差し掛かると何故か「窓に(ウィンドウ)! 窓に(ウィンドウ)!」を連鎖的に思い出してしまう難儀な脳みそよ……。



 連理が実家に戻った翌日の夜。


 賑やかな昼間を思い出し、彼は部屋でひとり、頬を緩めた。



 妹の夏澄は外見上、自身よりずっと年下に見える「彼女」を連れてきたせいか、実の兄を見る目がどうもジトっとしていた気がする。

 そのせいかササに対して初めのうちはどうもおっかなびっくりだった妹だ。それでも日中には普通に話せる程度になり、その日、夏澄の部屋で一夜を過ごすと、翌朝には驚く程にベタベタする仲になっていた。

 お互いに引っ付き合う、というより夏澄がササにべったりくっつき、ササがそれを許容している感じで、その様相は外見とは真逆の母親と幼い子どもの姿を思わせた。

 夏澄は、というか連理の下はふたりともマザコン気味で、母親には随分と甘えるタイプであるから、時に包容力を見せるササは相性が良いのかも知れない。

 そのせいか下の弟である零士(れいじ)は昼間、カルガモの雛のようにササに付いて回っていた。

 ササの人間変身が以前のまま ――ケモミミ尻尾付き―― であったら、いくら幻術で誤魔化していても不信は拭い去れなかったろう。

 こういった細かな修行や鍛錬の結果が出たからこそ、ちょっとした小旅行にも連れてこられる訳だが。

 また、幼い外見には驚かれたものの祖父母や母との折り合いも良く、これなら何の心配もいらないな、等と内心で思い(独白し)、「何の心配だ!?」「つーか、なんで上から目線!?」と自身で突っ込んでいたりした。

 その様子(頭ブンブン)は夏澄に目撃されており、めっちゃ引かれていたりする。二日連続で妹との距離が開いた気のする連理だ。



 ニマニマと思い出し笑いをし、また落ち込む連理だが、ふたり暮らしにもすっかり慣れた時分である。ひとりだけいる久しぶりの自室は幾分寂しく感じないでもない。隣の妹様の部屋からは聞き取れない程度の声が耳に届いており、彼女らが起きているのは間違いないが、そこにお邪魔する気は流石にないのだけど。

 時計の針は二本とも頂点を過ぎた位置にあり、中学生が起きているには少々遅い気もするが、どうせ冬休みであるから五月蠅く言っても仕方がないだろう。

 暇つぶしに読んでいたラノベを片付けるものの、どうも眠気が来ない連理である。


(水でも飲むか)


 リラックスして眠れるようになるか、頭がすっきりして余計に眠れなくなるかは解らないが、このままゴロゴロしていてもどの道眠れそうにない連理は部屋を出て階下へ。

 暗い廊下の先に、何故か光の漏れる部屋があり、丁度いいのか悪いのか、そこはキッチン。

 キッチンの主と言えば、この家で言うなら祖母か母だ。

 だが、扉を開けてそこにいたのは、


「父さん?」


 父、逆木賢治。


「どうしたんだい、こんな時間に?」


 驚く風でもなく父はそう問いかける。

 表情は微笑み、手にはコップ。少しだけ漂うのはアルコールの香りだ。


「水を飲みに来ただけだよ。 父さんは酒? 家飲みなんて珍しい」


 賢治は飲んで騒ぐのが好きな人間だ。

 普段はそもそも飲まないし、明るくとも騒がしいタイプではないが、賑やかなのは大好き人間で、飲み出すと深酒になりがち。

 だが今はコップ以外にアルコールは見えず、飲んではいるものの酔っているようには見えない。


「そうかい? ……いや、そうかもね」


 そう言ってコップを傾けるが、飲むというより、唇を湿らせている程度の傾斜だ。香りを楽しむ様にも見えるものの、酒を飲まない連理には判らない。


「……予感が、ね……したんだよ。 まあ、ボクにはそんなものは見えないんだけど」


 父の奇妙な言い回しに連理は首を傾げる。

 酔っていないようには見えるが、やはり酔っているのだろうか? 予感は予「感」というくらいなのだから、見るよりは感じる方が正解だろう。


「予感、って何さ?」


 と言って酔っ払いに細かいところを説いても仕方ないと、連理はウォーターサーバーにコップを置き、給水しつつ話を振る。


「それは、まあ……色々だね。

 ゆっくりキミと話す機会を得るには今日この時間がいいとか」


「起き出すのが分かってたって事?」


 そう問い掛けながら自身で奇妙な聴き方だと自覚する。普通なら「分かってた」ではなく「思ってた」と問うだろうが、如何してかそう問うのが相応しいのだと思った。


「そんな気がした、かな?」


 その問い掛けに、連理の心情に気づいていないのだろうか? 父はそう答えつつコップに口を付ける。

 単純に話す機会を得たい、という事だったのか。一応はそう解釈し、連理は父の正面で椅子を引いた。


「付き合ってくれるのかい?」


「父さんはそうしたいって事だろう? どうせ寝付けなかったからさ、付き合うよ。

 残念ながら酌み交わすのは(アルコール)じゃなく水だけど」


「真面目だね。 ボクは高一である程度の酒は嗜んでいたけど」


「声を大にして言うこっちゃないだろ……。 …………その頃飲んでたのはビール?」


「家にあったばあちゃん ――キミのひいばあちゃんの作った梅酒だったね。 自分で買ったのはリキュールが主だったかな?」


「自分で、買えんの?」


「そりゃ買えるさ。 お使いです、って振りしてれば中学生だって買える。 高校生くらいになれば単純に外見では判断しにくいしね」


 そう言ってまた一口。 微笑みながら言葉を続ける。



「でも、稲荷(きつね)さんのあの(なり)でキミより年上っていうのはサバを読みすぎだと思うよ?」



 父は微笑みながらそう言ってコップを傾けた。

 一口、先程までとは違う量が口内へ流れ込む。

 何を言われたか判らず、思わず硬直した連理を尻目に賢治は続けた。まるでただの世間話のように。


「ああ、一応上は上なのかな。 いくつ上かは判らないけど」


 賢治はそこで硬直した息子に気づいたのか、


「どうかしたのかい?」


 と、小さな子どもに話しかけるように優しく問い掛けた。

 そこに他意はない、様に見える。


「……いつから気づいてたの?」


 問い掛ける。

 父の様子は何ら変化がないように思えた。息子の連れてきた少女(彼女)が人間でないと知って尚、反応が変わらないというのは「此方側の人間」であっても難しいのではないだろうか?


「最初から、かな?」


 未だ中身の入ったままのコップを持ち上げる。琥珀色の液体越しにふたりの視線が交わった。


「ボクはかつて見鬼(けんき)と呼ばれた人間だ。 見る鬼と書いて見鬼」


 それは見えざるものを見る能力。霊視と呼ばれる能力とほぼ同一のものだ。

 見えざる物を見、またそれを排除する、()を見る者、魑魅魍魎を見る鬼、鬼を見る鬼。


「ボクの場合は見るだけなんだけどね。

 あの子を見た時にすぐ分かったよ。 ああ、物の怪だなって」


「そのわりに、何というかあいつに好意的だよね?」


「別のこの世は人間だけのものじゃないんだよ? お互いに敵対してる訳じゃないんだから、仲良く出来ればそれでいいと思うけどね」


 アルコール越しに見える顔が、お互い微笑みになる。


「とは言え、見るしか出来ないボクは本来ニュートラルだ。

 敵対してこないならこちらも敵対視はしない。 友達付き合いなら、あくまでその延長線上で付き合っていくだけだろう。

 だけど、キミは息子だ。 それにあの子も身内になるというなら味方になるさ」


 賢治はそう言って視線をずらす。 連理ではなくその後ろの閉じられた扉へ。


「惜しむべきは孫の顔が見られないかも、と言う事だね。 ああいった存在とは、人間との間に子は成しづらいというし」


「――そこは父御の期待に添えるよう、努力を重ねる所存じゃ」


 そう言って入ってきたのは話に上ったササ。

 普段寝る時の下着同然の格好ではなく、今回のお泊まりの為に急いで新調した、可愛らしいパジャマを着ての登場だ。

 ただ正体を知られ開き直ったのか、口調は「ささら」モードではなく「のじゃ」口調。


「お前さんはまたそういう事を……。

 つーかまだ起きてたんだな」


 近寄ってきた気配には気づいていた為、連理の表情に驚きはない。ただ、そう言った行為を匂わせる台詞に、どうにも意識してしまうのは当然と言えよう。

 当然扉が開く前にそちらへ視線を向けた賢治も、彼女には気づいており同じく驚きはない。その台詞には多少面食らうものの、彼女の年齢を想像するにそう意外でもないと考えた為、表情にも出ていない。


「そうじゃな。

 先程まで夏澄と話しておったのじゃが、彼奴(あやつ)は寝落ちしてしもうたからの。 わらわも寝ようかと思ってはおったんじゃよ? ただ話し声が聞こえてつい、の」


「そうか、邪魔しちゃったかな?」


「どの道、此奴(こやつ)の所へ行こうと思っておったのじゃ」


 そう言いながら椅子を引き、連理の隣へ。

 普段隣り合う時の距離。 肩が触れる程度の近さ。 慣れ始めたけど、微妙に照れる。


「夜這いかい?」


 事も無げにそう言う父の顔は変わらず微笑み。巫山戯ているのか本気なのか判別はつかない。


「父さん!?」


「それも良いのぉ。

 のう、父御よ。 此奴どうも身持ちが堅いんじゃよ。 共に暮らしてもう三月(みつき)にも成るのじゃよ? 接吻はしとるがの、未だに閨を共にする事もせんのじゃ」


「おまっ!? どこまで暴露する気だ!?」


「おや、寮暮らしだよね?」


「うむ、潜り込んでおる。 今のところそう言う意味でも問題は起きておらんから安心せい」


「そうか、今はひとり部屋だったね……。 ふたり暮らしなら別の部屋に移った方がいいだろうけど、母さんに内緒で引っ越させる訳にも……。 いや、ただ同棲するって理由なら……」


 真剣に引っ越し→同棲を考える様子の父に、連理は半眼。


「おいこら、保護者」


「母御は此方側の事は知っておるのかの?」


 そこにあるのは連理のツッコミを只管スルーしつつ、ササとの会話を続ける父親の姿だ。その息子が頭を抱えているのも知らんぷり。

 ササはその様子を横目で見つつも、将来の義父との会話を楽しんでいる。


「知らないよ。 知らないなら知らないままの方がいいと思ってね。

 まあ、妙に勘が良くて、時々気づかれてるんじゃ?って思う時はあるけど」


 ちなみに祖父母は知っている、らしい。

 賢治が幼い頃に数度話したからなのだが、それが普通でないと気づいた彼が話さなくなって三十年以上経つ為、現在も覚えているかは謎。


「それはふらぐじゃろ?」


「そうかな? ……そうかもね」


 賢治としても知って貰いたい気持ちはある。

 ただ知らずにいる方が危険は少ないはずなのだ。此方側を認識していない大多数の人間が、大抵はそのまま一生を終えるという現実が事実としてあるのだから。


「それでも話す気にはなれないかな。 この世界はただ知るだけでは済まないのだし」


 微笑みを潜め、俯き気味にそう言う父は、改めて ――と言うか漸く息子に視線を戻した。


「キミは、彼らや彼女らと上手く付き合えているのかい?」


「まあ……それなりかな? アクマって連中とはまだ会った事はないけど……」


 むしろ人間のがヤバいと言い掛け、連理は言葉を止めた。それ以上続けると、今度は自身の殺人まで告白しかねないと思ったからだ。

 直接手に掛けた、というには微妙で、情状酌量の余地もありそうな状況ではあったスレイヤー・掛居東誠の死。

 この場で父にそれを告げる勇気は、連理にはなかった。少なくとも今は。

 とは言ってもシャドウを斬り、喰らう彼が今さらそれを気にするのは偽善と保身に過ぎるのかも知れないが。


「悪魔? ああ、今はそう呼ぶのが主流なんだっけ」


 そんな息子の心の内に気づいているのだろうか? 彼は連理の表面上の言葉を受け取り、小さく呟いた。

 言い掛けて止めた息子の言葉を掘り返さない。


「父御よ、此奴それなり所ではないのじゃ。」


 ササはそれについては今までも触れていない。

 そもそも彼女自身も襲われた際にはヒトを返り討ちにしている。勿論同族殺しとなる連理の気持ち(不安)は100%理解出来るものではないが、彼の内にそれが蟠っているのは解っていた。それを蒸し返し態々気分を悪くする必要なんて何処にもないと思うのだ。


 確かに捕食でも何でもない殺し合いなんて全く意味がなく、身が危険に晒されるだけの気の滅入る行為だが、それでも何時までも心を悩ます様なものではない筈だ。

 自然界に於いて、狐は圧倒的と言う訳ではないが、捕食者側である。彼女は、殺すという行為そのものに忌避はないのだ。


「それは……どう言う意味なのかな?」


「おい、ササ」


 賢治の問いと連理の制止の声が重なる。が、時既に遅しと言う訳ではないが、ササは自身の言葉と共にさり気なく席を立ち、距離を取っていた。


「モテモテじゃぞ? 童女にしか見えん十七歳とか実年齢十四歳とか」


「14って……香かよ!? 何であいつ!?」


「ほほう、香さんね。 それにもうひとりいるのかい? それは詳しく聞きたいね」


 父、興味津々。


「彼奴、鴉と同じくらいおぬしに懐いておるぞ? 餌付けしたのが効いたのではないか?」


「してねぇって、むしろされた方だろ!? …………って、あっ……した、か?」


「しかも餌付けされた自覚がある、と?」


 父のチェックがすかさず入った。


「いや、アレを作ったのは栞でも香でもないはず!」


「ほうほうほう、栞さんか」


 知らない名前は見逃さないFather。


「あの時、栞はロジーナだけが作った様な言い方をしておったが、ふたりとも手慣れた様子で手伝っておったぞ?」


「ロジーナさん? もうひとりいるのかい?」


「いや、あの人は人妻だし」


「何? 人妻? 不倫?」


「違ぇ!?」


「夜も遅いんだし大きな声で叫ばないでくれるかな?」


「今さら!?」



 と言う訳でお父さん、登場早々にカミングアウト。


○逆木 賢治

◉一人称・・・ボク

◉ヘレティック・・・なし

◉ミュータント・・・なし

◉クラス・・・サラリーマン、セールスマン、見鬼、マネジャー、図書館の主、

◉特徴・その他・・・管理職、巡る縁、人脈、見鬼の才、マネジャー、報連相、コーチング、冷静、来る者拒まず、お祭り好き、うわばみ、宴会部長、世話好き、肩凝り、コネクション、コンサルタント、税務知識、会計、簿記、セールスの基礎知識、ボウリング、ゲーマー、こだわりプレイヤー、TRPGプレイヤー、本の虫、持ち家/一軒家、ゲーム雑学、掲示板の長、一般雑学、名前を忘れない、得意なゲーム/アクション、好きなTRPG/トーキョーNOVA、


で、お母さん。

逆木サカキ 夏帆カホ

◉一人称・・・私

◉ヘレティック・・・なし

◉ミュータント・・・なし

◉クラス・・・主婦、OL、作家/駆け出し、作家/中堅、図書室の妖精、

◉特徴・その他・・・実は見ていた、壁に耳あり、ママ友ネットワーク、料理、家事、あらあらまあまあ、甘党、経理、情報屋、事務職、おさんどん検定、会計、腰痛、肩凝り、運動不足、あみぐるみ、ゲーマー、TRPGプレイヤー、ネオロマンスLOVE、乙女ゲームわっしょい、逆ハーレムバンザイ、こっそりラノベライター、文章作成、インスピレーション、咄嗟の集中力、記憶図書館、得意なゲーム/落ちゲー、好きなTRPG/モノトーンミュージアム、


注)夏帆のクラス/作家がふたつあるのは以前「鏡子先生~」で説明したクラスの成長ルールです。作家/駆け出しをレベル上限まで上げてから作家/中堅を取得しました。


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― 新着の感想 ―
ぷよぷよは落ちゲーですよ。 積みゲーとは開封していないゲームのことで、主にR18な無駄にデカい箱の…… おっと、誰かが来たようだ。 (`・ω・´)
親子のサシ飲みシーンはとても良いですね〜。 (*´ω`*) 両親はワイズマンだったのか。 まぁ、そうじゃなきゃ通報まではいかなくとも、本気で息子を疑うだろうし、そんな気はしてましたw ⁽⁽◝(•௰•…
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