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閑話? 翼

未だに謎の残るゲームでした。「ねこだよ~ん」。

あれ何だったんだろ?



 軽快な音楽が響いていた。


 寮にいる時の様に、レトロなゲーム機のコントローラーを握るのは女子校生に扮したササである。


 帰省するのに態々寮に置いてあるソフトなんて持ってくるはずもなく、それでもそれなりにゲームというものにのめり込んできた彼女が余った時間に何をするかと言えば、まずそれが選ばれるのは当然と言えよう。

 ちなみにここにあるゲーム機自体は寮に置いてあるものと同機種であり、こちらは母のお下がりであったりする。何せ彼の他にいるのが、インドアな趣味など持ち合わせていない妹と、親のプレイを見ている方を好む弟である。その上、連理自体は日頃家にいないという事もあり、彼の部屋に設置されているという実情があった。


「お前さんも慣れてきたよな~」


 最近は専ら観戦者兼解説者と化した連理だ。

 彼にとってゲームはあくまで暇つぶしに過ぎない。多少向きになる事はあっても、嵌まり、のめり込む程のものではないのだ。


「流石にじゃな。 寮にいる時じゃと此れ以外やることもなかったしのぉ」


 実際には軽く身体を動かしたり、こそこそと寮内を歩き回ったり、ちょっと買い物に出かけたりと色々してはいるが、室内にいる時の大半はコレだったりする。

 連理の実家にいるとて、同じ事が出来るならやる事も一緒である。違うのは置いてあるソフトくらいだ。


「もう、三か月くらいか? ホント、ゲーマーになったよな」


 画面内で動く主人公に澱みはない。が、それでも初めてのゲームだ。次々ダメージが累積する。


「じゃがなあ、此れに関しては慣れもあるが難しさの問題もあると思うぞ?」


「そんなに違うか?」


 現状、彼の見た限りではあるがササのプレイしたソフトに極端な操作のものは無いように思える。難易度に関しても然り。


「違うわい! って、あっ!? やられてもうた」


 シンプルなゲームオーバー画面の後タイトルに戻る。

 そこに浮かぶのは「THE WING OF MADOOLA」 ――マドゥーラの翼である。




 手にした者は世界を支配出来ると言われる鳥像 ――マドゥーラの翼を守るラメール一族の裏切り者ダルトス。

 彼に奪われた像を取り戻す為、一族は戦士団を派遣するが、最後に残ったのは主人公ルシアだけだった、という味方全滅から始まるゲームだ。



 と言ってもそんなあらすじなどアクションゲームではフレーバーであろう。


 世界を支配出来ると謳っておきながら、ラメールは支配されずに一族で立ち向かってきているし、最終ステージでは大した護衛もなくマドゥーラの翼は台座に置かれており、ルシアはあっさりそれを強奪。直後に出現するダルトスを倒す事になるのだ。

 またその場でのみ効果を発揮する「マドゥーラの魔法」はダメージを受けると解けてしまう程度の飛行魔法であり、世界征服など出来そうにない。

 もしかしたら(ダルトス)はそんな「迷信」に踊らされた自身に気づいていたのかも知れない、何て思わなくもないが…………。



「そういやそれ、攻略本なしじゃクリアできないんだっけ」


 昔を思い出しつつ本棚を物色しつつ、話す。

 お下がりなのはゲームだけじゃないのだ。寧ろ哀しき倉庫番。


「……何じゃろ……そういうの、多くないかの?」


「あってもクリアできない程の難易度のモノのあったりもするがなぁ」


 正解が判ってもクリアできないゲームの代表と言えばシューティングとアクションだろう。「クリアできない」の意味が違う、そもそもエンディングのないゲームもこの時代には多かったりもするのだが。


「ほれ」


 連理から手渡されるのは薄手の冊子だ。表紙にはビキニアーマーを来た少女の姿。


「いかがわしい本を渡された気分じゃな」


「何でだっ!?」


「何となくじゃよ。

 ……ほぉ……ふんふん…………へっ?」


 ササは攻略本を読み進め、不思議そうな表情を浮かべた。

 本を置き、マニュアルと手にして中を確認。また本を取る。


「……のう、連理」


「まあ、言いたい事は解る」


 彼とてクリアはしたのだ。きっかけがあればすぐに思い出す。


「そうじゃろうな。 だが言わせて貰うのじゃ」


 ササはそう言って再び本を置くと正座で彼と向き合った。


「最後に必須になるマドゥーラの魔法……説明書には一っっっ言(ひとっっっこと)も使い方が書いておらんのじゃが……落丁かの?」


 大声ではないが、力強く彼女は言った。言いたくなる気持ちは解る。


「残念ながら仕様だ」


「下ボタン押しっぱなしでジャンプとか、ヒントも無しに判る訳ないじゃろ!?」


「当時のゲームはこんなのばかりだ……っていうか、普段からやってて解りきった事だろ?」



 そもそもそれを言ってはドルアーガの塔など大概である。


 全六十階層であり、裏ステージもあり。その殆どのステージに宝箱が出現するのだ。

 勿論不要なお宝はある。ポーション・オブ・エナジードレインなどはそのもっともたる物だろう。とはいっても、移動速度の上がるジェットブーツ以外は判りやすい効果が表示されないので、どれが不要かもプレイヤーには判らないのだが。

 またそれが何処の階層に出るか、初めはそれすらも判らないのだ。それを、それらをノーヒントで探るというのだから、最早正気の沙汰ではない。

 ○○を倒す、XY地点を通過、と言う条件なら偶然でも発見できるが、順番に倒す、動かずに倒す、となると偶然では中々条件を満たせないだろうし、方向キーを○秒押しっぱなしにする、方向キーを順番に押す、方向キーをカウントしながら押す、となると何故発見できたか、というレベルだろう。

 四隅を通過した後に最初触れた外壁を触る、などの条件は、出現させる方法が判らず、ぐるぐる回って偶々発見できたのではないだろうか?



「……今じゃとさぞクレームの電話が鳴り響くじゃろうな……」


「ゲームなんだし、って割り切る人も多そうだけどな」


 ルシアのしゃがみジャンプだって、ちからを込めて飛んだ……様に見えなくもない。そう見れば演出的にはありなのかも、とは思う。 ノーヒントだが。


 そんなお喋りをしていると不意にササは廊下へ視線を向けると、身を正した。


 ――コンコン


 と、然程の時間を於かずにノックする音が響く。


「キミたちは部屋に閉じこもって何をしているのかと思えばゲームかい?」


 父・賢治が出現した(ポップアップ)


「話に聞く父さん達の青春とあまり変わらないと思うけど?」


「それを言われるとぐうの音も出ないね。

 おや、マドゥーラとは懐かしい物を」


 話している最中にデモが起動していた様だ。デモ画面の主人公ルシアの動きはどうも辿々しく頼りない。


「そのゲームではよく縛りプレイを楽しんだ物だよ」


「……縛り、ですか?」


「そうだよ。

 序盤はソードしか持っていないから、それの使用は可。 後はプレイヤーのスキルに応じて、バウンドボールまでしか使っちゃ駄目とか、フレイムソードだけとか……それと最初から最後までソードだけでクリアとか、だね」


 バウンドボールは低燃費で遠距離攻撃が出来るものの攻撃力は最低値の魔法、フレイムソードは攻撃力は高めだがソードよりちょっと長い程度しか射程のない魔法で、燃費は同程度。

 言われてササは先程まで手にしていた攻略本に視線を向ける。


「……あの、ここにバイフォースとダルトスはフラッシュでしか倒せないと書いてありますけど……?」


 フラッシュは全画面攻撃魔法で攻撃力はそこそこ高く、燃費は非常に悪い。


「ああ、それに書いてあるの嘘だから」


「うそぉっ!?」


 素っ頓狂な声を上げるササだ。

 普通は市販されているこの手の本に、落丁はあれど嘘が書いてあるとは思わない。


「バイフォースもダルトスも胸の辺りに当たり判定があるんだよ。 普通にソードを振っても当たらない微妙な高さなんだけど、ジャンプ途中くらいの高さで振ると当たるんだな、コレが。 だからスマッシャー以外の魔法ならどれでも倒せるんだよ。

 ああ、でもマジックボムだと難しいかな?」


 スマッシャーは画面中に火の玉が発生し、それが一体の敵に向かっていくという魔法だが、敵が多数いる場合はどれに当たるかランダムであり、通常シーンでは使いにくく、またバイフォース、ダルトスの両名には効果がない為、入手後のボスで効くのはブニョンという細胞状の敵だけという残念魔法。

 マジックボムは何かに当たるか攻撃ボタンを放す事で火の玉が上下に分裂するという、少々使い勝手の悪い魔法だ。射出速度は速めで、場合によっては多段ヒットするのが利点と言えるが、火の玉一個の攻撃力は高くない。


「えぇぇぇ……」


 嘆く様に手元の本へ視線を向ける。ショックを受けたのか、半ば素の反応の様だ。


「ははは。 実際は嘘と言うより、あくまで公式なのがフラッシュなんだと思うよ、多分」


「そのココロは?」


「まずひとつ。 その攻略本はちゃんとメーカーの監修を受けてる。 だから恐らく嘘はないはずで、と言って知らないというのも考えにくい。

 ふたつ。 それはメーカー監修でコミックも出てたんだけど、そっちでもフラッシュを使用している。

 みっつ。 当時の技術的に当たり判定は画面上に設置する必要があった様に思う。 でもダルトスが画面外にも移動するのにそこらのオブジェクトに当たり判定を付ける訳にもいかない。

 よっつ。 スマッシャーをバイフォースやダルトスに使った場合、火の玉は収束せずに消えてしまうんだ。 これは多分だけど当たり判定のある場所を特定されない為の措置なんじゃないかな?」


「……はぁ……」


 感心しているのかそれとも呆れているのか、連理は微妙な顔で父を見る。そこまでひとつのゲームをやり込んだ父は、青春のどれ程をゲームというものに掛けてきたのだろう?


「おっと、そういう話しに来た訳じゃなかったよ。 ほい、肉まん」


 手渡されるのは紙袋。中には幾つか、というかふたりで食べるのはいささか多い量の肉まん類が入っている。 明らかに個別包装の色が違う物も入っており、それはきっと肉まんでないか、少なくとも普通の物ではないのだろう、真紅。


「余ったら、リビングに持ってくるように。 ふたりっきりもいいけど、母さんも嫁と話をしたがっていたからね」


「気が早いっ!」


「おや? 照れて『そんなんじゃない』とか『嫁じゃない』とか否定するかと思ったんだけど、『気が早い』か……。 これは家族が増える日も近いかな」


「父さん!?」


 叫ぶように声を上げる連理を尻目に、父はマントでも靡かせる様な仕種で身を翻す。


「それではその日を楽しみに待っているぞ、連理よ。 ふっふっふ、はっはっは、はーっはっはっは!!」


 その勢いで扉を閉め……る事はなく、そっと扉は閉じられた。閉じられた扉の向こうからまだ聞こえてくる悪役笑い。


「くっくっく、良い父じゃな、連理」


「いい父なのは否定しないけどさ……」


 照れつつ呆れつつ、彼は紙袋を(まさぐ)る。

 そこにあったのは ――油断。


「後ろ暗い所はなく、ノリのいい、良い父じゃ。 何となく朱音っぽいがの」


「? そうか?」


 適当に掴んだ肉まん(?)をひとつ放る。

 ササはそれを視認もせずに受け止め、連理を見たまま包みを解いた。


「何となくじゃよ?」


「まあ、こういうノリが近いのはあるかもな」


 連理も彼女と同じ様に包みを解く。


 ふたりは笑みを浮かべながら、それを頬張……ろうとして、鼻をひくつかせたササだけは動きを止めた。







「……!?!? かっら――っ!!?」



 話の内容が本編と閑話の間みたいになってしまったので「?」つきタイトルです。


 ちなみにマドゥーラの翼の内容はマジです。 ソードオンリーでクリア可能。 ブニョンもジョイライマーもソードでいけます。

 攻撃力最弱のバウンドボールでラスボス撃破も出来たりしますが、攻撃力が低いのに加えて命中させにくいので、フラッシュ使うより効率が悪かったり……。


 触れると「ねこだよ~ん」のメッセージを残すヒヨコは、コミック版だと変身させられた王子なんですが、斬っても無視してもエンディングは同じなんですよね……。解せぬ……。

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― 新着の感想 ―
マドゥーラの翼は全く知らない未プレイ者でして……。 (・–・;)ゞ でも攻略本に書いてある情報が正しくないのは、80年代ゲームあるあるですね〜。 逆に公式がバグ技を紹介していたりとカオスでした。 (…
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