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第三十七話 気の滅入る日

 プロットがまだ纏まってない!


 と慟哭しつつ、前にちらっと予定している風に書いていた戦闘シーンです。

 真藤の「結界」のことを、アレク側は「障壁」と言っていましたが、このシーンでは「結界」と統一しています。



 奇妙な形の刃が発する風切音と共に薄らと輝く壁が粉砕された。


 障壁や結界等と称されるその壁は本来であればそう簡単に破壊できるものではない。

 だが、二本の軍刀(サーベル)を背中合わせに繋げたようなそれは、容易(たやす)くその壁を破壊する。 その為の能力を持つ武器(テルム)なのだ。


 故に黒澤耶彦(くろさわ やひこ)真藤(しんとう) (くれない)の天敵と言える存在で在り、そういう存在と成った。


 ここにいるのが耶彦でなく、逆木連理(さかき れんり)であっても、恐らく彼は真藤に対応出来ただろうが、ここにいる敵が掛居東誠(かけい とうせい)であれば、耶彦はきっと勝てなかっただろう。

 その意味でこの対戦カードは彼にとって、正しく天の采配であったと言える。


「ちっ!」


 舌打ちする神父に肉薄する。

 何人かのスレイヤー達の襲撃はあったが、纏まっていない散発的なものであった事もあり、すでに退けられていた。

 苛ついた神父の攻撃に巻き込まれた者もおり、彼方此方が欠損した死体も多い。


 接近された真藤はナイフで牽制する構えを見せつつ、スラックスの裾から金属の礫を落としながらも、空いている左手でダーツを上に投擲。その視線は僅かに上へ。

 落下するダーツで接近を抑えつつ、礫で足下の安定を奪う目論み。

 それを読んだ訳ではないが、耶彦は風を起こした。狙ったのは己を上空から狙うダーツだが、風は礫ももろとも吹き飛ばす。

 しかしその一瞬でバックステップする神父は、決して刃の届かぬ距離でナイフを振った。

 それは横方向に発生させた結界を使う結界斬。

 万物を切り裂く、何てちからはないが、切断力は折り紙付き。巻き藁や人体程度なら殆ど抵抗もなく切れるし、薄手の鉄板くらいであれば切断も可能だ。


「ふん!」


 だがその一撃も結界は結界なのだ。

 テルム《双子》は輝く斬撃の刃を打ち砕く。あっさりと、ではないが、モノの一撃で自身の戦いの要、自身の根幹であるそれを破壊されてしまうその状況に神父は動揺を隠せない。


「くそがっ!」


 珍しく荒れた言葉と共に無数の結界槍 ――細く象った結界だ―― が耶彦を襲う。が、鴉天狗は冷静だった。

 輝く槍を見極め、自身に命中しそうな物を砕き、払い……。

 その隙に真藤は多数の結界を足場に空中へ躍り出る。

 それは場合によっては空を生活の場とする耶彦よりも高所。そこから有りっ丈のダーツを、礫を、毒を放ち、更にかつて無い程の大量の結界斬を。

 それだけではない。それらの攻撃の隙間隙間に小さく鋭い ――結界針とも言うべきモノを撒き散らしたのだ。

 普段以上の異常な数の発動と、異質な発動という、無理に無茶を重ねたせいか、彼の視界が赤く染まる。

 彼方此方の毛細血管が破れたのだろう、鼻からも耳からも血が流れ出るが、先程激昂した時とは打って変わって、真藤紅は怯みもたじろぎもせず、ただ目の前の敵を見た。


「ぬおっ!?」


 鴉天狗はそれに反応するも、上からの、大量の攻撃は如何ともし難い。普段の戦いでは上を取るのが彼だ。下方からの防御は不得手、というか不慣れ。

 咄嗟に風を放つが、それはモノは吹き飛ばせても、結界という特性を持った結界斬と結界針に対しては効果が減衰する。

 テルム《双子》を振るい、致命傷と成り得る結界斬は破壊しきるものの、結界針はかなりの数がその身体に突き刺さった。


「ぐ、ぁ……!」


 反射的に顔への攻撃を塞いだ左腕が視界を隠している。その隙を嫌い耶彦は大きく翼を広げ一気に後退した。何らの予兆があった訳では無いが、自分なら今何かをすると思ったのだ。


 ――ドォォォォ……ン


 そして、何かが起こった。

 先程まで彼のいた場所へ、小さなクレーターと血みどろで立つ神父。彼はひび割れた眼鏡を放り投げると、髪をかき上げ何故か耶彦へ笑みを見せた。

 真藤が幾重にも張った結界を瞬時に自壊させ、その衝撃と落下速度を利用し、新たな結界ごと突っ込んできたなど、視界外であった耶彦には知る由もない。

 彼はそのまま、血に塗れた笑顔のままで結界斬。

 何度も何度も、自棄になったのか、イヤになったのか、まるで考え無しに。

 耶彦はそれらを躱しながら捌きながら、その真意を探ろうとし、止めた。


 ――所詮己は猪武者。 策も罠も、見破ろうと考えを弄したところで土壺に嵌まるのが関の山。 ならば正面から打ち砕くのみ。


 体中に残る針をものともせず、一息に接近し ――きる前に左手の短刀を投擲。不意に迫る短刀を、神父は難なく受け止めるが、投擲の目的はテルムを両手で持ちたかっただけに過ぎない。受けようが躱そうがこちらのすべき事は変わらないのだ。

 少しだけ翼をはためかせ宙へ。

 十重二十重の結界が張られようと全てを打ち砕く気概を以て。


「ぬりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 全身全霊のちからを込めて、



 振るわれる刃は



 たった一枚の結界を切り開き



 神父の身体に届いた。






「……何のつもりじゃ」


 倒れた真藤に、耶彦はそれ程の()()()()()()()()近づいた。


 神父は肩から右腕と右脚を失った状態で倒れている。

 左脚は恐らくは落下した時点で折れていたのだろう、歪みを見せつけていた。

 左腕は生きているが、肩ごと削がれた右胸を押さえている。

 もっとも、その行為に意味があるようには見えない。肩から断ち行った刃は、右胸を削ぎ、腹を削ぎ、脚も断った。肉の失われた腹からは腸が飛び出すのが道理だ。


「……掛居さんも負けたようですからね……。 これでこの遊びも、終わりという事です」


「遊びじゃと!? 貴様、散々ヒトを苦しめておいて、それが遊びじゃと言うのか!?」


「遊びですよ……。 遊びというのが気に入らないのなら、言い方を変えましょうか? ……そうですね、仕返し……いえ、八つ当たりでもいいですね……」


 血色の失われた顔で、何故が笑みを浮かべ語る。

 耶彦はそれを聞き、彼の様子を見、訝かしげに顔を歪ませた。


「……八つ当たり、じゃと?」


「貴方、ラウラ、もしくはミカエラと言う……『ファンタズマ』の姉妹に心当たりは……?」


 耶彦の言葉を無視し、彼はまるで独白であるかの様に言葉を続けた。

 そこでアクマでも魔物でもなく、ファンタズマと称した神父に、耶彦は益々顔を歪ませる。


「……いや、儂は知らんが、その名が……」


「会ったら、会う事があれば、伝えて欲しいですね。 お前たちが余計なことをするからここまで被害が増えたのだと。 あのまま放っておけば良かっただろう、と」


「………………」


「……向こうが覚えていないようなら、妹のことも忘れたのか、と言っておけば思い出すでしょう……よ。

 ……ああ、でも……それ程珍しい名前では、ありませんか……」


 深く深く息を吸う。 吐く。

 それに合わせてポンプのように流れる血流(いのち)


「……困ったな……、いや、困ることでも、ないか……」


 彼は一度視線を切ると、目を閉じ、嘆息するように息を吐いた。

 再び瞼を開け ――その場にいなかった者の姿を捉えた目は驚愕に見開かれる。


「……最後の最後で、その姿を見られるとは……本当に、神は……碌でもない」



 そこにいたのは援軍として駆けつけたであろう徳倉鏡子(とくら きようこ)


 鏡の、大妖怪。



 古来より鏡の映すと言われるモノは多岐にわたる。


 現実をそのまま写しとり、場合によっては過去を知るとされた。


 魂を映すと言われ、故に吸血鬼は映らないとも言われた。


 占術では未来を写し見ると言われ、己の影を見て、死を預言する。


 さらには古くより祭具として使われてきた事で神に通じるとされつつも、彼方と此方を分ける異界の入り口でもあった。


 また、鏡は鑑でもある事から、照らし合わせる、真の姿を見極めるのも鏡のちからとされた。


 そして、鏡は時間と次元を超える物でもある。


 死んだ肉親と、子どもと、妻と、夫と、恋人と会いたい時、話したい時に媒介となるのは異界の扉 ――鏡なのだ。




「……イラ…………」


 真藤紅はそれが幻に過ぎないものだと認識しつつも、彼女に言葉を掛けずにはいられなかった。

 胸中にあるのは色褪せぬ、懐かしい、愛おしい、狂おしい想い、熱い感情。


「あの時……君に殺されていたら、どれだけ幸せだった事か……」


 しかしその機会は永遠に失われ、彼は無意識に、それでもそれを求めてしまった。力尽くで押し倒してきた少女たちに、そんな事が出来るはずもないのに。

 彼の言葉に、幻の少女は困った様に眉を顰めた。


「……それが、君の……本意でなくとも……、僕は…………………………」


 言葉が消える。


 焦点はぶれ、その瞳は最早何も映さず、


 傷を押さえていた手は重力に引かれ地面へ落ち、


 同時に、ちからの抜けた首も、


 糸の切れた操り人形の様に転がった。


 幻の少女はそんな神父に縋り付こうとするが、その身に触れる事も叶わず、声無き声で慟哭した。


 涙は流れず声は聞こえず。


 だけど彼女は確かに泣き、そして悲しみに嘆き、叫んでいた。



 その様子はまるで無声(サイレント)映画だ。声無く音無く、触れる事の出来ないフィルムに写る存在の様に。

 だから耶彦はその姿を見守るしか無い。

 主演の「キャラクター」に対し、観客が何も出来ない様に、見ている事しか出来ないのだ。

 ただ、沈黙のまま。

 やがて彼女は死んだ神父に縋り付く姿勢のままその姿を失くした。日に当たり消える雪の結晶の様に、音も無く何ら痕跡も残さぬまま、すっと、消えてしまった。


「……何とも後味の悪い終わり方ではないか、鏡の」


 耶彦は神父を挟み、対面する様な位置に立つ雲外鏡へ批難するかの様に声を掛ける。

 この大妖怪は、耶彦の目の前という場所に立ったにも拘わらず、彼に気取られる事がなかった。その強さが、在り方が、ある種の不気味さが、味方であっても恐ろしい。

 永くを生きた彼であっても、ついささくれた心を表にしてしまうくらいに。


「仕方がありませんわ。 あの少女はずっとこの方と一緒に居られたのですから」


「そう……なのか?」


 あの、神父にイラと呼ばれた少女は彼女が連れてきたか、それとも幻覚かと思っていたが違っていたらしい。


「すまん。 当たってしまったな」


「お気になさらず。 わたくしがこの場に居てしまった事も原因の一端でしょうから」


 玻璃の少女はそう言って、哀しげに小さく微笑んだ。

 隠れ里という虚ろう「場」で、神父と少女の「望み」があり、鏡子という「媒体」が存在し、そこへ神父自身が「贄」と成ってしまった。

 本来であれば成せる筈もないこれは、「媒体」が強すぎる故に成立した、成立してしまった「儀式」であり、不完全なそれは結局少女の姿を映すに留まったのだ。

 勿論、鏡子は遊びでここに来た訳では無く、連理からの連絡を受けて来た援軍であり、だからこそここへ来たのだ。そんな彼女に非などあろう筈がない。

 しかし、間違いなく事の要因となっている。


「…………彼奴等も、単純悪ではないのだな」


「そうですわね。 そう言った方々がいらっしゃるのは否定できませんが、そうではない方々が居ないとはとても言えませんわ」


 暗に単純悪がいる事を肯定しつつも、鏡子は耶彦に同意する。

 つい先日もそう言った人間のひとりである絢に会っているし、そもそもここへ彼女を導く発端になったのもスレイヤーのひとりだ。

 それ以外にもそう言った人間の話は聞くし、場合によっては会ってすらいる。アレクの中にはそんな元スレイヤーもいるのだ。


「……う……」


 そんな話をするうちに戦闘の緊張感が抜けてしまったのか、耶彦はその場へ座り込んだ。


「大丈夫で……は無いようですわね」


 暢気に話していたものの、耶彦は全身傷だらけである。

 一息に肉も骨も断ち切られかねない結界斬は躱し、打ち砕いたものの、非常に数の多かった結界針は急所こそ逸らしたが、その多くを受けてしまっている。真藤紅の死んだ今、その形は失われているが、抑える物が無くなった為、逆に出血は酷くなっていた。


「……ああ、すまんが……」


「ええ、試してみますわ」


 皆まで言わせず、耶彦の傍で足を折り手をかざした鏡子であったが、「以前の様に」怪訝な顔をして首を傾げた。


「やはり、効きませんわね」


 耶彦の傷を治そうとしたのはこれが初めてではない。

 榊一家との邂逅で彼と接触を果たした鏡子は、挨拶がてらに彼の不調を見た事があるのだ。

 結果は推して知るべし。

 その時点で治癒する様であれば、ここで試す必要はないのだ。


「残念ながら傷の新旧や大小は関係無い様ですわね」


 話ながら、何処から取り出したのか包帯を出し、それを巻き始める。


「新旧は兎も角大小はのぉ……。 半ば解りきっておった結果ではあるが」


 耶彦は香の手により命を長らえて以来、どうも具合が良くない。人間変身出来ないだけだと思っていたが、傷の治りも良くないのだ。

 アレクとの邂逅から、マヤと鏡子の「手当て」を受けていたのだがその様子は芳しいものではなかった。

 もしかしたら、彼の「死」を境に治癒を受け付けるか否かが分かれる可能性も示唆されていたのだが、実験的に指先に付けた小さな傷すら、治りの遅い自然回復に任せる他はなかった。


「通常の治癒魔術は受け付けない様ですわね」


 状況は解る。

 彼女が鑑る事によって原因は判明している。ただ解決に至っていないのが現状なだけだ。


「生きて動けているだけマシじゃろう」


 殺された仲間達を思えば、こうして居られるだけ随分と贅沢な話ではあるのだ。彼は一度、死んだ身なのだから。


「上手く馴染めば良し。 馴染まぬからと言って、全く動けなくなる可能性もあるというのに、安易にこの身を(ほぐ)す気にはなれんしな」


 彼女に言われた原因は以前榊姉妹が口にした事象や、その他にも様々な要因が絡まりすぎたが故に起こったものだ。



 隠れ里という場所。


 周囲の死者の残滓。


 死霊術に偏った治癒。


 殆ど空っぽになった魔力。


 吸血鬼の血。


 他者の腕。 他者の翼。


 テルム《双子》。


 のちに提供されたという魔女の秘薬。



 今の耶彦の身体は、それらの複雑に絡み合った糸の様なものに支えられた、一種の人形の様なものだ。 複雑に絡みすぎたそれは、簡単に解けるのか、解いていいのかすら判別出来ない立体パズル。

 どれか一本の糸で支えられるかも知れないし、一本切れば全てがバラバラになる可能性すらある。


 そしてそれを解決する為、鏡子から示唆された可能性はよっつだった。


 ひとつ目はその絡まった糸の様になっている躯が上手く馴染むのを待つ事。 良くなる可能性は低くはないものの、どれ程の時間が掛かるのか、不明。


 ふたつ目がその絡まった糸を解してしまい、その上で回復を促す事。 そうしてしまえば魔術の通りは良くなるはずで、恐らく一番時間が掛からない。


 みっつ目はその過程で動けなくなる、もしくは完全に死に至る事。 糸を解した時点で際どく支えられていた「生」すら解き解れてしまう可能性。


 よっつ目は現状維持。 放っておいても変化が無く、もしくは死の危険を冒しても解決しない可能性。



 現状、出来る事は多くない。

 取り敢えず思いつくのは、


「これで、また寝たきり生活じゃな……」


 滅入る日の再来だ。



 回想で済ませるはずだったのに、なんだが長くなった、というか回想じゃ無くなった。

 何故だ…………。


 耶彦のテルム《双子》の描写が前と表現が変わっていますが、形は変わってません。 両刃の手斧の刃を伸ばした形状と軍刀を背中合わせにした形状。 シルエットは大差無いですよね?

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― 新着の感想 ―
鴉天狗の戦闘も結局しっかりと書いた感じになったのですね〜。 (*´ω`*) それなら順番はこっちを先で連理を後にした方がライブの臨場感と、連理側がどうなるかの引きでの緊張感があったかも? (´・ω・…
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