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第三話 竇□カクtl鰛zト■

今回もまだタイトルがバグってます。

前回よりも読める部分が増えている……のは解りますかね?

 連理が保健室でまず始めたのは物色と言う名の破壊であった。


 ベッドに少女を横たえ、薬品棚へ向かったはいいが、この『逆』の学校でも棚にしっかりと施錠がされていたのだ。

 むしろ、何故この保健室に施錠がされていなかったのか、不思議に思わなくもないが、連理は知らずも、そもそもの警備体制がザルの学園だ。それを鑑みれば棚に鍵が掛かっているだけマシなのかも知れない。

 尤も、怪我人のいるこの状況で鍵なんて邪魔以外の何者でもない。

 連理は机の上のペン立てにあったハサミを手に取ると、戸棚の隙間へ無理矢理差し込み、梃子の原理でさっさと半壊させたのだ。


(……使うもの、使うもの……、ガーゼ……オキシドール……、タオルもある。っと包帯に…………、薬はこれでいいのか? 流石にこの暗さ(?)だと良く見えんなぁ……切り傷・擦り傷用……出血量からすると微妙だな。薬に悩むよりも止血が先か?)


 ざっと使いそうな物を物色し、少女の元へ戻る。

 傷が痛むのか、気を失う前の状況から継続しての反応なのかは判別出来ないが、少女は時折呻き声を上げた。


 少女の外見は小学生か、かろうじて中学生になったくらいに見えるが、実際はどうであろうか? 少なくとも連理は尻尾の生えた人を見たのは初めてだし、そんな彼女の年齢が人と同じなのかは解らなかった。

 今分かるのはそのフワッとした尻尾が恐らく犬か狐、または狼のものであろう事くらいだ。


 そして服を着ているという事は、恐らくは普段肌を隠しており、恥じらいの感情を持っているという事で……。


(……人命救助、これは人命救助だ……! ……人命? ……ってそれはどうでもいい)


 余計な事を考えつつもそれ以上の事は考えない様にし、連理は先程寄せただけの服を開けていった。

 膨らみかけた胸やその薄紅色の先端へなるべく視線を向けない様にしながら傷の周辺を拭いていく。

 幸い出血は殆ど止まっている様だが、露わになったのは見慣れない傷跡だ。


(……刀……傷?)


 実際に刀で斬ったかは判らないが、鋭利な刃物で斬られた様なそれは酷く非現実的なものに見えた。

 それはこの尻尾の生えた少女や仮称オークよりも余程非現実的に思えたのは彼が如何に平和な場所で暮らしていたかという証左であろう。

 思考が一時停止するが、やる事は変わらない、と連理はガーゼにオキシドールを含ませた。出血が止まりかけていてもこれだけ深い傷だ。 消毒は必要だろう、と。


 ガーゼが傷に触れ、


「――ぎぃっ! あぁぁぁぁぁっ!!」


 少女は跳ねた。

 オキシドールはただでさえ染みる。

 殺菌と同時に周囲の細胞を傷つける為だ。傷が深ければその作用を受ける範囲も増えるし、尚更だろう。


「!」


 それに連理は反応した。何故か反応出来た。


 直ぐさま先程まで傷を拭いていたタオルを少女の口へ押し入れる。

 理由のひとつは舌を噛まない様に。

 もうひとつは大声を出す事で先のオークの様な存在を引き寄せない様にする為だ。

 タオル越しに手を噛まれるのも痛いが、恐らく彼女はもっと強い痛みを感じている筈だ。これくらいは甘んじて受けるべきだろう。


 だが、連理が冷静に動いたが為か彼女を不幸が襲った。


 先端が噴霧式でなく、ペットボトルの様なキャップ式であったオキシドールは彼女の制限された動きであっても横転してしまい、容器から中身があっさりと零れてしまったのだ。それよりも下にあった、彼女の肢体へ当然の様に。

 もし、彼女の動きがもっと大きければ薬剤は床へ飛び散っていただろうから、運で言えば不運であるし、人災と言えば人災だ。


「ん゛――っ!!?? ん゛っ! ん゛――――!!」


 少女は更なる痛みに激しく身を捩る。

 こうなると彼女が落ち着くまで治療どころではなさそうだ。連理は保健室の扉を注視しながら、暴れる少女の肢体を抑えつける。 


(……さっきの豚みたいのが来るのもイヤだけど、普通の人が来たらそれはそれで事案発生じゃね!?)


 半裸で暴れる少女の身体を抑えつつ、叫ばれない様に猿ぐつわ状態。事情は兎も角、状況だけで見れば間違いなくお縄である。

 しかし左手は猿ぐつわ、右手と体全体で暴れる彼女を抑えている為、薬液を拭き取る事もままならなず、連理はそのお巡りさんのお世話になりそうな格好でしばしの時間を過ごすのであった。



 やがて少女の動きが収ったのに気づき、連理は扉から視線を外し改めて自分の押し倒した彼女を見た。

 ――目が合う。痛みのせいか、潤んだ瞳だった。

 暗い為はっきりは判別出来ないが、ぱっちりと開いたその瞳は日本人より色素が薄い気がする。よく見ると髪もそうかもしれない。


「…………」

「…………」


 ふたりで、無言。すぐに口づけでも出来そうな距離で、じっと見つめ合う。

 共に思考ほぼ停止状態、と言ってもこのままお見合いをしていても仕方がない。と、先に動いたのは連理。


「あー、平気……ではないと思うけど、痛みは落ち着いた、かな?」

「…………」


 少し思案した上でだろうか、沈黙の後わずかに首肯する。今はまだタオルごと彼の手は彼女の口の中。 彼女は多少身動ぎするしか出来ない。


「今、退けるけど、大声は勘弁してくれ。さっきの豚みたいな奴らに気づかれるとやっかいそうだ」


 連理の言葉に再度首肯。


 そういえば言葉わかるんだな、と今更思いながらも彼女を自由にすると、思いっ切り歯型の付いた手を見ながら連理は背を向けた。


「包帯や薬はそこに置いてあるから使ってくれ。それと出来れば話を訊かせてほしい」


 言われて少女は身体を起こすと、自分の身を、周囲の状況を確認した。血の拭かれかけた身体、じわじわと染みる痛み、周りに置かれた道具、消毒薬の匂い、無事な下着。

 そして見知らぬ少年。


「……見られるのは今更じゃろ? こっちを向いて手当てを手伝ってくれんか?」


 のじゃロリが実在したとは!? と益体もない驚愕に捕らわれそうになるが、それはさておく事にする。

 見た目通りの幼げな声に違和感はないが、そもそもが所謂「人」ではなさそうだ。

 因みに「のじゃロリ」とは言葉通り語尾に「~じゃ」「~のじゃ」を付けて話す少女を表す言葉だが、現実でお目に掛かる事はそうそうあるものではない。


「…………む、了解した」


 少し悩んで了承する。


 風呂上がりにパンツ一丁で歩き回る、ある意味自由で奔放な妹のいる身。兄として多少今後の妹に心配しないでもない心情はさておき。 

 この年頃の少女の肌は見慣れていると言えば見慣れている方の連理だが、赤の他人のそれは認識が別物だ。

 意識すればするだけ、どつぼに嵌まりそうな、そんな気がしてくるが、だからと言って全く意識を切り離せる様な達観した精神を持っている訳でもなく……結局、「何意識してんだ、オレは……。ロリコンじゃないはず……だ」と、自分の精神性を疑いつつ、少女に向き直った。


 途端、頬を抓まれる。


「とはいえ、さっきのはもういらんぞ」


 少女はまだ涙に濡れた瞳でそう言った。

 当たり前だが、余程痛かったらしい。いや、薬剤の事を考えると今でもジワジワと痛みを感じているはずだ。


「……ふいはへんれひた」


 間の抜けた声で謝罪するが、不可抗力だろう。彼女の指はまだ連理の頬を引いている。


「……くっ」


 そんな連理を見て、半眼で睨む様に見つめていた少女の表情が崩れた。


「くっくっく、まあ良い。曲りなりにも助けられたのじゃ。その間抜け面に免じて許してやるわ」


 そう言って少女はくるりと背を向けた。小さな、華奢な背中。

 そこにはいくつもの傷がある。斬られた傷、突かれた傷、火傷、打撲、それと恐らく銃傷も。


「……薬、塗ってくれんのか?」


 動きのない彼に催促の声。

 言われて我に返った連理は慌てて軟膏を手にする。


「あ……ああ」


「? なんじゃ、何を緊張して……。

 まさか欲情しておるのか? 人間にとっては随分と幼い見目じゃと思うとるが……」


「ちげぇよ!」


 つい先程そう考えてしまっただけに、焦った声。

 それでも薬を塗る手つきはそっと、優しい。


「まあ、わらわは構わんよ? これでも百は生きておる……っと、そう言えば、何か訊いておらんかったか?」


 手当てがしやすい様にだろう、自らの髪を結いつつ、彼女は常識外の事を言いながらも話を戻した。 髪に埋もれていた奇妙な耳が見える。

 因みに、色々といっぱいいっぱいな連理は、彼女の言葉の端々にある「異常」に気づいていない。


(ケモミミっ!?)


 髪が乱雑に広がった状態では判らなかったが、これは……。


「狐、か……?」


 声に出た。


「ん? 狐じゃよ?

 気づいておらんかったか?」


 茶系色…、亜麻色、なのだろうか? 暗闇の中ではあるが、そんな色に思える尻尾を揺らしながら、事も無げに彼女は言う。

 そもそも自分が「何」であるか、「如何にも」と語る者はそうそういないだろう。それ故のすれ違いといえよう。


「……ここまで……ここまでファンタジーか……」


 ここへ来た時の言葉を繰り返す。深く溜めた息が漏れた。


「ふぁん……?

 ……のぉ、おぬしひょっとして何も知らずに此処に迷い込んだ口かの?」


 少女に見える彼女は肩越しに視線を向ける。

 一見無邪気な年頃の容姿とは裏腹に、それに合わぬ確かな知性を持っているのか。会話に、行動にそれらはあった。


「……ご明察。あなたの言う「ココ」すら分からない学生、です」


 一応敬語で話す。大分目上である様なので、これも処世術だろう。


「何やらその口調はぞわぞわするのじゃ。先程の様に話してくれんか?」


「ん、……まあ、それでいいなら」


 慣れない包帯に、悪戦苦闘しながら生返事。

 先程まであった裸体に対する緊張は何処へやら、包帯を巻く作業に集中し、くいくいと彼女の肢体を動かす為、暗いとは言え、かなりきわどい場所が見えてしまってり、触れてしまったりしているのだが、気にする様子はなくなっていた。


(今更とは言ったものの、此れは何とも恥ずかしいものじゃなぁ……)


 包帯を巻く為とはいえ股ぐらへ手を入れられては、流石に顔も赤くなる。

 夜目の利く彼女は兎も角、普通の人間である連理は多少目が慣れたところでそこまで細部は見えないのだが。


「……んん、それで、此処が何処とも知れんと言うに、如何して此処におるのじゃ? いや、如何して入ってこれたのじゃ?」


 照れを誤魔化すように咳払いをしつつ少女は問う。


「どうしてって言うかさ……、夜中に忘れ物に気づいて、時間も時間だから多少躊躇(ためらい)もしたけど、まあ取りに行こうって決めて……結局ここへ、まあ迷い込んだ、のか?」


 キュッと包帯を縛る。


「気づいたら教室も廊下も左右逆になってて、訳分かんねえけど、とりあえず出口?を探してたら襲われてるアンタを見つけた感じ、だな……」


 あらましは、口にすると非常にシンプルだ。創作物なら「もっと捻って書けよ」と文句を言われるレベルだろう。


「本当に只の人間なんじゃな……。

 ん? あの豚面は如何したんじゃ?」


 巻かれた包帯の様子を見つつ、狐の少女は自身の危機を思い浮かべる。

 消毒液のにおいの中にいるにも関わらず、自身の身体にアレの体臭が残っている気がして、少し顔を(しか)めた。


「ああ、アンタに夢中になってたんで後ろからケツの穴にモップ突き入れてやったけど」


 そこまで話して連理は我に返った。

 オーク(仮名)が夢中になった裸体が目の前にある事を今更ながらに思い出し、動きが止まる。幸い包帯はそれなりに巻かれていたが。


「前言撤回じゃ。只の人間にしては肝が据わり過ぎじゃろ」


 言われて思い出す。

 あの時の連理はとても冷静だった。冷酷で冷厳だった。全くの容赦もなくヤツの内臓を貫いた。

 そしてその行為に忌避も嫌悪もなかった。

 この『逆』の空間に入り込んだ時はパニック寸前で、その後もビクビクしながら歩を進めてきた、そんな人間であったはずなのに。


「それで助かったのじゃから文句は無いがの」


 そう言って少女はベッドから降りると服だったモノを纏おうとして顔をまたも(しか)めた。元の原形が解らなくなる程に破かれた服は、纏えはしても最早着られるものではない。


 その様子に気づき、連理は頭を巡らせた。

 幸か不幸か、彼は保健室の利用履歴はないが、こういったスペースなら替えの衣類の一着や二着はありそうなもの。と、適当な棚を(まさぐ)ってみる。


(……何故、ブルマ?)


 見つかったのは学校指定ではない体操着だった。

 因みに琴倉橋の女生徒用指定体操着の下は極一般的なショートパンツ。決して絶滅危惧種のブルマではないのだが……。

 もう少し辺りを探索するものの。


(ブルマしかねぇ!?)


 男子生徒用のモノすら見つからず戦慄する。

この「逆」の空間、物の配置などは逆だが置いてある物自体は元の学校と同じようだ。つまり実際の学校の保健室にある衣類も、同じ体操着+ブルマという事だと何となく想像できた。


「……これで、いいか? いいの……か?」


 自問しつつ躊躇いつつも1セットを渡す。引き裂かれた服やシーツなんかを纏うよりは多分マシだろう、とは思うが抵抗がある。


「ふむ……昨今だと珍しいと聞いておったが……、おぬしの趣味か?」


「ちっ、ちげぇよ! これしかねぇんだよ!?」


 思わず上ずった声が出る。

 下手に動揺するとそう見えてしまうだろうが、それを隠せないのは学生故か。


「冗談じゃよ、探してくれてたのは見えとったわ。ありがたく使わせて頂くのじゃ」


 少女は、今ではコスプレでしか使われない様なソレを受け取るとさっさと着込む。

 寒い訳ではないので、やはりそれなりに恥ずかしかったのだろう事は想像でき、着替えた後も連理は視線を逸らしたままだ。


 それでもパッと見た感じ、多少しダブついてはいるが、ゴムがしっかりしている為動くに支障はなさそうではある。

 ちなみにそのせいでブルマと言うよりカボチャパンツの様相を持ったソレはある意味愛嬌がある様にも思えた。


「さて、一段落した様じゃし……、如何する?

 なんじゃったらこの鏡面世界について薀蓄(うんちく)垂れても良いし、此処が恐ろしいというなら出口まで案内もしてやれるぞ?」


 少女の様な狐は食い込みすぎたブルマをちょいと直すとベッドに腰掛けてそう提案した。

 選択肢を与えつつもどっしりと腰掛け、話す気満々の彼女を前に連理は無言で椅子を引いてきたのだった。



 彼女は椅子を引いてきた連理を見て、ニヤリと、何処か悪女の様な笑みを浮かべ、すっと足を組んだ。 妙齢の女性であれば色っぽい仕種であろうが、幼女の様な外見でするそれは、生意気な子供の様である。 更には体操服とブルマだ。

 お巫山戯けと言うかマニアックと称するか、どちらにしろ真面目な雰囲気は薄い。


「うむ。

 まあ、此方側について何も知らんのであれば、わらわの事から話そうかの。

 わらわは仙狐と言う種で、まあおぬしらの言葉で言うなら所謂妖怪じゃな」


「……妖怪、ねぇ……」


 そう言われても外見は、人間に獣の耳と尻尾がついただけに見える。精度の違いこそあれ、見た目だけで言えばまだコスプレで済ませられる範疇とも言えた。

 連理の言葉に怪訝な雰囲気が混じるのも仕方のない事なのかもしれない。


「ただ言われただけでは信じられんかも知れんがの、先程の豚面や今わらわたちの居る此処、この場所……、それを鑑みればわらわが妖怪である事を否定しきれまい?」


 確かに先程のオーク(?)の存在は確かで、彼の手にはまだモップが肉に食い込んだ感触を残していた。あれはコスプレや特殊メイクといった類のものではなく、またただの肥満体である、といった事も考えられなかった。

そして彼女が鏡面と評したココも、連理は既に受け入れている。こういう世界なのだと、納得している。

 成る程、この得体の知れない怪物のいる奇妙なこの世界であれば、妖怪という存在を否定しきる事は出来ない。いてもおかしくないし、もっと有り得ない存在すら現れかねないと、そう思わせる。


「もう少し体力が回復したらば別の証拠も見せられるじゃろうが、今は兎に角納得するのじゃ」


 パタパタと尻尾を振りながら話す姿に、それだけで納得しそうにもなるがとりあえず頷く連理。目に見て解る証拠がどの様なモノかは分からないが、見て損する様なモノではあるまい。

 ……多分。


「で、この場所じゃが、知る者からは隠れ里やマヨイガと呼ばれておる、おぬしらの居る場所の一種の鏡面世界じゃな」


 先程も口にした鏡面世界 ――言葉通りであれば鏡に写った世界、であろうか? それならあちこちが反転しているのは納得か。

 とは言え、豚面の怪物がいるのは納得しかねるが……。


「ならあの豚は人間の、鏡写しになった様なモンなのか?」


「いや、隠れ里に居るのは大抵現し身 ――影みたいな存在ばかりじゃよ。先程の奴も死んでおればもう消えておるじゃろ」


 その言葉に一瞬背筋が凍り付く様な気がした。


「人間の……現し身?」


「っと、言葉が足らんかった様じゃの。

 そこは言葉通り鏡面なんじゃよ。あの豚面は元が豚面じゃからそのままの姿で此処に現し身をもっておったのじゃ」


 彼女は一端言葉を切って連理の様子を伺う。

 自分の言葉で人間に、此処の有り様を理解させられるのか、彼女は実際の所そこをよく判ってはいなかった。

 自分達は本能的にそれらをある程度理解している。理解してしまっているそれを改めて他人の理解できる言葉に噛み砕き、理解させようとするのは意外と難しいものだ。


「……現世というモノは無数の世界で構成されておる。それは解るな?」


 そう問われても連理は首を横に振るしかない。

 様々な物語の溢れる世の中、彼もそれなりの「知識」を持ってはいるが、それはあくまで空想の産物であり、リアルではなかった。そして今はフィクションの知識が問われている訳では無いのだ。


「そこからか……」


 少女は天を仰ぐ様な格好で頭を抱えるも、ゆっくりと説明を始めた。


 この世は無数の世界で構成されている事。

 その世界の狭間にここの様な「隠れ里」が産まれる事。 ――ここは偶々学校そのものに見えるが、別の世界の鏡面である場合も多々あるらしい事。そんな里どうしが繋がる場合、混ざる場合もあるらしい事。


 隠れ里にはそれらの世界からの移住者もいるが、多くはそんな世界から投影された現し身である事。 ――つまり何処かの世界にはあの豚面の「本体」がリアルに棲息しているとの事だ――  また自身は元から日本生まれの妖怪である事。


 最近の風潮なのか、そう言った存在を総じて「魔物」や「モンスター」と呼ぶ事。

 その中でも破壊的なモノ、本能的に他者へ敵対するモノを「アクマ」、そうでないモノを「ファンタズマ」と呼び区別しているらしい事。

 呼び方が和洋混同なのは個々の研究者達の呼び方を統合した為らしい事。更に細かい分類として「妖怪」の他に「精霊」、「魔獣」、「妖精」等と言った区別がある事。 それを更に細分化したものが種族になる。

 例えば彼女なら「ファンタズマ」の「妖怪」「仙狐」だ。

 もっとも、それは言ってみれば自称であり、ある者から言われれば「アクマ」であったり、別の者からは「獣人」や「妖精」と呼ばれることもあるだろうが。


 さらにはそれらを狩る存在の事。

 自分の傷の大半はその存在のせいで、そうでなければあの様な無様は晒さなかったであろう事。


「……ちょっと、待ってくれ」


 まだまだ話し足りなさそうな彼女を止める。連理は先程の彼女の様に頭を抱え天を仰いだ。


「一度に話されても、理解が追いつかねー……」


 疲れた彼の様子に少女は少し申し訳なさそうな顔を見せる。

 だが連理は一応ではあるがある程度の理解はしていた。

 「設定」としてはそう珍しいものではないからだ。 

 問題はそれを現実として受け止め、納得出来るかどうか、である。聞かされただけの非現実を納得するのは、難しい。


「とりあえず、先に名前を教えてもらえるか?

 っと、オレは逆木連理。この、と言っていいか分からんけど、この琴倉橋高校の二年だ」


 表情から疲れは消せないが、それでも少しの笑みを見せ連理は手を差し出す。


「……わらわの……名、か?」


「? そりゃここで誰とも知れんヤツの名前は訊かないだろうなぁ。仙狐って種族名みたいなモンなんだから名前は別にあるんだろ?」


 そう言われ、彼女は何か躊躇する様に辺りに視線を向けた。右見て下見て上見て左見て、また右を見てから連理へ視線を戻した。


「あっ、ひょっとして教えられないもんか?」


 彼女は妖怪だ。名前に何か特別な意味があってもおかしくはない、と思う。


「……まあ、良い」


 連理の言葉を聞いているのかいないのか、彼女はベッドから降りるとすっと彼に近づいてきた。

手を握られた、と思った瞬間、不意に思いがけない程のちからで引かれ、連理がベッドへ座る形になった。


「へっ?」


 間の抜けた声を出す彼の視界が少女の顔でいっぱいに、なる。


「わらわの名は、ササ、じゃ」


 更に近づく彼女の前髪が、額に掛かる。

 その感触に気づいた時にはすでに桜色の唇が重ねられていた。

 ――少しだけ、血の味がしたそれは、妹がまだ乳児だった頃のハプニング染みたモノ以来の口づけだった。

今後書く機会がなさそう部分をちょこっと載せておきます。


ササは北海道出身でホンドギツネやアカギツネではなくキタキツネです。

名前の由来は笹藪の中で自我に目覚めたから。

実は自我が目覚めてから、つまり妖狐時代から百年程経っており、実年齢はもっと上です。

笹藪由来の名前ではありますが「笹」とは違い先頭の「サ」にアクセントがつきます。

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― 新着の感想 ―
こんにちは。 昔から蔵馬とか玉藻みたいな狐キャラに目がなくて、蠱惑的な感じ、めちゃくちゃ刺さってます! あと、タイトルの文字化演出、最高に格好いいですね。あまりにセンス良すぎて、パクらせてもらおうか…
面白くなってきましたね。 ( ・∇・) でも、ヒロインはクール系の方が合ってたかも?? メガテン並みに、様々な種族が登場するのかな??
おぉっ!なんか一気にこの得体の知れぬ世界のことがわかってきましたね♪ ササは妖狐みたいな感じなんですね(^^) それにしても、ブルマ!今となっては絶滅危惧種のような存在ですが、僕の学生の時は普通に皆ブ…
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