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第三十一話 雪の降る夜への招待状

作中では十二月に入りました。

十二月のイベントとくれば、まあコレですね。


 雪の降る日が増えてきたな、と連理は思う。


 灰色の空、白い雪、地面に落ちたそれは踏まれると一時は泥の様な色に染まってしまうがそれもやがて白に埋もれる。


 雪というとアレクには雪女の如月白亜(きさらぎ はくあ)がいるが、彼女は最近バイト終わりには随分と草臥れた姿を見せる様になった。

 忙しい、という理由だけではなく、暖房がキツくて辛いと愚痴を溢していたのは成る程と納得させられる言葉だ。

 夏は厨房で火も使っているが基本的にエアコンが効いているのだから我慢は出来る。冬は同じく火を使っている上に暖房を焚く訳だから、雪女には辛かろう事は想像に難くない。


 逆に寒いと辛いと言っているのは塚本紡(つかもと つむぎ)だ。蜘蛛故か、蜘蛛なのにと言うべきか、彼女は寒いのが苦手らしい。

 そんな彼女と一緒に犬養家の居候となった桜塚守千夜(さくらづかもり ちや)は寒いのも暑いのも平気な質であり、雪降る様になってきた今も一家の家事をその一手に担っている。

 そのふたりと暮らす犬養家の家主・犬養宰(いぬかい つかさ)はというと、何かとバタバタする様になった毎日に余計な事を考える暇もなくなったのか、彼を悩ませてきた症状は本人曰く「何故か」安定してきていると言う。

 全くなくなった訳ではない為、稀に徘徊しようとするがその時は紡がさっさと捕縛してくれるのだ。 安眠できる様になっただけでも大助かりだろう。

 ちなみに最近の悩みは「飯が旨い」。

 彼の義母も料理は上手かったというが、千夜はそれを上回る。

 外見は兎も角、実年齢はずっと上の彼女だ。然もありなんと言ったところである。

 なので、宰は復学するとほぼ同時にランニングという日課が増えた。それも食事量が増える要因に成り得るのだが、気づいているのか気づかないのか、日々、紡と奪い合う様に食事をする事になった犬将軍様である。

 見知らぬ異性と唐突に同棲が始まったというのに、艶っぽい話がまるでないところは、情けないと言うべきか理性的だと言うべきか。もっとも、千夜にしろ紡にしろ、立場は「おかん」的である為、仕方の無い部分はあるのかも知れない。


 一方で、異性と共に暮らすという意味では先達である連理だが、商店街で頭を悩ます今のその姿は小市民感で一杯だった。満載だった。

 例え三人寄っても文殊の指先にも至らぬ、三人寄っても小市民。

 下手の考え休むに似たりとはこの事だろう。ただ悩み、頭を捻るがいい考えなど浮かばないのだ。


「……さっきからキミは何やってるの?」


 そんな連理に声を掛けたのは、最早知人知り合いと言ってももう否定は出来ないだろう、スレイヤー所属の女性・渡来(わたらい) (あや)である。彼女はすっかり真冬の装いであり、随分と着膨れて見える。


「何って言うか……。

 ん? こっちと話してもいいのか?」


 お互いの立場について言外せずに問う。荒れ木三度Loss側は彼女についてどうこうしろという事はない様だが、スレイヤー側はどうか判らない故の問い。


「人間の知り合いと話してたからって、問題にはならないでしょ? それで、なにやってるのよ?」


「……ササ ――ウチの相棒って、まともにクリスマスなんてやった事ないと思うんだよ」


「ああ、この間の? 悩む必要ないじゃない。 一緒にしたらいいでしょ?」


「支部……支店のヒト達ともしたいし、この間、ちょっと……不憫な? 不幸な? 大変な? まあそんなヒト達と知り合ってさ、一緒に騒ぎたくもあるんだ」


「その人達も一緒にしたらいいんじゃないの?」


「日本人は気にしないだろうけど、キリスト教以外の外人さんってそう言うの気にしそうだな、とか、そもそも落ち着いたんなら家族だけで祝った方がいいのかなとか、下手に誘って相手の予定を潰しちゃってもな、とか考えてたら何か訳分かんなくなってきてさ」


 例えばロジーナは魔女だ。

 魔女と言えば中世には魔女狩りという忌まわしい出来事があり、彼女の生きていた時代とは若干の被りがある。だとすればクリスマスというものに敵愾心を持ってもおかしくない様に思えるのだ。

 もしそのような気持ちがなくとも、折角落ち着いたなら家族で、と思っているかも知れない。そこでお誘いを掛けたら内心どう思っていてもこちらを優先させてしまうかも知れない。それはお互いの立場からすると、一種のパワハラになるのではないだろうかという懸念もあった。


「……アンタね、ひとりで悩んでないで誰かに相談しなさいよ。 わたしはその人達を知らないから判断出来ないけどね、ア・ン・タ・の・と・こ・に・は・無駄に永く生きてるのがいるでしょうが」


 絢は呆れた様にそう言った。 「アンタのとこには」では一文字ずつ指を突きつける様なジェスチャー付きである。


「ま、とりあえずわたしなら誘うだけ誘うわ。 今の日本じゃクリスマスなんてただのイベントよ? 別にケーキの上にキリスト像が乗ってる訳じゃないんだから気にしなくってもいいじゃない。 人数増えすぎたら宰のところでも行ったらいいしね。 あそこはじいちゃんもばあちゃんも賑やかなのは好きだったからね、喜ぶわ」


「あの人のところでやるんなら、来る? 仲いいんだよな?」


 初めて会った時の台詞はもう何処かへ飛んで行ってしまったのか、すっかりタメ口の連理と、それを指摘しなくなった絢である。


「わたしが行ったら楽しめないヒトもいるでしょーが」


 苦笑しながら答える彼女に、連理はどんな顔をしたらいいか解らず困惑した。

 スレイヤーでありながら彼らを ――それは道端故の配慮なのかも知れないが―― ヒトと称した絢。 そんな彼女をただ排除するのは抵抗がある。

 だが、旧「暁」の者達は一日で半数以上がスレイヤーによって殺されているのだ。その場で別れ、合流出来ていないであろう者達もいるが、生存は絶望的と思える者も。彼らからすると行動を起こした本人ではないと判っていても、割り切るのは難しいだろう。


「……そうかもしんないけどさ」


「宰とは別に時間を取るからね、アンタが気にする必要はないの。全く」


「……………………へぇ」


 思わず生暖かい微笑みを浮かべてしまう連理だ。それは仕方がない。仕方がないのだ。


「……ま、アンタは頭抱えながらプレゼントを選んでなさい。 ひとりでね」


 コートを翻し、連理が反応する前に後ろ姿を向けた彼女は、呼び止める間もなく人混みに紛れてしまった。


「………………あっ」


 折角出逢えた「アドバイザー」が颯爽と消えてなくなり思わず言葉を失う連理だが、よく考えるとアドバイスはすでに貰っている。

 ひとりで悩まずに相談する事。


(殺すか殺さざるかの時は相談していたのにな)


 自身の内心の変化に気づきつつも、それが何故起こったモノなのかは気づけずに、それでも連理は想像する。


(成長したのか、してないのか。 良くなったのか、それとも悪くなったのか)


 判らない。

 判らないが。


(成長してると、思いたいな)


 全てが良い方へ向かっていると信じたい。

 そんなのは絵空事に過ぎない、ただの理想だと解っていても、それでもそう思いたいのは若さ故なのだろうか。


◇ ◇ ◇


 話はとんとん拍子に進んだといってもいい。


 支店長のマヤ守崎はその話を聞くなりスケジュール調整を始め、支店用とワイズマン用の日取りを組んだのだ。

 連理の言うメンバーで集めるとどうしてもワイズマン+ファンタズマになってしまう。それでは現在五人いる一般人(ピユア)のバイトが仲間はずれになってしまう為、「支店長」としては宜しくないのだ。

 勿論、内緒にする事は出来るが支店内人員の七割以上が参加する事になりそうなイベントを隠すというのは不誠実に過ぎるだろう。

 もっとも、高円寺望は支店用の日だと来る理由がないと言いながら、ワイズマン用の日は家族と過ごす用事があるという事で辞退。

 膝丸健斗は支店用の日のみ参加、如月白亜と旧「暁」メンバーはワイズマン用の日のみ参加となった。

 その他のワイズマン達は二日とも参加であり、ピュアは当然支店用の日に三人だけが参加だ。

 ちなみに支店用は会場が支店で、定休日である第二月曜日に、ワイズマン用は渡来絢の助言に従い犬養家へ打診、クリスマス前の日曜日に行う事が決まった。 




 そして、そんな話の発端となった ――というか発端とされた、そんな可能性もある。何せマヤの動きが早すぎなのだ。予め計画してあったと疑う程度には―― 連理はササとふたりで榊家へ向かっていた。

 その手に在るのは、やはり予めデザインしてあったとしか思えない程には凝ったクリスマスカード兼招待状を入れた、これもまた妙に凝った封筒だ。

 とは言っても、榊家の面々については予想外の接近であった筈だから、元々は従業員用に用意されていたモノなのかも知れないが。


「ロジーナさんって、こういうイベントは大丈夫なヒトなんかね?」


 マヤからはGOサインが出ているものの、やはりそこが気になってしまう連理だ。

 中世の魔女狩りに於いてまず対象になったのは当時薬師としての顔を持っていた彼女の様なドルイド、セイズといった「魔女」と呼ばれた存在である。彼ら彼女らは医師や錬金術師、今で言うなら化学者としての側面も持っていた。

 一神教であり「神の奇跡」を体現し、それを広告塔としてきた教会からすると酷く邪魔な存在であった事だろう。彼らからすると「奇跡」でない別の何かで、病気が治り、怪我の回復が促進され、そもそも病気に罹りづらくなる等あってはならない事なのだから。

 そんな彼女らにとっての暗黒期を作る原因であった「神の子」など敵以外の何者でもないだろう。


「問題なかろ?」


 ササは軽い。何が問題か、と一笑に付する。


「彼奴は母じゃぞ? 今のこの国で、幼いふたりの娘が居るのにクリスマス(そんな事)もせずにおれたと思うたのか?

 そんな筈はなかろう。

 この程度のイベントの経験はあるであろうし、とっくに折り合いなど付けておるわ」


 シニカルと言える様な表情でササはそう言い、続ける。


「第一、居りもせん『神』なんぞより、わらわ達魔物と呼ばれる存在や人間らの方が余程超常の存在よ。 それが姿のない神を恨んで何となる?」


 隣を歩く彼女にそう言われつつも、後半の言葉は聞き流していた連理だが、それでもなる程と頷く。

 ここ数年は兎も角、榊家への襲撃があるまではクリスマスくらいやっていてもおかしくはない。というかやってないとおかしい。


 襲撃時は栞が十歳で香が七歳。


 そんな娘がいるのに、知らぬ存じぬやりませぬ、というのは確かに無理がある。


「…………言われてみりゃ、確かにその通りだな……。 まさかササに教えられるとは抜かったわぁ……」


「のぉ……何かわらわの評価、()っくくないかの?」


「そんな事はございませんよ、お嬢さま」


「おぬしがそうやって巫山戯るのは、否定出来ん時じゃろうが!?」


「……三か月も一緒に居ると誤魔化せなくなるもんだなぁ……」


 九月に学校へ侵入した時を思い出す。ついでにササの半裸な姿も思い出すが、中空を見つめ誤魔化す様に言葉を紡ぐ。


「そういや『神サマ』っていない?」


 話を変えられ、一瞬言葉に詰まるササではあるが、そこまで怒っている訳でもなく、気持ちを切り替える。


「今、話とった一神教のは居らんな。 少なくとも姿を確認した者は居らんらしいぞ、天使にも悪魔にも」


「それは、いないって言えるのか?」


「確認出来ないモノは、無いで構わんじゃろ? 居ったとしても何もしとらんヤツじゃ。 気にするだけ無駄じゃよ。

 あと、そうではない『神』なら結構居るぞ?

 支店に居る雲外鏡も神として崇められとったし、蛇のヤツもそうじゃろ?」


「蛇って、誰だっけ? って、ああタツミさんか」


 大抵の相手は名字呼びの連理だが、タツミは名前だ。何せ彼は姓を名乗っていない。普段は鏡子の眷族として封印されており、偶にしか現世に出てこない彼に姓はあまり必要の無いものなのだ。その辺りはカノンやクロもそうである。

 ちなみにもうひとりの眷族・センリには未だに会ったことがない。


「彼奴は間違いなく『神格』持ちじゃぞ?」


 だが、大抵呼び出される時は店の手伝いである。大きな体を持て余すかのようにちまちまと海苔を巻く姿は何処か哀愁を感じた。


「そういうのじゃない、神話に出てくる様な神サマはどうなんだ?」


「わらわは会ったことは無いのお。 ああ、『ばぁすてと』だか『ばぁすと』だか言う神格が何処ぞに居るという話は耳にしたな」


「ばぁ……バステト、か?」


 バーストとも言うエジプト系の猫の頭を持つ女神。

 恐らくゲームやラノベに出てくるエジプト系の神格では一、二を争う有名人だろう。争う相手は大抵ジャッカル頭のアヌビスで、主神のオシリスやその妻イシスは出演数としては次点以下だと思われる。敵役の弟セトの方が出番が多そうなのが何とも寂しい主神様だ。


「ああ、そんな感じじゃったな」


「そうなると他にもいそうだな」


「居るじゃろ、多分」


 益体もないことを話ながら歩くふたり。

 のんびり歩くも、榊家の住むマンションはそう遠くない ――というか近場にある。話ながら歩けば話が途中で終わってしまう程度には近い。


「お、丁度良いの」


 ふたりの前方にはマンションから出たばかりの姉妹が見える。


「おーっ、ささちん! どしたのー!?」


 こちらに気づいたのか、真っ先に声を掛けてくるのは栞だ。香は首を傾げている様に見える。

 双方の距離はおよそ50m。本来であれば、細かな仕種ははっきりとしない現代人の目玉であるが、今の連理はどうも視力も回復傾向にある。いや、回復と言うよりは強化なのだろうか? 気づくと強化されている肉体がちょっと気味悪く思えてしまうのは、仕方ないのか、根が小市民故か。


「ちょいとお誘いじゃ」


 軽く走りながら距離を詰めるササと栞は中程の距離から会話を再開した。

 「浮気相手」だ何だと言っていた相手ではあるが、相性の良いらしい彼女たちの会話は結構長く続く。 いや、それが相性故なのか性別のためなのか、それとも彼女達だからなのかは連理には解らないことだが。

 仕方なく連理も急ぎ後を追う。何せ招待状を持っているのは彼だ。

 だが、彼が到着する前に何故か会話の止まったふたりの姿があった。


「おっす。 どうかしたのか?」


 栞側でも香が到着し、覗き込む様にふたりを見ている。


「かおちゃんとれん君の手を見れば分かるんじゃないかな?」


 何故か苦笑いを浮かべる栞の言に倣い、その妹の手を見ると可愛らしい感じの封筒が見えた。

 成る程、それは苦笑するしかあるまい。


 二通になった招待状を見て、連理は笑みを浮かべた。

 手作り感満載の榊家の招待状を見る限り、自分より先に思いついたのかもしれないな、何て思いながら。


 神様はこの世界にたくさんいます。存在してます。

 一神教の神がいないのは核になる「人格」がない、もしくは揺らいでいるせいです。

 神、もとい魔物の元になるシャドウが生まれるには人間の共通認識が必要で、それには「コレはこういった性格で、こういうことをする神だよ」という形がなくてはならない、という設定です。ですから、多神教に於ける役割や個々の人格、性格を持った神は生まれやすいのですが、一神教に於ける非人格神は生まれづらいというか、まず生まれません。

 多神教にしても「始原のなんちゃら」みたいな人格、性格の無いモノも生まれません。

 逆に共通認識ができ、人格等が「設定」されると生まれる可能性があるのが、この世界だったりします。


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― 新着の感想 ―
なるほど。それで言うなら、イエスキリストは少なくともワイズマン。ひょっとしたらファンタズマだったと考えるのが妥当な気もしてきましたよ。 (「`・ω・)「 過去の偉人たちがピュアなんてことは無さげ。 …
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