第三十話 祟り鬼と呼ばれた男
めっちゃ短いです。
ストーリー上だと今がクリスマス前くらいなんでこの辺りに突っ込むしかなかったおじさん。
昏い目をした男だった。
男はすっかり色褪せ草臥れたスーツを身に纏い、半眼で周囲を警戒するように見渡しながら、ただ歩いていた。
近寄りがたい雰囲気を醸しだし、むしろ周囲に敵意すら剥き出しにして近寄らせまいとしている様にも見える。
その空気感は堅気では有り得ない。といって今時の半グレやチンピラなぞ敵うべくもない、「人でも殺していそうな」という比喩が似合う、そんな男だ。
植物で例えるなら触れると怪我する仙人掌か、赤は弟を斬った時の血飛沫だとの話のある弟切草。
色で例えるなら光飲み込む色である黒か、鮮血の紅。
その彼が歩くのは煌びやかな商店街である。
浮いているとしか言いようのないのだか、彼はそんな事はまるで気にする様子はなく、歩く。
目的地が決まっているのだろう、その足取りに迷いはない。
男は真っ直ぐに、その様相には全く似つかわしくないクリスマス一色に飾り付けられたおもちゃ屋へ入った。古いめかしいカウベルの音が店内に響き、すぐに奥から店員が出てくる。
「いらっしゃぃ……アンタ、重護くん!?」
店員 ――店主である初老の男はそう知り合いの名を呼んだが、男はそちらをチラリと一瞥しただけで何も答えない。
「……重護くん、アンタまだ犯人を追っているのかい?」
刑部重護は極普通の会社員だった。
パート勤めの妻と息子がひとりの三人家族。小さいながらも一軒家に住む、絵に描いた様な幸せな一家だった。
ここから家が近く、また町内会には積極的に参加している事もあり商店街との結びつきが強かったと言える一家だ。だからこそ店主は彼を知っているし、その家族の事も知っている。
ある日、重護のいない昼日中に、その家が全焼した事も。
放火、だったらしい。
不可思議な日中の犯行、見つからないふたりの家族、明らかに複数人の争いの痕跡、異常な速度の延焼。にも関わらず何故か警察は早々に捜査を打ち切られた。
そこで一般人の視点から見ても不信感だらけの捜査に商店街は立ち上がった。
警察へ、再捜査を申し入れる為に署名運動を開始したのだ。
だが重護の反応もおかしかった。署名を集める商店街の皆を尻目にその姿を消したのだ。
それはのちに独自の捜査をしていると判明はしたものの、再調査申し入れの運動はそのまま立ち消えたのだった。
あれから四年。
この時期になると彼はふらりとこの店を訪れる。
「……これを、包んでくれ」
それはレーシングカーのプラモデル。
子供用のクリスマスプレゼント。
「重護くん……、このままじゃあ、良くないよ。 奥さんも啓吾くんだって……」
「包んでくれ……」
店主の呼んだ名を打ち消すように言葉が重ねられる。
犯人に対する静かな怒りが今でもそこにはあり、泣きそうにも聞こえる声色は酷く哀しげに響いた。
「…………ああ、クリスマス用かい?」
泣きそうなのは店主も一緒だ。
彼のひとり息子である刑部啓吾は子どもの少なくなってきた商店街の皆にとっては孫のようなものだ。 特におもちゃ屋であるここは子ども達との接触は自然と多くなる。だからこそ今でも犯人の事は許せない。結局は心の内で憤るだけのものでしかないが。
「ああ、頼む」
重護にしてもそうだ。
自身が親などと自称してしまうのは彼の実の両親に悪いし、そこまで年上という訳でもないが、気持ちの上ではやはり親の立場で彼を見ていた。大学を出て早々に家も出た実の子よりも多分ずっと世話にもなっているだろう。
この刑部重護という男は商店街のイベントには積極的に参加し、町内会ではまとめ役を買って出て、何かとお祭り好きな面を見せてきた。
それが今はどうだ。
見る影もないとは正にこの事。昏い空気をその身に纏い、まるで死霊や悪霊のように悪意を振りまきながら歩を進めている様ではないか。
「……待っていてくれ」
この時期の為に用意した包装紙を取り、手早く包む。
考え事をしていようと、ここ最近客の入りが減っていようと、その作業に滞る事はない。あっという間に包装を終えると、それを更にビニール袋できっちりと仕舞い込んだ。
遺骨のない、形だけの墓の前で野ざらしになるプレゼントだ。少しでも長くその形を保つように、しっかりと目張りをする。
「待たせたね、重護くん」
「いや、有り難いよ、親父さん」
そう言う重護の顔には形だけではあったが、小さな微笑みが見て取れた。店主へ義理立てしてくれたのだろう、形だけの、それでも笑みは笑みで。
「……たかだか町内会や商店街の繋がりしかないワシが言うのも何だがね……重護くん……、ちゃんと笑えて、いるかね?」
重護はその問いに答えない。答えぬまましわくちゃの札を置く。
「重護くん……! 奥さんに、これ以上心配掛けてどうする……!?」
「……死んだら、それでお仕舞い。 この程度で化けて出てくれるなら万々歳だ」
少なくとも自身の知り得る範囲で全てを理解し、理屈を付け、それでもその道を選んだのだろう。そうでなければ四年もこんな状態でいられない。
店主はそれ以上掛ける言葉を見つけられず、拳を握り込む。
「それに」
カウベルの音に紛れながらも、重護は長く世話になった店主へ声を掛ける。
義務でも責任でも何でもない、ただの義理。だがそんな道理だからこそ果たす意味があろう。
「もうすぐ……終わらせられるんだ」
その言葉は店主に届いたのか、届いたとして理解されたのか。
確認などされぬまま、扉は閉められる。
道は閉ざされる。
◇ ◇ ◇
重護は厳重に包装されたプレゼントを片手に煌びやかな通りを歩く。
かつて、商店街の活性化を目的に行った村おこしならぬ店おこし。始まった当時よりずっと華やかに見えるそれらはとても綺麗で、物悲しい。
あれがなければ今でも妻や息子は隣を歩いていただろう。
そう思うと怒りが込み上げる。 憎しみが込み上げる。
「――、――」
少年達が騒いでる。
所謂不良少年が意味なく騒いでいる訳ではなく、少々声量は大きいものの談笑しているだけのようだ。
息子も生きていればあれくらいだろうか? 年齢よりも小柄だったせいか、何時までも小さなイメージしかない我が子だ。どう想像しても年頃になってくれない。
「お前ら……。 級友を祝ってやるくらいの気概はないのか?」
「いや、めでたいとも。 友の彼女、大いに結構。
だぁがぁ、それ以上に妬ましいのだよ! わかるか! この傷心のマイハートが!?」
「そうそうそのとおりだ親友。 だからこそこのロリコン伯爵に鉄槌を喰らわせなくてはなるまい! 何時ぞやぶたれた時の仕返しだなんてちぃっっとも思っていないぞ、友よ」
「そこまでは言わないけど、まあSit嫉妬言ってるこいつらの気持ちも解らないではないかなぁ?」
「……この三馬鹿ども……!!」
「ははは……」
賑やかしい。
羨ましい。
微笑ましい。
久しく感じていなかったそんな気持ちで彼らを見ていると、ふとそこにいる少女がファンタズマであるのに気づいた。随分高度な幻術だが、幻に関してはこちらも矜持がある。そうそう騙されてはやれない。
それにしても楽しそうだ。
あの子も人間の友達がいたが、彼らは今でも元気でやってるのだろうか? 確か双子の男の子と女の子……だったような……?
「――見つけたあぁぁぁぁぁっ!」
そこに現われたのは小さな女の子。小学生くらいだろうか?
ほんの少し漂ってくる死臭が、彼女もまた人間ではないのだと教えてくれる。
「栞?」
「れん君!」
「はい?」
「べ、別にれん君に(頭を)さわられたのがイヤだったワケじゃないの!」
……何やら爆弾発言をぶっ放しているようだが、良いのだろうか? ここは天下の公道だよ? 大丈夫かい?
「ねえねえ、聞きました奥さん? 触られたんですって。 事案ってヤツじゃなぁい?」
「ええ、聞きましたわ、奥さん。 触られたんですって。 事案ですわねぇ」
ノリのいいお友達のようだね……。まあ、幸い周囲に人は少なくなってきたし、商店街の放送もそこそこの音量で流れている。
聴覚に優れたイキモノでもなければ聞こえはしないか。
「頭! 触ったの頭だから!」
「中学生の彼女作ったと思ったら小学生にまで手を出すなんて、鬼畜ねぇ?」
「えっ? 鬼畜お姉?」
「17だから! こいつこれでもタメだから!」
「ちょ! ムシしないでよ!」
「その年齢が本当だと仮定しよう。 合法ロリを探してきたキミに幸あれ!」
「幸あれ! だが爆発しろ!」
「……17歳は合法じゃないんじゃないかなあ?」
「大丈夫! 親の承諾を取れていればいくつでも合法さ」
「そんなモン取れる訳ないじゃん」
「親の承諾……は得られておったのぉ」
「えっ!? 何々!? 今稲荷さんから重大な発言が!!」
「余計なコト言って混ぜっ返すなよ!?」
「わたくしとしましては目の前で浮気の相談をされたようなものですし……」
「え、何? おとさんってば何を言ってたの!?」
「えっと、『ボクが許可する、抱きしめてやってくれ』でしたか?」
「抱きしめる……こう?」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 爆発しろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「悠樹ぃ!? どこに行くんだぁぁぁぁぁぁ!?」
「栞!? 無理すんな! 震えてんじゃねーか!?」
「無理してない。 あたしがこうしたいからしてんの! 悪い?」
「尊いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「景継まで……。 逆木、ボクも帰るね。 後は寮で詳しく教えてね」
「やなこったい」
何だか青春ドラマのワンシーンでも見せられた気分だよ。まあ、悪い気分ではないし、見せられた訳でもないんだけど。
うん、悪い気分ではない。 僕の目的も再認識出来た。
ファンタズマでも人間と良い関係は作れる。
それを壊し邪魔するあいつ等はやはり紛れもない「悪」だ。
スレイヤー
こんな若人達の行く手も遮るんだろう、お前達は?
俺の家族を殺したように彼らも殺そうとするんだろう、お前達は?
復讐と言いながら無関係の者も殺していくんだろう、お前達は?
潰してやるよ、スレイヤー
暴力を以て無法を通そうとするお前達に、暴力を以て無法を通してやろう。
俺は、悪を潰す邪悪となって彼らのような存在を守ってみせよう。
今度こそ。
というわけで、以前に二つ名だけ出てきていた『祟り鬼』さんです。
一応『黄泉御前』かおりんもスレイヤーから見ると同格のテロリストで、殺戮人数はどっこいどころか多いんですが、香が広範囲殲滅・雑魚~中堅を主にやっちゃってるのに対して、単体・小範囲攻撃のみで中堅以上の強者や重要施設の破壊とかやっちゃってるのが祟り鬼さんです。
能力値的にも単純に倍以上はあるお方です。




