閑話 洞窟
なんだか超短編になってしまいました。
「のう、連理」
コントローラーを手にしたままササは後ろにいる同居人へ声をかける。
何時もの迷宮探索とは違う軽快なリズムにおどろおどろしい効果音が混ざった。
「ん-? どうした?」
「こやつ、弱くないか?」
彼女の言葉に文庫本から目を離した連理は、主人公がマシンガンを乱射しているのを見た。
いや、見た目も効果音もマシンガンだが、一応ブラスターとかいう種類の武器だったか。
ブラスターなど、漢字で表わせばよく熱線銃などと書かれる事もあるがそんな事はなく、対お化け専用武器である。斜角を合わせてコウモリを撃っても倒してくれない。
「まあ、弱いな」
スペランカー。
それは洞窟探検家を意味する言葉。
そう聞くとタフな気もするがそんなことは全然なく、歴代コンピューターゲームの中でも最弱と言われる主人公である。
一例を挙げると落下。
例えば元祖マリオブラザーズは落下では死なない。
スーパー以降では穴に落ちるとやられてしまうが、元々のマリオブラザーズにはそもそもそんな穴が存在しない。作中の彼らは高さに関して無敵なのだ。
スペランカーでは死ぬ。あっさり死ぬ。
プレイヤーから見ると不可思議な、冗談みたいな高さで死んでしまう。ちょっとした窪みに落ちては死に、身長の半分にも満たない段差で死ぬ。
下り坂をジャンプで降りたその瞬間、やられてしまうのは彼だけだろう。
その他にも、ブラスターで倒したお化けの欠片がぶつかって死ぬ。
自分の使った爆弾の爆風で死ぬ。
その際に離れていても十分な距離を取らないと爆風に巻き込まれる。
自分の放った照明弾の余波で死ぬ。
リフトから落ち……る前に死ぬ。 あれはショック死なのだろうか?
コウモリのフンに当たると死ぬ。 雑菌だらけと言うからのちのち、というなら理解出来なくもないが、即死である。まあこの時代のゲームではよくある光景だが。
ここまでくると真面にクリアなんて出来そうにないが、慣れてしまえば意外と進めるゲームでもある。
「これ、ゲームとして成り立っておるんか?
クリア出来る気がせんぞ」
「慣れ、らしいぞ? オレも全然進めんけど、父さんがサクサク進めるのを見たことがある。 つーか、珍しいモノやってるな」
彼女のプレイするのは基本的にウィザードリィだ。
それ以外やらない、という事はないが殆ど見たことがなかった。
「まあ偶にはの。 殺伐とした迷宮探索ばかりしておっても仕方あるまい」
「……いや、コレも殺伐とした洞窟探検じゃん」
作中は軽快なメロディーだが、タイトル画面に流れる曲は重低音が腹に響く、何とも雰囲気のある曲になっている。そんな中で主人公は兎に角死にまくるのだから殺伐としたという言葉のチョイスはあながち間違っているとは言えない。
「…………ムラマサが出ないんじゃもん」
ドロップしなくて浮気をしていたらしい。
変に叫ばれるよりは平和である。
「……まあ、頑張れ」
それは繰り返すしかない、そんなゲームだ。
「ムラマサが出ないんじゃもん!」
話しながらのプレイのせいか、主人公がなんでもない窪みに填まって即死した。
「出なくてもワードナくらい勝てるって」
「でも欲しいんじゃ!」
爆風の距離を見誤ったのか、巻き込まれてしまう主人公。
ゲームオーバーだ。
コンティニューはないので最初から。もっとも、あったとしてもスタートする場所は一緒である。 一箇所目のコウモリ以降に全く進めていない。
「…………オレんキャラから持ってくか?」
流石に哀れになる連理だ。
そのうち電池が切れてしまえば消える運命のデータである。なら今楽しむ彼女に提供するのも吝かではない。
「それも口惜しいんじゃ!」
「……難儀なヤツだなぁ。
とりあえず気分転換なら雰囲気の違うモンにしとけば?」
と、ソフトの入った箱其ノ一を押しやる。
ここにある箱は一から三まであり、総数は三十四。それでも実家には後半分程残っている。
逆木夫妻は夫婦ともにゲーマーであるが故に、被りを除いてもそれ程の数があった。
「…………そうしておくかの……」
電源を落としササはソフトの入った箱を覗き込んだ。
尻尾を振りながらそうする姿はそれなりに楽しそうに見える。というか楽しんでいるのは間違いなさそうだ。
「……それじゃこれにしとくのじゃ」
ササの手にした物を見て、連理は呆れるように言った。
「それも洞窟だぞ?」
スペランカーに比べるとずっとタフで、恐ろしい程高い場所から落ちても怪我ひとつしない主人公を操るアクションゲーム。
剣と盾と魔法を使い、最終的に倒すのはドラゴンだ。もっとも最初から最後までステージボスは皆ドラゴンだが。
フィールドマップ上にいくつかのステージが配置されており、それを選択・突破していく。
ステージには色々な種類があるが、実際プレイしてみると全部洞窟でしかないように見える為、正直気分転換になるのかは不明だ。
「そうなのかの?」
「設定上は洞窟以外もあるけどな。 廃墟とか」
「まあ、取り敢えずやってみるのじゃ」
そう言う彼女が起動したのはドラゴンバスター。
オチが見えた気のする連理である。
「ひゃっ」
可愛らしい悲鳴。
「うひょ」
体を後ろに投げ出すようにしながら出す声は驚いているのだろうか?
初めてのルームガーダー ――まあ、番人だ―― その猛攻に攻めあぐねている。
「やんっ」
スケルトンに打ち上げられた。
このルームガーダーは常に剣を振り回しているので近づきにくい。
ビショップなら垂直斬りで、ウィザードなら兜割りでと無難な対処方法はあるが、そもそも主人公より間合いが広いのに、その間合いより近づかせまいと剣を振り回すスケルトンは無傷で倒しにくい敵でもある。しかも巻物が効かないというおまけ能力つき。
「ひ~、お手玉されるのじゃ~」
ササの操るクロービスは宙で藻掻く。藻掻くがお手玉されっぱなしの主人公クロービス。手早く近づこうとしてこの様な状況になるのはよくあることだ。
体力を削られ這々の体で地面に立ったのも束の間、不用意に飛び込みまたも彼は宙へ舞った。
「や~、や~め~る~の~じゃ~」
ヒーヒー言いながら何度か攻撃を当て、骸骨戦士を撃破したササは、その後魔法使いの操る剣に斬りつけられ、小型恐竜の吐く炎に焼かれつつ何とかひとつ目のステージをクリアするも。
「あれ? あ~そっちじゃないのじゃ~!」
フィールドマップで操作を間違え目的地のドラゴン山へ向かわずに別のステージへ。
それでも二体のルームガーダーを屠りつつ、お手玉されてゲームオーバーとなった。
期待を裏切らない彼女に、何とも言えない笑みを浮かべる連理であった。
筆者の記録はスペランカー4周です。
2周目は鍵が見えなくなり、3周目は鍵のある場所でブラスターを撃たないと入手できず、4周目は鍵のある場所でフラッシュを発射しなくてはダメなのですが、フラッシュはコウモリのいる分しか入手できないため、それ以上進めませんでした。
4周目のコウモリの放つフンの嵐はちょっと避けきれなかったのです。




