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第二話 鞾カ處1ロ隴tオ竫

ここのエピソードタイトルは文字化けしてるわけではありません。

理由は後書きで。

 空気が、変わる。


 多少聞こえていた僅かな車音が消え、熱の籠もった空気が冷たい静謐なモノへ、一瞬で切り替わった。


(なん……だ?)


 思わず周囲を見る。

 時間が時間だ。車の音が消える瞬間があったっておかしくはない。

 だけど、この鳥肌の立つ様な冷たさは、何だ?


 ――マンガやラノベじゃないんだから、「何かを感じる」とか「気配を読む」なんて出来はしない。もしかすると鍛え抜いた格闘家は本当に気配を読めるのかも知れないけど、少なくとも自分はそんなこと出来やしない。

 でも、確かに辺りの空気が変わった。それを連理は理解していた。

 いや、彼自身頭では理解できていない。

 が、彼の身体はそれを理解していた。


 ――ようこそ、非日常の世界へ!


 そんな声が聞こえた気がした。


 ――中二病かよ!?


 それを否定する自分もいる。

 ただ少なくとも急に鳥肌の立った腕は、見ても判別出来ない空気よりも余程リアルだ。

 困ったことに、コレは夢だ、と言い切れない程度には現実的だったのだ。

 足が下がる。

 後退る。

 決して教室そのものが恐れの対象ではないが、本能がその場にいる事を拒絶した。

 視線は教室の中空を彷徨い、身体はそのまま廊下へ動いていく。まるで慣れない義肢のようなぎこちなさで。

 だけど、廊下に出てもその空気は変わらなかった。と言うより、すでに変わってしまったと言うべきか。

 先程までの肝試しの様なモノではなく、当然普段の慣れ親しんだモノでもない、今し方感じた冷たい、静謐な空気がすでに廊下へ満ちている。


(――ホラーだ)


 車の音は聞こえない。

 街の明かりは届かない。


 ――何でだ、いつからだ?


 この教室からはグラウンドを跨いで街が見える筈なのに、街明かりが見える筈なのに、窓の向こうは真っ暗闇だ。家庭の明かりが消えたところで街灯は輝くはずなのに。


 ――何でだ、どうしてだ?


 光源のないこの教室が、廊下が、薄ぼんやりと、青白く見える。暗闇に慣れた見え方ではなく、単純に明度が上がっている。

 光源なんて、何処にもないのに。


 ――此処は既に異界。


 昔読んだ、ラノベのフレーズを思い出す。


 異界? 

 異界って何だよ!? そんなわけあるか!


 否定する。

 第一、ここは学校そのものだ。

 学校そのもの……。

 寒く、辺りは仄かに光源を持ち、逆に校外に明かりはない、何処か不気味に思えるが、学校そのもの……。


 学校が別の世界へ跳んだ、というシンプルな物語は聞いたことがあるが、そんな事は有り得ない。 有り得るはずがない。


 落ち着く為に深呼吸を繰り返す。

 だが落ち着けない。肺腑へ入り込む嫌な冷たさの空気が、心の安寧の邪魔をする。


(――帰ろう。帰って寝てしまえば)


 そうしたら、朝にはいつもの日常だ。

 ここへ来た目的すら忘れて、連理は教室を尻目に歩き出した。 ――いや、歩き出そうとした。


 歩き出せなかった。目の前に壁があったから。いつも帰寮する時の方向に壁があったからだ。


「……ふぁっ?!」


 変な声が出た。暗闇に響くそれを気に留める事が出来ないくらい、思考が驚愕に満たされた。


 何故、先程自分が来た方向に壁がある?

 何故、教室に入る時に眼前にあった突き当たりの壁が、帰りに背を向けているはずの壁が、どうして目の前にある?


「………………夢でも……見てんのか、オレ……」


 先程否定したばかりの夢を肯定したいが為に、呆然としながらも頬を抓る。

 ――普通に痛い。反対の頬も抓るが同じ事だ。

 痛みを感じて一瞬冷静になった思考が、教室に入る時の違和感を気づかせた。バッと教室へ顔を向ける。


 「逆」なのは、壁だけではない――。


「……ははっ……、何で黒板そっちにあんだよ……」


 廊下から見て右にある筈の黒板が左側の壁にあった。机も椅子も、当然そちらを向いているし、掲示板は当たり前の様に右側にある。

「……――っ!」

 また混乱しそうになる自分を制し、思いっ切り頬を打った。痛い、が頭は冷える。少なくともそのお陰で、にっちもさっちも行かない様な思考には成らずに済んだ。


「……鏡の国、ね」


 思考だけに頼らず、口に出す。

 そのまま深く息を吐き、腹に力を入れた。


「現実はここまでファンタジーだったか……」


 口に出したお陰だろう、この状況に対しての指針が出来た気がする。


 思考を切り替える。


 コミックでもラノベでもアニメでもいい。「ファンタジー」な作品を参考に行動していこう。多分、驚き慌てるだけよりも余程建設的だ。

 まず教室をもう一度潜り抜ける。元の状態に戻る定番かと思ったが周囲は変わらず「逆」のままだ。

 ならば脱出口を探す必要があるだろう。

 それなら建物自体から出るのも定番だろうが、こういう奇妙な状況だ。敵性存在がいる事を考えておくべきだろう。

 本当にいてもいなくても、だ。杞憂で済めばそれはそれでいいのだから。

 となると身を守る為の物が欲しいところ。

 格好良く「敵」を倒したい気持ちがないわけではないが、彼の身体能力は並みである。もし敵がいるなら逃走を主軸に考えて動くべきだ。

 そうなると軽く、それでいて取り回しのいい得物が欲しいが、生憎ここは学校であり教室である。

 そうそう都合のいい物がある筈もない。

 チョーク、鉛筆、ボールペン、デカい三角定規、画鋲……。そんなラインナップの中、掃除道具入れの中に長物を見つけるも、あったのは当然ホウキとモップ。

 かなり微妙な代物だが、取り敢えず、モップの先を無理矢理外して持って行く事にする。敵がいるとは限らないし、コレが役に立つかも判らないが、この状況の徒手空拳というのはコワすぎる。


 これで、一応の準備は出来た。

 廊下に出て、来た時の様に足音を殺し歩き出す。


 薄ぼんやりとした視界。

 真夜中、街灯はなく、蛍光灯も点けられていない。月明かりも届かない ――というか月は見えない―― ココは、やはり先程認識した通り、光源がなくともある程度の視界を確保できた。


 それは、先程一瞬だけ考えた様な「夢の中」の暗闇だ。全く光源のない闇ではなく、明度の低いだけの闇。

 判りやすく例えるならゲームやアニメ的な暗闇。 その理由は判らないし、不気味な現象でもある。 だが都合のいい状況とも言える。

 少なくともナニカに、一方的に不意を突かれる不安は軽減されるのだから。

 逆に言えばナニカにも認識されやすいのは確かだが……。


 ゆっくり、周囲を確認しつつ廊下を進み階段を降りる。

 進む。

 降りる。


「――――……!」


 一階まで降りた時、何かが聞こえた。

 声、だろうか? 何と言っているかは判らないが、その高いキーは子供か女性?

 足を止め、耳を澄ませると断続的に聞こえてくるのは ――叫びであり悲鳴。


 誰かがナニカに襲われている、のか? そう思う。


 無論罠の可能性もある。

 君子危うきに近寄らず か、 虎穴に入らずんば虎児を得ず か。

 そう考えていたのに、足はとっくに動いていた。前に、進んでいた。


(――まず、情報だ)


 思考より先に身体は選択している。その思考は後付けの言い訳に過ぎなかった。


 駆けること少し。

 一階の特別教室から聞こえてくる少女の悲鳴。

 何処か気持ちの悪い、興奮した様な呼吸音も聞こえてきた。


 ――正直、イラついた。


こんな状況で盛ってんじゃねぇ! と。

 だから連理は全く無造作に教室の中を見た。



 そこにいたのは肉塊だった。


 いや、それは生物ではあるようだし、四肢を持ってはいたが、それらは肉の中に埋もれた様であり、テレビで見る様な限度を超えた肥満体を連想させた。

 それが、直視は出来ていないが恐らく少女を、半ば包み込む様に覆い被さっているのだ。

 少女の上げる嫌悪の声に、気味悪く動く肉塊を目に、連理は頭が一気に熱くなるのを感じた。

 その肉塊を排除しなくては、と本能的にそう思ったのだ。が、その熱は不思議と一瞬で冷め、彼は極めて冷静にその手にある武器を構えると――。


 一息に、突いた。


こちらへ尻を向けたその肉塊の中心部へ。


「!?グムォォッグモッグッ!?」


 屠殺されかけた畜生の声だ。聞いた事もないのに、連理はそんな感想を抱く。

 肉塊は、急激に己を襲ってきた肛門への衝撃だか痛みだかに錯乱し、前方へ大きく飛び跳ねた。

 転がろうとする度にモップの柄が何かにぶつかり、動きを止め、立ち上がろうとすると、足よりも長いモップが床を叩く為また悶絶する。

 錯乱しているせいか、それともそこまでの知性が無いのか、その豚顔の生物がモップを抜こうとする様子はない。


「……オーク、か?」


 ゲームでもありきたりな、豚の顔と体躯をした人型モンスター。それより多少贅肉が多い気もするが、カテゴリはそう外れていないだろう。

 最近のゲームではゴブリンに出番を取られてしまっているが、彼のプレイするレトロゲームなら、序盤にでる敵と言えば大抵コボルトやオーク、またはスライムである。その為、馴染みがあると言えばあると言える。

 パッと見て、そう認識する程度には、だが。


「っと」


 オーク(?)に気を取られ過ぎていた事に気づき、視線を周囲と、そのまま下方へずらす。

 ある程度予想はしていたものの、少女の、想定以上の肌色 ――まあ、暗くてはっきりしないが―― が見えて、連理は一瞬目を逸らした。

 が、視界の中に赤色っぽいものが見えていた事に気づき直ぐさま向き直る。

 大きく服を損傷した「人ではない」この少女は、体中から血を流しているのだ。


「……パンツは無事……、性的被害者じゃなく暴行被害者だったのか……?」


 状況と先入観から「盛っている」と決めつけてしまったが、もしかすると性的な暴行ではなく捕食的な活動だったのかもしれない。まあ、どちらにせよこちらの行動は変わらなかっただろうが。


 先程まで声を上げていたはずの彼女は、今はもう意識がない様だ。

 連理の行ったオークへの一撃がその一助を担った気がしないでもないが、不可抗力だろう。

 (はだ)けていた服を寄せ集め、小さな身体を持ち上げる。

 ふわふわの「尻尾」が腕をくすぐった。 


(気にしたら負けだ)


 未だ悶絶するオーク(仮称)を尻目に彼は保健室を目指した。一度反対側に行きかけたのは内緒である。

前書きより。

異質な場所へ入り込んでしまった異物感、ラジオのチューニングを合わせる時のノイズの様なモノを表現できないかなぁ、と、エピソードタイトルをこんな感じにしてみました。

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― 新着の感想 ―
な、なんだったんだ。Σ(-∀-;) クリーチャーか!? オークも存在するのっ!? (;>_<;) オークはやべー……。 しかし、おなご救出に成功。 ゜+(人・∀・*)+。♪ ヒロインかー!?
急に異世界に入り込んでしまったレンリくん。それにしても、状況適応力が凄い!女の子は大丈夫かなー?
生来のものか、知る知らないに拘らず異質に馴染む要素があるのか。肝の座り方が、呼ばれるべくしてこの世界に呼ばれたのかなぁとも思えました。判断力が素晴らしい。 ゆっくり少しずつになりそうですが、拝読させ…
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