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第二十四話 彼女の選んだ距離

プロット兼下書きが追いつかれそうです。

毎日更新してる人とか本当に凄いですね。


 そこには光がなかった。


 ただ黒いだけに思える筈なのに、そうではないのは明白だった。


「我の此の姿を見て、どう思うかね? 少なくとも我らの様な存在が在る事を認めることは出来たかね?」


 黒い球体はクロの声で、クロの口調でそう問うた。

 問われているのは当然、宰。彼は言葉を発せず、ただ頷く。


「それで漸く前提なのだよ、少年。 知らなければならない事は多々在り、選ばなければならない事も多々在る。 そんな事柄は呆れる程多いだろう」


 光すら吸い込む真闇の中に唯一視認できる巨大な単眼が、揺れる様に動いた。

 そこにある感情はどの様なものであるのか、目は口程にものを言う、等と昔からいうが、目だけしかない彼のそれを計り知るのは難しい。

 問われた彼はそれでもクロの瞳を真っ直ぐに見つめ、深く息を吸った。


「……つまり、俺の正体もそんな感じだと?」


 意を決したように問うたのはそれ。場違いなような(とう)を得ているような、微妙な問いにクロの瞳が傾く。


「同族の様な感じはせんし、バグベアードでは無いかと思うがね」


 クロはそう答えながら大きな瞳を主に向ける。

 彼の主 ――鏡子であればその正体を看破する事は容易い。もっとも最近の教養も身につけている鏡子はある程度プライバシーというものに理解を示しており、緊急時でも無ければ一方的に()る様な事はしない。

 逆に言えばササが倒れた時の様な緊急時にはプライバシーなど気にすべくもないという事だ。

 つまり今そうしないと言う事は緊急ではない、少なくとも彼女がそう思っているという事の証明でもある。


「お嬢に鑑て貰えばその辺りははっきりするであろうが、恐らくそれ以外も色々と鑑られる事になるのだよ。 勿論お嬢はヒトの事情を吹聴する様な性質でない事は我が保証するが、否、我がそう言った所でそう信用できるものでは無いかな」


「……ここまで腹を割って話しをして貰っている上に、どうやらとらい ――あやの方の事情も酌んで貰っているんだろう? 正直解らないことだらけだが、そこまでして貰って尚信用が出来ないなど、そちらのお嬢さんの台詞ではないが、まさに狭量が過ぎるというものだ。

 第一そこはこちらが頭を下げるべきだろう。

 頼む、……いや、お願いします。 教えて下さい」


 そう言って頭を下げる宰。

 迷いのない眼、とは言えない。

 覚悟の決まった、等と言える筈のない、少し震える声。

 だがそれでも彼は感じ、考え、選んだ。

 なら、そこに余計な言葉は不要だ。


「お嬢」


 クロはその姿をヒトに変えると主の後ろへ移動した。いや、控えたと言うべきか。その立ち振る舞いは従者のそれ。


「クロさんも、少しずつ変わってますのね」


 年若い少女を象る彼の主は、そっとヒトの様に微笑みを浮かべる。


「そうかね? そうかも知れんね。 確かに我は言葉で諭す様な個性では無かった筈なのだがね」


「そういう事ではないのですけど」


 クロの返答に苦笑しつつも彼女は宰へ向き直る。従者と答え合わせをするつもりは無いらしい。

 そしてクロもそんな主に対して特に思うところもないように見える。


「少し、長くなってしまいましたか?」


「……いえ、必要な時間だったと思います」


 教えを願う立場を弁え、宰は姿勢を正し真っ直ぐに鏡子を見つめる。

 スッと背筋が伸び、整った正座はきちんと躾けられた者の姿勢だ。

 真っ直ぐな姿勢と真っ直ぐな視線。

 真面目な好青年にしか見えない姿とは裏腹の、その芯に渦巻く瘴気。


「では……」


 鏡子はその玻璃の瞳を煌めかせた。






「獣、人……」


 鏡子の言葉を反芻し、宰はそれを呑み込んだ。

 非日常を見せつけられ、自身が人間ではないと否定され、それでも納得いく答えであったのは救いなのか。もう一度口の中で繰り返す。


「ええ、こちらで言うなら近いのはベルセルク……でしょうか? 北欧の狂戦士、狼や熊の毛皮を被りそのちからを得た……まあ歴史で言うなら得ようとした者、ですわね。 バーサーカーと言った方が解りやすいのかしら?」


「それは獣人なの?」


 そう訊いたのは宰ではなくその隣りにいる絢。

 確かにベルセルク、バーサーカーであれば獣人というより、亜人、または魔女に近い人類の近似種となるだろう。


「そうですわね、所謂ベルセルクと少しライカンスロープが混じった感じなんですの。 それが向こうの一種族なのか混血なのかは解りませんが、こちらの分類に当て嵌めるのであれば獣人であるかと。

 ああ、そうそう。 こちらのヒトとの間に子どもは出来そうですわ。 少し出来ずらいかも知れませんけど、回数で補える範囲ですわね」


 にこやかにそう言う鏡子に、宰は吹き出し、絢はまたもテーブルへ頭を打ち付けた。


「それと、絢さん?」


 この状況にあって平気な顔で話しかけられた彼女は、恨めしそうにその場を掌握した妖怪を見た。睨むと言う程では無いが見つめると言うには険の立つ、そんな表情。


「……なに?」


「貴女の望んだのはこれが全てではないでしょう?」


 微笑み。


「…………いいえ、これで充分。 後はそちらにお任せするわ」


 絢は苦笑する。


「わたしは、スレイヤーなの」


 そう言われ、鏡子も苦笑い。仕方ないと肩を竦める。


「宰さん」


 水を向けるのは宰。

 この度の話の主役である。脇役でいられるのが短時間になるのは仕様なのだ。


「居候をふたり、お願いできませんか?」


◇ ◇ ◇


 なんやかんやでやって来たのは和装のふたり。

 かつては土地神であった土蜘蛛 ――塚本(つかもと) (つむぎ)と、座敷童の桜塚守(さくらづかもり) 千夜(ちや)である。


「わ~~~」


 一見するとただの少女にしか見えない千夜は、嬉しそうに楽しそうにキョロキョロと室内を見渡し、歩きを繰り返している。

 その仕種はどう贔屓目に見ても幼児のものだ。

 一方の紡は胡乱な眼で黒い怪異を従える妖怪を見ていた。


「何用じゃ、雲外鏡よ。 急に来いと言われても土地勘のない場所じゃぞ? 迷ってしまったではないか」


 千夜の脱ぎ捨てた雪駄を揃え、まずは文句を垂れる紡だ。

 普段こういった真似はしない千夜だが、たまに見た目通りの子どもらしさを発揮する時がある。

 だがそこも可愛らしいものなので文句は無い。

 旧家のような屋敷も非常に好ましい。

 だが、道に迷ってうろうろさせられたのは戴けない。


「それに、何とも奇妙な面子ではないか。 妖怪・魔物は良いが、知らぬ狩人がおるな? 其奴は敵では無いのか?」


 彼女の視線は敵意を隠さない。あからさまな殺意すらを乗せて睨み付ける。

 だがそれも仕方のない事か。

 彼女の仲間が殺され行き場すら失ったのはそう前の話では無い。

 耶彦こそ生きているとの話は聞いたがまだ合流できておらず、胸の内には悶々とした感情が渦巻いているのだ。


「そうね、敵だわ」


 さらりと言ってのける絢に敵故の蟠りや意識、遠慮は無いように見える。何が起ころうと既に覚悟しているが為の一本気。


「ほほぉ、儂の前で敵であると何等(はばか)ることなく広言するか」


「敵はどこまで行っても敵だもの。 それに嘘をついたってバレることでしょう?」


 明らかな上位者に対しても退く事は無い。だがそれはある意味ファンタズマとして存在し続けていた彼女に対する信頼でもある。

 完全無抵抗である今の自分には、敵意を向けてこようが殺意を向けてこようが、ある程度は自制してくれると信じている。


「良い度胸ではないか、殺戮者めが。 此処で縊り殺してやろうか!?」


 ギチリ、と牙が鳴る。その体躯がひとまわり大きくなった様に感じる、威圧感。


「他人の家で暴れるのは止めてくれない? 折角のお茶に埃が入るわ」


 彼女はそれを受け流す。

 第一、疾うに覚悟は決めているのだ。相手が誰であろうと臆する理由にはならない。






「あの、徳倉……さん? 居候って女性なんですか?」


 その事実に今更戸惑うのは家主 ――犬養宰。


「ご覧の通りですわ。 男性には見えませんでしょう?」


「男の一人暮らしに女性の居候って外聞が悪いんですけど……」


 良くも悪くも目立つ家。それでなくとも人の出入りというのは目に入るものなのだ。


「ああ、絢さんの方が良かったですか? 居候より同棲の方が?」


「ぷ――――――っ!」


 その言葉が聞こえたのか、お茶を吹いたのは絢。そちらの方の騒ぎが大きくなる。

 どうやら紡に吹いたお茶が直撃したらしい。


「ですがこちらの方も、渡りに船と言える状況なんですの。 お互いに利の在る事ですし、その辺りは呑んで戴けると助かりますわ」


「お互い、なんですか?」


「ええ、まず今の貴方は誰かと一緒に居た方が安定しますわ。 信用信頼の置けるヒトが一番良いのですけど、絢さんの立場ではそこまでなさるのは難しいでしょうし。

 万が一のことがあっても紡さんなら止められますから」


 安定はこの「病状」の事だろうというのは解る。

 止められるという手段は気になるが、出来るというならそうであると仮定してもいいだろう。

 そして……。


「あやの立場っていうのは……?」


「流石にそれはわたくしの口から言う事ではありませんわね」


 にべもないとはこの事か。ばっさり切られた話題は打ち捨てられ復活する見込みはなさそうだ。


「…………では、そちらの利というのは?」


「あちらの千夜さんは座敷童なんですの。 住むのであればこの様な佇まいのお宅が一番良いのですわ。 ここ数年しか経っていないようなお宅やビルですとどうも調子が悪いようですし」


「……ざしきわらし……」


 よく夏のテレビで特番を組まれると出てくる有名な妖怪である。当然宰にも聞き覚えはあった。勿論見覚えはないが。


「どうかなさいまして?」


「いえ、ここ最近自分の常識が壊れていく一方だなと思いまして……」


 思わず苦笑い。

 その応えに、鏡子はゆったりとした微笑みで応じる。


「常識などわたくしの様に長い目で見なくとも変わっていくものですわ。 ですから壊れたのではなく更新されたと思う方が宜しいかと。 ああ、それと……」


 何かを思い出したように、その(おとがい)に人差し指。


「まだ何かあるんですか?」



「いいえ、ただの定型句ですわ。


 此方側へようこそ、歓迎しますわ。 例え貴方が本意でなくとも」






「何となく概要は掴めてきたけど、それだけで、と言っては何だけどこの人を引き合わせる為だけにウチに繋ぎを取ってきた訳?」


 一触即発になりかねないふたりの間に小声で割り込んだのは連理だ。いい度胸、というよりは悪くなる空気に耐えられなくなった小市民の様相である。


「…………」


 沈黙は応える気がないという答えか。視線が逸れる。


「……まあ、徳倉さんは乗り気の様だし、いいんだけど」


「………………彼は、タタリに成りかかっているわ。 躊躇う時間なんてないの」


 ――タタリ。

 それは恨みや憎しみと言った感情に捕らわれた魔物の行き着く先。そう教えられたミュータント。

 しかし、彼にそう言った激情は見えない。感じられない。

 だが、最初会った時に悪寒に似た何かを感じたのは事実。


「なら」


 成りかけなら感情の行き先を逸らすだけでも成れなくなるともいう、ある意味儚い存在であるタタリ。

 彼の為に自らの危険を顧みず荒れ木三度Lossと繋ぎを取った彼女こそ、その(くさび)になるべきだろう。


「わたしが……殺戮者(スレイヤー)が立ち入っていい話じゃない。

 さっきそちらの上司に言ったでしょ? 後は、任せるわ」


 微笑む。

 寂しそうに、哀しそうに。


 それが、彼女の選んだ(みち)、彼女の選んだ距離だった。



というわけで再登場「暁」のおふたりです。


桜塚守 千夜

◉ヘレティック・・・マギ、タリスマン、

◉クラス・・・家守、占い師、座敷童、

運命操作系キャラクターです。

家庭的で家事は率先して行います。中でも料理は得意ですね。

「彼の子何処の子」という遊んでいる子供達に紛れ込む能力も持っていたりします。

基本的に幸運を振りまく座敷童ですが、「無作為不幸付与」という超がつく程ヤバい能力も持っていて、近くに居るとたまに酷い目に遭う……かも知れません。


塚本 紡

◉ヘレティック・・・バルバルス、マギ、

◉ミュータント・・・デモノイーター、

◉クラス・・・機織師、狩人、土着神、遊女、土蜘蛛、罠師、

◉■■■■■■・・・■■■■■■■、

◉■■■■■・・・■■■、

バリバリの戦闘系……という訳でもなく、戦闘重視ですがあちこち意外とそつなく熟せたりするおば…もといお姉さんキャラではらぺこキャラでもあります。描写するシーンが殆どないんですけど。

いわゆる土蜘蛛ですが鬼面タイプではなく大蜘蛛タイプ。

人間変身時は美人さんで、実はえっちなことに抵抗がないという設定もあります。大昔は物理的に男を食べていることもありましたが今はそんなことはしません。

ちなみに黒塗り部分は現状秘密と言うことで。

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― 新着の感想 ―
ほうほう。バーサーカーのクラスでしたか。 店員として働けるのかな? ま、なんとかなるのか。 (´・ω・`) にしても連理の場違い感たるやどうです? 主人公なのにw (´ε`) スレイヤーを選ぶと…
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