閑話 転職
めっちゃ短いです。
「のお、連理」
何時もの様にコントローラーを手にしたササが声をかけてくる。
幾度もの失敗を繰り返した彼女であるが、今や立派な冒険者。最下層で探索を繰り返す、英雄的存在である……かも知れない。
高い者でレベル16に至っており、これを題材にした小説や漫画であればマスタークラスを超えた ――正しく達人である。
ただそれはあくまでボスを倒せるだけのレベルであり、かつていた全国の猛者は元より連理のキャラの足下にも及ばないものだが。
ちなみに連理のキャラのレベルは大体300程。転職もせず戦闘にも寄与していないシーフは400超のレベルだったりする。三作目のシーフであれば毎ターン核撃呪文を使ったりもするのだが。
「どうかしたか?」
連理は持っていたペンを置き、ササの方へ椅子を回す。
ノートにはレポートに書く文章 ――になる前の文字が羅列している。
彼はどうにもこの手の作業は苦手なのだ。
何をどう書けばいいか判らず、思いついた文字をただ並べ、それに肉付けして何とか文章にしている。 非効率で時間も掛かるが、上手く出来ないのだから出来る方法でやるしかない。
その中身は就業体験。
所謂インターンシップ制度の感想文兼報告書だが、バイト持ちはそちらでもOKだ。しかし、一時的な就業体験なら兎も角、少なくとも当面続けるバイト先にも提出しなくてはいけないレポートだ。下手なことなど書けるものではなく、ひたすらに悩む。
「何故サムライがおるのにカタナが一種類しか無いんじゃ?」
「確か元がアメリカのゲームだったらしいから、そのせいじゃないのか? ていうか、今のキャラにサムライいたっけ?」
確か作成段階ではファイターふたりとプリーストがひとり前衛だったはずだ。
「うむ。 転職してレベルが漸く三になったところじゃ」
「3レベルサムライにムラマサは贅沢だろ。カシナートで十分使えるし、しばらく我慢しとけよ」
最強武器ムラマサは現状では店売りもしていない貴重品だ。
連理のキャラクター達も自身の使う分しか持っておらず、店の在庫に回っていないのだ。
そんな彼の言葉を受け、ササは困った様な表情を浮かべる。
解っている、解っているのだとその表情は語っている様だ。
「じゃがなあ、戦力の低下が著しいのじゃ」
転職するとレベルだけではなく能力値も軒並み下がる為、戦力が下がってしまうのは仕方がない。
「それは別のキャラでフォローするしかないわ」
その為のパーティ制でもある、はずだ。転職したてではクリーピングコインにすら攻撃が当たらなくなる為、別キャラのフォローは不可欠である。
「フォロー出来る戦力なんぞ無いぞ?」
「何でないんだよ……って、レベル一桁しかいねぇ!? 何で、って……あっ、全員転職したのか!?」
「うむ。 一番HPの伸びたファイターをシーフにしての、これは将来的にニンジャにする為じゃな。 前のシーフはHPを伸ばしつつ便利度を上げる為にサムライに、別のファイターはロードとプリーストに、プリーストはロードにしての。 メイジはビショップにしたのじゃ」
転職後のクラス構成は、まあバランスは取れているだろう。
だが…………、
「ササ。 転職したら能力値、下がるの解ってるよな?」
「解っとるよ。 初期値になるんじゃよな?」
「このゲームの初期値ってさ、レベル1より低いんだぞ?」
「………………へっ?」
その顔は言われた事が解っていないのか、それとも解りたくないのか。
「ちょっと貸してみ」
呆けるササからコントローラーを受け取ると新キャラ作成の為に訓練場へ。
「ほれ、初期値ってのはボーナスポイントを加える前の数字で、ササのキャラは最低でも17~9ポイントくらい入れてたけど、転職後はそれがなくなって弱くなってる訳だ。
だからササのキャラの初期値まで戻すのに……ざっと10レベルくらい? パラメータをマックス近く ――転職前と同じくらいにするのに更に10レベルくらいは必要になるんだわ。 まあ、運が良ければもう少し低レベルでもいけるだろうけど」
能力値は一度のレベルアップで一種類以上が上下する。意外と下がるから10レベルなどと言ったが、それはどちらかといえば多く見積もった数字だ。もっとも、その辺りはプレイヤー自身の運もあるから何とも言えないのだが。
そういった事情も込みで、戦闘の質を落としたくないのであれば転職は一度にひとり、ないしせめてふたりまでにすべきだったろう。
こうやってまとめて転職してしまうのはその人の性格によるものの、初心者あるあるだ。
ウィザードリィあるあるを一個一個着実に重ねていく彼女が、もう愛しくてたまらない連理である。
「つーか、前のお年寄りの時に転職したキャラ、いたよな? 気づかなかったのか?」
そんなササは聞いていないのか聞こえていないのか、どうも反応が無い。それでも構わず連理は続ける。
役に立つかどうかも解らないレポートより彼女の相手をしている方が余程いい。
「ササ、聞こえてるか?
まあ何にしても今の前衛は武器の性能だけで戦ってる状態だな。多分攻撃回数も一回とかになってるだろ? 9階でウィスプ相手に致死呪文とか使ってレベル上げしててもいいけど、効かない敵には対処出来ないし、マーフィーズゴーストでも倒してる方がいいんじゃないか? いや、流石に3レベルくらいだと当たらないか?」
パタッとササは横に倒れた。
「初期メンバーよりずっと若いし、二回目メンバーより武装もいいしHPもある! 大丈夫だ、多分!」
慰めてるのか追い打ちをかけているのか解らなくなる台詞の連理だが、流石に三回目のメンバーに関しては言及しない。 あのパーティは石の中に消えたのだ。
「おーい、ササー」
返事はない。
流石に哀れになってきた彼はそっと彼女の頭に手を置いた。
そっと、ゆっくりと頭を撫でていく内に少しずつ身を寄せてきたササに気づいた連理だが、その手は止めずに動かし続けた。
彼女が寝息を立てるまで。
実はコレも筆者の実体験だったりします。
性格なんでしょうね、当時はシーフ以外全員まとめて転職をしてしまい、ひーこら言ってました。二回も。
一回目の時は「あ、そうか~」だったのですが、二回目の時は「あ~、忘れてた~!」でした。
確か一回目パーティは壁の中へ消えましたが。




