怪扉奇 迷
ホント……アノ日……アノ時に……
年商2000万で広告代理店勤務のエリート街道まっしぐらな僕は
会社の喫煙所でタバコを呑んでいた。
実際は平均以下で零細企業の社畜である。
「芹沢っ!! いつまで休んでだぁっ! お前みたいな奴にそんな資格ないだろ!!」
こんな事日常茶飯事だから何言われても気にしなかった。
32歳になり独身で貯金もない。
そんな僕に彼女なんている訳もなく、周りの友達も既婚者で子供もいる。だからなのか連絡も年々減ってきた。
毎日おんなじ日々を過ごし喜怒哀楽も無くなっていた。
今日も机に座り定時が来るまで我慢している。
いつものように机から書類を出し仕事を始めようとしている。
引き出しを開け日誌を取ろうとすると、見覚えのないモノがある。
「それなんすか?」 僕の部下である山内に聞かれた。
「なんだろう 僕にもわからない」
それは見覚えのない時刻と場所が書いてある旅券のようだ。
「まずいっすよ。そんなの社長に見られたら何言われるかわかりませんよ。ただでさえ人もいないしみんな泡吹いて仕事しているのに!」
「そうなんだけど… こんなの買った記憶もないしよくわからないんだ。なんだか気持ち悪いよ。」
「なんか不気味っすね」
そりゃ、知らないものが入っていたら抵抗あるのは当たり前だ。
「でもなんかおもしろうそうっすね! 今ミステリーツアーみたいなの流行ってるみたいですよ! 行ってみたらどうですか?」
人の気もしれないで可笑しそうに笑っている山内にイラついた。そんなこと言うならお前が行けばいいよと言いそうになった。 案の定、社長にばれた。
「お前みたいなもんがよくも旅行なんかに行けるな。もういい、二度と帰ってくるな!」
当然、言い訳できる訳もなく僕はクビ。 まぁしかし、なんだかスッキリした。
だからなのか、普段は何も興味などないのに不思議で不気味なこの旅券を持って旅に出ることにした。
デモネ…ヤッパリ……止メテオケバ………
僕は次の日、最寄りの駅から7時12分発の電車に乗り目的地もわからない一人旅に出た。
「(はぁ、満員電車なんかもう乗りたくないよ。どこに行くのかわからないのにやっぱり止めておけばよかった)」
ようやく、席が空き座ることにした。いつも使っている電車なのに、なんだか違って新しく見える。
そんなことを考えているといつの今にか眠っていた。 ふと目を覚ました。
何時間眠っていたのだろう、乗客は僕だけ外も漆黒(真っ暗)だ。
不安になり先頭車両の運転手まで話をしに行く。
「あのーすいません ここはどこなのいでしょうか? すいませーん」
なんの回答もない。それはそうだ 運転車両には誰も乗っていなかった。
「うわぁぁぁぁぁ」
急ブレーキがかかり、電車は止まった。
ドアが開き、恐る恐る外に出てみた。そこは無人の駅。周りには木々が生い茂り人間がいるような気配は全くない。
「そ そうだ! 電車に戻ればいいんだ! そしたら家に帰れるよな!」
怖くなり、電車に戻ると振り返ると、もう電車はない。
「なんで! 電車は! 行った音なんかしなかったぞ!」
恐怖で頭も体も真っ白になった。携帯の電波もあるわけがなく、どうせ僕は人に騙されこうやって生きてきたのだ。友達には金を貸し返ってきたこともない。兄弟にも出来損ないだと卑下され育ってきた。今さら生きる理由もわからない。何も期待したのかどこに行くのかもわからないこんな電車に乗った自分の罪のせいだとベンチに座り頭を抱えた。
「とりあえず線路を来た道に歩いていこう。」
何時間歩いてもいい人を見つけ助けてもらおうと踏み出そうとしたとき、駅の方から男の人の声が聞こえた。
「すいませーん! 芹沢様ー!! 遅くなりました!!!」
そこにはスーツを着た中年のオジさんが走って僕の名前を呼んでいる。僕は恐怖と不安で足がとまった。
「いやー遅くなって申し訳ない。この度芹沢様に泊まっていただく当旅館の支配人 久山でございます。遠い所足を伸ばしていただきありがとうございます。」
ものすごく丁寧で綺麗な格好をしている久山に僕は安堵した。何よりも人に会ったのだから。
「それでは芹沢 旅館までご案内させていただきます。 私についてきてください。お荷物は私がお預かりいたします。」
言われるがまま久山についていく。荷物を預け山道を無言のまま歩いていた。口は乾き疲労なのか喋る気力もないからだ。しばらく歩いていくと微かだかいい匂いがしている。
「(旅館が近いのか、お腹が空いてきたな…)」
「まもなく当旅館 怪扉奇 到着でございます。」
目の前には、豪華絢爛とはかけ離れた地味で昔ながらの旅館が建っていた。それなのに何故か暖かく懐かしさすら感じた。
……………ネエ……………シッテル……トビラ………………アケ…………………




