54。黒幕
「フェンリルッ!」
探し回っている私の前にまたフェンリルは現れてくれた。
見つけた彼の名前を必死に呼ぶ。
するとフェンリルはやっと、こちらを振り返った。
会いたかった。やっと会うことができたんだ。
だけど彼の元へと駆け出すと、何故かまたフェンリルは掛けていく。
えっ?どう言うこと?何で待ってくれないの?
だけど今度は違ったのだ。
私が彼の姿を見失わない様にしているのか、スピードを緩めて走ってくれた。私をまるで何処かへと誘導しているかの様に。
そして、しばらく彼を追いかけると、とある場所で止まった。
「ここは……!?」
気がつくとここは城の入り口。私はいつの間にか城へと到着していたのだ。
城を見渡していると、フェンリルは開いていた扉から城の中へと入っていく。
この城にはニールがいる。でも、私は拘束されたままだし……入ったら捕まってしまうのでは?でも、フェンリルが入っていったし……
本当ならジュウキ達を待ってから入った方がいいに決まっている。でもすぐにでもミラニを助けたい気持ちもある。フェンリルが中へ入っていったのに気を許してしまい彼らを待たず、私は城の中へと入っていった。
城の中へ入るとすぐに大広間の様な広い空間へと出た。
それにしても薄暗い。所々の窓から光が差しているのが幸いだ。
この城のどこかにニールとミラニがいるはずだ。
慎重にそして警戒しながらまずはフェンリルを探した。
広間の中央に2階へと続く長い階段がある。
ん?階段の下に何かがある。
なんだろう?警戒しながら近づいていくと、フェンリルと……それにもう一人……ミラニだ!
「ミラニッ!」
急いで彼女の元へと駆け寄ってみるが反応がない。でも息をしているので気を失っているだけの様だ。
「お願い!彼女をここから連れ出して」
すぐ横にいたフェンリルにそう声をかけたのだが、彼からの反応がない。
「フェンリル?」
彼の顔を覗き込んで驚いた。何故なら顔がニールだったのだから。
驚き、急いでフェンリルもどきから離れる私。
フェンリルの姿をしたニールは自分の姿へと戻った。
「やっとここまで来てくれましたね」
「騙したの!?」
「騙したなんてめっそうな。貴方が勝手に思い込んでいただけでしょう?」
言い返すことができない。でも、さっきまで確かに顔はフェンリルの顔だったんだ。
悔しがっている私をよそにニールは容赦なく私の腕を掴む。
「今度こそ逃しませんよ?あっ、すでに拘束されていましたか。魔族には追われ、人間にも追われ、ミジュ様は哀れですね……」
嫌味とも取れる言葉に苛立ちを隠せない。
「黙れ!ミラニを返せ!」
「安心してください。外にいる連中が死んだら彼女も彼らと一緒に連れていってあげますから」
無理やり引っ張られながら私は悔しさで叫んだ。
◇
ニールに抵抗するも虚しく、彼の研究室へと連れて行かれた。
私達が来るまでの間暇だったからと、城の中に即席で作ったらしい。まあ、今回の戦いが終わればここ周辺の土地は自分の物になるそうで、今着々と改造している最中だと、そう自分でペラペラと喋っていた。
そんな研究室の中には液体の入った筒状の容器がいくつも並べられている。
小動物が入るサイズから、大人の人間が入るサイズ、更にはそれ以上のサイズまで。
部屋の天井に届きそうな大きなものもある。
それ以上に不気味だったのが、その中に入っていたものだ。魔物、人間、それに魔族……いろんな種族がこの筒の中に入れられていた。
「すごいでしょう?これは私が捕まえた検体。この筒状の物は実験に使うまで、検体の鮮度を保てる様に作成したものです。そして、一番お気に入りの検体がコレ……」
そう言って、足を止めると私をその筒の前に立たせた。
「これは……」
魔族だ。それに……なんか見たことがある。
「彼はこの国を勝ち取った魔族。そう、ライズ達と同等の階級者ガシェです」
同じ魔族なのに。何で……
私が言おうとしていることが分かったのか、その言葉を口にする前にニールは説明をし始めた。
「彼は私の提案を断ったからですよ?でも検体としてはとても興味深い」
ニールが言うには、元々ガシェがジュウキ達人間を追い出した張本人。
そして、ニールはミラニをさらった後、この国へと到着した。
元々はガシェも自分の手駒にしようと目論み、目的は教えてもらえなかったが、仲間になる様にと提案した。だが魔王の意に反すると断られたそうだ。その結果、彼はニールの検体となった。
だけど、ライズと同じくらい強いはず。ニールに負けるなんて考えにくい……
ガシェの姿を見せられた私はまた無理やり歩かされる。
そして、部屋の一番奥へと到着すると、思いっきり引っ張られ倒れてしまった。
「やっと捕まえたか」
「遅くなって申し訳ありません」
私が顔を上げると、そこにはマルジンの姿が。
「マルジン!?」
その言葉に彼はイラついたのか、私の顔を殴った。
「太々しいのぉ。マルジン様じゃろうて」
顔がジンジンと痛む。口が切れたのか、血の味がする。
「ダメですよ?マルジン様。検体は大事に扱わないと」
ニールはそう言って、また私を殴ろうとしていたマルジンの手を止めた。
「そいつか、例の女は」
ニール、マルジンがやりとりしていると、更に違う声が聞こえた。もう一人誰かいる。
奥の椅子に影がある。誰が座っている様で、その人物がマルジンに聞いた様だった。
「召喚魔法を使っていたので幻獣族の生き残りかと思われますぇ」
マルジンが頭を下げてその人物にそう答えると、「こちらへ」と一言だけ口にした。
マルジンが先ほどまでと打って変わって萎縮しているのが見て取れる。あいつが黒幕か?それに幻獣族の事をやはり彼らは知っている。
マルジンに目で合図されたニールはまた私を無理やり立たせると、今度はその人物の元へと連れて行かれ跪された。
黒幕の顔を見ることができたのだが、私はその顔を知っていた。
魔王城で見かけたんだ。その時ライズに教えてもらった。
確か……ライズ達を纏めていた……魔王の片腕とも呼ばれる最も近い人物。
じっと顔を見ていると、「私を見たことがあると言う顔をしているな」と言葉をかけられる。
「もしかして……アザック様……ですか」
「そうだ」
驚愕だ。全身の力が抜けた。この人が黒幕だなんて……
そして、その時悟った。もしかしてガシェも彼らにやられたのかもしれないと。だとしたら……と腑に落ちた。




