4。友達
フェンリル。それが彼。もとい可愛い小さな魔物の名前。
数日前、彼から直接教えてもらった名前だ。
実はフェンリルはテレパシーで話すことが出来たのだ。
それを聞いたのはごく最近で突然彼から話しかけてきた。
初めはとても驚いたが、今ではちょうどいい話し相手だ。
ライズはどちらかと言うと無口な方で、さほど話が出来ないのでありがたい。
で、フェンリルと話が出来る事がわかった私は、もちろん色々質問をした。
なぜ私と一緒に気を失っていたのか?
以前から私達は一緒にいたのか?
私の過去を知っているのか?
全部私の質問ばかり。
今となっては申し訳なくも思えるが、記憶喪失の私は少しでも自分の過去を知りたい為、フェンリルを質問責めにしてしまった。
だが、結局はほとんど判らずじまいだったけどね。
彼が言うには私が海で魔物に襲われていた為、それを助けたとのこと。
その時に自分も傷を負ってしまい、一緒に浜辺に流れついてしまったそうだ。
知りたいことは分からなかったけど、彼とは良い友達になった。
そして結構お節介な性格なのも分かった。
体は小さいのにまるで兄の様に世話を焼いてくれるのだから。
『ほら。ここに木の枝が出ているぞ。躓くなよ』
「分かってるって」
「あっ!?」
フェンリルに言われた側から思いっきり躓いてしまった。
『だからいったじゃん』
「えへへ」
なんてこんな風にちょっとしたことでも教えてくれる。
ちなみにフェンリルのテレパシーはライズにも送る事が出来るのだが、彼をまだ信用できないとの理由で内緒にしている。
私にはすぐにテレパシーを送ってくれたのに。
ライズも信用できると思うんだけどな?
まあ、彼に送るのもそう遠くはないだろうけど。
フェンリルからの要望で、この事は秘密にすることになった。
◇
そして今日も日課の散歩を終え家に帰る。
「ただいま!」
「おかえり」
「今日ねこんな事があったよ」
私はライズに散歩から帰ると自分が見たもの感じた事を話すのが日課になっていた。
彼も私の話をふんふんと聞いてくれる。
向こうからはあんまり話をしてはくれないが私が話す事でコミュニケーションを取っている。
ちなみに散歩をして思ったのが、ここは山の中の様だ。周りには家が一軒もなく、ただ木々が生い茂っているだけだった。
目撃したものといえば、小さい魔物位。
初めて見た時は驚いたけど、フェンリルのお陰なのか彼を見るとみんなすぐに逃げていく。
まぁ、害はない魔物だとは言っていたけど。
夕飯も食べ終わり、お腹いっぱいになった私は食器を洗っているライズの背中を見ながらぼーっと考え事をしていた。
うーん。
今まで気になってたんだけど、ライズは見るからに人間だ。耳も普通だし、肌も肌色。もしかしたら彼は過去に奴隷だったのかな?
ライズはあまり話はしないが、時折私がこの世界で生きていく為に色んなことを教えてくれる。
ここは魔族の世界ということ。そして人間を彼らは奴隷としてしか見てくれないということ。
ってことはもし彼が人間だったら奴隷……?
でも、ここに一人で住んでいるという事は逃げて身を隠しているのか?
ここの周りには誰も住んでいなさそうだし。
でも、食料は野菜とか自分で育ててる訳でもないし、私の服も調達してくれたし。
もしかして、選ばれた人間?
どっちなんだろ?すごく気になる。
でも、それを聞くことはしない。
もし、辛い過去があっての現在であるとしたら尚更聞けない。
私だってそうだ。
記憶はないがあんな体だったんだ。
きっと奴隷だったのかもしれないし。
そう言う暗い考えは辞め、まだ食器を洗っている最中の彼にずっと考えていた事を打ち明けた。
「ライズに折り入ってお願いしたい事があるんだけど?」
「なんだ?」
皿を水で洗い流しながら背中でそう答えるライズ。
「私に剣の扱いを教えて欲しいの。家の中に何本が剣が置いてあるし、ライズって結構筋肉質だし。剣を扱うのが得意なのかな?って」
「なぜ剣を扱えるようになりたいと思った?」
こちらを振り向かずに洗いながら私の問いに問いで返してきた。
「ここは魔族達の世界なんでしょ?それに人間はよく思われていないんでしょ?元気になったらここを出ていかなくちゃいけないから……。だから、独り立ちする時に自分の身は自分で守れる様にしたいんだ」
「そうか。分かった」
ライズは少し考えると、私の話に納得してくれた様だった。