36。魔族対人間
ニールの計画通り、夢の中へと旅立ったミジュ。
眠りについて意識を手放した彼女の体が地面へと倒れそうになる。
それを間一髪、ニールがキャッチした。
「ゆっくりとおやすみなさい。……それにしてもこの頂いた薬の効果は絶大ですね」
床に転がっていた薬剤の殻瓶を見ながらそう思う。
そう、この薬剤=睡眠薬を事前に部屋に撒いておいたのだ。この薬は空気に触れると蒸発し、その粒子が部屋へと充満した。
だから少しでも吸ってしまうとその効果で眠りについてしまう。
ちなみにニールは薬の効果を無効にする薬を摂取済み。だからこの部屋にいても平気だった。
スヤスヤと眠りについているミジュの顔をそっと触り、寝顔を確かめる。しっかりと寝ている事を確認すると、よっと彼女を抱き抱えると部屋を後にした。
「ニール様!ここにおられましたか!おや?ミジュ様……?どうされたのですか?」
現在みんな戦いに出向いている為、この城にはここを守る様に命令されたニールと彼に従える少数の部下しかいない。だがニールは運悪く城を出ようとした所で自分の部下に出会ってしまい、そして先ほどの言葉をかけられた。
「ミジュ様がライズ様の元へと行くというから、ちょっと眠らせたのです」
「そ、そうでしたか」
「では、ミジュ様を安全な場所に連れて行くので」
「じゃあ私目が変わりに……」
「いや、君はそのまま任務をこなしてもらえますか?」
「はっ。あ、いや実はニール様にお伝えしたい事がありまして……」
「今は忙しいから。君が処理をしておいてくれますか?」
「私目がですか……」
何かを伝えようとする部下だが、ニールはこんな所で時間を取られたくない。だからその言おうとした用事を押し付け、上手く嘘でかわして難を逃れ、無事に城から外に出た。
そして、このままここを立とうしたが、何かを思い出した様子。
「おっと。ここを旅立つ前にやる事がありましたね。いけない、いけない」
ニールはふふふと笑みを浮かべながらとある所へと向かっていった。
――場所は変わってここは城から少し離れた城下町の入り口付近。
ライズ率いる魔族部隊が勇者率いる人間の部隊と闘い交わっていた。
「現在の状況は?」
「はっ。こちらの方が少々不利な状況です」
戦場近くで陣を張っているライズは前線の状況を報告部隊から報告を受けていた。
こちらの部が悪いか……
今回2度目の戦いだ。前の様に同じ過ちはしないと言うことか。とライズは思う。
「頼んでおいた例の人質はどうなった?」
先ほど別の部下にマリアをここに連れてくる様に命令を出しておいた。もしもの為の人質だ。最悪、戦いの切り札使おうと思っていた。
卑怯?戦いに卑怯もクソもない。非道な事は嫌いだが勝つ為には仕方がないのだ。それにあの人質は勇者を倒したら解放するつもりだ。
なぜなら、あの人間はミジュとは親しい様だしな。適当に姿を見せて人間側を動揺させるだけの予定だった。
「そっ、それが……」
質問を受けた部下はライズに聞かれると、言葉が詰まる。
「どうした?」
「牢屋に言って人質を連れてこようと思ったのですが……どこを探してもいなくて……」
「いない?一体どう言う事だ!?」
「いや、私にも分からなくて……」
ここでライズはハッとする。
まさかミジュの仕業か!?
あいつは全く何をやっているんだ……早まった事を。そう思いながらミジュの顔が脳裏に浮かぶ。
だが世話役を頼んだ俺の責任でもある……か。と今更ながら自分の選択に後悔するのであった。
仕方ない。とライズは座っていた椅子から立ち上がると部下に命令を下す。
「出陣する。準備を」
「しかしっ……ライズ様っ!?」
ライズはこの部隊の大将だ。まだ出陣するには早いと考えた部下はここに留まる様にと頼むが、ライズは首を横に振る。
ここにずっと居たところでこのまま相手側に勢いをつけさせ、押される可能性もある。ならば、俺が前回のように早々に勇者を倒してこちらが勢いをつけようではないか。
そうして、戦場へと赴いていった。
◇
戦場の状況は酷いものだ。魔族、人間それぞれの遺体があちこちに横たわっていた。
勇者はどこだ?
ライズは勇者を探す。
度々探している最中に人間が襲って来たが、部下に任せて自分は探した。そいつさえ倒してしまえは後の奴らは戦意を失い投降すると考えていたからだ。
そこへ偵察部隊の1人がライズの元へと駆けつける。
「ライズ様。勇者を見つけました」
「そうか」
彼の話ではすぐ近くで勇者が戦っているとのこと。
「ご苦労」
「……ライズ様」
「そこへ向かうぞ」
「はっ」
ライズの指示を聞き部下達は動く。
数人の精鋭の部下を引き連れて勇者の元へと向かった。
次々に襲って来くる人間。ライズの取り巻き達は彼を守る為に次々と人間を倒して行く。そして少し進むとついに勇者を見つけた。
「久しぶりだな。逃げずにまたここにやって来たことは褒めてやる」
そう言葉を話しかけられた勇者もといレンはライズを見た。
「マリアは返してもらうぞ?」
レンも剣を構え、ライズの前へと立ちはだかった。




