35。うそ
今私達を止める者は誰もいない。
このチャンスを逃してはならないのだ。
私達は牢屋から早々に脱出して秘密の通路まで向かおうとしたのだが、フェンリルがこちらへと近づいてくる足音を察知した。
もしかして見張りが戻って来ちゃった?とりあえず誰が来ても良い様に、急いでマリアを見えない様に隠す。
すると、足音の人物が私たちの前に現れた。
「ミジュ様、ここに居られましたか」
私の顔を見るなりそう言ったのはニール。
ライズの片腕とも呼べる彼の部下である。
「ニール!?なぜあなたがここへ?」
「はっ。実はミジュ様を探しておりました」
「私?」
戦いの最中なのに彼が前戦ではなく、ここに来たことに驚いたが、ニールはこの城を守るように命じられている為だと話していた。ちなみにライズは勇者達と応戦中とのこと。
「それで、ミジュ様に至急お会いしたいという方が見えられまして。それを伝えにここに来た次第です」
「そうだったの。でもこんな時に私に会いに来るって。もしかして……」
「ギル様です」
まさかとは思ったけど、やっぱり。
でも、この前ライズからしばらく彼はここに来ることは出来ないと聞いていたんだけど……。たまたま時間が空いたのかな?
今ギルとは冷戦状態だ。だから本当はすぐにでも会いに行ってこの前の事を謝りたい。
でも……
ちらっと後ろを振り向く。
壁を一枚挟んだ向こうにはマリアが隠れている。そう、私は今からマリアを無事に逃さなくちゃいけない。
「ギルには申し訳ないんだけど、ちょっと待っててもらって?私、今から急ぎの用があるんだ」
意を決した私はニールにそう言った。でも、彼は困った顔をする。
「実はギル様も急用があるそうで、急いでおりまして」
ギルも急用?
「でも……」
「とても急を要するのですぐに連れて来て欲しいと申されております」
「…………」
マリアの事を優先させようと思っているのに、ニールが何を言っても引き下がってくれないのだ。
どうしようかと思ったが、こんな所でずっと悩んでても仕方がない。
「……分かった。すぐに行くから先に行ってて」
「分かりました」
私はギルの元へと行く事を了承することにした。そしてニールは私の返事を聞くと、笑顔になりこの場を後にした。
隠れていたマリアは彼がいなくなったのをこっそりと確認すると私の前に現れる。
そんな彼女に私は謝った。
「ごめん。マリア、フェンリル。話聞いてたと思うけど……すぐに用事を終わらせてそっちに合流するから、先に行っててくれるかな?」
「ギルって以前話してくれた貴方の彼氏よね?」
「う、うん」
申し訳なさそうにしている私の顔を見ながら、マリアはふーんと頷き、そしてニヤリとした。
「私のことは大丈夫だから!彼としっかり仲直りしてらっしゃい」
私の肩を思い切り叩いてゲキを入れてくれる。
「マリア……」
『こっちのことは俺に任せろ』
「フェンリル……」
彼らの温かい言葉が胸に刺さる。
「ありがとう」
私は彼らにお礼を言うと、ニールの後を追ってギルが待っている部屋に向かった。
『じゃあ俺達もすぐに向かおう』
「そうね」
フェンリルとマリアも私を見送ると、秘密の通路へと出発した。
◇
「こちらです。ミジュ様」
私が向かっているのは普段ライズが指揮を取るときに使っている王の間。
「そこにギルがいるの?」
なぜこの王の間に?いつもの様に私の部屋に来ればいいのに。
何か腑に落ちないが、ニールがここにギルがいると言っているのだ。特に意味はないと思うけど。
「どうぞ」
彼は部屋の前に到着すると扉を開けてくれて、中へと導いてくれた。
早く彼に会って和解をしなくちゃ。そしてすぐにマリア達の元に。
でも、中に入ってみると誰もいない。人の気配は感じられない。
「ニール、ギルは?」
扉を開けてくれたニールに向かってそう問うたのだが、彼の姿がない。
「こっちですよ?」
えっ?と声のする方に目をやると、彼はいつもライズが座っている王の座に座っている。
私が先に部屋に入ったのに。一体いつの間に?
「ニール?」
先ほどと何かからの雰囲気が違う。いや、この部屋に入ってから何かが変だ。変な展開にオドオドしている私を見てにやけるニールがいる。
「全く貴方は疑うと言う事を知らないのですね」
「ニール何を言って……」
「全く平和な人だな」
ニールは笑みを浮かべながら王の座から立ち上がると、この状況が理解できず立ち尽くしている私の周りを回りながらそう言い放つ。
初めは何を言っているのか分からなかった私だが、次第にその言葉の意味を理解した。
そうか。ここにはギルなんていない。ニールに騙されたんだ。
でも、何で?私を一体どうするつもりなの?
私に変な事をしたらライズが黙っていないのを分かっているはず。彼はライズも信頼している人物なのに……
「何で?って顔をしていますね。ライズ様と親しいから?だから私を信頼していました?」
「そうよ。ライズを裏切るのっ!?」
考えを見透かされ焦った私はすぐさまそう言い返した。だが、ニールは相変わらず涼しい顔をしている。
「ライズ様は今でもお慕いしておりますよ?でも私には……彼以上にお慕いしている人がいるのです」
彼は私の手を取り話を続けた。
「私のお慕いしている方があなたを連れて来てほしいと言っているのです。だから、ミジュ様?一緒について来てくれませんか?」
彼の言葉が耳に入ってくるが、考える事が出来ない。
ダメだ……この部屋には何か仕込まれていたんだ。
そう気づいた時はすでに遅く、私は夢の中へと落ちていった。




