30。言い合い
「ミジュ、話がある」
ライズのその言葉から全てが始まった。
いつもの様に裏方に徹していた私。だが、ある日ライズに話があると呼ばれて部屋へと赴いた。
部屋のドアをノックして中入ると険しい顔のライズがいる。
「どうしたの?」
そう言った私の問いかけにライズは沈黙している。何かただならぬ感じだ。
「ライズ!」
「あぁ。すまん。実は……」
彼はその重い口を開き聞かされた事。その話を聞いた私は、ついにこの時が来たのかと思った。
――勇者がフェルドリアの周辺まで来ている
そう偵察部隊から連絡が入ったそうだ。
確か私がレン達とは別れた時はこことは逆の方角に向かっていたはず。
目的か変わったのか理由は分からないけど、こちらに来ているそうだ。
そして、勇者は相変わらず、いく先々の魔族が奪った土地を奪還しているとのこと。
「勇者との戦いが始まればここもどうなるかわからない。もちろん、負けるつもりはない。だが……」
ここでライズの言葉が詰まった。そして、咳払いすると続きを話し始める。
「この戦いで唯一心配なのはお前だ。もしかするとお前を守ってやらないかもしれない。だからお前はギルの元へ避難していてくれないか?」
えっ?私だけ避難するの?私だってライズの力になりたい。だから、ここに留まると伝えたが、却下された。
「お前は勇者と顔見知りだろ。それに人間とは戦いたくないだろう?」
「そうだけど。でも……」
本当は彼らと戦わないで済むならそうしたいよ。本当はあの時、レン達に一緒について行ってもっと、人間の事を知りたいとも思った。でも今、戦いが迫っている。だから、戦いたくないなんてそんな事言ってられない。
私は今、魔王側の人間だ。ライズはがこっちにいるのなら、私はライズの為に少しでもあなたの力になりたいの。
そう必死にライズに食い下がってみたけど、彼も頑として譲らない。
それでも私は必死に彼に説得した。
――結局平行線を辿ったまま。
でもこのままだったら絶対ライズの言う事を聞くハメになる。
どうする事もできなくて居ても立っても居られなくなり、「ここから絶対に出て行かないから!!」と言って彼の部屋を飛び出して逃げた。
「うぅ……」
目に一杯の涙を溜めて城の通路を走る。確かに私は彼にとってお荷物かも知らないけど……
けど……………
自分の部屋に着いた時、私の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。涙を拭いながら部屋に入るとそこには私に会いにきてくれたギルとフェンリルがいた。
『ミジュ?どうしたの?』
「ミジュ……」
「……」
私が沈黙しているとギルは私の元までやって来て体を抱き寄せた。
「何があったか話してみて?」
ギルの腕の中でライズに言われた事を話す。ここにいては危険だから、ギルの元へと行けと言われた事を。それを聞いたギルは私に優しく問う。
「ミジュが言いたい事は分かった。だけど、俺と一緒にいるのは嫌か?」
私は首を横に振る。
「じゃあ俺の元に来い」
「…………」
「俺だって同じだ。お前が心配なんだよ」
「…………」
ギルの問いに私は無言になっていた。すると、ギルが私の体を抱いていた両手を緩め、ズボンのポケットに手を突っ込み何かを取り出した。
「じゃあ、ミジュ。俺と一緒にならないか?」
「……えっ?」
突然のギルの告白。ギルはポケットから出した指輪を指で掴み、私に見せた。
そして、「これを受け取って欲しい」と……
それにはとても驚いて、目を見開いてギルの顔を直視した。近くにいたフェンリルも驚いていた。
「それはすごくうれしい……けど」
実はギル、以前から私と一緒になりたいと思っていたそうでこの戦いが終わった後、ダイスに戻ってからタイミングを見て言うつもりでいたそうだ。
だけど、私がイースに来てしまったのと、何より今回の事で、ライズから私を連れて行って欲しいと懇願をされたことで、今言う決心をした事を明かした。
「俺はお前を守ってやりたいんだ。それに戦地ではなく、常に安全な場所にお前を置いておきたい。分かってくれミジュ」
もし私がギルの元へと行ったのなら……
もしも……もしもだよ?ライズがレン達に倒されてしまったら一緒に戦わなかった事を後悔する。悔やんでも悔やみきれないだろう。
だから……
「ギル。一緒になるのはこの戦いが終わってからじゃダメかな?」
「……なんでなんだよ」
「……えっ?」
「こんなにお前と一緒になりたいのに、何で素直にうんと言ってくれないんだよ!」
ギルは私の意見に反論する。
ライズの力になりたい事、自分だけ逃げ出すことはしたくない事を何度も話した。だけど、分かってもらえない。
そして、ライズと同じ様にまた言い合いになった。
あなたもライズと同じ事を言うのね。
「ギルの分からずや!フェンリル!行くよ!」
ギルと言い合いをした結果、私はまた部屋を飛び出した。
「ミジュ!!待て!」
ギルなんて……ライズなんて大嫌いだ!
怒りと悲しみを抱いたまま城の外まで走った。
そして、城を出るとフェンリルにお願いした。
「フェンリル。どっか誰も居ないとことろに行きたい」
『いいのか?』
「……」
フェンリルは無言の私の言う事を聞いてくれ、体を大きくしてくれた。その上に跨ると私は彼のふわふわの毛に埋もれ声を殺して泣いた。
彼はそのまま私を乗せて翼を広げると飛び立った。私が望んだ場所を求めて……
――そしてしばらくして目的地に到着する。
『ここだったら誰もいないみたいだ?』
鼻や耳をふんふんして匂いや音をさぐる。
フェンリルが降り立ったのは海を一面見渡せるような崖の上。
「ありがとう」
フェンリルに鼻声でお礼を言い地面へと降りた。
たくさん泣いたのに、まだ涙が出るな。
その場に座り込こみ、思い切り声を出して泣く。
もうすぐ勇者が来ると言うのに、こんなことをやっている場合ではないのに。何をやっているんだ私は……
そんな私の隣にいたフェンリルはずっと寄り添ってくれた。




