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3。自分の体

「カチャン」


 私はライズから出されたスープに口をつけようとスプーンを取ろうとした。

 しかし掴もうとした手が痛み、指からスプーンが落ちる。


「ごめんなさい」


 床に落ちたスプーンを拾うライズに謝る。


「そんな体だ。力が入らないのも分かる。俺が食べさせてやるから口を開け」


 お腹が空いただろうと、彼は私をゆっくりと起き上がらせてくれた上に、スープを差し出してくれたのだが、今に至る。


 私に見かねたライズはスープを盛ったスプーンを差し、私のタイミングに合わせてそっと口に入れてくれた。


「……美味しい」


 思わず声にでたその言葉。

 薄い黄色いをした半透明の液体。何が入っているのか分からないがとても美味しかった。彼が差し出したスープが入ったスプーンに吸い付くように飲み干す。


 ライズはそんな言葉を口にした私に、何とも言えない顔でこちらをみていたが直ぐに表情を戻す。


「まだ沢山あるから慌てずゆっくり食べろ」


 その言葉だけを言うと、また私の口にまたスープを運んでくれたのだった。


 スープを飲んでまたベッドに横になるとお腹が満たされた私は体が傷ついているのもあってか、また気づかないうちに眠りについてしまった様だ。


 次に目が覚めたら、先程外から光が注いでいた窓は暗くなっていたのだから。


「目が覚めたか?」


 さっきと同じようにライズがまた私に声をかける。寝起きでまだ重い瞼あげて彼を見る。



 ずっと私が寝ている横で起きるまで見守ってくれていたのだろうか?手には本を持ち椅子に座りながらこちらに話しかけていた。


 それにしても……


 さっきからなんか生暖かいザラザラしたものが私の頬に当たるような……


「あっ。君も起きたんだね」


 ゆっくりと顔を横に動かすとさっきまで寝ていた小さな魔物が私の顔のすぐ隣で座っている。

 さっきのザラザラしたものはこの子のベロだった様だ。


「こいつ、目を覚ましてからお前のそばにずっと寄り添っているぞ?」


 そうだったんだ。


 ありがとうと言いながら頭を撫でると、とても気持ちよさそうな顔をしてグルグルと喉を鳴らしていた。


「かわいい」


 なんだかこの子の顔を見ているとほっこりする。

 本当は抱っこしてあげたいけど、体が痛くて思うように動かない。

 だから体が回復したら沢山抱いてあげようと思った私だった。



 ◇

 それからというと、ライズは私の体を気遣って色々と身の回りの世話をしてくれていた。

 見ず知らずの私を親身に介護してくれる。


 もちろん今日も彼は私にご飯を食べさせてくれ、傷の手当てもしてくれている。本当に感謝しかない。

 傷自体はそんなにひどくなさそうなのだが、体力をかなり消耗しているのか、起き上がるのが相変わらず大変だった。


 しばらくそんな生活を続けていたのだけど彼のことが少し気になることがあった。

 ライズはたまに外に出かたと思ったら数時間で帰ってくる。


 沢山の食べ物や生活に必要な道具などを手にして。

 彼はお金持ちなのだろうか?普段ずっと家にいて、仕事をしているようには見えないし。

 なんなら、部屋で読書ばかりをしている。


 そして、小さい可愛らしい魔物。

 この子もずっと私のそばを離れずに寄り添っている。

 自分も怪我をしているのに……

 私と同じように包帯が巻かれた体。その包帯からは薄らと血らしき赤い色をしたものが滲み出ているにも関わらず、私を元気付けるかの様に尻尾を振り私のほっぺを舐めてくれたのだから。


 色々頭の中に考えを張り巡らせていたが、疲れて途中でやめた。




 ――それから更に数日が経ち、私の体の傷も体力も大分良くなっている。


 ずっとベットの上から動くことができなかった私は、今ではベットから起き上がり、部屋の中を歩くまで回復した。

 だがその時、驚いたことがある。

 それは部屋の隅に姿鏡が置いてあったのだが、初めて自分の姿を見た。


 大分体調がよくなったとは言え、私の体はとても痩せこけていた。肌の色も茶色であまり血色は良くない。


 体の傷の具合を確認しようとした時にも違和感はあったが、改めて自分の姿に驚愕した。


 だから、自分では思うように動けなかったのか。納得だった。

 こんなに痩せ細っている私。私は今まで一体どんな生活をしていたのだろう?


 そう思ったけど……

 考えるのはやめた。

 何にも覚えてないし。



 それから更に数週間が経った。


 細かった私の体もライズのお陰で少しずつだが良くなっている。

 標準とまではいかないが、以前よりも体が少しふっくらした気がするのだ。ちゃんと朝昼晩彼は食事を私に提供してくれるのだから。

 大分体調が戻った私はすでにベッドからは起き上がり、リハビリを兼ねて散歩を始めていた。


 まだこの家の周辺を歩くことしか出来ないがそれでも一歩前進したんだ。


「じゃあ行ってきます」


「あぁ。あまり無理するなよ」


 ライズに挨拶をして小さな魔物と共に外に出る。

 心地いい風が私の髪を揺らし、太陽の光が暖かい。

 んー気持ちいい!


「じゃあ行こっか?フェンリル」


「ギャウ!」


 フェンリル。それが彼。もとい可愛い小さな魔物の名前。

 数日前、彼から直接教えてもらった名前だ。


 実はフェンリルはテレパシーで話すことが出来たのだ。

 それを聞いたのはごく最近で突然彼から話しかけてきたのである。


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